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更新日:2025.12.09 / 掲載日:2025.12.09

スペックの裏に隠されたGR GTの凄み【工藤貴宏】

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス

 とんでもないクルマが出てきたなあ。

 それが筆者の第一印象。トヨタのスポーツブランドである「GR」としてプレミアムブランドである「レクサス」から公開された2台のロードカーと、1台のレーシングカー。合計3台のモデルに関してです。

GR GTは「公道を走れるレーシングカー」

GR GT

 まずGRから登場したのが、同ブランドの頂点となる「GR GT」。トヨタ初となるアルミ骨格構造のボディに、新開発の排気量4.0リツターV型8気筒ツインターボエンジンをフロントミッドシップとして搭載。そこへモーターをギヤボックス内に内蔵したセミATのトランスミッション、いわゆる“シングルクラッチ”を組み合わせて“650㎰以上”を発生するワンモーター式のハイブリッドです。

 それにしてもスタイルからしてタダモノではないオーラを醸しまくり。V8エンジンを完全なるフロントミッドシップ、つまり完全にフロント車軸の後方へ搭載するレイアウトもあってパッケージングはいわゆる「ロングノーズ&ショートデッキ」。そのうえで横になって快眠できそうなくらい広いボンネットも特徴的。前後重量配分最適化のためトランスミッションは車体後部に搭載しています。

GR GT3はレース専用車両

GR GT3

 そのGR GTと並行で開発されたのが、「GT3」と呼ばれる車両規定に合致する市販レーシングカーの「GT GT3」。これは市販モデルながらナンバープレートを取得できないサーキット専用の競技車両。これをレーシングチームが購入し、世界各地のレースで戦うというわけです。

 GRによると「市販車とレーシングカーを並行で開発。レースでの戦闘力を高めるために、GT3(レース仕様)を優先して設計された部分もある」とのこと。「ポルシェ911」をはじめ、日本ではかつて「日産GT-R」や「ホンダNSX」があったようにGT3マシンはいくつかあります。“GT3マシンファースト”で開発されたというのはあまり聞かない例ですね。これは「『GRヤリス』がラリー現場からの知見を取り入れて開発した」のと同じ流れと考えていいでしょう。競技からのフィードバックで市販車を作りこんでいくなんてこれまでのトヨタでは考えられなかったことですが、GRでは当たり前のようにおこなわれているのです。

LFAの名前を受け継いだ電気自動車

レクサス LFA コンセプト

 そして「LEXUS LFA Concept」とはそれらとは似て非なるクルマ。アルミで組み上げられた車体骨格こそGR GTやGR GT3と共通ですが、パワーユニットはエンジンではなく完全なるモーター。バッテリー式電気自動車なのです。

 とはいえ単なるEVコンバージョンモデルかといえばそうではないのが面白いところ。エクステリアデザインやインテリアはGR GTとは全くの別物であり、デザインはエレガント方向。GR GTがエンジン搭載車の集大成ともいえる最高峰のフィーリングを目指したのに対し、LFAに関しては未来を見据えて次世代にバトンを繋ぐエンジン非搭載のスーパーカーと言っていいでしょう。

 こちらはパワートレインのスペック未公表ですが、レクサスの最高峰となるだけにライバルを凌駕する動力性能となることに期待したいところです。しかし、本質は別のところにあるかもしれません。キーワードは「走りから得られる感動」。

 「走りから得られる感動は、時代が変わってもスポーツカーの魅力を支え続ける揺るぎない価値です。Lexus LFA Conceptは、その感動をより深く、より純粋に味わえる存在として、ドライバーを走りの世界へと引き込み、これまでにない没入体験を創出します。」

 というのがレクサスの説明。単に速いというだけでなくこれまでのEVでは成し得なかった、スポーツ走行におけるエモーショナルな運転感覚が得られると期待できそうです。

 それなにか? 現時点では明らかになっていませんが、音、振動、あえてのショック。そして洗練され過ぎないことでそれらがもたらす躍動感となるのではないでしょうか。続報に期待するしかありません。

レクサス LFA コンセプト

GR GTのライバルは?

