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更新日:2021.07.02 / 掲載日:2021.07.02
なぜランクルは四駆の王者なのか【自動車ジャーナリスト九島辰也が解説】

文●九島辰也 写真●トヨタ
少しマニアックな話になりますが、今年トヨタ・ランドクルーザーは70周年を迎えます。
今日でこそSUVブームでその存在が際立っていますが、このクルマはそれ以前から唯我独尊のごとく立ち位置をキープしてきました。時に脚光を浴び、時にトレンドの外にいながら。その意味ではこのタイミングでの70周年は話題です。しかも時期を図ったように新型をリリースするのですからすごい。ランドクルーザー300となるニューモデルは、いま注目を集めています。トップグレードに“GR”を設定するなんて、イマドキですね。新世代トヨタの意気込みを感じます。

2021年6月に世界初公開された新型ランドクルーザー
なぜランドクルーザーが70年もの間ユーザーから支持を得られたのか

では、ランドクルーザーはなぜ70年もの間つくり続けられてきたのでしょう。それはグローバルの視点で長く支持されてきたからです。かつては北米、近年でいえば、中東やロシアで大人気だと聞いています。砂漠や冷寒地などかなり自然環境の厳しいエリアです。
そこでのクルマの条件は、悪路での走破性とタフさ。十分なロードクリアランスと優れた四駆機構は必須条件となります。そして、タフさ。すぐ故障してしまうようなヤワな機関ではダメ。秘境においての故障はそのまま生命の危険につながりますから。-50度で暖房なく一晩過ごすなんて無理だし、野営の最中に野生動物に囲まれたら命の保障はありません。だから壊れにくく、かつ故障してもすぐに直せるクルマが必要となるんです。世界中にこのクラスの専門ブランドはいくつかありますが、ランドクルーザーが一番人気であるのはこうした条件を満たしているからでしょう。
ランクルの歴史と歴代モデル

ランドクルーザーの始祖となるBJ型(1951年)
そんなランドクルーザーの起源は1951年に誕生したトヨタBJジープと言われます。ウィリスが設計したMA型からちょうど10年後ですね。戦後の復興と発展を目的に、林野庁や警察予備隊などのニーズに応えるため考え出されたようです。BJというのはB型エンジンを積んだジープ型の車両という意味だとか。ジープが商標登録される少し前ですかね。その後ジープという名前が使えなくなり、1955年のモデルチェンジと同時にランドクルーザーと改名しました。
思うに、そこには少しばかりランドローバーの影響もあったのではと推測されます。1948年に誕生したそれは、ローバー社から独立しました。意味はランド、つまり地面の上をローブ(ローバーの動詞で動き回るという意味)するモノと言った意味です。時期が近いことからランドクルーザーというネーミングに影響はあったかもしれません。ちなみに、ランドローバーの第一号車“シリーズ1”はMB型ウィリスジープにインスパイアされて生まれました。GIが英国の地に置き去ったそれが今日のディフェンダーやレンジローバーにつながっているのですから世の中不思議です。
その後のランドクルーザーの遍歴はご存知の通り。大きく分けると、大型ワゴン系とシュートホイールベースのライトデューティー系となります。前者は55シリーズを起点に60シリーズ、80シリーズ、100シリーズ、200シリーズと進化してきました。この夏リリースされる300シリーズはこの系譜です。後者は70シリーズのワゴンをスタートに、プラドとして今日まで続いています。形式でいえば、70プラド、90プラド、120プラド、150プラドという感じでしょうか。
また、70シリーズのバンタイプは独自の進化をしているのも見逃せません。2007年と2014年には海外で売られていたオールドスクールなボディタイプをそのまま国内販売しています。ピックアップボディもありましたよね。ギアボックスはマニュアルしかなかったので、乗る人を限定していましたが。
興味深いのは、こうした過去のラインナップがいまも人気だということです。70プラドや90プラドをポップな色にオールペンした車両を高値で売っていたり。角ばったボディがいま見るとカッコいいんですよ。ホイールもアルミじゃなく、テッチンにホイールカバーなんかつけたりしていい雰囲気です。他人とは異なるSUVに乗りたい人にはナイスなチョイスかもしれません。
というように、ランドクルーザーは独自路線で進化してきました。実力は前述したように十分。そうそう、ダカールラリーにもこれまでたくさん参戦して、幾度となくクラス優勝もしています。当然そこからのフィードバックもあるでしょうから、モデルチェンジの度にパフォーマンスが上がっているのは不問です。いやはやお見事。街ではプリウスやアクアのようなハイブリッド車を多く目にしますが、同じ会社でこれだけ独創的なクルマを輩出し続けているのだから頭が下がります。トヨタの懐の深さを感じさせる一台ではないでしょうか、ネ。
執筆者プロフィール:九島辰也(くしま たつや)

自動車ジャーナリストの九島辰也氏
外資系広告会社から転身、自動車雑誌業界へ。「Car EX(世界文化社 刊)」副編集長、「アメリカンSUV(エイ出版社 刊)」編集長などを経験しフリーランスへ。その後メンズ誌「LEON(主婦と生活社 刊)」副編集長なども経験する。現在はモータージャーナリスト活動を中心に、ファッション、旅、サーフィンといった分野のコラムなどを執筆。また、クリエイティブプロデューサーとしても様々な商品にも関わっている。趣味はサーフィンとゴルフの”サーフ&ターフ”。 東京・自由が丘出身。