新車試乗レポート
更新日:2023.04.19 / 掲載日:2023.04.19

【ポルシェ カイエン ターボGT】あふれだすパワーを操る喜びを備えた究極のカイエン

文●工藤貴宏 写真●澤田和久、内藤敬仁

 「ポルシェ=スポーツカーメーカー」と考えるクルマ好きは多いでしょう。けれど、昨今のポルシェはそうとは限りません。

ポルシェの名にふさわしいSUV

 「パナメーラ」と名乗るセダンもあるし、世界的なSUVブームの波をきっちり受け止めたことで、稼ぎ頭となっているのはSUV(ただしポルシェは「新しい形のスポーツカー」と言う)。スポーツカーがすべてではないのです。

 ポルシェのSUVは“小さいほう(といっても全幅が1.9mを超えるから日本人の感覚としてはあまり小さくはない)”と“大きいほう”の2タイプが存在。前者は「マカン」、そして後者は「カイエン」と名付けられていて、今回取り上げる後者のカイエンはポルシェのSUVをここまで盛り上げた立役者です。

 カイエンの初代登場は2002年ですが、そのデビューはなんともセンセーショナルでした。

 「あのポルシェがSUVを!」

 「ポルシェはこだわりを捨てるのか」

 多くのクルマ好きはきっとそう思ったことでしょう。もちろんSUVだからオフロードもしっかり走れます。

 だけど、カイエンが凄かったのはオフロードをガンガン走れるだけではなく、オンロードもまるでスポーツカーのように気持ちよく走れること。その“背の高いクルマ”の常識を破るオンロード性能は、ほぼ同じタイミングでデビューし同じような特性を持つBMW「X5」と並んで、当時の常識を覆るものでした。

 「確かにこれはポルシェだ!」

 実際に運転した人は高い確率でそう感じ、ポルシェのいう「新しい形のスポーツカー」というのも確かに納得できました。

あれから20年。カイエンは2度のフルモデルチェンジを経て3代目となり、ボディは「SUV」と表記するノーマルに加えてリヤウインドウを寝かせた「クーペ」も用意。シリーズはどんどん拡大し、340psエンジンを積む普通のカイエンをボトムに、システム出力462psの「E-Hybrid」、440psエンジンを積む「S」、460psエンジンに俊敏なハンドリングを組み合わせた「GTS」、550psの「ターボ」、システム出力680psの「ターボS E-Hybrid」など好みに合わせて選べる多彩なラインナップが構築されています。装備ではなく出力を含めた走りの違いでシリーズを分けているのがなんともポルシェらしい。

「ターボGT」は640馬力を誇るカイエンの頂点

カイエン ターボGT

 さて、そんなカイエンのなかで、今回試乗した「ターボGT」はいわば“トップ・オブ・カイエン”。クーペボディだけに用意される(だからクーペボディなのに正式車名に「クーペ」と付かない唯一のモデル)カイエン軍団の頂点に立つモデルです。

 エンジンは排気量4.0LのV8ツインターボで640ps。彼らの流儀に従いハイブリッドモデルよりは控えめな数字ですが、誰もが速さに驚く「カイエンターボ」と比べても、軽自動車2台分近いパワーが上乗せされているのだから「もうどんだけ?」って感じですよね。

 スポーツカーの聖地といわれるドイツのサーキット「ニュルブルクリンク」の北コースで、7分38秒9というSUV最速のタイムをたたき出したといえばその怪物っぷりがなんとなくイメージできるのでないでしょうか。停止状態から時速100kmまでの加速に必要な時間はたったの3.3秒で、最高速度は300km/h。こうして数字を並べるだけでもとんでもない速さだとわかります。

 ちなみにエンジンは、同じグループ内のスーパーカーブランド「ランボルギーニ」が誇るモンスターSUV「ウルス」と血のつながりが濃い設計だったりもして。

スーパーカーに近い仕立てが与えられたエクステリア

カイエン ターボGT

 スタイリングもそんな速さのオーラを全力で主張するもの。ルーフパネルは軽量化のためカーボンファイバー製だし、その後方のリヤスポイラーも同様。ドアミラーのカバーもカーボンファイバーで、見るからにレーシーな雰囲気。かなりヤンチャな感じです。これは好みが分かれるかもしれません。

 エンジンをかけると排気音の演出も見事で、スタイリングと音による“普通のクルマではないオーラの演出”はさすが。それがドライバーを高揚させ、あたかもクルマの「やる気スイッチ」がONになっているかのようです。

 しかしながら、乗り味は普通に乗っている限りは拍子抜けするほど普通で、獰猛な野獣のようなとげとげしい感じは一切なし。スイッチの切り替えで硬さを調整できる電子制御ダンパーの助けもあって乗り心地が良く、快適性もしっかり保たれているのです。きわめて平和で、ファミリーカーとしても家族から不満が出ることはまずないでしょう。

 でも、走行モードを「スポーツ・プラス」としてひとたびアクセルを踏み込めば野性が覚醒。怒涛の加速はさながら“瞬間ワープ装置”で、さすが640ps。SUVとは思えない人馬一体感と安定感にあふれる操縦性も感無量です。ちょっと走るだけでも、ドバドバと湧き出すドライビングプレジャーを堪能できることでしょう。

究極が味わえる「ターボGT」

 もちろん「S」をはじめカイエンの高性能仕様はすべて感動的な体験ができます。しかし「究極を味わえるかどうか」が、“GT以外”のカイエンとの大きな違いなのです。

 その究極を味わわせてくれるポイントはふたつ。

 ひとつはエンジンで、湧き出すパワーや音が生み出す高揚感などアクセルをグッと踏みつけたときの刺激はもちろん凄いけれど、特筆すべきはジワリと踏んだ時のエンジンと対話する感覚。これがなかなか味わい深いのです。とにもかくにも、最高の気持ちよさを味わわせてくれるエンジンです。

カイエン ターボGT

 もうひとつはハンドリングで、ドライバーの意図を汲むかのように思い通りの走行ラインを描いて走れるのが素晴らしい。SUVは背の低いクルマに比べるとどうしても重心が高くなるので操縦性が濁りがちだけど、そんなSUVとは思えない澄んだ感覚が心に沁みます。ソリッドでシャープさがあり、峠道もスイスイ曲がるからドライバーとの一体感が素晴らしい。まるでクルマが身体の一部になったかのような感覚は見事としか言いようがなく、「さすがスポーツカーメーカーの作るSUV」だなと素直に納得です。

 そんなハンドリングは、峠道などはもちろん、交差点を普通に曲がっただけでもキレとスッキリさを感じられるから爽快。活き活きと走る姿がいいですね。

まとめ

 というわけでカイエンターボGTをひとことでまとめるとしたら、SUVの形をしたリアルスポ―ツカー。ただのスポーツカーではなく本物のスポーツカーです。ドライバーをワクワクさせるのが本当に上手ですね。

 カイエンターボGTは快適さ“だけ”を求める人には向かないでしょう。なぜならそういう人は、普通の「カイエン」で十分に満足できるからです。

 でも、運転の楽しさをとことん味わいたい人や運転の喜びを最大限に感じたい人は、「GT」の世界を知る価値は十分にあるに違いありません。

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工藤貴宏(くどう たかひろ)

ライタープロフィール

工藤貴宏(くどう たかひろ)

学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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