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更新日:2020.05.29 / 掲載日:2020.04.24
新型ヤリス公道試乗インプレッション

スポーティを堪能させる 硬めなサスチューンが印象的
以前試乗したプロトタイプでも感じていたのだが、サーキットより路面状況が悪い一般路では、より硬さを意識してしまう。段差による突き上げが目立ち、路面の微妙なうねりではしなやかさがあまり感じられない。とはいえ、車軸周りから骨格まで不要な揺動がなく、適度な収束感もあり、サスストロークを締めている割には良質な印象も受ける。本格スポーツモデルのような荒々しい仕様ではなく、スポーティモデルとしては十分に許容できる硬さだ。
ただ、同じようにスポーティなサスチューンを採用しているカローラスポーツに比べると、短いストロークの中に含まれたしなやかさ、あるいは沈み込み感覚が違っている。また後席が空席の状態で走ると、リヤサスがやや突っ張るような乗り味にもなる。やや乗り心地の犠牲を大きく感じるのは、車格の違いとそれに伴うハードウェアの差によるものだろう。
加減速時やコーナリング時の挙動もスポーティモデルに近く、応答遅れも少なく反応し、サスストローク速度も適度に抑えられている。ただ、ロールの入りは滑らかで無闇に切れ味を高めた操舵感覚ではない。高速道路などではもう少し鈍いくらいが好ましいが、スポーティ&ツーリングの両面でのまとまりは実にハイレベルだ。
低回転域から扱いやすい コントロール性の良さも見所
シャシー周りの仕上がりはカローラスポーツの弟分といった印象が強いが、パワートレーンはさらに1世代進んだ印象を受ける。ヤリスに採用された1.5LのガソリンエンジンはRAV4に搭載している2Lユニットから1気筒削り3気筒とした1.5Lのダイナミックフォースエンジン。熱効率向上を強く意識した新世代型だ。
このエンジンの特徴はガソリン車により強く現れている。巡航時のエンジン回転数は1500~2000回転に制御される。最近のクルマとしては標準的な制御だが、この領域での細かなアクセルコントロールに対する反応がかなり鋭い。僅かなアクセル入力に対しても即座に反応する。応答遅れの少なさや微小操作に対する反応の良さは、まるで電動ユニットか?と思わせるほどだ。タイムラグを感じせないまま過不足ないトルク制御を行うことができるため、ペダルコントロールは穏やか。そのため巡航速度の維持も容易にできる。
全開時の加速はスペック以上ではなく、さらに回して心地よいタイプではない。だが実用走行域でそこまで踏み込むことはほとんどない。多少強めに加速をかける場合でも3000回転以上まで使うことは少なく、上まで回さなくても扱いやすく、豊かな力感を楽しめるパワーフィールだ。
ただし、アイドリングストップが採用されないのは不可解。省燃費性能はとても優等生なのだが、停車時にエンジンが回り続けるのはちょっともったい無い。
ハイブリッド車のエンジンは、さらに燃費に振った専用型。ドライブフィールの大半は電動系の制御で決まってしまうため、ガソリン車ほどの進化を感じにくいが、拡大した燃費のスウィートスポットの効果もあって、負荷変動によるエンジン回転数の変化も拡がっている。新旧を比較するとガソリン車ほどではないが、余力感も高まっている印象だ。
車格感にこだわるユーザーには3気筒特有のエンジンフィールが気になるかもしれない。しかし、エンジン周りの振動や加速時の騒音量は、このクラスのモデルとしては良好だ。ロードノイズの透過感でも車格は感じるが、常用回転域の低さもあり、静粛性で3気筒のハンデはない。ただし、音質は別。強めの加速など排気音が大きくなる状況では3気筒特有のパルス感が強まってくる。
LKAの走行ライン制御に多少の粗さを感じるが、最新の運転支援装備も標準装着され、ハイブリッド車はもちろん、ガソリン車も長距離適性はクラストップレベル。同タイプのパワートレーンを採用するライバル車に対してカタログ値だけでなく実用燃費でも勝っている。このクラスではタウン&ツーリングのバランスの良さも注目すべき部分だろう。
キャビンユーティリティが凡庸なため、ファミリー&レジャー用途への対応力がやや弱いことは難点になるが、走りに対して安心感や、ゆとりを持ちたいダウンサイザーにとっては、かなり魅力的なモデルと言えよう。
川島 茂夫

