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更新日:2020.05.29 / 掲載日:2020.04.24
新型フィット公道試乗インプレッション

原点回帰のフレンドリー路線に大きく舵を切った新型フィット。さらに上級ハイブリッドのe:HEVの搭載も考えれば、当然ながら走りに関しても大きく変わっているはずだ。その実力は如何に?

速度変化の激しい状況でのコントロールのしやすさや、刺激の少ない乗り心地など、動力性能もフットワークも、馴染みやすい走りが見所。操る手応えはやや希薄になったが、新型のキャラを考えれば、この変更は大いに納得できる。
モーター駆動+直動機構を備えるi-MMDと呼ばれていた2モーター式ハイブリッドが、新型フィットでは小型車サイズに再設計され新たにe:HEVと名付けられた。従来型に比べると力感溢れる走りを手に入れた。
●主要諸元 ●全長×全幅×全高(mm):4090×1725×1545 ●ホイールベース(mm):2530 ●車両重量(kg):1200 ●パワーユニット:1496cc直4DOHC(98PS/13.0kg・m)+モーター(80kW/253N・m) ●トランスミッション:電気式CVT ●WLTCモード総合燃費:27.2km/L ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)/ディスク(R) ●サスペンション:マクファーソンストラット式(F)車軸式(R)●タイヤ:185/60R16
川島 茂夫

「乗る人、全てが快適さを満喫できる1ランク上の走りが印象的」
新ハイブリッドの上乗せ分は 快適性向上に注がれている
クラス最大級のキャビン容量と多彩な積載性、見晴らしよく開放的なウインドウ開口など、誰が何処でどう使うのかが一目で分かるキャラが与えられている新型フィット。その走りを総合的に評するなら「ふつう」という言葉がしっくりと来る。
といっても、完成度のレベルではなく、志向と嗜好においての「ふつう」という意味だ。志向と嗜好にはファントゥドライブなどのような分かりやすい価値感があるが、新型フィットが求めた走りを言葉で表せば「団欒」だろう。そのためにクルマ好きを刺激する要素をあえて希薄化しているようにさえ思える。
目玉のパワートレーンであるe:HEVにしても然り。従来型が採用していたパラレル式のi-DCDに対して、四倍近くモーター出力を強化。シリーズ式なら当然だが、それによって活用領域が拡大した電動の長所や、時間差なしの反応トルクの立ち上げを、殊更にドライブフィールへ反映させてはいないのだ。
i-DCDに比べると踏み増し時の加速反応も巡航時の力感も向上しているが、ガソリン車から乗り換えても、運転感覚に違和感ない範囲なことに驚く。走行モードを燃費仕様にすれば、実用域のアクセル操作に対する反応はさらに鈍される。それは制御プログラムによるものであり、狙いは電動感の誇張ではなく、運転しやすさと同乗者への刺激の低減だ。
とはいえ、低速域はもちろん、高速巡航中でも駆動用バッテリーの蓄電量が増えれば即電動走行に移行する。e:HEVの特徴のひとつでもある、エンジン直動巡航中はエンジン回転数は速度比例で安定する。電動のパワーアシストも加えたパラレル式と同様の制御になるため、大排気量ガソリン車のような余力感を示す。
加速性能でも勝るのだが、e:HEV車のガソリン車に対するアドバンテージとしては、この余力感が大きい。改良を加えたものの従来型を踏襲するガソリン車も穏やかなドライブフィールを特徴とするが、加速や高速域の巡航ギヤ維持能力は1.3L相応であり、登降坂などでの負荷変動では、エンジン回転数の変化も大きくなりやすい。4名乗車の長距離用途だと、動力性能面のゆとりの違いでe:HEV車とはけっこうな差がついてしまう。もちろん、実用燃費についても同様だ。「動力性能に余裕があって燃費が良い」というハイブリッド車の実利を堪能できることも、e:HEV車を選ぶ大きな理由と言えるだろう。
足回りはソフトなチューン 和みの運転感覚が印象的
穏やかな乗り心地には穏やかな音環境という感じで、静粛性も良好。車体骨格を伝わる騒音やエンジンルーム周りなど、全体がバランスよく耳障りな音を抑制している。音量そのものよりも音質のコントロールの上手さが印象的だ。
こんなパワートレーン特性なのに、フットワークはスポーツ志向というのもおかしく、当然の如く乗り心地重視の設定になる。日常走行レベルから大きめのストロークを用いる。高減衰サスには及ばないまでもソフトなチューンの割には揺れ返しも抑えられている。
車軸周りの揺動感が多少目立つのは、サス周りの設計が従来型をベースにしているためだろう。言い換えるなら、従来型でもこのくらい乗り心地に振った設定が可能だったはずで、そうでないのはフットワークについての考え方の変化と考えるべきだ。搭乗者すべてが和める乗り味。これが新型の走りの大きな特徴である。
乗り心地向上のためたっぷりとしたストロークを使った上で操安性を確保すれば、ハンドリングは切れ味を低下させる。ほどほどの負荷域では軽量小型車の利点の範疇で軽快感もあるが、横Gの増加や高速域では操舵反応が締まらなくなり、アンダーステア傾向も強まる。良識のある特性だが、ファントゥドライブとは言い難い。
もっとも、高速直進の維持はホンダセンシングのLKAのサポートもあって、さほど苦にならない。また、LKAの走行ライン制御を単独で機能させたり、車線逸脱抑制の操舵支援も有り難い。操舵感とLKAの制御のバランスが良いのも安心感を下支えしてくれる。引き締まった足で長距離適性を向上させるのが定番だが、フィットは全車装着される運転支援機能との二人三脚で、快適性を高めながら適性向上を図ったわけだ。
カジュアル&スポーティなキャラのネスとしては走りのテイストが少々緩すぎる印象もあるが、内外装のデザインや居住性、キャビンユーティリティなどが示す方向性と走りの方向性は一致している。車格相応と思わせる部分もあるものの、全体的には車格以上の実用性と快適性を実現している。タウン&ツーリングとファミリー&レジャーというクルマに求められる代表的な用途で高い実力を示すコンパクトモデルである。
発売1か月で 3万1000台超えを記録 フィットも負けずに好スタート
新型フィットも発売1か月となる3月16日時点で、3万1000台を超える受注台数を記録。1月の販売計画は1万台としていたが、それを3倍近く上回る数字を記録したことになる。なおe:HEV車とガソリン車の販売比率は72:28と、上級ハイブリッドを搭載したe:HEV車が圧倒的に支持されているようだ。

