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更新日:2024.03.08 / 掲載日:2024.03.08

電動化とは何を意味するのか?【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ、日産

 昨今、メディアを賑わすワードとして「電動化」が挙げられる。ただしこの電動化は人によって定義が結構違う。用法が混乱しているので、ちょっと一度整理した方が良いと思う。

 最も多く使われているのは、駆動用のモーターを装備するクルマは全部「電動化モデル」だとする説。つまりマイルドハイブリッド(MHEV)、ハイブリッド(HEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)、燃料電池車(FCEV)、バッテリー電気自動車(BEV)の全てが電動化モデルであるという定義になる。日本自動車工業会や国内メーカーはこの説を取っている。そういう意味ではこれが最もオーソライズされた説である。ここでは「自工会説」としておこう。

 EV推進派の論客たちが好んで主張するのは、欧州の規制上、優遇が受けられるモデルを「電動化モデル」だとする説だ。具体的にはPHEV、FCEV、BEVが電動化モデルであり、それ以外、つまりHEVやMHEVは電動化モデルではないとする。

資源エネルギー庁がまとめた各国の電動化目標(2022年10月時点)

 この説だと、規制が変わったら分類法も変わることになってしまう。あるいは規制は国ごとに異なるのだが、自国の規制と異なる欧州の規制で分類するのも妙な話だ。一例を挙げれば、アメリカのZEV規制では2018年まではHEVが優遇対象だったので、それまでは電動化モデルで、優遇が外れた2018年以降は電動化モデルではなくなるという矛盾が生じるし、PHEVについてはカウントできる台数に上限が設けられており、長期的には優遇対象から外されそうな流れも見え隠れしている。

 すでに多くの人がご存知の通り、規制の手のひら返しは日常茶飯事なので、分類としては安定性が低い。一応これを「規制準拠説」とする。この派の人たちは自工会説をガラパゴスであると出羽の守ポジションを取るが、実際の海外ではそうでもない。

 海外自動車メーカーのリリースを英語版で見てみると、むしろ自工会の主張と同じである。「電動化モデル」は“Electrified vehicle”であり、「電気自動車」は“Electric car”で、ちゃんと使い分けられている。駆動に何らかの電気仕掛けを持つものは全て“Electrified vehicle”となる。

 欧州メーカーは48VのMHEVなども手掛けているメーカーが多いので、彼らからすれば、それらのモデルが純内燃機関車(ICE)と一緒の括りに入れられては敵わない。新技術が投入された電動車の括りに入れてアピールしたいのだから当然である。

 それぞれのシステムがどういうものかをざっと説明すれば、MHEVとは、モーターのみでは走行できないものを言う。エンジンの苦手とする低速域でモーターがアシストをするという意味で、電動アシストサイクルの様なものである。

 ただし、そもそもエンジンは、苦手な低速では燃費でもエミッションでもドライバビリティでも苦しいので、そこをモーターがアシストすることは環境対策としてもドライバビリティ向上としても恩恵は大きい。

 MHEVはそれを可能な限り簡略な仕組み、つまり低コストで実現できるところに意義がある。特にBセグメントまでの廉価な車両の低炭素化には大いに意味があると言えるだろう。

 HEVは別名ストロングハイブリッドとも言われ、モーターのみでの走行が可能なものを言う。とは言えシステムは多様で、「エンジンとモーターを並列に使うパラレルハイブリッド」と「エンジンは発電専用で、駆動は全てモーターが担うシリーズハイブリッド」の2つが基本系だ。シリーズの代表は日産のe-POWERである。

エンジンを発電に使用しモーターでタイヤを駆動する日産 e-POWER

 そしてシリーズとパラレルを使い分けるタイプがシリーズパラレルもしくはスプリットと呼ばれる。こちらは多数存在するが、プリウスに代表されるトヨタのTHSが最もポピュラーだろう。

 さて、話は戻って、規制準拠派の主張に一番近いことを言っているのはボルボで、ボルボの場合BEVとPHEVを予充電可能なシステムとして「リチャージモデル」と呼ぶ。つまり外部充電端子が付いているかいないかで分ける。

 予充電での航続距離はバッテリーサイズが決めるので、搭載バッテリーの容量次第になる。場合によってはBEVよりPHEVの方がEV航続距離が長い場合も考えられる。BEVとPHEVの違いは、電池が切れた時エンジン走行ができるかどうかで、この場合エンジンで直接駆動しても、発電機を駆動してモーターで走っても構わない。

 分類というのは所詮ツールなので、このように、バッテリーの予充電だけで運用できるモデルを別括りにするというやり方はあると思う。予充電をする以上、自宅に充電インフラがあるかないかでクルマ選びは変わってくるのだからそこに分類区分があるのはユーザーの役にたつ。なのでリチャージモデルの括りは有用である。規制準拠派の分類はこれに予充電ができないFCEVを入れるからご都合主義に見えてくる。

主要国・地域での電動車の販売比率とCO2削減の実績(日本自動車工業会が発表した資料より)

 さて、筆者の見解は、世界中の多数派の自動車メーカー同様に自工会説である。電動化の最大のメリットはエネルギーの回収にある。従来のICEでは、燃料を燃やして取り出したエネルギーは車両が減速する時、エンジンブレーキや物理ブレーキで熱に変換して捨てて来た。モーターとバッテリーがあればエネルギーを回生してバッテリーに蓄えて再利用できる。

 従来のデバイスで言えば、考え方としてはターボがこれに近い。圧縮行程で新気や混合気を圧縮するエネルギーはエンジンの力なので当然そこでロスが起きる。捨てている排気ガスの圧でタービンを回して予圧縮を掛けることでその負担を減らせる分、効率が上がる。

 脱炭素とはすなわち化石燃料をいかに燃やさないかなので、エネルギー効率改善は脱炭素に貢献する。そういうシステムの総称として電動化と呼ぶことには分類ツールとして有意なものだと思えるからである。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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