スクープ
更新日:2019.06.27 / 掲載日:2019.06.27
スクープ! 2020年、マツダの新開発FRプラットフォームが未来のトヨタ車の乗り味を変える

企業の経営戦略は、時代に合わせて変わっていく。逆に言えば、時代の変化に対応できない企業は、生き残ることはできない。ただし、やみくもに変わればいいというわけではない。自社の強みをしっかりと把握したうえで、それを活かした方向に変わっていくことが重要だ。最近のマツダの生き方は、その好例と言えるだろう。もともとマツダは、1960年代に政府が目指した自動車業界再編の波を乗り越えるために、ロータリーエンジンの開発という独自技術に挑んだ。以来、何度も崖っぷちまで追い込まれながら、そのたびに他にない独自の個性的な商品や技術によって復活してきた。2012年に発表した初代CX-5に始まる、いわゆる第六世代商品から始まるトレンドも、そうしたDNAとも呼べるマインドを秘めたエモーショナルな個性化戦略。その核となるのが魂動デザインと呼ぶ美しいフォルムと意のままの走り、優れた環境性能を白紙から開発してすべての商品に高いレベルで両立させるSKYACTIVと呼ぶ技術群だった。事実、最近のマツダ車は美しさと走りの気持ち良さ、クリーンディーゼルなどの高い環境性能が高く評価され、その戦略の正しさは証明されている。

2015年の東京モーターショーでRX-VISION(写真下)、2017年の東京モーターショーでVISION COUPE(写真上)を公開。どちらもFRが想像できるシルエットを採用。
マツダ3やCX-30などクラスは今後のFFプラットフォームを採用。SKYACTIV-Xを含む既存パワートレーンは引き続き改良進化させ、独自開発のピュアEVも投入するという。
画像は4気筒のスカイアクティブーXエンジン。FRプラットフォーム要は直列6気筒のスカイアクティブーX(ガソリン)やスカイアクティブーD(ディーゼル)エンジンを開発するという。
2019年5月に発表されたマツダ3に始まる次世代のマツダも、その延長線上にある。世界初となる自己着火ガソリンエンジン技術が使われたSKYACTIV-Xエンジンや、EV(電気自動車)の航続距離を伸ばす発電専用に使われるロータリーエンジンなど、期待される独自技術は数多いが、中でも業界を驚かせたのが2019年3月期決算説明会で中期経営方針の一環として発表されたプラットフォーム戦略だ。これまで、他社と同様に横置きエンジンのFFをメインに開発されてきたプラットフォームを見直し、小型車はこれまで通りのFFだが、中型以上のモデルには、縦置きエンジンの新開発FRプラットフォームを使うというのだ。エンジンを前に搭載し、後輪を駆動するFR方式は、中大型のセダンが主流だった時代には一般的なレイアウトだったが、世界にマイカー時代が到来して小型車の時代を迎えると、急速にFF方式に取って代わられた。エンジンとトランスミッションを一体化して前に搭載し、前輪を駆動するFF方式の方がスペース効率が高く、小さなサイズで広い室内が得られたからだ。その思想は中型車以上にも及び、今では3Lクラスの大型車でもFFが一般的になっている。しかし、重量物が前に集中するFF方式は、上質な乗り味を出しにくく、前輪で操舵、後輪で駆動という役割を分けたFRと比べて、操る愉しさも作り込みにくい。だから高級ブランド車やスポーツカーには今でもFRが多いのだ。世界で愛されるマツダのロードスターも、それゆえにFR方式にこだわってきた。

CX-5やCX-8、マツダ3などi-ACTIV AWDの改良を続けるマツダ。FRプラットフォームにおいても重要なキーアーキテクチャと考えているようで、ラインナップが示唆されている。
そこで、これからのマツダが目指すエモーショナルなクルマ作りには、スペース効率だけを追求したFFではなく、気持ちいい乗り味と走りが実現できるFRがベストという結論を下したのだ。それを踏まえて見れば、2017年の東京モーターショーで発表されたマツダのコンセプトカー、VISION COUPEが、どこから見てもFRを思わせるプロポーションだったこともうなずける。それはもちろん、独自の個性で生き残るための戦略だが、同時に、合従連衡が進む現代日本の自動車業界だからこそ取れる戦略でもある。ひとまとめにしてCASEと呼ばれるコネクテッド、自動運転、シェアリングエコノミー、電動化の進展により、自動車業界は100年に一度の転換期を迎えていると言われる。中でもそれを強く訴え、変化に挑んでいるのがトヨタ。そのために、日野とダイハツという従来のグループ企業に加えて、スズキやスバル、マツダともさまざまな提携関係を結んでいる。そうした提携戦略の中で、マツダが開発するFRプラットフォームはトヨタにとっても大きな武器になるのだ。マツダは先代アクセラに、トヨタの技術供与によってハイブリッドを搭載した。プリウスから移植されたハイブリッドユニットは、そのままではなくマツダ独自の味付けが施された結果、トヨタの技術陣をも唸らせる乗り味と高い環境性能を両立して見せた。その走りへのこだわりやセンスが活かされたFRプラットフォームをトヨタ車にも使うことで、トヨタは新型車の開発コストを抑え、電動化や自動運転といった未来技術に自社のリソースを集中させることができるのだ。もちろん、専用にプラットフォームを開発してもコスト計算が合わないFRスポーツカーにも、それは有効に使われるだろう。マツダ6(アテンザ)以上のモデルに使われるという新FRプラットフォームは、マツダ車だけでなく、オールジャパンの未来の走りにも、大きな恩恵をもたらす可能性が高い。
近日中にマツダ6への改名が噂されるアテンザシリーズ。次期型でFRへの駆動方式変更の可能性が高い。
アテンザシリーズよりも先にCX-5がFRプラットフォームに変更され、その後CX-8や海外専用のCX-9系もFRプラットフォームに変更されるはず。