車の最新技術
更新日:2021.07.20 / 掲載日:2021.07.16

面倒な充電から解放される電気自動車を知っていますか?【EVの疑問、解決します】

文●大音安弘 写真●トヨタ

 電気自動車といえば、充電がつきもの。充電自体は、とても簡単。家電のコンセントを差し込むような感覚です。しかし、充電に掛かる時間は、エンジン車のように5分程度で給油完了とはいきません。

 もし給油と変わらない時間でエネルギーの充填できる電気自動車があれば、とても便利に感じるのではないでしょうか。それを可能とするのが、燃料電池車(FCV)なのです。今回は、夢の電気自動車ともいえるFCVについて紹介します。

面倒な充電から解放される電気自動車を知っていますか?

水素ならガソリンと同じ感覚と時間で補給できます

水素自動車=FCVは、クルマのなかで発電する電気自動車

燃料電池自動車の作動原理

燃料電池自動車の作動原理

 燃料電池自動車と言われてもピンとこないかもしれません。英語表記では、Fuel Cell Electric Vehicleとなり、略称をFCVまたはFCEVと呼ばれています。その名の「Electric Vehicle」という表記からもFCVが電気自動車のひとつであることが示されています。

 FCVとEVの最大の違いは、充電作業といえます。現在の技術では、200V普通充電で、数時間。急速充電でも最低数十分の時間が必要ですが、なんとFCVは、充電作業とは無縁。なぜならば、FCVは発電装置を備えた電気自動車だからです。

 FCVを走らせるために必要な電気を供給してくれるのが、燃料電池と呼ばれるもの。

 燃料電池(FC)という響きからも、レンジエクステンダーEVのようなエンジンによる発電を連想するかもしれませんが、燃焼による発電ではありません。水素を電気化学反応させて、発電をする仕組みなのです。

 燃料電池のメカニズムは高度な技術ですが、その原理は、小学校で習う理科で実験した水の電気分解を応用したもの。実験では、水の電気分解を行うと水素と酸素に分かれますが、FCでは、水素と大気中の酸素を結び付ける電気化学反応で電気を取り出しているのです。

 この発電方法で生じるのは、水素と酸素を結び付けた水と熱だけ。もちろん、有害な排出ガスはゼロ。だから、発電装置を備えながらも、ゼロエミッションを実現しているのです。しかもエンジン車よりもエネルギー効率が高く、FCシステムが生じる音も、エンジンに比べるとずっと静かなので、静粛性にも優れています。

FCVはエンジン車の使いやすさとEVの環境性能を両立させる

2代目MIRAIの燃料電池ユニット

2代目MIRAIの燃料電池ユニット。EVよりも長距離走行可能などメリットは大きいが、さらなるコスト低減や水素ステーション普及など課題も多い

 エネルギー源となる水素は、水素ステーションで充填します。その重点に必要な時間は、1回3分程度。つまりエンジン車の給油と変わりません。しかも航続距離も長め。最新FCVである2代目トヨタ ミライでは、約850km-約750kmとされています。まさに移動の自由さは、エンジン車に近いといっても良いでしょう。

 長距離移動が可能で、水素の充填時間が短いので、次世代エコカーとして期待されていますが、現時点では課題を抱えているのも現実。

 まず車両が高価なこと。世界初の量産車となったトヨタミライは、2014年の初代デビュー時の価格が、723万6000円と高価でしたが、それでも赤字覚悟のバーゲンプライスと言われています。2020年12月にフルモデルチェンジを実施した第2世代ミライも、エントリー価格は710万円から。ただ内容的にはクラウンクラスの高級車に仕上げられていることを考えると、コスパは低くないですが、未だ高価な存在には変わり有りません。

 もうひとつは、インフラの問題。普及期にあるEVも充電インフラについては、まだ課題が山積みですが、FCVはそれ以上といえます。

 しかも、電気のように住宅などの身近な施設に簡単に設置できるものでもありません。現状、国内のFCVの数が限られることもあり、水素ステーションの数(2020年12月現在)は、全国で137か所に過ぎず、多くが4大都市圏に集中。なんと全体の53か所は、首都圏にあります。その上、営業日や時間にも制限があるなどガソリンスタンド程の利便性が備わっていません。またエネルギー源となる水素の生産工程も、今ではコストと環境負荷が発生するため、近い将来再生可能な形での供給体制を構築する必要性もあります。

 しかし、今や常識となったハイブリッドも普及への道のりは長く、それはEVも同様。まだ新しい存在であるFCVの未来は、まだまだこれから。

 最新の動向では、韓国の現代自動車が次世代エコカーとしてFCVに注力しており、日本へのSUVタイプの「ネッソ」を売り込む計画です。また英国では、あらゆる場所で活躍するSUVとして信頼されるランドローバーが、クロカン「ディフェンダー」をベースとしたFCVプロトタイプを開発しており、2021年中に走行テストを開始することを公表しています。

 現時点では、選択肢も少なく、各メーカーのFCVへの取り組みにも温度差がありますが、バスやトラックなどの固定ルートや移動距離が測りやすい商用車については、インフラ環境が整えやすいので、まずは商用車からの普及が進む可能性も高いでしょう。

 個人の場合は、水素ステーションが生活圏にあれば、現実的な価格になっている中古の初代MIRAIを購入し、周りよりひと足早くFCVライフを送ってみるのも面白いかもしれません。次世代エコカーの主力は、EVやPHEVとなる方向にはありますが、選択肢のひとつにFCVがあることも頭の片隅入れ、今後の動向を注視していきましょう。

執筆者プロフィール:大音安弘(おおと やすひろ)

自動車ジャーナリストの大音安弘氏

自動車ジャーナリストの大音安弘氏

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

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