GR GTのエンジンカットモデル。4L V8ツインターボエンジンにモーターを組み合わせている

 さて、話をGR GTに戻すと、システム最高出力“650㎰以上”、システム最大トルクは“850Nm以上”とされていて、確かに一般常識でいえばそれらは凄い数字。しかし、超高性能スポーツカーでいえばもっと凄い数字を誇示しているモデルはいくつもあり、並べるとGR GTが数値でライバルを凌駕しているというわけではありません。

 たとえば似たようなパッケージングを持つ(そしておそらくGR GTがベンチマークの1台としたであろう)「メルセデス-AMG GT」は頂点に「GT63 S Eパフォーマンス」という超高性能仕様が存在し、最高出力816ps/最大トルク1420Nmというモンスター。しかし車両重量は2180kgとなってします。いっぽうGR GTの車両重量は「1750kg以下」。つまり軽い。

 612㎰/850NmとGR GTのスペックに近い「メルセデス-AMG GT 63 PRO」でも1940㎏とGR GTに比べると200キロちかく重いのです。

 何が言いたいかといえば、GR GTにおけるコーナリングまで含めた戦闘力の高さは相当期待できるものだということ。純粋にパワートレインの性能だけでなく軽量化や重量配分といった物理特性をきっちりと考え優先して作られたからこその、設計に起因する速さが持ち味になるであろうことは想像に難くありません。

その一例として、実物をみるとエンジンですら明確に驚きがある。まずは小さいこと。そして、ちょっとした段差で地面に擦るのではないかと思うほど低く搭載されていること。そういった作りがレースで勝つためのこだわりでもあるのでしょう。

トランスミッションを車体後部に搭載することで重量配分を最適化。モーターはトランスミッション前に設置される

 ちなみにエンジンは、ボアよりもストロークのほうが短いほどのショートストローク設計。つまり高回転を得意とすることが予想できますが、いっぽうでデメリットとして低速トルクが細くなりがち。だから、そこを補うブースターの役割としてモーターを活用するというわけです。ハイブリッドは燃費(それも向上しますが)のためではなく、走りのためというわけ。

トヨタのマルチパスウェイ戦略が生み出したスーパースポーツ

 というわけで2027年に発売を予定している、GR GTよGT3、そしてレクサスLFA。開発はまだまだ続いています。そしてどこが凄いかといえば、まずは世界最高峰のスポーツカーと本気で総合優勝を狙える市販レーシングカーだということ。GR GTはGT3マシンと並行で開発されたということ。そしてレクサスとしてよりエレガントなEV版も用意したということ。

 そして筆者が、トヨタの凄さだと思うのは、この時代にV8エンジンを新開発したという事実。なぜなら逆算すれば、このエンジンの開発を決めたのはまさに「未来はすべてがEV。エンジンの開発なんてもう終わり」と多くのメーカーが考えていたタイミングに他ならないわけですから。そのタイミングで高性能V8エンジンの開発を決めたトヨタの戦略と決断力が恐ろしすぎます。

GR GTについて豊田章男会長は技術を継承しひとを鍛えるプロジェクトであると語った

 そして市販時の価格は3000万円を確実に超え、もしかすると4000万円を上回るかもしれません。そんな高価なクルマを用意しつつも、その20分の1程度にしか満たない価格から選べる「ヤリス」までラインナップしているトヨタのラインナップの幅広さもまた凄い。そんな自動車メーカー、世界中を見渡してもトヨタのほかには「軽自動車からNSXまで」を展開していたホンダくらいではないでしょうかね。ホンダも凄いですね。

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工藤貴宏(くどう たかひろ)

ライタープロフィール

工藤貴宏(くどう たかひろ)

学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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