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更新日:2021.05.31 / 掲載日:2021.05.28
電気自動車の電費を良くするにはどうするの?【EVの疑問、解決します】

文●大音安弘 写真●日産、ホンダ
地球環境だけでなく、お財布にも優しい低燃費の運転を、日常的に心掛けているドライバーさんもきっと多いことでしょう。それは電気自動車でも同様に大切なこと。しかも電気自動車の電費(電力消費率)が良くなれば、より航続距離を長く確保することにも繋がります。しかし、電気自動車の場合、エンジン車同様のエコな走りで良いのでしょうか。それとも特別な配慮が必要なのでしょうか。今回は、電気自動車と電費の関係について、ホンダeの開発責任者である一瀬智史さんのお話を交えながら解説していきます。
疑問:電気自動車の電費を良くするにはどうするの?
答え:エアコンの作動を抑えることが電費をよくするカギ
電気自動車の航続可能距離を伸ばすコツをご紹介

スピードを控えめにして走行するのも電費を稼ぐには有効
多くの電気自動車は、急速充電器に対応しているとはいえ、移動途中での充電器の利用はできるだけ避けたいというのが本音でしょう。エンジン車ならば、5分程度の給油で満タンとなりますが、いくら高性能な急速充電器でも5分程度で蓄えられる電気は、さほど多くはありません。ですから、スタート時の電池残量と航続可能距離の確認は大切です。もしバッテリー残量警告灯が点灯しているならば、近場や目的地に向かう途中での充電は必至となります。EV専用のナビゲーションシステムが備わっていれば、目的地までの電気消費量を予測できるので、移動前の充電の可否の判断材料になります。もちろん、往路だけでなく、復路のこともお忘れなく……。
まず低電費を実現するために、ドライバーが行える簡単な対策を伝授しましょう。基本となるのは、不要な荷物を積んだままにしない。つまり出来るだけクルマを軽くしておくこと。そして、忘れがちなのが、タイヤの空気圧。EVには高性能なエコタイヤが採用されていることも多いですが、いくら低燃費タイヤでも、適正な空気圧でなければ、本来のエコ性能を発揮することはできません。2~3か月に1回、少なくとも季節の変わり目には行うようにしましょう。同時にタイヤの状態のチェックも忘れずに。痛んだタイヤは、事故やトラブルの原因にもなるからです。これらはエンジン車の燃費向上の基本的なことなので、ご存じの方も多いでしょう。では、EV特有の対策はあるのでしょうか。
EV特有の電費を抑える秘訣は、なんとエアコンにあります。エンジン車では、あまり気にならないエアコンの電力消費が、電費に直結するからです。特に冬場は、その影響が最大化するシーズン。その最大の要因は、快適な車内温度と外気との差が、夏場よりも冬場の方が大きいため。そこで暖房効率を高める手段として、車内全体を一気に温めなくとも、暖房効果が高まるようにシートヒーターやステアリングヒーターを備えているEVも多くあります。また極低温の状態では、駆動バッテリー自体を効率が悪く、温めてあげないと走行できないこともあります。そのため、駆動バッテリーには、自身の冷却と加熱ができる機能が備わっています。因みにエンジン車のヒーターが燃費に影響したのは、ラジエーターの熱で空気を温めているからです。
外気による効率の悪化を防ぐ簡単な手段のひとつが、駐車位置です。夏場は、日陰や屋内駐車場などの直射日光の当たらない場所に。逆に冬場は、車内の温度低下を抑えられる日向や屋内駐車場を選ぶのがベター。ただ一般的には、季節や環境に合わせて駐車場所を変えることは難しいので、微力にはなりますが、サンバイザーやシートカバーなども活用し、効率を高めましょう。
もし駐車場に充電器を備えている場合は、タイマーやリモート操作によるカーエアコン機能を活用しましょう。充電器を接続した状態でのエアコンの仕様は、外部給電される電気でエアコンを作動できます。走行前に車内を快適温度に合わせることで、走行中のエアコンやヒーターによる電力消費を抑えるのが狙いなのです。もちろん、充電器を接続していない状態では、駆動用バッテリーの電力がエアコンに使われるのでご注意を……。
最後に走行時の注意ですが、エンジン車同様に高速道路などでの高すぎる速度での巡行は、やはり電費に良くありません。これは高速域では、空気抵抗が増すため。それでは、エンジン車のエコ運転で厳禁とされる加速と減速の繰り返しについてはどうなのでしょう。エンジン車の場合、加速と減速の両方で、エネルギーを消費します。しかし、EVでは事情が少し異なります。減速時は、回生ブレーキによるエネルギーの回収が可能なので、加速で使ったエネルギーの一部を回収することが出来るのです。回生ブレーキとは、電気モーターの抵抗としたブレーキと発電機能のこと。つまり、必ずしも加減速の多さから電費が悪化するともいえません。しかも加速についても、電気モーターの特性上、出力が一定なので、急加速が電費に直欠するともいえません。ただ加速時間が短い方がエコなのは、エンジン車と同様。ですから、加速が必要な時は、一気に目指す速度に到達させ、適正な巡航速度を保つようにしましょう。この加減速があっても効率良い走りが可能であるEVの特性から、加減速の多い市街地走行にEVが向いて言われるという理由のひとつになっています。
回生ブレーキを強くすると電費はよくなる?

ホンダeはドライバーが工夫せずとも最大限の効率で走るよう作られている
EVには、回生ブレーキや加速性能に強弱を付けられるコントロール機能が備わっているものもあります。これらの調整でも電費の最大化が図れるのでしょうか。この点について、ホンダeの開発責任者の一瀬智史さんに尋ねると、ホンダeの場合、如何なる場合も電費効率を最大化できるように設計しているとのこと。例えばブレーキ時、ドライバーがフットブレーキを利用して減速しても、車両側で回生ブレーキを最大限活用し、フットブレーキと組み合わせた減速を行っているそう。つまり、丁寧な運転を心がけていれば、自ずと電費の悪化を抑えられるのです。ただ先にも述べたように減速時のエネルギー回収が行えるため、道路の流れに沿った走りでも電費が悪くなりにくいので、気軽にエコ走行が出来るのもEVの魅力といえるでしょう。
執筆者プロフィール:大音安弘(おおと やすひろ)

自動車ジャーナリストの大音安弘氏
1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。