故障・修理
更新日:2022.12.20 / 掲載日:2022.12.20
タイヤの定期点検してますか?整備業界の視点で考える重要性
年末が近づいてきたこの季節、愛車で久しぶりの帰省を考える人も多いのではないだろうか。
遠出の機会となれば、事前に点検しておきたいのがタイヤの状態だ。ロングドライブの道中で起こりうるパンクやバーストといった事態は、事前に点検しておくことで防げたケースも多いという。「自分に限って…」と油断して点検を疎かにしてはならない。
この「タイヤ点検の重要性」は、実は整備業界においても積年の課題と捉えられている。今回は整備業の視点から、タイヤ点検の重要性を考えてみたい。
タイヤの適切な利用の推進は自動車業界全体で取り組むべき事象
新型コロナウイルスの感染拡大は未曾有の経済停滞をもたらした。市販用タイヤの販売動向も例外ではないが、冷え込んでいた需要もようやくコロナ禍前の水準に回復しつつある。
その一方で、空気圧不足や偏摩耗をはじめとするタイヤの整備不良によるトラブルが後を絶たず、需要回復にともなってトラブルがさらに増えることが懸念される。これに関しては、タイヤメーカーもかねて「タイヤ点検の重要性」の啓発に取り組んでいるが、それには限界がある。もっと活動の裾野を広げる必要があるだろう。
タイヤ需要は回復基調へ

図表1は、日本自動車タイヤ協会(JATMA)が今年7月に発表した「2022年自動車タイヤ国内需要年央見直し」における、市販用の夏タイヤおよび冬タイヤの需要見通し(販社販売)である。
それによると、昨年の市販用タイヤの販売実績は、夏タイヤが前年比103%、冬タイヤが前年比111%、合計でも前年比106%と堅調であった。コロナ禍以前の2019年の販売実績と比較しても、夏タイヤこそ5%下回ったものの、冬タイヤはほぼ同水準となっており、需要が回復しつつあることがうかがえる。
また、今年も夏タイヤ、冬タイヤともに昨年並みの需要見通しとなっている。詳細は図表1のとおりだ。
自動車の稼働率増加によりタイヤトラブル増が懸念点に

市販用タイヤの需要がコロナ禍前の水準に回復しつつあるのは、再び多くの人々が旅行や帰省、週末のレジャーなどを楽しむようになり、自動車の稼働率が高まっているためだ。
事実、全国の高速道路の主な区間(代表40区間)における、今年のお盆期間の平均日交通量は4万台で、前年同期比143%の大幅伸長となった。特に小型車の伸び(前年同期比155%、大型車は前年並み)が顕著で、3年ぶりとなる行動制限のない夏休みを、自家用車を利用して満喫する家族連れや人が多かったようだ。コロナ禍前の2019年との比較では10%程度少ないものの、自動車の稼働率も回復しつつあることが見てとれる。
周知のとおり、タイヤは数ある部品・用品の中で最も市場規模が大きいため、アフターマーケットに従事する者にとっては朗報と言える。しかし、その一方でタイヤの整備不良による路上故障の増加が懸念される。
というのも、JAFロードサービス出動理由として、「タイヤのパンク、バースト、空気圧不足」は毎年、高速道路で断トツの1位、一般道路でも「バッテリーあがり」に次ぐ2位となっており、今年のお盆期間の高速道路における「タイヤのパンク、バースト、空気圧不足」による出動件数は、コロナ禍前の2019年(1178件)とほぼ同等の1158件に達したからである(図表2)。
自動車の稼働率の回復と連動して、タイヤの整備不良を原因とする故障や事故が増えているのは明らかだ。
タイヤの適正利用について周知を図るも効果は限定的
JATMAでは、2000年に4月8日を「タイヤの日」と制定し、以来、毎年高速道路のパーキングエリアやサービスエリアで無料タイヤ点検を行ったり、タイヤ点検の重要性を訴えるポスターを作成し、全国のタイヤ販売店店頭に掲出したりしている。また、タイヤメーカーもこれに連動し、系列のタイヤ販売店で損傷や空気圧の過不足、残溝、偏摩耗などを無料で診断する活動を行っている。
しかし、前述のお盆期間の高速道路における、「タイヤのパンク、バースト、空気圧不足」によるJAFロードサービス出動件数を見ればわかるように、これらの取り組みの効果は限定的であると言わざるを得ない。
また、自動車点検整備推進運動の一環として行われている、インターネットを活用したアンケート調査で、毎年10人に1人以上が「最近1年間でタイヤのパンク・バーストを経験した」と回答しており、そのことからも取り組みの限界がうかがえる。
日常点検の実施率は僅か6割 事業者のアプローチが不可欠

タイヤの整備不良を原因とする故障や事故は、走行中に釘を踏むなどの不可抗力を除けば、日常点検をしっかり行うことで回避することができる。しかし、2020年度の自動車点検整備推進運動アンケート調査結果(図表3)によると、乗用車における日常点検の実施率は約6割に過ぎず、そのうちの9割近くが「時々する(大半は1カ月に1回以下)」という回答であった。
そのため、ユーザーに代わってタイヤ販売店が日常点検相当の診断を行うこと(しかも無料で)は、整備不良による故障や事故の防止に有効と言える。しかし、そのお店でタイヤを購入したのであればともかく、タイヤの点検だけでタイヤ販売店を訪れるユーザーは決して多くないだろう。それこそが、つまりタイヤ点検の励行を呼びかけるなどの活動を行っているのが一部のアフターマーケット事業者にとどまっていることが、効果が限定的にとどまっている要因と言える。
前述のとおり、タイヤはアフターマーケットで最大の市場規模を誇る商品であり、それゆえアフターマーケットに従事する者は誰もが「タイヤを飯の種」にしているはずなので、活動の裾野をもっと拡大するべきだろう。
タイヤは、手のひら一つ分の接地面積で自動車と、お客様の安心・安全・快適なカーライフを支えている。だからこそ、タイヤの日に絡めたキャンペーンのような期間限定での取り組みでは不十分だ。タイヤ点検の励行の呼びかけやユーザーに代わってのタイヤ点検の実施、またタイヤ点検のワンコインメニュー化などの実施は、自動車業界が一丸となって「常時」取り組むべきことであると言えよう。
出典:アフターマーケット 2022 年 11月号