車の歴史
更新日:2025.11.29 / 掲載日:2025.11.29
WRCの活躍でファンを虜にしたスバル インプレッサの歴史【名車の生い立ち#20】

2025年10月末に開催されたジャパンモビリティショーで、スバルの未来を占うコンセプトカー「パフォーマンスE STI コンセプト」と「パフォーマンスB STI コンセプト」が発表されたのは記憶に新しいはず。かつてインプレッサがWRCという戦場で育んだ一連のハイパフォーマンスカーの未来を占うこれらのモデルは、スバルファンにかつてのトキメキを想起させるものでした。インプレッサが登場してから今年で33年、今回はその長い歴史を振り返ってみましょう。
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スバル初の水平対向エンジンを搭載した「スバル 1000」

インプレッサといえば水平対向エンジンを思い浮かべる人は多いはず。インプレッサはもちろんレガシィやフォレスターなど、ほとんどのモデルに搭載されるスバルのアイデンティティともいえるエンジン形式です。インプレッサの歴史を紐解く前に、まずはその前身となったスバル1000、そして時を同じくして生まれた水平対向エンジンの歩みを振り返ってみたいと思います。
今から約60年前の1966年、スバルは小型乗用車「1000」を発売しました。当時の日本はモータリゼーションの真っ只中。いざなぎ景気と呼ばれる好景気にあり、新三種の神器「3C」として「自家用車(Car)」、「クーラー(Cooler)」、「カラーテレビ(Color television)」という言葉が大流行。一家に一台クルマがあるのは当たり前の時代になっていきました。ちょうど同じ頃、トヨタ カローラ、日産 サニーがデビューし、スバルも交えた1.0L級の小型車戦国時代が幕を開けたのです。
スバル1000の最大の特徴といえば、スバル初の水平対向エンジン(977cc)を搭載したこと。高精度な回転バランスによる滑らかなエンジンフィールと優れたアクセルレスポンスは、ライバルのカローラやサニーと比べてとりわけスポーティなものでした。さらに、当時はまだFRが主流でしたが、スバル1000はいち早くFFレイアウトを採用。それゆえ軽くて居住性が広くなり、ライバルにはない“通”好みの魅力を放っていました。1969年には排気量を1.1Lに拡大し、車名は「1000」から「ff-1」に変更。走り好きを魅了するスポーティなセダンというコンセプトは、まさにインプレッサの祖先といえる存在でした。その翌年には1.3Lエンジンも投入。結果的にカローラやサニーほど爆発的な人気は得られなかったものの、今のスバルに繋がるたしかな基礎を作り上げたのでした。
インプレッサの前身となったスバル レオーネ

日本にモータリゼーションが到来した1960年代以降、自家用車の普及率は加速度的に伸びていきました。当時は好景気の影響もあり、「クルマを作れば作っただけ売れる」と言われたほどです。1970年代に入っても自家用車の保有台数は右肩上がり伸びていきましたが、それまでとは異なりクルマそのものに魅力がなければ売れない時代に変わっていきました。そこでスバルは「ff-1」の後継モデルとなる期待のニューモデル「レオーネ」を1971年に発売。トヨタと日産に奪われていたシェアの巻き返しを図ったのです。
初代レオーネは、ロングノーズ・ショートデッキのシルエットや抑揚感のあるサイドプレスライン、サッシュレスドアなど、当時としては非常にモダンでスタイリッシュなルックスが魅力でした。メカニズムは、スバル1000時代から受け継がれた水平対向エンジン+FF駆動を採用。1972年にはエステートバンに4WD車を設定した後、セダンにも4WDを拡大設定。レオーネは世界で初となる量産型4WDとなり、水平対向エンジン+4WDというスバルのアイデンティティがここで完成したのでした。

1979年にはレオーネがフルモデルチェンジ。ワイドになったボディと1.8L車の設定がトピックで、さらにこの世代から3ドアハッチバックも追加されました。これは、カローラ、サニーの市場に新たに割って入ったホンダ シビックを意識してのこと。セダン、エステート、クーペ、そしてハッチバックと幅広いボディを揃えたこともレオーネの魅力でした。1982年には、水平対向4気筒ターボ+4WDを搭載したモデルも登場。ライバルとは一線を画するパワーと安定感を手に入れたのです。

