車の最新技術
更新日:2023.08.18 / 掲載日:2023.08.18

自動車工場の景色が大きく変わる【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ

 今年6月、トヨタ自動車は東富士研究所でテクニカルワークショップを開催し、40件以上にもおよぶ未来技術を一気に発表した。BEV、FCEV、HEVのみならず、自動車OSや、新時代の空力、カーボンニュートラル物流に至るまで網羅する大規模な技術発表だった。

 どれを取り上げても面白いのだが、特に印象深いのが、自走型の生産ラインである。ワークショップでの説明では「BEVのための新しい生産システム」という説明で、シャシーにバッテリーとモーターを組んだ後、車両にライン内専用の自走用コントロールユニットをクリップオンで装着し、ラインの中でこれから生産されるクルマ自体が作業指示書に従って自動運転で移動するというものだ。

BEV時代のモノづくりについて、トヨタが発表した技術発表の資料より

 それは、つまるところ床に固定されるベルトコンベアがほぼ完全に廃止できるということである。ベルトコンベアが要らなければ、工場の敷地内でラインを自由にレイアウトできる。何なら1台ずつ通るルートが違ってもいいし、同じ場所で同じ作業を行う必要もなくなる。生産設備による作業の制約がなくなるということは工場のフレキシビリティが格段に向上することを意味する。

 かつてフォードがT型で開発したベルトコンベアによる流れ作業生産は、自動車生産従事者のスキルに依存せず、誰でも作れる自在性で生産改革を行ったが、この方式の利点はそのまま欠点でもあった。ラインの入り口から出口までは一直線のひとつながりであり、全ての工程が予めマニュアルで規定された同じ繰り返し作業でなければ成立しない。全く同一の商品を大量に生産するためには極めて優れたシステムであったが、変化に弱い。エンジンのバリエーションを持たせようとしたり、架装のグレードを複数用意しようとすると大いに混乱を招くことになる。

元町工場 組立生産ライン。車体は天井から吊るされ、決まったレーンを決まった時間で運ばれていく

 自走式ラインの詳細は未だ発表されているわけではないが、工場の生産システムがわかっていれば何をやろうとしているかは自明である。スタートは作業指示書だ。自走シャシーが走れる様になると、作業指示書に従って所定の工程へと車両が進む。次の工程には、これもまた自動搬送機(AGV)で指示書に従い組み付けられるべき部品が用意される。ベルトコンベアが無いからメインのラインと部品の輸送ルートが交差しても問題ない。自動運転によってぶつからないように交互に動かせば済むことだ。

 そうなると、工場のレイアウトは前例がないほど自由になる。それが意味するものは多品種少量生産への対応である。現在の様にBEV、FCEV、HEVを少量ずつ作らなくてはならない場面でも効率よく生産できる。タクトタイムを無闇に伸ばさないようにさえできていれば、専用ラインと比べても最大生産速度で大きく引けを取ることはない。モデル毎の需要の増減や、新モデルの割り込みなどにも柔軟に対応でき、稼働率を落とすリスクがなくなる。

 自動車生産というのはいわゆる設備産業なので、莫大なコストを掛けた設備をいかに効率良く動かすかが採算性の肝であり、稼働率が一定以下になれば、利益が先行投資の減価償却を下回って大赤字が発生する。

 少品種大量生産ならば、その少品種を何としても売るしかない。対して多品種少量であれば、その中のどれかがヒットしてくれて、生産総数を損益分岐ライン以上に保ってくれれば赤字にならない。ただしそのためには、売れるクルマの生産を増やしながら、それ以外のクルマの生産も続けられるフレキシビリティが求められる。トヨタが発表した自走式ラインはこの意味において大革命となる発表なのだ。

2021年にトヨタが発表したBEVのコンセプトモデル群。生産技術の進化がラインアップの多様化を実現させる

 今の所トヨタはBEVのための生産方式と説明しているが、別に内燃機関モデルであろうとも、AGVに載せてしまえば自動運転は容易い。BEVと同じことが可能だ。しかもトヨタはすでにホイールの下に挟み込んで自走させるコンパクトで安価なAGVを開発済みである。こうなると新型モデルを作る度に工場の生産設備に投資する必要が無くなる。AGVを動かすプログラムをアップデートするだけで生産設備投資が終わる。もちろんこの言い方は若干極端であることは承知だが、全体の傾向として大幅なコストダウンと開発速度の向上、そして効率化が可能になる。

 この自走式ラインは本質的に混流生産を目的にするのだが、これまでの流れ作業ラインを利用した混流生産とは一線を画している。従来のラインは入り口から出口までは、一筆描きの1直線である。九十九折りになっても構わないが、真っ直ぐシーケンシャルに繋がっている必要があった。もちろんサブアッセンブルラインなどは補助的に使ってきたが、それは本体の幹に対して、いくつかの枝が存在し、幹に合流する形でしかなかった。

 しかし、自走生産になれば、入り口も出口も複数あって構わない。可能性だけの話をすれば、生産指示書を認識したAIが、今の工場敷地と設備、部品輸送の効率を統合的に判断して、1台を生産する都度、ダイナミックに生産ラインをデザインして生産に入ることも可能だ。

GRカローラ(北米仕様)。生産技術が進化すれば、スポーツカーのような少量生産モデルも市販化しやすくなるだろう

 もちろん製品の自由度も上がる。過去に書いたGRファクトリーの話<https://www.goo-net.com/magazine/newmodel/car-technology/53296/>を再読していただくとわかりやすいのだが、トヨタはすでにGRヤリスなどのために、GRファクトリーを稼働させている。これは流れ作業ではなく、セル式の手組み生産によって、セミハンドメイドの高性能車「GR」グレードを生産する仕組みだが、新しい自走式のフレキシブルラインならば、このGRファクトリーのやり方を部分的に導入することも可能だ。

 例えば「GRグレード」の下に位置付けられる「GRスポーツ」をラインで組む際に、自走AGVによって「GRスポーツ」だけをサスペンションの組み付けをハンドメイドにすることも可能になる。サスペンションは通常、クレーンや台車に載せられたシャシーから、タイヤ、サスペンションなど、ばね下部品が自重でぶら下がった状態で取り付けられるが、GRファクトリーでは、タイヤを地面につけて1Gの車重を掛けた状態で締め付けを行う。もちろん、ラインで車体下から組み付けるだけの作業より手間が掛かる。仮止めし、車体を下して荷重を掛け、位置決めを確認してから絞め付けるのだから当然だ。これはモータースポーツの世界では当たり前に行われているチューン手法であり、レースやラリーでの戦闘力と、操作フィールが向上することはすでに知られている。

 これが大したコストアップを伴わずに混流生産の中で行えるととしたら、GRスポーツの価値は従来より大きく向上することになるだろう。

 自走生産には、アイディア次第で無数の可能性がある。それはもしかするとT型フォード以来の生産革命かもしれない。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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