新車試乗レポート
更新日:2024.03.27 / 掲載日:2024.03.27

日産電動4WDの実力検証〜雪道試乗インプレッション〜

雪道で最新電動4WDの実力を再確認!

日産のSUVは、電動4WDによる緻密な駆動制御で
冬の道路での優位性も強くアピールしているが、
その高い実力を体感できる機会がやってきた。
試乗コースは10cmほどの圧雪路もあればアイスバーン路もあり、
さらに水混じりのシャーべット路まで揃った、
まさに日本の冬の道がミックスされた状態。
エクストレイルとキックスの限界性能を存分に確認することができた。

●文:川島茂夫 ●写真:日産自動車(株)/編集部

日産エクストレイル「e-4ORCE」&キックス「e-POWER」スノードライブ試乗インプレッション

雪道を意識させない
自然すぎる走りが頼もしい

 エクストレイルの走行性能を語る際に見逃せない強みになっているのが、雪上操安性の高さだ。この雪道に強い特性は初代モデルから受け継がれてきたものだが、現行型で「e-POWER」と「e-4ORCE」が組み合わされたことで、大きく開花している。
 e-4ORCEは、前後2つの高出力モーターとブレーキの統合制御を行うことで、駆動力を自在にコントロールする電動駆動四輪制御システム。タイヤのわずかなすべりを瞬時に検出し、グリップ限界を見極めながら走行できる特性は、オンロードではもちろんのこと、路面抵抗が激減する濡れた路面や雪道でも安定した走りを披露してくれる。
 制御の考え方自体は機械駆動時代と大きく変わっていないが、電動を用いることで実現した制御精度の飛躍的な向上が、理想的な最適化を実現している。
 実際に雪道を走ってみると、驚くほど普通に運転できてしまう。雪上走行限定の特殊な運転テクニックは不要。不意の車両挙動や、方向性の乱れは少なく、ステアリングもペダルの扱い方も神経質になる必要はない。要するに雪道でも楽なドライブができる。
 もちろん、路面とスタッドレスタイヤのグリップ限界を超えてしまえば、加減速も曲がることもできなくなるのはFF(FR)駆動のクルマと同じ。電子制御の介入が上手すぎるため、限界の予兆感が希薄になりがちなのが難点といえる。ただ、前走車に追従して走っているレベルでも、エクストレイルの雪道での強さ、余裕ぶりを実感できる。

制御に違いはあるが
安心感はキックスも同等

 キックスの4WD車にも、エクストレイルと同様にツインモーター式4WDを採用されているが、システム名称は「e-4ORCE」ではなく、「e-POWER 4WD」となる。前後のモーター出力は前100kW/後50kW(エクストレイルは前150kW/後100kW)と、エクストレイルと比較すると見劣りするが、リヤモーター出力はRAV4のE-Fourよりも10kWも上回り、軽量小型の車体に対して余裕の後輪駆動力を備えている。実際、キックス4WDの雪上性能はエクストレイルに比肩するほど優秀だった。
 ただし、制御精度はe-4ORCEと比べると、少し制御が粗い。操舵とライン制御、コーナリング中の加減速と方向性の保持などといった基本的な制御思想は、e-4ORCEと同じで、普段の運転の延長上で扱える美点も共通しているが、挙動補正を行う際にシステム側からの介入を意識する。
 それにもかかわらずエクストレイルと同等レベルと評価したのは、コンパクト級ならでは軽量小型の恩恵が大きいからだ。雪をタイヤで押し込むため、雪道では意外と走行抵抗が大きい。キックスは重量が軽いため雪の抵抗の影響が少なく、スリップしても回復するのが早い。これはシャーベットやアイスバーンでも同様だ。制御の洗練感は、エクストレイルに及ばないが、グリップ限界からの優れたリカバリー性能を持つことはメリットといえる。雪路走行での安心感は同等以上と考えていい。
 電動駆動が持つポテンシャルを走行性能の質や信頼性の向上に使うという意味で、e-4ORCEとe-POWER 4WDは最も先進的なシステムといえる。ともにオンロードでの走行性能の質を高めることでも知られているが、氷雪上走行でもその効果を実感できる。普段、雪道を走る機会があまりない都市部のユーザーにとっても、最新電動4WDを選ぶ意味は大いにあるだろう。