1984年には3代目レオーネが登場。この世代では再び3ドアがラインアップから落とされたものの、水平対向4気筒+4WDという組み合わせは継続。これまでMT車はパートタイム式4WDでしたが、1986年に登場した「クーペ RX/II ターボ」ではセンターデフ付きのフルタイム4WDが搭載。カローラやサニー、さらにシビック、ファミリアと手強いライバルを相手にしながら、スバルならではの無骨な走りと信頼性を売りに、多くのファンを獲得していきました。
スバルの新しい世界戦略車「インプレッサ(GC/GF型)」

1992年10月、スバルのニューモデル「インプレッサ」が発表されました。ちょうどこの年はバブル経済が崩壊し、日本は不況に喘いでいた頃。とはいえ、日本人宇宙飛行士の毛利衛氏が宇宙飛行をしたり、バルセロナ五輪で金メダルラッシュを取るなど、明るい話題も少なくありませんでした。

レオーネの後継モデルとして登場したインプレッサは、角ばったデザインから一転し、曲面を多用したヨーロピアンなスタイルが特徴。5ナンバーサイズに抑えつつも、レオーネと比べて格段にモダンになったデザインは、新時代を感じさせました。ボディタイプは、セダンのほか「スポーツワゴン」と呼ばれるショートワゴンを設定。エンジンは、1.5Lから2.0Lの水平対向4気筒(EJ型)が搭載されました。

駆動方式はFFのほか、スバルお得意の4WDを設定し、なかでもスポーツモデル「WRX」とWRC(世界ラリー選手権)に向けた競技ベース車「WRX type RA」は2.0L 水平対向4気筒ターボ+4WDを搭載し、最高出力は240馬力とスポーツカー顔負けのパフォーマンスを実現。また、これをベースとしたSTiのコンプリートカー「WRX STiバージョン」は、エンジンチューニングにより最高出力は250馬力に達し、走りを求めるコアなユーザーを魅了。そしてこの「STi」シリーズは、インプレッサの改良と歩調を合わせるように進化していきました。

また、1993年からはレガシィに代わってWRCにも参戦。当時のWRCはグループAと呼ばれる市販車に近いカテゴリが主流で、レガシィよりも小型のインプレッサは目覚ましい活躍を見せました。翌1994年では、第6戦アクロポリスラリーでカルロス・サインツが初優勝。さらに同年コリン・マクレーも2勝を挙げ、マニュファクチャラーズランキングで2位を獲得しました。続く1995年~1996年はインプレッサの独壇場となり、マニュファクチャラーズランキング首位を2年連続で獲得。1997年にはWRカー規定が導入され、インプレッサは完全新設計のワークスマシンで参戦、以降も2008年の撤退まで好成績を残しました。スバル=ラリーというイメージはインプレッサの多大な活躍があってこそといえるでしょう。
正当進化を果たした2代目インプレッサ(GD/GG)

2000年8月、フルモデルチェンジを受けてインプレッサは2代目となりました。1990年代は空前絶後のスポーツカーブームとも重なり、初代インプレッサは高性能スポーツセダンとしてのイメージが先行していました。対する2代目は、丸目のヘッドライトを採用し親しみやすさをアピール。ボディタイプは初代と同じくセダンとスポーツワゴンを設定し、特に後者は女性をターゲットとしたコンパクトワゴンとして人気を博しました。一方、セダンは自然吸気を含む全車が3ナンバー車の「インプレッサWRX」という名称になり、スポーティな走りを楽しみたいユーザーにアピール。ふたつの個性で幅広いユーザーをターゲットとする戦略を打ち立てたのです。

しかし、スバルといえばWRCのイメージが強く、特に丸型ヘッドライトは女性っぽくて精悍さに欠ける……と、一部のコアなスバルファンから批判的な意見もありました。そんななか、同年10月には待望の「STi」を追加。エンジンこそ先代と同じくEJ20型を搭載しましたが、冷却性能の向上やターボチャージャーの採用で最高出力280馬力、最大トルク38.0kgmを発揮。センターデフ+ビスカス式LSDや新開発クロスレシオ6速MTの採用など、初代のSTiシリーズから大幅にスペックアップ。コアなスバルファンもこの走りには納得です。2代目は幅広いユーザーに受け入れられていきました。