「予想以上に小気味良いハンドリング走りの実力は評判以上だ」
新型ヤリス好発進!
発売1か月で3万7000台 超えの受注を獲得!
正式発売前の事前受注が長めだったとはいえ、発売1か月となる3月9日時点で3万7000台を超える受注を獲得したのはお見事。ちなみにガソリン車/ハイブリッド車の受注比率は、ハイブリッド車が約45%を超えるなど高い人気。グレードではZグレードとGグレードが共に約30%と、中級から上級仕様の人気も高いようだ。

ヤリス1.5 Z (2WD)

価格:192万6000円
車格に対してゆとりある排気量というだけでなく、浅い踏み込み領域の細かなアクセルコントロールに対する反応の良さも印象的。スペック以上に力強いパワーフィールも1.5Lガソリン車の特徴の一つ。
発進ギヤ機構を備えるダイレクトシフトCVTの採用も強みの一つ。穏やかなペダルコントロールでも鋭く反応できるのは、エンジンとミッションの絶妙な連携制御によるところが大きい。
トヨタが採用を進める新世代エンジン「ダイナミックフォース」の3気筒1.5L版を初採用。熱効率に優れる特性を活かすことで、低中速域から豊かな力感を示してくれる。
腰の効いたサスチューンもあって、コーナー時の回頭性はかなり優秀。やや硬さも感じるが速度の加減もしやすい特性もあって、ワインディングでもなかなか楽しめる。
腰の効いたサスチューンもあって、コーナー時の回頭性はかなり優秀。やや硬さも感じるが速度の加減もしやすい特性もあって、ワインディングでもなかなか楽しめる。
ヤリス ハイブリッド G (2WD)

価格:213万円
高速域ではガソリン車以上に速度変化によるドライバビリティの変化が少なく、扱いやすい特性がさらに際立つ。優れた高速操安性もあって、このクラスのモデルの中では高速長距離適性はトップと言える。
エンジンのみならずハイブリッドユニット(THS 2)も進化しており、アクセル入力にも俊敏に応えてくれる。ただ一般道路ではガソリン車よりもやや硬めに感じるシーンも多い。

ハイブリッドも1.5L直3エンジンを搭載するが、やや燃費性能に寄った制御が与えられている。最新THS 2モデルらしく、ラバーバンドフィールを微塵にも感じさせない巧みな制御も見逃せない。
最新のTNGAプラットフォーム(GA-B)から導かれる低重心&高剛性化シャシーの採用により、止まる/曲がるという基本性能の向上も、走りの質感アップに大きな貢献を果たしている。
●主要諸元 ●全長×全幅×全高(mm):3940×1695×1500 ●ホイールベース(mm):2550 ●車両重量(kg):1060 ●パワーユニット:1490cc直3DOHC(91PS/12.2kg・m)+モーター(50kW/141N・m) ●トランスミッション:電気式CVT ●WLTCモード総合燃費:35.8km/L ●ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(F)/リーディング・トレーリング(R) ●サスペンション:マクファーソンストラット式(F)トーションビーム式(R)●タイヤ:185/60R15
スポーティさがより強調される向きもあるが、素直なハンドリング特性や反応の良い加速特性もあって、市街路レベルの速度域でもクルマの素性の良さを実感できる。6速MT車が選べることも走り好きには嬉しいはずだ。
ACCは30km/h以上で作動する高速型になるが、LTAなど強力な運転支援機能は標準装備となる。最新の駐車支援システムの採用など、ドライバーが便利に使える機能の充実も新型ヤリスの大きな見所だ。
山本シンヤ

