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更新日:2026.02.27 / 掲載日:2026.02.27

生産技術の未来展望【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●松田、テスラ、NVIDA、トヨタ

 自動車メーカーの未来を決める要件は何か? という話になると、巷で言われるのは、やれAIだ、SDVだという話ばかり、確かにコンシュマービジネスである以上、製品の優秀さは大事で、クルマが良くなければユーザーの支持は得られない。

 けれども、それは自動車製造業を支える両輪の内の片側に過ぎない。半分は、いや過半を占めるのは生産技術の方である。今回はその生産技術がどうなって行くのかについて考えてみたい。

 2月6日にフィジカルAIについての記事を書いた。いわゆるヒューマノイド型ロボットである。昨今、この「フィジカルAIこそが次世代競争領域」として、例によって「日本出遅れ」「日本オワコン」論議が白熱中である。懲りない人々だなぁと思う。

Teslaは、二足歩行自律ヒューマノイドロボット「オプティマス」を製作している 提供元:Tesla, Inc.

 単純な話、そのフィジカルAIは一体いくらの価格設定で、誰が買うのだろうか? デモンストレーションでは何十体も並んで踊ったりして見せてくれるが、ダンサーとしての需要は多分限定的。軍用だとすれば、当分は人間が仕掛けたデコイなどのトラップに簡単に引っかかるだろうから実用までには相当の進化が必要だ。

 産業用だとするなら、各作業工程に専用化された産業ロボットがすでに全世界に普及済みで、精度でも作業速度でもコストでも、専用ロボットとコンペティティブな性能の獲得は難しい。

 ヒューマノイド型にするメリットがあるとすれば、生産に関わる技能工、つまりラインに配置される人間の置き換え用ということになるだろう。工場の設備に手を加えずに、つまり人間用にデザインされた労働環境を無改造で稼働させたいとすれば、人の形を模している必要がある。

 つまりヒューマノイドは現在の生産設備の中で、産業用ロボットで自動化できていない結果「人による作業」になっている部分を置き換える期待が掛けられていることになる。

典型的な六軸ロボット。半導体企業NVIDIAでは、産業用AIの基盤を築くべく、開発用ツールを開発、展開している

 メリットは何か? 普通に考えて、フィジカルAIに期待されるのは、人と違って不眠不休で働けること。であるなら、稼働寿命を迎えるまでの年数で比較した人件費に対して、より安い導入コストと維持コストに収まるかどうかである。安くなればメリットがある。

 ただし、ここで考えるべき問題がある。生産ラインがいつもフル稼働するとは限らない点だ。自由経済下において、商品の売れ行きは常に水もの。ヒット商品は永遠にヒットし続けるわけではない。そして過去20年で見ても、リーマンショックや東北大震災、チャイナショック、コロナ禍、ウクライナショックなど数々の経済事変が起きた。そうした際には、生産調整が必要になる。年産25万台の工場は稼働率9割で22.5万台。その位が理想値なのだが、一般的には8割の20万台を切ると赤字に転落すると言われている。

 その辺りは、各社の激烈な競争領域であり、例えばトヨタは、すでに損益分岐台数を6割まで引き下げることに成功している。つまり稼働率6割を超えれば利益が出せるということだ。それを実現するためには、生産台数が減っても効率が落ちないフレキシブルラインの構築と、投資の抑制が必要である。

 という中で、フィジカルAIは、設備投資なので、導入したが最後、後でコストを減らすことはできない。よっぽど革新的なコスト低減が確実に見えない限り、ハイリスク、ローリターンな投資になる。

 そもそも自動車製造というのは、本質的に巨額の先行設備投資事業であり、工場や生産設備はもちろんのこと、設計部門やそれらを支える間接部門の経費を毎月毎月支払っていかなくてはならない。つまり生産計画に対する下振れの許容幅は決して大きく無いのだ。

 その条件を前提とすれば、極論を言えば、設備はボロいほど経営的に安全である。もちろんボロいことに価値があるわけではないのだが、ボロい設備を工夫して、「もっといいクルマ」をフレキシブルに作る。そのために生産性を向上させることは極めて重要なのだが、そのキモはあくまでも生産性であって、設備の新しさではない。前のめりな設備投資は未来の選択肢を確実に狭めることになる。それが製造業の世界である。

