車のニュース
更新日:2023.11.04 / 掲載日:2023.11.04
【ベントレー】価値観をアップデートしていくハイブランド【九島辰也】
文●九島辰也 写真●ベントレー
“高級”というワードから連想するモノを挙げると、クラシックな雰囲気が強い気がします。例えば、ソースたっぷりのフランス料理やキラキラしたデコラティブな装飾品など。ヨーロッパの大きな古城のお姫様的アイテムといったところでしょうか。毛皮なんかもそうかもしれません。ミンクのロングコートはまさに高級品の代表です。
ですが、時代は流れ価値観は変わってきました。フランス料理はソースのないヌーベルキュイジーヌになり、ミンクのコートは動物保護の観点からNG。フェイクファーが見直されています。クルマのシートに使われるリアルレザーも同じ。アルカンターラのような人工皮革や廃棄されたペットボトルを再利用しシート表皮に活用する時代になりました。
そんな流れを敏感にキャッチし、いち早く自社製品やプロモーションに取り入れたのは、実は高級品を扱うヨーロッパのハイブランドかもしれません。ファッション業界は特にそうで、早くから「環境保護」、「サスティナブル」、「エコ活動」に取り組んでいます。高級ブランドがリサイクル素材を使うのですから驚きです。
そんな話をするのには理由があります。英国を代表するウルトラハイブランド、ベントレーもそうした活動を行なっているからです。例えばそれは英国クルーにある本社工場を見てもわかります。彼らが工場の屋根にソーラーパネルを設置したのは2013年。つまり、今年で10周年になり、さらに枚数を増やす計画が実行されています。合計3万6000枚を超えるパネルは英国最大の太陽光発電カーポートになるそうです。ベントレー環境財団を立ち上げたのもニュースです。3つの気候変動対策に取り組む団体とコミットメントするとともにそうした組織づくりを行いました。完全BEV化と並行して、再生可能エネルギーの生産、二酸化炭素の回収、原材料の使用量削減などに取り組みます。もはや業界のトップランナーです。
こうした背景を知ると、先日行われたベントレージャパンのメディア向け企画の主旨がわかります。環境を配慮した者同士のコラボレーションといったところでしょう。
向かったのは“ししいわハウス軽井沢”という宿。自然と共存する建築物はまさに環境を配慮して建てられました。しかも携わった建築家は坂茂氏と西沢立衛氏。坂氏が二棟、西沢氏が一棟手がけました。景勝地として名高い軽井沢の地に見事に溶け込み、かつそこからの眺めも人に安らぎをもたらせるつくりに仕上がっています。客室はもちろんライブラリー、茶室、バスハウスで癒されます。日中はフォレストテラスで暖かいコーヒーを飲み、夜はザ・バーでウィスキーなんて気分になります。そんな落ち着いた気分になれるのは、建築デザインの妙ではないでしょうか。
そんなことを考えながら、“ししいわハウス軽井沢”に一泊し、ベントレー フライングスパーSのステアリングを握って都内へ向かいました。
550psを発揮する4リッターツインターボは相変わらずの頼もしさでした。アクセルを深く踏むことなく高速道路をクルーズできます。ほんの少しだけ踏み込めば追い越しは瞬時に終わります。もちろん、ACCを使えばそうした行為もいりません。周りの交通環境に応じてナビの目的地へ誘ってくれます。前走車との距離は三段階でセレクトできます。リスタートがもたもたしないところもいいですね。
ですがベントレーはやはりドライバーズカーですから時としてスポーツモードに入れて走りを堪能したくなります。アクセルに瞬時に反応するエンジンパワーやハンドリングの軽快さ、路面に吸い付くような足回りのスタビリティは超一級品です。ロングホイールベースの4ドアサルーンがこれだけに軽快に走るのですから、初めて乗る人は驚きを隠せないでしょう。想像の範囲を超えています。それにレーシングカーのようなエキゾーストサウンド。クルマ好きにはたまりません。
そんな頼もしいV8エンジンですが、それを搭載したモデルの注文を近々終了するというニュースが先月リリースされました。2025年には内燃機関だけのモデルをプラグインハイブリッドにスイッチする計画があるからです。そうなるとモーターと組み合わせるのはV6エンジンとなります。なるほど、V8エンジンの消滅は少々寂しい気持ちになります。環境問題をリードするウルトラハイブランドですから仕方ないですかね。まぁ、V6+モーターのプラグインハイブリッドになってもベントレーのあるべき姿、あるべき“走り”は変わりませんが。