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更新日:2018.12.06 / 掲載日:2018.12.06
【開発者インタビュー】キーマンが語る新型デリカの進化の歩み

その強烈な顔だちを見るだけで、新しさは誰にでもわかる。しかし、デリカD:5は、ただ新しいクルマになるだけではいけない。守るべきものを守りながら、攻める必要があった。困難なその仕事の成果を、作り手に聞こう。
●文:横田 晃 ●写真:奥隅 圭之
「ミニバンで一番走りが気持ちよく楽しめるようしっかり味付けました」
三菱自動車 製品開発本部
プロジェクト開発マネージメント部
第三プロジェクト推進担当MG
西岡芳樹氏「求められる機能を満たしなおかつ新しい個性を求めてたどりついた顔」
三菱自動車 デザイン本部
プロダクトデザイン部
プログラムデザインダイレクター
松延浩昭氏「走りの良さを磨きながらより多くのお客様にわかる魅力を表現したかった」
三菱自動車
商品戦略本部 CPSチーム
担当マネージャー
鴛海尚弥氏
専用パーツでデコレートしたアーバンギアを新設定

高いオフロード性能を備えたミニバンという唯一無二の個性を伸ばしながら、より多くの人にアピールできる選択肢として、都会派のアーバンギア(右)も設定された。このクルマの仮想敵は、アルファード/ヴェルファイアなどの上級Lクラスミニバンだ。
多くの人にわかりやすく他にない個性を伝えろ!
熱心なファンがいるクルマのモデルチェンジほど、難しい仕事はない。少しでも彼らのご機嫌を損ねようものなら、みすみす固定客を失うことになる。かといって、そんなありがたいファンばかりを意識し過ぎると、より多くの普通の顧客からわかりにくい商品になってしまう。それでは本末転倒だ。
デリカD:5は、まさにそんなジレンマの塊のようなクルマ。そして今回の進化は、そのジレンマをいかにして乗り越えるかが最大のテーマだった。
「新型デリカD:5の商品企画では、最初から『4WD性能は、落としちゃダメだよね』というのは前提条件でした。そのうえで、『客層を広げるために、何をすればいいか』が課題だったんです」と、商品戦略本部の担当マネージャーとして企画を担当した鴛海尚弥氏は振り返る。
新型車の開発では、ユーザーの声を聞くのは基本中の基本。デリカD:5を支持してくれる顧客の声を聞けば聞くほど、このクルマにとってオフロード性能がいかに大切かが骨身にしみてくる。
しかし、買ってもらえない理由を聞く機会は、意外と少ない。それを知るために、今回はデリカ以外のミニバンに乗るユーザーの声を聞くことを心掛けたという。
「すると、『デリカはちょっとオフロード指向が強すぎるよね』という声が多かったんです」
最大の武器であるオフロード性能が、じつはデリカを選ばない理由にもなっていたのだ。
あえて武骨なデザインで守られ感を演出していたインパネ周りは、オフロードでは乗員に安心感を抱かせる一方で、オンロードのクルージング中には圧迫感ともなる。オフロード好きには道具っぽいと好評だった質実剛健な内装も、最新のライバルと比べると、安っぽいと評されるのも致し方ない。従来型では約9割が2013年に投入されたクリーンディーゼルを選んだということもあり、静粛性もライバルと比べると見劣りする。
まして、デビューが10年以上前とあっては、自動ブレーキなどの先進安全機能の不足は、如何ともしがたい弱点だ。
そうして、新型が目指すべき方向性は、少しずつ固まっていった。持ち前のオン/オフロードの走りはもちろん強化する一方、安全装備や質感、静粛性など、誰にでもわかる魅力をも備えること。
従来通りのタフなイメージだけでなく、都会的な洗練を加えた選択肢としてアーバンギアを設定。どちらも内外装の質感には磨きをかけ、最新の安全装備も完備する。
そうした変身の先頭を走ったのは、デザイン部隊だ。
新設計のサブフレームで剛性感が大幅に向上

環状骨格と呼ぶリブボーンフレーム構造は先代から継承。もとより凸凹の激しいオフロードでもミシリとも言わない高剛性ボディだが、新設計のサブフレームでさらに強くなったという。
アウトドアユースを意識した巧みなボディ設計

急坂でアゴを打たず、尻も腹も擦らないための3アングルは、それぞれ十分に確保。最低地上高の数値は下がったが、じつはアンダーカバー込みの測定に変えたせいで、実寸は変わりない。
徹底した静音対策により車内快適性は大幅に向上