2002年11月、インプレッサシリーズが大幅改良へ。不評だった丸型ヘッドライトは涙目形状に改められ、セダンボディを表していた「WRX」は、初代と同じく2.0Lターボ車のグレード名に変更されるなど、ラインアップがわかりやすく見直されたのがトピックです。さらに2005年6月、再び大幅改良を受けてエクステリアをリニューアル。ヘッドライトがシャープな形状になり、当時のスバルのアイデンティティだった「スプレッドウィングスグリル」を導入したのが見どころとなりました。高性能スポーツモデル「STi」は全て大文字の「STI」表記になったほか、さまざまな改良を受けてライバルの三菱ランサーエボリューションにも劣らぬ2.0Lのスポーツセダンとして世界トップレベルの動力性能を身につけていきました。
セダンからハッチバックへ。グローバル化を進めた3代目(GE/GH/GR/GV)

2000年代の後半になると、自動車メーカーはグローバル市場に向けたクルマ作りが一層重視されていきました。スバルも例外ではなく、日本はもちろん世界でも通用するクルマ作りを目指したのです。そんななか、2007年6月にインプレッサがフルモデルチェンジ。3代目はVWゴルフなどの競合ひしめく欧州Cセグメントにフォーカスを当て、基本ボディとして5ドアハッチバックを採用。全幅は1740mmに達し、全車3ナンバーとなりました。サスペンション形式は、リアにダブルウィッシュボーン式を採用したこともトピック。パワートレインは、先代と同じく1.5Lから2.0Lの水平対向4気筒(自然吸気またはターボ)を搭載しましたが、大幅に高められたボディ剛性や各部質感の見直しにより、従来から飛躍的に上質な走りを手に入れたのです。

同年10月には、ファン待望の「WRX STI」が登場。5ドアハッチバックながらもその痛快な走りは健在で、エンジンは先代と同じくEJ20型の水平対向4気筒ターボを搭載しつつ、最高出力は308馬力、最大トルクは43.0kgmに達しました。2008年10月には、4ドアセダンの需要に応えるかたちでインプレッサアネシスも登場。2010年7月のマイナーチェンジでは、アネシスをベースとしたSTIバージョンも設定。「インプレッサといえばやっぱりセダン!」という旧来のファンのニーズにもしっかりと応えたのです。
走りの「STI」を廃止。アイサイトが初導入された4代目(GP/GJ)

2010年代に入るとエコカーブームが到来。ハイブリッドカーのニーズはさらに高まったほか、日産 リーフのような身近な電気自動車も登場し、各メーカーは低燃費の電動化モデルの開発が急務に。また、走りや安全性も今まで以上に高い水準が要求されました。そんななか、2011年11月に登場したのが4代目インプレッサ。ボディタイプは先代と同じく5ドアハッチバックと4ドアセダンが用意され、それぞれ「インプレッサ スポーツ」、「インプレッサ G4」という名称が与えられました。また、インプレッサのもうひとつの柱である「STI」を潔く廃止。ファミリーユーザーにターゲットを絞り込み、クルマとしての品質で勝負に出たのです。

開発のテーマは「走りの気持ちよさ」と「環境性能」の追求。パワートレインは1.6L~2.0L新世代の水平対向4気筒(FB16型/FB20型)を搭載し、これにCVT(リニアトロニック)とアイドリングストップを組み合わせることで燃費性能を大幅に改善。JC08モード燃費17.6km/Lという低燃費を達成しました。さらに、レガシィでいち早く導入されてい衝突回避軽減ブレーキ「アイサイト」が第2世代にアップグレードされてインプレッサに搭載。ぶつからないクルマとして大々的にアピールして注目を集めました。
翌年にはインプレッサスポーツをベースとしたクロスオーバー、スバルXVも登場。こちらにはJC08モード燃費20.0km/Lを誇るハイブリッドが設定され、エコカーブームの波に乗ります。燃費と安全性を軸に、新しいユーザーに訴求した4代目インプレッサは大ヒットモデルとなったのでした。
走りを忘れられないコアなファンに向けた「WRX」が復活!