一番人気を集めているのは、装備と価格のバランスが良いHOME。受注台数全体の47%を占めている。
フィット HOME (2WD)

価格:171万8200円
大きめのストロークを使ったしなやかな乗り心地と安定性優先のハンドリングはハイブリッド車と共通するが、速度域が高くなるほど余裕が少なくなる。負荷がかかるシーンが多い高速道路などでは、もう少し余力が欲しくなる。
搭載エンジンは従来型と同じ1.3L直3ユニットだが、滑らかな制御特性を手に入れた新開発CVTの恩恵もあって、従来型よりもスムーズな走りを実現している。
●主要諸元 ●全長×全幅×全高(mm):3995×1695×1515 ●ホイールベース(mm):2530 ●車両重量(kg):1090 ●パワーユニット:1317cc直4DOHC(98PS/12.0kg・m) ●トランスミッション:CVT ●WLTCモード総合燃費:20.2km/L ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)/ディスク(R) ●サスペンション:マクファーソンストラット式(F)車軸式(R)●タイヤ:185/60R15
広々視界やシートの改善で 居心地の良さもパワーアップ
この4代目フィットは“攻め”のモデルチェンジだと思っている。歴代モデルで高く評価された居住性や燃費は良くて当たり前で、数値には表れにくい「心地よさ」と言うプラスαの価値に注力して開発された。
エクステリアは見た目のインパクトよりも、街に溶け込む事に注力しているようだ。当初は「えっ!?」とも感じたが、見慣れると癒し系のフロントマスクが「身近な相棒」を感じさせ、むしろ従来型が古典的に見えてしまう。特徴的なデザインの16インチアルミホイールはエクステリアを引き立たせるアクセントになっているが、逆に15インチのホイールキャップのデザインは一転して営業車的な雰囲気なのが残念な部分である。
インテリアは水平基調で余計な突起をなくしたインパネと新構造のフロントピラーを採用。さらにワイパーが見えにくい構造による圧倒的な「視界の良さ」はフィットの個性の一つだ。また、歴代フィットのウイークポイントだったシートも、「ボディースタビライジングシート」の採用により、柔らかなかけ心地とフィット感が高まっている。
e:HEVの出力制御は限りなくガソリン車に近い
ガソリンの1.3L+CVTはパワートレーンとしては必要十分な性能と優れた実用燃費を実感できるものの、全てが実用性に特化しすぎて新型が目指す「心地よさ」は残念ながら希薄だ。
やはり本命は1.5L+2モーターの「e:HEV」だろう。言葉として矛盾もあるが、「ハイブリッドなのにハイブリッドらしくないフィーリング」が特徴だ。1.5Lターボ並みのトルクを発生するが、発進時はモーター特有のドーピング的な力強さは無い上に、車速とエンジン回転数の連動感を向上させる制御で、まるで良くできたガソリン車のようなシームレスで滑らかなフィーリングを感じさせれくれる。これを「電動感がない」と見るか、「ガソリン車から乗り換えても違和感がない」と見るかだが、筆者は後者だ。
ハンドリングは過度な所がなく「バランスの良さ」が印象的だ。操作に忠実に反応し、コーナリングの一連の動きの連続性の高さなど、よくある「見せかけのスポーティ」から「本質のスポーティ」に変更。快適性は歴代モデルのウイークポイントだったが、ヒョコヒョコとした揺すられ感は影を潜め、凹凸の吸収の仕方やアタリの優しさなどを実感させてくれる。
ちなみにパワートレーンで若干乗り味が異なり、ガソリン車は鼻先の軽さを活かして小気味よさとキビキビ感重視、ハイブリッドは逆に重さを活かした穏やかでシットリ感重視だ。また、車高が30mm高いクロスターはエアボリュームの高いタイヤの組み合わせで、ノーマルよりも優しい快適性と逆に無駄な動きを活かした穏やかなハンドリングだった。
総じて言うと、新型フィットは「熟成」の道を選んだが、「保守的な熟成」ではなく「攻めの熟成」だ。これまで気付かなかった、もしくは気付いても手が入れられなかった細かい部分まで徹底追求できた事で、全方位でバランスの良いクルマに仕上がったのだ。