 ではこれから先、生産効率の大幅な向上はあり得ないのか、と言えばそれはそれで色々計画がある。おそらくは工場の景色が一変するであろう大幅変更が計画中なのだ。

 まずはクラウンを4車種一斉開発した様に、一括企画による基礎設計を共用したモデルを増やすことだ。これは設計コストを激減させるとともに、共通の生産ラインでの生産を容易くさせる。

 次に車種ごとの需要の伸縮を吸収するべくラインを多様化する。つまりフレキシブル生産である。同じラインの設備で、複数の車種が作れれば、その中のどれかがヒットしても対応できるし、人気が落ちたら他のモデルと混流生産すればいい。そのためには汎用性の高い6軸アームロボットを活用して、先端のアタッチメントとプログラムを差し替えれば、違うクルマも作れる様に、車両と生産ラインを設計することだ。

 ここまではすでにやり始めていること。ではこの先はどうなのか? まずは自走式ライン。生産されるクルマがモーター駆動の電動車ならば自走、もしくは内燃機関車なら超小型自動搬送車(AGV)で個別に走れることにより、従来の様にラインが追い越し禁止の1車線ではなくなる。それはつまり、追い抜いたり、脇道で別作業を行なってから再合流ができる様になるということである。

 ランニングシャシーに対して、工程ごとに必要な部品群が自動選別されて、取り付け時に仕様書に合わせて選別済みの部品搬送ワゴンがシャシーに並走する。それを汎用6軸ロボットが組み付ける。部品管理も組み立ても、人間が管理しようと思うと、同じものは物理的に同じグループに固めないと混乱が生じるが、これをAIがやれば、例えばジャストインタイムで入ってきた部品を「あれはあそこ、それはこっちという風に、その部品のための決められた置き場所」に収納する必要はない。この部品管理と配送システムも重要な改善点である。

 搬入搬出の作業効率優先の場所に収納し、「何がどこにいくつあるか」はAIが把握しておけば済む。それが何ヶ所に分割されていてもAIがそのアドレスを把握していれば問題ない。ちょうどハードディスク上のデータの様な扱いである。

 同じく個別の車両組み立ても次の工程での手順はAIが把握していれば十分なので、生産時間の掛かるクルマを掛からないクルマが追い越して行っても何の問題もない。未来のラインは数珠繋ぎの1車線ではなく、あみだくじの様に出たり入ったりしながら、複数の入り口と出口をつなぐものになるだろう。ポイントはそれらを上手く組み合わせることで、時間当たりの生産台数が最大になる様に組み合わせることで、そここそAIの活躍の場である。

 もうひとつ。先に触れた6軸ロボットを活用するためには、現在人手でしかできない作業をどうやって、ロボットにも可能な作業に置き換えて行くかが求められている。現在どこのメーカーでも人手に頼らざるを得ない理由は明確なボトルネックがあるからで、狭い車内空間では6軸ロボットが動けないからだ。具体的には車内での作業を余儀なくされる内装の取り付けや、同じ条件かつ、条件分岐が多すぎる電気系ハーネスの取り付けだ。

トヨタが研究中の自走組立ライン。屋根がないことでロボットによる内装部品組み付け作業が自動化できるというもの

 これに関しては、新しい取り組みが始まっている。例えば、先に書いた自走ライン方式ではクルマを自ら走らせるだけでなく、「クルマを箱形に組み立てる前にロボットに作業をさせる」やり方が期待されている。つまり床板&タイヤとランニングコンポーネンツだけで自走させる。屋根もドアもないオープン空間ならば、6軸ロボットが自在にアクセスできる。

 こうしたやり方を「アンボックスド・プロセス」と呼ぶのだが、塗装済みのボディパネルを内装などが組み付けられた後でどうやってモノコックとして溶接組み立てするのかについてはまだどこからも情報公開がされていない。

 さてこれらの生産技術改革は、これまでの流れを大きく変えるものになるはずで、従来の設備の中で人の作業をフィジカルAIに置き換えるという小変更ではない。もちろん大改革の中でも、フィジカルAIの活躍の場はあるかも知れないが、それは専用ロボットを優先配置した後で、補完的な位置付けになると思われる。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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