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更新日:2026.03.19 / 掲載日:2026.03.19

ホンダ学園生と佐藤琢磨が挑んだ「ラリー・モンテカルロ・ヒストリック」の舞台裏

文と写真●ユニット・コンパス

 学校法人ホンダ学園は、創立50周年を記念する一大プロジェクトとして、世界最高峰のヒストリックカー・ラリー「第28回 ラリー・モンテカルロ・ヒストリック」に参戦。出走した2台の初代シビックRSは、幾多の困難を乗り越え見事に完走を果たしました。

 3月18日には、アンバサダー兼特別ドライバーを務めたレーシングドライバーの佐藤琢磨選手と、車両の製作からレース本番を戦い抜いた学生たちが登壇し、参戦報告会が開催されました。涙と汗が染み込んだ約2200キロの激闘の裏側をレポートします。なお、この挑戦を収録したドキュメンタリー番組「信じた道を琢磨と共に 激走2200キロ〜ラリー・モンテカルロ 挑戦の軌跡〜」がFOD(フジテレビオンデマンドサービス)で3月27日から4月26日まで無料配信されます。

妥協なきレストアで半世紀前のシビックに命を吹き込む

2台の初代シビックRSでフランスで開催されたヒストリックラリーに挑戦した

 今回のプロジェクトは「技術の伝承」と「挑戦文化の醸成」を目的にスタート。マシンはおよそ50年前の1974〜75年式となる初代シビックを用意し、「サンセット号(1号車)」と「マドリード号(2号車)」の2台体制でフランスからモナコを目指しました。

 しかし、その道のりは準備段階から困難の連続。マドリード号のエンジンはひどいオイル漏れに直面。アメリカから取り寄せた部品を取り付けようとするも寸法が合わず、純正部品を試してもオイルが溢れ出る始末だった。最終的に部品を加工し、日本国内でのテスト走行にこぎ着けた。

佐藤琢磨選手のシート合わせの模様

 また、サンセット号で佐藤琢磨選手のシートや足回りを担当した学生たちは、世界を知るプロドライバーの要求の高さに直面することになります。佐藤選手からは、ただシートを前後上下に動かすだけでなく、ステアリングコラムの位置を下げたり、シフトレバーの長さの変更を求められたりと、学生たちの想像を超える細かなオーダーが飛んだのです。超一流選手のこだわりに触れた学生たちは、「どこを走っても、何があってもドライビングポジションが崩れないものを作ろう」と奮起。限られた期間で佐藤選手のこだわりをほぼ完璧に形にした。これには佐藤選手も「さすがだなと思う」と舌を巻いたほど!

 ラリーカー製作にあたっては、旧車ならではのトラブルも発生しました。サンセット号は途中でブレーキが抜けてしまうノックバック現象に見舞われたのです。しかし学生たちは、当時の資料を確認し、マイナーチェンジでベアリングに角度がついた仕様に変更されていたことを突き止め、特注で深溝球軸受ベアリングを製作して見事に克服してみせました。この高い技術力と執念に、佐藤選手も「この子たちは本当に本気だ」と圧倒されたといいます。

 車両製作以外でも、国際大会ならではの苦労がありました。書類の作成から車両のシッピングまで、そのすべての工程を学生たちでやり抜いたのです。複雑な改造申請書類の作成に奔走し、船積みギリギリのタイミングで申請を通すという重労働をこなしました。すべてが初めての経験であり挑戦です。

立ちはだかるタイムの壁と現地での奮闘

 参戦したラリー・モンテカルロ・ヒストリックは、ラリー区間を決められた平均速度に沿って正確に走行する「レギュラリティラリー形式」で行われました。ヒストリックラリーというと、旧車パレードのようなイメージがありますが、実際は正反対の真剣勝負。

 近年はGPSの精度が飛躍的に向上しており、区間が何重にも細かく区切られているため、「直線でタイムを稼いでコーナーでゆっくり走る」といったごまかしが一切通用しない。佐藤選手も「スピードが速くても遅くてもペナルティーになる。毎日新しい課題をもらって乗り越えていくのは、今まで経験したサーキットレーシングとは全く違った難しさがあった」と振り返ります。

