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更新日:2025.10.10 / 掲載日:2025.10.10

着々と進んでいる日産の事業計画【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●日産、池田直渡

 さて、昨年からあまり芳しく無い話題に取り上げられてきた日産だが、その事業計画はどう進んでいるのだろうか?

日産が投入する新型モデルのロードマップ(2025年度第1四半期決算報告の資料より)

 日産の戦略上のポイントは全部で3つある。ひとつは継続的な新型車投入である。2020年頃まで、新型車の投入が異様に少なかったことが日産の競争力を低下させてきたことを反省し、2021年くらいから老齢化したモデル群の刷新を進めてきたが、2024年から2026年までの間に、従来以上にそのペースを加速して、グローバルに32車種の発売を予定している。

 その狙いは当然の如く、商品力の向上にある。巷間で「日産には売るクルマがない」と言われている状況を大きく改善することになるとともに、矢継ぎ早の新型車投入で、社内外の士気や期待を鼓舞する意図もあるはずだ。

第3世代e-POWERは、従来の弱点であった高速走行時の燃費を最大15%向上。5つの機能を1つのユニットに統合している

 もうひとつ巨視的な戦略としては、EVとHEVの2正面作戦へのソリューションがある。ご存じの通り、現在日産の売り上げの柱は、シリーズハイブリッドのe-POWERである。まずはこのe-POWERを第3世代へとアップデートして、性能を向上させた。

 具体的には、従来弱点とされてきた高速燃費の向上だ。100%モーター駆動のHEVは、従来からトルク特性にはアドバンテージがあったが、一方で変速機を持たないという特性上、80km/hを超える速度域では燃費が落ちる問題があった。新世代ユニットではこの高速燃費を従来比で15%向上させることに成功した。

 同時にハイブリッドパワートレインを構成するモーター、インバーター、減速機、発電機(エンジン)と増速機を統合して一体化して5-in-1構造に集約。コンパクト化と軽量化に加えて、ユニット全体の剛性を高めることによって静粛性を向上させている。

 さらに見逃せないのはコストダウンである。日産は2026年に、この5-in-1パワートレインで従来の内燃機関と同等のコストを達成するという。

 すでに日産の屋台骨を支えているe-POWERの商品力向上は、当然ビジネスに大きく貢献するだろう。そうした商品力向上のための投資が可能なのは、すでに利益を生んでいるe-POWERシリーズだからこそである。

新型ノートでは、アリアの技術資産を活用しつつ「3-in-1」ユニットを搭載することで性能を大幅に向上させた

 一方EVの方はどうだろう。現在失速中のEVシフトの様子をみる限り、今EVに投資しても回収できる見込みはない。ましてや専用シャシーと専用パワートレインともなれば、回収の見込みが付かない巨額の投資を継続していかなければならなくなる。かと言って全部塩漬けにして機を見るモードに入れば、今ユーザーの期待値に届かないことで実需が足りないEVは永遠にブレークしなくなる。

 日産はすでに利益体質にあるe-POWERの5-in-1のユニットから3要素を切り出して、EV用の3-in-1ユニットとすることで、2つのパワートレインを共通モジュール化した。3-in-1と5-in-1ユニットは一卵性双生児の様な関係にあり、ハイブリッドに掛けた開発費はそのままEVの能力向上に寄与するわけだ。日産は、仮にEVマーケットが当分の間我慢を強いられるとしても、着々と製品を進化させられる環境を整えたのだ。

次世代運転支援技術(ProPILOT)を搭載したテストカー

 もう一点、日産が長らく売りにしてきた「プロパイロット」も、従来システムを全面的に刷新して全く新しいシステムにアップデートされる。この新システムは、英国Wayve社のAI Driverソフトウェアをベースとし、11個のカメラ、5個のレーダーセンサー、1個の次世代LiDARセンサーが搭載され、カメラによって360°全方向の認識が可能である。

 新システムの大きな特徴は、カメラをメインセンサーと位置付け、レーダーとLiDARをサブセンサーとして順位付けを行う点にある。日産によれば、フロントカメラは視界良好時に300m程度の視界を持つが、悪条件下では視界が30m程度までダウンする。そうした場面で、レーダーとLiDERはカメラが視認できない遠距離の障害物を測定し、カメラの視認距離に到達する前に、あらかじめ車線変更による回避と、減速という予備回避動作を指示し、30mの視界環境でもカメラによって回避が可能な状態にする。

テストカーには、11個のカメラ、5個のレーダーセンサー、1個の次世代LiDARセンサーが搭載されている

 これによって、自動運転の大きな課題のひとつ「ファントムブレーキ」が回避できる。ファントムブレーキとは、何もないところで障害物があると誤認して、突然急ブレーキに至る現象を言う。新システムではカメラが最終決定するので、見えない障害物に対して、突如ブレーキ作動させることがなくなるからだ。

 また、この新システムは、常にデータを収集して試行錯誤しながら知能を獲得していく「エンボディドAI」方式。英国Wayve AI Driverソフトウェアが開発したもので、すでにWayve社によって英国内のリアルロードでの様々なデータを学習済みであり、日本と同じ左側通行の道路での運転について、日産によれば相当に実用的なところまで到達している、AD /ADASの革命的システムだとのこと。

 筆者は、日産のドライバーによるデモドライブに同乗体験したが、交通量が多く車線分岐も多い芝公園から日比谷、駐車車両と歩行者が多く狭隘な銀座の裏道を巡る都心の一般道を上手に走り抜け、駐車車両の回避や横断歩行者などへの対応、信号の無い交差点での右折なども含め、熟練ドライバーと遜色ない運転をしてみせた。

 長期的に見て、ドライバーに監視義務が発生しない完全自動運転は法規も含めた社会課題を解決しない限り難しいと思われるが、当分の間は、実質的には自動運転の能力を持ちながら、あくまでもドライバーに監視義務ありとする超高度運転支援システムが主流になると思われる。日産ではこのシステムを2027年に国内投入するとアナウンスしている。

 さて、日産はこうして様々な局面を打開するための戦略を推し進めている。少なくとも面白い戦いができそうではないか。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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