4代目インプレッサは全方位で進化したクルマとなりました。しかし、かつて4WDスポーツとしてレースやラリーを楽しんでいたコアなスバルファンはそのターゲットに入っていません。そんなユーザー向けにスバルが用意したのが、2014年8月に発表された「WRX S4」。精悍なセダンボディにスバル独自のシンメトリカルAWDを搭載したこのモデルは、ファンに「これを待っていた!」と歓喜させる内容でした。EJ20型の2.0L 水平対向4気筒ターボは最高出力300馬力、最大トルク40.8kgmを発揮。トランスミッションはCVT(リニアトロニック)を組み合わせ、誰もが気軽にハイパフォーマンスを楽しめるクルマとなったのです。

それでも物足りない……マニュアルでスポーツ走行を楽しみたいんだ!そんな生粋のスポーツカー愛好家のために「WRX STI」も登場。こちらは伝説のSTIの称号を受け継ぐピュアスポーツセダンで、パワートレインこそS4と同じく2.0L 水平対向4気筒ターボを搭載しますが、最高出力308馬力、最大トルク43.0kgmを発揮。そしてなにより、このハイパワーをしっかりと受け止めてくれる強化6速MTを搭載したのがトピックといえるでしょう。ショートストロークシフトを採用し、ストリートからサーキットまで幅広いステージで走りを楽しめるクルマに仕上げられました。

これらのWRXシリーズはインプレッサの系譜から枝分かれし、独立したモデルとなりました。2021年11月にはWRX S4がフルモデルチェンジを受けて2代目に。よりワイド&ローになった精悍なプロポーションはスポーツセダンらしい刺激的なデザイン。エンジンの排気量は400cc拡大され、2.4L 水平対向4気筒が搭載されました。トランスミッションは先代と同じくCVTを組み合わせますが、8速マニュアルモードを採用することで自在に操る楽しさを実現。最高出力は275馬力にスペックダウンしたものの、あらゆるシーンで使いこなせるハイパフォーマンスカーとして魅力を増したといえるでしょう。なお、先代に存在した「STI」の設定は見送られました。
新世代プラットフォームを初採用した5代目(GT/GK)

2016年10月、インプレッサは5代目となりました。先代モデルで多くのユーザーを獲得したインプレッサは、今回大幅なテコ入れを目指します。その核となるのが、次世代プラットフォーム「スバル・グローバル・アーキテクチャー(SGP)」の導入でした。このような新世代アーキテクチャーは、同時期にトヨタをはじめ多くの自動車メーカーが導入しているもの。スバル初のSGP採用モデルとなったインプレッサは、ボディとサスペンションの剛性を大幅にアップ。走りの質感を大きく高めたことで、欧州のライバルにも劣らぬ上質な走りを身につけました。

パワートレインは、1.6L/2.0Lの水平対向エンジン(FB16型/FB20型)を搭載。特に後者はおよそ8割の部品の設計が見直され、12kgもの軽量化を実現したのがトピック。トランスミッションはどちらもCVT(リニアトロニック)が組み合わされ、最大でJC08モード燃費18.2km/Lを達成しました。ボディタイプは先代と同じく5ドアのインプレッサスポーツ、4ドアのインプレッサG4を設定。先進運転支援システムのアイサイトはバージョン3にアップグレードされ、さらなる安全性の高さを身につけたのも注目のポイントといえるでしょう。なお、2020年10月の改良では独自のハイブリッド「e-BOXER」を搭載モデルが登場し、JC08モード燃費19.2km/Lを達成しました。
クラスを超えた質感を備えた6代目(GU)

2023年1月に開催された東京オートサロンで、次世代のインプレッサが日本初公開。従来の高品質さはそのままに、スバルらしいスポーティなエッセンスも取り入れたスタイルは大好評でした。同年4月には正式に価格が発表され、いよいよ日本で発売されることに。6代目は4ドアセダンが廃止され、5ドアに統一。正式な車名も「インプレッサ」とシンプルなものになりました。内外装はモダンになり、特に室内には11.6インチのマルチインフォメーションディスプレイを搭載したのが特徴です。

パワートレインは2.0L 水平対向4気筒(FB20)と、これにモーターを組み合わせたe-BOXSER(ハイブリッド)の2本立て。基本的なメカニズムは先代モデルを踏襲しつつ、クラスを超えた上質さを身につけたのが6代目の魅力といえるでしょう。また、デジタルマルチビューモニターを採用し、車両周辺の視認性をアップ。アイサイトと合わせてスバルならではの高い安全性を実現したのも見どころ。まさに令和の時代にふさわしい質感と走りを身につけたのです。
スバル1000の時代を含めると、59年にも及ぶ歴史を誇る水平対向エンジン。さらにWRCをはじめとする多くのモータースポーツで培った技術をフィードバックし、市販車の走りに還元してきたスバル。その硬派なモノ作りの精神は、最新のインプレッサにも息づいています。モビショーで公開された次世代STIバージョンも含め、今後もスバルから目を離せそうにありません。