ACCは30km/h以上で作動する高速型になるが、LTAなど強力な運転支援機能は標準装備となる。最新の駐車支援システムの採用など、ドライバーが便利に使える機能の充実も新型ヤリスの大きな見所だ。
キャビンの快適性よりも 走りの質感向上を最優先
4代目となる新型はパワートレーンとプラットフォームが全面刷新され、車名も海外名と同じ「ヤリス」へと変更された。心機一転「初代の志を再び」という思惑もあるのだろう。
エクステリアはハッチバックの王道路線らしいプロポーションで、スポーティ&軽快な印象が強めのデザインを採用する。それゆえ実際の寸法よりもコンパクトに見える。インテリアは3つの液晶を組み合わせたメーターを採用するが、オーソドックスなレイアウトのインパネ周りを中心に機能的かつシンプルなデザインで構成される。
ホイールベースは従来型に対してプラス40mmだが、その延長分は前席の適正なドライビングポジションに活用する印象だ。リヤの居住性やラゲッジは必要最小限のスペースだが、これは最近のトヨタ車に多い「積極的な割り切り」。居住性やラゲッジを求めるなら、今後登場するであろう派生モデルを……、と言う考えなのだろう。
パワートレーンは従来型から引き続き採用される1Lエンジンも選べるが、主力はハイブリッド車、ガソリン車共に、新開発の3気筒の1.5Lエンジンだ。
まず1.5Lガソリン+ダイレクトCVTという1.5Zに試乗してみたが、全域で太いトルクによるドライバビリティの良さに加えてレスポンスの良さと高回転までスッキリと回る特性は実用エンジンにしておくのが勿体ないくらい。3気筒特有の音は聞こえるが、音質がクリアなので耳障りには感じない。ダイレクトCVTは発進時のダイレクト感、加速時のフィーリングは下手なATを超えるレベルで、パドルシフトが欲しいと思ってしまったくらいである。
ハイブリッド車は、この1.5Lとモーター(THS-2)の組み合わせだが、従来のハイブリッド車と感覚は別物で、ゼロ発進時から力強さを体感できる。これまでトヨタのハイブリッドは足りないエンジン出力をモーターで補う印象が強かったが、ヤリスでは力強いエンジンにモーターを上乗せする感覚。いわば電動ターボ的なのだ。フィーリング的にもドライバーの意識と加速がシンクロし、気持ち良さすら感じる。
全体的にはスポーティなキャラクターだが、奇をてらわず直球勝負の走りだ。滑らかで自然なステアリング、無駄な動きを抑えながらもドライバーの意志や操作に忠実に反応するハンドリング、コンパクトカーとは思えない直進安定性の高さに加えて、軽量という強みを生かしたスッキリ&キビキビとした動きが印象的だ。
海外ライバルを視野に入れた トヨタの本気を随所に感じる
パワートレーンごとの乗り味の違いを比べると、その差は従来型よりも少ない。特にハイブリッド車はバッテリーの存在を忘れるくらい軽快な動きが印象的だった。
これまでのフワフワ感が強い乗り心地ではなく、欧州車に多い、メリハリの効いた乗り味の良さも違いを感じる部分。また、このクラスは車両重量が軽いがゆえ、走りの質感を出すのが難しいが、ヤリスはその辺りのレベルも高い。
ちなみに新たに設定された高度駐車支援システム「トヨタアドバンスドパーク」も試してみたが、これは今あるアイテムの中で最も使える。操作が簡単で駐車枠の認識も素早い、更に切り替えしも少ない……と、日常で「使いたい」と思わせるくらい安心感がある。問題はネーミングで伝わらない事で、筆者は「感動パーキング」と呼びたい。
このように全てが新しくなったヤリスは、「意のままの走り」を誰でも気負いなく実感できる一台に仕上がっている。トヨタの「次世代技術」と「もっといいクルマづくり」をさらに加速させるモデルと言っていいだろう。
GRヤリスとの走りの違いは?

GRヤリスの根幹部分は ノーマルヤリスがベース
まずGRヤリスのボディはヤリスにはない3ドアボディを採用するが、単純にドアの枚数違いではなく、ボディライン自体が異なる。逆にインテリアは操作系を除けばヤリスとの共通性は多い。パワートレーンはどちらも3気筒だが、GRヤリスは専用設計の1.6Lターボ。ただし、高速燃焼などの基本概念は共通である。
プラットフォームはヤリスがGA-B、GRヤリスはフロント:GA-B/リヤ:GA-Cと言うハイブリッド仕様。加えてリヤサスとAWDシステムも全く異なる。つまり、部品単位で見るとGRヤリスとヤリスは、「似ているようで似ていない」と言う事になるが、GRヤリスの開発者によると「ヤリスの基本性能がなければGRヤリスは成立しない」と語る。つまり、根幹部分ではこの2台は繋がっており、似ているのだ。それはヤリスを走らせると同じ「味」がすることからも分かるのである。
GRヤリスのために開発された1.6L直3の直噴ターボと6速MTが組み合わされる。4WDも専用のハイパフォーマンス仕様になるなど、パワートレーン関連は完全に別物だ。

今年のオートサロンでお披露目されたGRヤリスだが、まず6月30日までの期間限定で「1stエディション」の予約を受け付けている。その後は1.5LNA+CVT仕様車が発売される可能性が高い。
●主要諸元 ●全長×全幅×全高(mm):3995×1805×1460 ●パワーユニット:1618cc直3DOHCインタークーラーターボ(272PS/37.7kg・m) ●トランスミッション:6速MT ●駆動方式:フルタイム4WD