オンロードでの静かな高速クルーズを実現するために、各部に十分な消音材を使うほか、内装に使われるヘッドライニングの防音や遮音効果の高いフロントガラスなどの対策を施している。
機能の追求から生まれた個性的なフロントマスク
新型デリカD:5のデザインを手がけた松延浩昭氏。
「これまでのデリカD:5は、一部のお客さまからは、ミニバンと認知されていない節があったんですよ」と苦笑する。「『SUVだけど広くて使いやすいクルマだよね』というわけです」
そこで生まれたのが、上級ミニバンらしい迫力あるマスクだ。
「じつは歩行者保護性能を高めるために、先代よりアンダーバンパーの高さを下げる必要がありました。しかし、そうするとアゴが下がってしまうので、ボンネット高を上げてバランスを取る。そうすると、今度は通常のヘッドランプの位置だと高すぎて街中で先行車を幻惑してしまうし、厚みのある顔にプロジェクターランプのような小さな発光体だと、スカスカな表情になってしまう。そこから、最上部をポジションランプとして、縦に大型LEDヘッドランプを置くアイデアが出てきたんです」
求められる要件に合わせた機能を追求した結果、出てきたアイデアが新しい表情にも結び付いたというわけだ。
「このヘッドランプは先行車を幻惑しない高さですが、これまでよりも高い位置にあり、さらに上の運転席から見ると対象物に影が出来て、より見やすいという効果も生んだんです」という松延氏は、「新しい顔作りはサプライヤーも巻き込んで、楽しんでやれました」と笑顔で開発を振り返る。
さらに新型の大きな狙いであるインテリアの質感向上も、デザインチームの仕事だ。
「新型はディーゼル+4WDのみのラインナップということもあり、価格的にも相応になる。となると、それにふさわしい質感でなければなりません。最初から、ステッチは樹脂のモールドでなく、本物の糸で、とか、手の触れるところはソフトなフィールで、とこだわりました」という成果は、乗り込んでみれば誰にでもわかるだろう。
「じつはデリカD:5のお客様にはロングドライブ好きが多いんです。そんな方がリラックスできて、余裕をもって長距離を走れる。そんな上質な空間を狙ったんです」
センターパネル下や運転席/助手席シートバックポケットなどにスマホを置けるスペースを確保するなど、この10年の時代の変化に応じたユーティリティも、もちろん実現されている。
道を選ばぬオールラウンダー その魅力に陰りなし

ボディがねじれるような、こんな地形で停車しても、何事もなく電動スライドドアが開閉できるのがデリカD:5。それが必要な場面は普通の人にはあまりないが、そんな夢を買うクルマなのだ。
尿素SCRシステムの採用により排出ガスのクリーン化も実現

2.3Lのクリーンディーゼルターボエンジンは、新たに尿素SCRシステムを搭載して2022年からの厳しい排ガス規制にも適合している。もとより太いトルクはさらに太くなり、2000回転という低回転で最大トル
8速ATの採用によりスムーズな変速を実現
シフトノブと走行モードダイヤルは、見た目も操作感も上質。オートモードなら、路面や走行状況に応じてクルマが最適な駆動力配分をしてくれるし、4WDロックモードなら、本格オフローダー顔負けの走破性を発揮する
シフトノブと走行モードダイヤルは、見た目も操作感も上質。オ
オートモードなら、路面や走行状況に応じてクルマが最適な駆動力配分をしてくれるし、4WDロックモードなら、本格オフローダー顔負けの走破性を発揮する。そんな本物の機能も、所有する喜びをくすぐる。
1ランク上に高まった洗練されたキャビン空間
手の触れる感触などの数値にならないところにもこだわり、視覚的な解放感も追求している。
インテリアの質感向上は、今回の進化の中でも最大級の注力項目だった。リアルステッチの施されたソフトパッドをふんだんに使うなど、高級車レベルの質感を実現している。
「e-Assist」の採用により安全性能が大幅アップデート

10年以上前のデリカD:5デビュー当時には存在しなかった先進安全機能の搭載は、新型にとっては絶対の課題。エクリプス クロスと同じ電子プラットフォームによって完備する最新の運転支援システム。
【1】衝突被害軽減ブレーキ「FCM」

自動ブレーキシステムは、単眼カメラとレーザーレーダー、ミリ波レーダーを併用する。衝突を予測すると警報し、避けられないと判断すると自動ブレーキが作動。歩行者にも対応する。
【2】車線逸脱警報システム「LWD」