NISSAN エクストレイル G e-4ORCE

価格:474万8700円

NISSAN エクストレイル G e-4ORCE 主要諸元 ●全長×全幅×全高(㎜):4660×1840×1720 ホイールベース(㎜):2705 ●車両重量(㎏):1880 ●パワーユニット:1497㏄直3気筒DOHCターボ(144PS/25.5㎏・m)+ツインモーター(フロント150kw/330Nm、リヤ100kW/195Nm) ●WLTCモード総合燃費:18.4㎞/ℓ ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)ベンチレーテッドディスク(R) ●サスペンション:ストラット式(F)マルチリンク式(R) ●タイヤ:235/55R19

e-4ORCEの制御介入が早めに細かく行われることで、雪面から感じる違和感は少なめ。スタッドレスタイヤのグリップ力の限界を超えない範囲ならば、ストレスなく走り続けることができる。
前後2つの高出力モーターとブレーキの統合制御を行うことで、駆動力を自在にコントロールする電動駆動4輪制御システム「e-4ORCE」。タイヤのわずかなすべりを瞬時に検出し、グリップ限界を見極めながら走行できる特性は、通常のオンロードではもちろんのこと、路面のグリップが極端に低い濡れた雪道でも安定した走りを披露してくれる。

NISSAN キックス X FOUR

価格:326万1500円

NISSAN キックス X FOUR 主要諸元 ●全長×全幅×全高(㎜):4290×1760×1605 ホイールベース(㎜):2620 ●車両重量(㎏):1480 ●パワーユニット:1198㏄直3気筒DOHC(82PS/10.5㎏・m)+ツインモーター(フロント100kw/280Nm、リヤ50kW/100Nm) ●WLTCモード総合燃費:19.2㎞/ℓ ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)ディスク(R)●サスペンション:ストラット式(F)トーションビーム式(R) ●タイヤ:205/55R17

キックス4WDに搭載されるe-POWER 4WDの駆動制御はアクセル、ブレーキは個別制御を基本とする。トルクベクタリングも含む制御系が統合されるe-4ORCEとは制御系の構成が異なるが、雪道との相性の良さは同じ。
前輪駆動用モーターはFF車と同じ最高出力100kW、後輪駆動用モーターは最高出力50kWを発揮する。電動4WDシステム「e-POWER 4WD」は、コンパクトSUVとしては破格と言っていい後輪駆動力を持つことも強みだ。

電動は前輪駆動もすごい?〜セレナ/サクラ〜

冬の道での電動駆動の強さは前輪駆動のクルマでも実感
 電動駆動が雪道でアドバンテージを持つのは間違いないが、前輪駆動のFFではどのくらいのポテンシャルがあるのだろうか。そこでセレナe-POWERとサクラの2モデルに試乗してみた。
 まずセレナは重量が嵩み、重心高が高い1BOX型で駆動やコーナリングの限界は今回試乗したモデルの中では最も劣る。当然、雪道での限界は低めになるが、限界の見極めがしやすいことが面白い。例えば下りのコーナリングで緩やかにアクセルを踏み込んでいくと、加速反応がほとんどなくなる瞬間を感じることができるのだが、これがグリップ限界の境目のサイン。セレナはこのスリップの兆しを捉え、先読み制御してくれる。乱暴にアクセルを踏み込んだり雑な操舵を行うと、一瞬反応してからスリップ回復制御が介入するため、体感としてグリップの回復が早い。慣れてくると、アクセルや操舵の反応でどのくらいのグリップの余裕があるのかを、それとなく感じられるほどだ。
 軽BEVのサクラはさらに御しやすい。限界を読みやすい特性や、不安を感じさせない挙動や運転感覚はセレナと同じだが、床下バッテリーによる低重心化や軽量コンパクトな車体のメリットで、車両挙動の乱れも少なく、回復も早い。加減速や操舵に対する制御も巧みで、前輪駆動を意識せずに雪路を気楽に走れてしまう。
 日産電動車なら4WDは不要、とは言わないが、おのおのライバルモデルのFF車と比べるならば、雪路踏破性は上位。なにより心理的なストレスが少ないことに好感だ。

NISSAN セレナ e-POWER ハイウェイスターV

価格:368万6100円

NISSAN サクラ G(2WD)

価格304万400円
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内外出版/月刊自家用車

ライタープロフィール

内外出版/月刊自家用車

オーナードライバーに密着したクルマとクルマ社会の話題を満載した自動車専門誌として1959年1月に創刊。創刊当時の編集方針である、ユーザー密着型の自動車バイヤーズガイドという立ち位置を変えず現在も刊行を続けている。毎月デビューする数多くの新車を豊富なページ数で紹介し、充実した値引き情報とともに購入指南を行うのも月刊自家用車ならではだ。

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