新車試乗レポート
更新日:2018.11.26 / 掲載日:2018.08.27
新型センチュリーを造る匠の技

世界に誇れる国産車を1台だけ挙げよ、と言われたなら迷わず「センチュリー」を推す。作り手の魂がこもった「センチュリー」だけが纏う堂々とした風格と気品は、ほかのどんなクルマも持ちえない歴史の重みでもある。21年ぶりのフルモデルチェンジで大きく変貌を遂げた新型に触れる機会を得た!
●文/川島茂夫 ●写真/奥隅圭之
TOYOTA 新型センチュリー
●発売日:2018年6月22日
●価格:1960万円
●販売店:トヨタ店、東京トヨペット店
●全長×全幅×全高(mm):5335×1930×1505●ホイールベース(mm):3090●車両重量(kg):2370●駆動方式:FR●パワートレーン:4968ccV8DOHC(381PS/52.0kg・m)+モーター(165kW/300N・m)●トランスミッション:電気式CVT(副変速機付)●JC08モード燃費(km/L):13.6●燃料タンク(L):82〔プレミアム〕●最小回転半径(m):5.9●タイヤサイズ:225/55R18
TOYOTA 新型センチュリー ボディカラー
神威(エターナルブラック)艶やかな漆黒感を追求した、厳粛な場にもふさわしいブラック。
摩周(シリーンブルーマイカ)格調の高さを感じさせる、深みのあるフォーマルブルー。
飛鳥(ブラッキッシュレッド)華やかさと深みを両立させた、気品あふれる高貴な色。
精華(レイディエントシルバーメタリック)優美さと華やかさを兼ね備えた、シルバーメタリック。
もはや工芸品の域! 随所に光る匠の技の数々
伝説上の瑞鳥である「鳳凰」をエンブレムに掲げるセンチュリー。1967年の誕生時に当時の匠が腕を揮ったその手彫りの金型を、新たに江戸彫金の流れを汲む現代の匠が継承し進化させた。
鏨と槌で彫り上げる金型は制作に約1か月半もかかるという。
新規開発色の「神威」は漆黒感を高める黒染料入りのカラークリアなど7層もの塗装に、研ぎと磨きを加えて奥深い艶と輝きを追求。
流水の中で微細な凹凸を修正する水研ぎを3度も実施し、さらに鏡面仕上げを施すというこだわりようだ。
「もてなし」の本質を体現 国産という言葉が誇らしい
先代は1997年の登場時に一度試乗したことがある。その時の印象は「これは工業製品ではない伝統工芸品だ」である。その印象は新型にもそのまま当てはまる。
例えば車体塗装だ。試しにリヤフェンダーに反射させて自分の足元を写真に撮ってみたが、まるで鏡に反射させたような写りなのだ。この平滑な塗面は3回の水研ぎと最後のバフ掛け(鏡面仕上げ)によって生み出される。とてもクルマの車体塗装とは思えない。
内装に用いられる本杢パネルは職人の刷毛塗りから始まり研ぎで仕上げられる。鳳凰のエンブレムは江戸彫金の工匠の手彫り金型から起こされている。一体、どれほどの匠の手を経て造られているのか既存のクルマから推測するのは難しいが、月産50台という生産数が手の掛かり具合を示している。
こういったセンチュリーの凄さは写真では中々伝わってこない。際どい高級の演出もなければ、印象深い造形もない。むしろ地味と感じてしまうかもしれない。
地味というのは、ある意味正しい評価である。センチュリーは主張しないクルマでもある。昨今のプレミアム志向とはまったく逆の価値感であり、穏やかな時間と空間による寛ぎのために己をこれ見よがしには出さない。ケレンや際どさがなく、伝統的な和の価値感でまとめられている。この辺りも「もてなし」の本質のひとつ。
後席に乗り込み着席する。脚捌きも頭抜けもよく、乗り込むというよりソファーに座る感じだ。そのままシートに身を預ければ、自然と寛いだ姿勢になる。乗降する時の所作から品よく振る舞えるようにできているのだ。
閑かな時間を過ごすために徹底した制振防音対策を施した車体設計。アクティブノイズコントローラーも装備されている。サスには大容量エアチャンバーを用いた電子制御エアサスを採用。そしてパワートレーンはトヨタ・ハイブリッド群では最多気筒となる5のV8。ハードウェアも別格である。
価格は約2000万円。しかし、数多のトヨタ車の中でも利益率はかなり低い方だろう。先代もそうだったが、新型になってもセンチュリーの値付けはバーゲンプライスである。そしてトヨタだけでなく、日本の矜恃を実感させてくれる。「国産車」という言葉がこれほど誇らしいクルマは他にない。
【エクステリア】伝統と品格を守りながら「華」も感じさせる

後席を引き立てる伸びやかなシルエット。重厚なクォーターピラーが存在感を高める。
縦格子のフロントグリルの奥に、伝統的デザインの七宝文様を配置。前後二重構造とすることで奥行き感を演出。
同寸円を1/4ずつ重ねて描くのが七宝文様。無限に繋がる円が吉兆を表す。ヘッドライトのベゼルなどにも施される。
225/55R18のタイヤはセンチュリー専用。ノイズリダクションホイールも装備。
【インテリア】後席の寛ぎを最優先で考えられた設え

T字型のインパネはシンプルだが、贅沢に本杢をパネルに使用。運転席側から助手席側まで一体構造だ。

視認性に優れたオプティトロンメーター。7インチTFTの情報表示ディスプレイも搭載。
室内からのドア開閉ノブにも本杢を使用。操作力も軽い。
オーディオ、空調、シートなどの操作パネルも後席に装備。
ウールファブリック仕様のグレーが標準だがブラウンとベージュも設定。
メーカーOPで本革仕様も用意。ブラックとフロマージュがあり、2種の本杢加飾との組み合わせも選べる。
【パワートレーン&足回り】V8、5.0L+HEVシステム+エアサス

動力性能や環境性能と同等に高い信頼性を要求されるのがセンチュリー。搭載パワートレーンが先代LSと同型なのはそのためだ。走行中でも楽に新聞が読めるほどの優れた乗り心地を実現するために、大容量エアチャンバーを確保したAVS機能付電子制御エアサスも装備。
提供元:月刊自家用車