カメラで白線を認識し、ウインカー操作なしで車線を逸脱しそうになると警報を発する車線逸脱警報システム。約60km/h以上で自動作動するが、ウインカー操作があれば作動しない。
【3】レーダークルーズコントロール「ACC」

ミリ波レーダーで先行車の加減速と停止を認識して、4段階から任意に選択した車間距離を保ちながら追従し、先行車の停車まで対応。先行車がいない時は設定した速度でクルージングできる。
【4】後側方車両検知警報システム「BSW/LCA」

リヤのミリ波レーダーが、死角になる斜め後方や側方の車両を検知して、ドアミラーのランプで警報。車両のいる方向にウインカーを出すと、ブザーとランプの点滅で警告するシステム。
【5】オートマチックハイビーム「AHB」

カメラで周囲の明るさを検知して、対向車や先行車がいない状況では、自動的にハイビームに切り替えて安全な夜間走行をアシストする。面倒な切り替えを省き、切り替え忘れも予防する。
【6】後退時車両検知警報システム「RCTA」

バック時にリヤのミリ波レーダーで、死角となる後方や後側方の車両を監視。接近車両を検知すると、ドアミラーのランプ点滅とブザー、メーター内のメッセージで警告するシステム。
持ち前の素性を磨き上げ実現させた極上の乗り味
新型デリカD:5は、2・3Lのコモンレール式クリーンディーゼルターボエンジン+4WDのみのラインアップとなる。
「先代にクリーンディーゼルが搭載された2013年以降、その比率が伸びて、直近ではほぼ90%がディーゼルと4WDの組み合わせとなっていたんです」と、鴛海氏は判断の背景を説明する。
「ただし、搭載されるエンジンは型式こそ先代と同じですが、中身はほぼ新設計です」というのは、メカニズムの開発を担った西岡芳樹氏だ。「新型のエンジンは、2022年から施行される新しいディーゼルエンジンの排ガス規制にもいち早く対応しています。そのために、新たに尿素SCRシステムを採用しているんです」
尿素SCRシステムとは、無色無臭の尿素水溶液を使って、ディーゼルエンジンが排出する窒素酸化物を浄化するシステム。注入口はラゲッジルームのフロア下に設けられ、おおよそ1~1・5万kmに1本、ディーラーやガソリンスタンドで数千円で買える尿素水溶液をウオッシャー液のように補給する。その時期はインパネに表示されるから、忘れることはない。
もとより静かなコモンレールディーゼルエンジンだが、新型ではフロアやルーフの内張り、エンジンルームの防音対策などに加えて、遮音ガラスも採用して、静かな室内を実現させている。
また、6速から8速へと多段化されたATが、よりスムーズで静かな走りに貢献することは言うまでもない。シフトポジションには、新たにMレンジが採用され、パドルシフトを駆使した、スポーティな走りにも応えてくれる。
その走りの楽しさを支えるサスペンションも進化している。
「8速AT化のためにサブフレームを新設計して、ボディ剛性が向上しています。さらにフロントサスはコイルスプリングの受け角度を変えて荷重の向きを変更し、操舵時のフリクションを20%低減しているんです。リヤサスもショックアブソーバーの容量アップ、低速応答性の向上など、きめ細かくセッティングを見直しています」と西岡氏は言う。
よく動くサスペンションは、新たに採用された電動パワーステアリングと相まって、しなやかでありながらしっかりと踏ん張る上質な乗り心地と、心地いいステアリングフィールも得ているのだ。
三菱自慢の4WDシステムも、楽しい走りに貢献するよう進化している。モード切り替えは従来通り、2WD、オート、4WDロックの3パターンだが、オート時に前後駆動力配分を決定するパラメーターに、従来の舵角に加えてヨーレートも入れたのだという。
「ステアリングを切って、ヨーが出て、ロールする。その自然なつながりがよくなりました。運転する楽しさの味わえる、ドライバーズミニバンに仕上がっていると思いますよ」という西岡氏の言葉は、乗ればきっと頷けるだろう。
単眼カメラとレーザーレーダー、ミリ波レーダーを組み合わせた先進安全装備も搭載された。ステアリングのアシストこそないものの、車線逸脱警報システムや停車まで制御するレーダークルーズコントロールシステム、死角にいるクルマを検知するレーンチェンジアシスト機能付き後側方車両検知警報や、後退時車両検知警報、オートマチックハイビームなど、最新の運転支援システムが揃う。
「これでようやく、ライバルに追いつきました」と鴛海氏。いいや違う。ライバルには到底真似のできない魅力に磨きをかけた新型デリカD:5は、これでライバルを突き放したと言うべきだろう。