学生たちが自分たちの言葉で当時の挑戦を振り返った

 極限の環境下でチームを支えたのは、メカニックだけではありません。生活面でのサポートも重要でした。食事担当は、予算を抑えるために海外のスーパーで食材を調達しての自炊に挑戦。さらに、ドライバーにパワーをつけてもらうため、毎朝他のメンバーより1〜2時間早く起きて炊飯器で米を炊き、おにぎりを握り続けました。その献身に佐藤選手も感激、「毎日おにぎりを作ってくれて、本当にお世話になった」と頬を緩ませます。

絶体絶命の横転事故から魂の復活劇

コースアウトして横転してしまったサンセット号。メンバーたちの懸命な修復により復活を遂げた

 定められた速度で走るラリーといっても、50年前の車両にとってはそのタイムを守ること自体が大変。全開で走らないと設定されたタイムを守れないのです。そんな中、チームに最大の試練が訪れました。佐藤選手のドライブするサンセット号が、痛恨の横転事故を起こしてしまったのです。

 フロントガラスや左側のガラスは無惨にも割れ、屋根がひしゃげるほどの大ダメージでした。佐藤選手自身も、「さすがに今回は厳しいか」とリタイアが一瞬頭をよぎったといいます。しかし、車両から連絡を受けたサンセット号リーダーは、マシンの惨状をまだ直接見ていない段階から「クルマを直します!」と力強く即答したというのです。

 「諦める気持ちはそもそもなく、私たちは琢磨さんたちをゴールに連れて行くだけ。それが使命だと思っていた」と当時を振り返ります。

 サービスエリアに戻ってきたボロボロのシビックのもとへ、担当車両の垣根を越えて全員が駆け寄り、一丸となって修復作業にあたりました。この学生たちの熱い想いと行動に、佐藤選手は「自分もここから引き上げてもらって、よっしゃ、モンテカルロを目指そうと改めて思った」と心を打たれました。

 こうして迎えた伝統の最終ステージ「チュリニ峠」。軽量化のためにスペアタイヤすら下ろした背水の陣で挑んだサンセット号は、BMWやフェラーリ、アウディクワトロといった強力なライバルたちをごぼう抜きにするほどの激走を見せつけました。

 この過酷なプロジェクトを通じて、学生たちは大きく変貌を遂げました。佐藤選手は、「最初は指示を待って動いていた学生たちが、現場で時間がなく言葉も通じないプレッシャーの中、自ら考え行動し判断する人たちに変わっていった。これこそが本物の体験だ」と彼らの著しい成長を讃え、心からの言葉を贈りました。

 学生自身も「挑戦しても失敗することはあるが、そこから次はどうするべきか考え続けることが大切だと学んだ」、「困難こそ楽しむことが大事。この気持ちがあればどんなことにもこれから挑戦していける」などと、確かな自信を手にした様子でした。

チャレンジに参加したチーム「兆」のメンバー

感謝を胸に学生たちがレストアした初代カブで日本を巡る

Cubチャレンジのメンバー

 報告会の最後には、この熱量を引き継ぐプロジェクト第2弾「Cubチャレンジ」の本格始動も発表されました。ホンダの原点である初代スーパーカブを学生自らレストアし、その車両で日本各地を感謝の気持ちを伝えるために行脚するという新たな挑戦です。また、完成したカブは、ホンダ発祥の地である浜松で開催されるモーターサイクルショーでも展示される予定となっています。

新車当時の状態を目指した「Reborn」とサビや褪色を残しやれ感を表現した「Vintage」

「インディ500」優勝を目指す佐藤琢磨選手

2026年インディ500に参戦する佐藤琢磨選手

 挑戦は終わらない! 佐藤琢磨選手の第110回インディ500への参戦体制が決まりました! 100年以上の歴史を持つ世界最高峰のレースイベントで、決勝は5月24日に開催予定。佐藤選手は、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング(RLL)から75号車で戦いに挑みます。昨年はキャリアベストとなる2番手グリッドから51ラップをトップで走る快走を披露したものの、ピットミスから惜しくも9番手に終わる悔しい結果となりました。しかし、佐藤選手の目と言葉には自信と力が漲っていました! 挑戦を続ける佐藤選手の活躍に期待です。

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