輸入車
更新日:2024.06.15 / 掲載日:2024.06.15
恐るべきフェラーリ・マジック!【フェラーリ ドーディチ・チリンドリ】【九島辰也】

文●九島辰也 写真●フェラーリ
フェラーリジャパンが新たなモデルの発表会を行いました。ジャパンプレミアの場所となったのは東京のど真ん中、虎ノ門ヒルズステーションタワー。その47階にあるTOKYO NODEのステージがお披露目の場です。マラネッロからプロダクトマーケティングのヘッド、エマヌエレ・カランド氏を招いてのプログラムでした。
もちろん、すでにワールドプレミアされているので、その存在を知らないメディアはいないでしょう。それなのに多くの人が集まったのだからすごい。フェラーリの求心力はまったく陰らない気がします。

では、どんなモデルかというと、フロントミッドに自然吸気12気筒エンジンを積んだ2シータークーペです。ミッドセンチュリーのグランドツアラーからインスピレーションされました。彼ら的には2シーターベルリネッタと呼びます。なぜ“ベルリネッタ”を使うのかと思いきや、この後に“スパイダー”が待ち構えているのがわかりました。GTBとGTSで表されるこのネーミングルールは今も健在のようです。
名前はドーディチ・チリンドリと言います。ドーディチはイタリア語の“12”、チリンドリは“シリンダー”です。つまり、イタリア語の12気筒。まったくもってフェラーリはまじめにネーミングしているのかふまじめなのかわかりません。屋根が開いていれば、“アメリカ”か“カリフォルニア”と名付けるし、それ以外は本社と関係する地名“マラネッロ”とか“モデナ”とかを数字につなげます。“イタリア”もあります。でもって最近は“ポルトフィーノ”や“ローマ”など地名を用い始めました。今後、“ヴェネチア”や“フィレンツェ”なんてのが登場してもおかしくありません。でも、ここまで工夫しなくともそれなりにカッコよく思えてしまうのですから頭が下がります。まさにフェラーリマジックというか、イタリアンマジックです。
とはいえ、ドーディチ・チリンドリの名は彼らにとっては面倒なのではないかと心配になります。イタリア語の会議では、新型車の話をしているのかエンジンなのか迷わないのだろうかと。「新しい12気筒はさ……」って感じでしょう。どっち?
そのエンジンは812コンペティツィオーネ由来の6.5リッターV12で、バンク角65度のドライサンプ式。最高出力は830cv、最大トルク678Nmを発揮します。しかもこの最高出力を9500rpmという高回転領域で出すのですからフェラーリらしい。というか、クルマよりバイクに近い回転数です。トルクもそう。トルク曲線は右肩上がりとなります。フラットなピークトルクを発生させないのは素晴らしいですよね。こういうエンジンが増えるのを期待しちゃいます。ギアボックスは8速DCTで、最高速度340km/h、0-100km/h加速2.9秒を叩き出します。

それにしても今日この段階でモーターを持たない自然吸気の12気筒エンジンを堂々と発表するのですからフェラーリってユニークだと思いませんか。V12は812シリーズで終わりだと思われていたらプロサングエで登場。これが正真正銘の最後とばかりに語られていたら、今度はドーディチ・チリンドリが登場したわけです。最後の12気筒として812シリーズを買った人は拍子抜けでしょう。ですが、それでも恨み節にならないんですから不思議。「フェラーリだからね……」、ってところで誰もが納得してしまうのはなぜなんでしょう。
デザインは812シリーズとある部分似ているし、ある部分似ていません。ロングノーズショートデッキという原則は共通でもフォルムや面構成は異なるベクトルにあると思います。個人的にはデイトナあたりのオマージュが入っている気がしますし、ローマに代表する色気も感じます。エアロダイナミクスを求めすぎないで、美しさを追求したというか。大人の2シータークーペといった印象です。

そんなクルマのアンベールに立ち会ったのですが、そこでおもしろい話を聞きました。日本においてフェラーリの最初の正規輸入モデルは1960年代の275GTBだったそうです。個人的に参加するクラシックカーのイベントでたまに拝見しますが、かっこいいモデルです。多くの人が250のショートホイールベースに目を奪われますが、こちらも負けていません。大人っぽさを感じます。でも当時275GTBはどんな人が買ったんだろう。気になる。
ところでドーディチ・チリンドリですが、この名前に慣れる日は来るんでしょうか。イタリア語を勉強していますが、“チリンドリ”は教科書に出てきません。でもまぁ、“クアトロポルテ”や“チンクエチェント”なんて前例もありますし、いつの間にかフツーに口にしているかもしれませんね。恐ろしきイタリアンマジック!