輸入車
更新日:2022.03.16 / 掲載日:2022.01.14
【大人の自動車遊び】電気じかけのウルトララグジュアリーカー【九島辰也】

文●九島辰也 写真●ベントレー、ロールス・ロイス
ニュースとしてあまり広まっていない気がしますが、昨年9月ロールスロイスは開発中の電気自動車の概要を発表しました。彼らにとって量産モデルとして初のEVは、来年末までには販売される予定だそうです。
あまり広がらないのは、ブランドとしてリアリティがないからかもしれません。ベントレーやアストンマーティンならともかく、ロールスロイスともなると宝くじが当たってもショッピングリストに入れる発想は浮かびませんね。
ただ名前が“スペクター”と聞くとちょっと気になります。007の映画に出てくる悪の組織を連想させます。アストンマーティンでもベントレーでもなくロールスロイスがその名前を使うなんてちょっとおもしろい。

とはいえ、ロールスロイスがこの名前を使う理由はしっかりしています。というのも、スペクターとは日本語で言うところの「亡霊」や「幽霊」。これまでの、ファントムやゴーストと並べても違和感はありません。
それじゃなぜ彼らは我が子のようなモデルに、そんな恐ろしい名前をつけるのでしょう。その理由はシンプルです。ファントムもゴーストもスペクターもそうですが、「音もなく近寄ってくるもの」です。つまり、彼らはそんなコンセプトでクルマをつくっているんです。現行型ならドーンが「朝焼け」ですし、過去モデルではシャドー「影」なんて名前をよく使っていました。そう考えると電動化はまさにロールスロイスの思惑通りかもしれません。EVにとって音もなく近寄るのは、容易いはずです。
それじゃ、かつてロールスロイスと兄弟車だったウルトララグジュアリーブランド、ベントレーの電動化はどうでしょう?
彼らは2026年までに全車プラグインハイブリッドもしくはEVにし、2030年にはすべてEVにすることを発表しています。かなり大胆です。でも冷静に考えれば、そこにはいくつも要因があります。例えば、少数生産であること。モデル数が少ないのと、年間の生産台数を鑑みれば、EVへの入れ替えはそう難しくないでしょう。しかも、マーケットは限られていて、トヨタのように全世界5つの大陸を相手にしているわけではありません。極端なことを言えば、アメリカ、中国、ヨーロッパ、中東、ロシア、そして日本だけで商売は成り立ちます。となれば、充電インフラを気にすることは省かれますね。
さらに言えば、そもそもベントレーはフォルクスワーゲングループという大きな傘の中にいます。なので、技術提供も容易に行われます。ポルシェやアウディあたりが、大きな力添えになるのは明白です。

そんなベントレーが年末、4ドアサルーンのフライングスパーにハイブリッドを追加し、我々の前にお披露目しました。ベンテイガハイブリッドに次ぐ2番目のプラグインハイブリッドモデルです。電動化の波がリアルに押し寄せているのを感じました。
簡単にスペックを書き出すと、2.9リッターV6ツインターボ+モーターという心臓です。最高出力は544ps、最大トルクは750Nmを発揮します。ユニークなのは、先にリリースされたベンテイガハイブリッドとパワーソースが微妙に異なること。ベンテイガの方は3リッターV6シングルターボ+モーターとなります。でもって、最高出力は449ps、最大トルクは700Nm。なんなんだろうこの違いは。ナゾです。
ついでと言ってはなんですが、アストンマーティンの電動化ストラテジーは、2025年にはすべて電動化、2030年にはガソリン車を廃止、その年の販売構成はピュアEVが50%になると断言しています。AMGとのパイプが太くなっているだけに、パワーソースに関してはリアリティがあります。その背景には、メルセデス・ベンツの影がちらつきますし……。

なんて感じで、ハイエンドなブランドの電動化を見ていて、ふと気づきました。SUVがないとかディーゼルエンジンがないとかいろいろ言われてきたフェラーリが実は一番電動化に先んじているかもと。すでにSF90ストラダーレ、296GTBと発表していますから立派です。それに実際SF90ストラダーレを200キロくらい運転しましたが、終始快適でした。スタート時にあの乾いた歯切れのいいブリッピング音こそ聞こえませんでしたが、高速走行やワインディングではフェラーリの持ち味がしっかり表現されています。モーターのサポーツに違和感ありませんね。いやぁ、お見事です。
ということで、今回は雲上ブランドの電動化に触れてみました。あらためて驚くのは彼らの転換の早さ。保守王道と思われていた彼らが世界の最先端を走るかもしれません。