車種別・最新情報
更新日:2025.08.22 / 掲載日:2025.08.22
実力派電動SUV新登場! SUZUKI・e VITARA詳報
《見た目ヨシ! 走りヨシ! コスパも!?》堅実な造りが光る実力派BEV登場
スズキが満を持して投入する初のe-SUV「e VITARA(イー・ビターラ)」。世界戦略車として世界各地に展開されることはアナウンス済みだが、それに先駆けて国内でプロトタイプモデルに触れる機会を得た。BEVであってもスズキらしい独自の工夫は健在。手頃な価格帯での登場を期待したくなる一台だったのだ。
●文:川島茂夫 ●写真:奥隅圭之
SUZUKI e VITARA詳報

最新の電動技術を注入したスズキの世界戦略車
どのくらい先かは別として、未来は電動モデルが中心になる。中でもバッテリーEV(BEV)は最も現実的な解答といえるだろう。ならばメーカーが電動技術の開発に力を入れるのは当然であり、スズキからの回答のひとつとなるのが、同社初の量販BEVとして開発されたeビターラだ。車名表記からすると、ビターラというモデルのBEV仕様のように思われそうだが、このモデルはBEV主導で新規開発されている。
外観の印象は、先に登場しているフロンクスの流れを感じさせるもので、スペシャリティな雰囲気を纏わせたSUV。それだけにフロンクスをベースに開発されたモデルと思ってしまうが、フロンクスよりも全長は380㎜、ホイールベースは180㎜長い。ロングホイールベース化やショートオーバーハングのプロポーションなど、設計思想も大きく異なっている。
ロングホイールベースの採用は、バッテリー容量の確保の面でもメリットがあるが、居住性の向上が図られたことも見逃せない美点のひとつ。バッテリーの分だけ床面地上高が高くなるため、キャビン室内高が内燃機車よりも小さくなるのが難点だが、全高を1640㎜としたSUVパッケージングの強みもあって、後席でも不足ないヘッドルームが確保されている。余裕のあるレッグスペースと相まって、4名の長時間走行でも十分な寛ぎを得られるキャビンを実現している。
安全性とコストを意識。長く使える工夫を随所に注入
パワーユニットは、モーター/減速機構/インバーター一体小型化したeアクスルを、FWD仕様ではフロントに、4WD仕様ではフロント&リヤに配置。バッテリー容量は49kWhと61kWhの2つの仕様が設定され、61kWh仕様のFWD車のWLTC満充電航続距離は500㎞以上となる。
興味深いのはバッテリーの選択だ。採用されたリン酸鉄リチウムイオン電池は、エネルギー密度では一般的なリチウムイオン電池に劣るが、過充電過放電に対する耐性と寿命で優れており、また価格的にも有利だ。つまり、eビターラは、スペック面での数値よりも安心安全を優先した選択を行っていると考えていい。
安心安全の思想は、車体設計にも活かされていて、衝突はもちろんのこと荒れた路面での腹打ちなどからバッテリーを護るため、内燃機系とは異なるBEV専用のプラットフォームを採用している。イメージよりも実践力を強く意識した、ユーザー目線で開発されたBEVでもあるのだ。

4WD車の最大トルクは3リッターNA車に匹敵

パワーユニットは、バッテリー容量と駆動方式の組み合わせで、3タイプ(2WDが2タイプ、4WDが1タイプ)設定される。2WD車は49kWh仕様と61kWh仕様が用意され、49kWhのシステム最高出力は106kW、61kWhが128kW、4WD車は61kWh仕様のみで48kWのリヤモーターとの組み合わせでシステム最高出力は135kWを発揮する。4WD車の上げ代が少なく見えるが、最大トルクは2WD車の193Nmに対して、4WD車はおおよそ1.5倍となる307Nmを確保。なお、最高速度はどの仕様も150㎞/hに制限される。悪路向け駆動制御として2WD車にスノーモード、4WD車にトレイルモード及びヒルディセントコントロールを採用している。
4WD
前後2つのeAxleを組み合わせることでシステム最高出力135kW、最大トルク307Nmを発揮。3ℓを超える大排気量NA車に匹敵する力強い走りを実現する。


2WD
2WDモデルはeAxleをフロント側に配置する前輪駆動を採用。バッテリー61kWh仕様のシステム最高出力は128kW、最大トルクは193Nmと少し控えめなスペックになる。



電動感は内燃機風にアレンジ。良質なフットワークも魅力
BEVは、モーター駆動ならではのトルク特性もあって、過激な加速を想像しがちだが、eビターラは、そうしたイメージとは一線を画すものに仕上がっている。アクセルを踏み込んだ時の加速度の立ち上がりは驚くほど連続的で、まるで上質な内燃機車を運転しているかのよう。スポーツモードを選んでも神経質な操作を要求されることはなく、終始なめらかな加速フィールを味わえる。
加速のスムーズさは、まるで車と対話しているような「予測性のあるドライバビリティ」を生み出し、長距離運転でのストレスを大幅に軽減してくれる。操る手応えを求めるファントゥドライブ派には少し物足りないかもしれないので、スポーツモードはヤンチャな特性にするのもアリだと思うのだが、どのドライブモードを選んでも、良質な走りが楽しめてしまうことに驚いてしまった。
ドライバーにストレスを感じさせない制御は、パワートレーンだけではなく、フットワークでも同様。BEV専用で開発されたシャシーは、このクラスでは珍しくリヤサスにマルチリンク式を採用した4輪独立懸架を全車に採用する。コスト的にも構造的にも奢った内容だけに、フットワークにも格上感を感じてしまう。
特に印象的だったのは、高速コーナリング時の扱いやすさ。ステアリング操作で最も気を使う状況でも、eビターラは穏やかに回頭し、意図したラインをトレースしていく。もちろん強引なコーナリングではESPが介入してくるが、その制御も滑らか。これも電動の恩恵のひとつだろう。
2WD車も4WD車も基本的な操縦特性は共通するが、安定性とコントロール精度は、後輪の駆動力を積極的に使える4WD車の方が優位。また乗り心地も、4WD車の方が路面からの入力に対するストローク感のしなやかさが際立っている。走りの質感は、4WD車の方が格上になっている。
航続距離は少々気になるものの、ドライバビリティやハンドリング、乗り心地などの総合性能は、コンパクトSUVとしてはトップレベル。日常使いのタウンユースから、休日のロングドライブまで、高水準で両立している。
パッケージング
後席のゆとりもクラス最大級。アレンジ機能もなかなか多彩
全長に対するホイールベース長の比率は約63%。ロングキャビンプロポーションを採用するが、フロントのボンネット長は短め。一方でリヤは最大835㎜の荷室長を確保するべくオーバーハングは標準的な長さになっている。ボンネットとフロントマスクに存在感を持たせたデザインをプラスすることで、SUVらしいタフな印象もプラス。先進感よりも現代的なコンパクトSUVらしさにこだわった外観といえるだろう。
2700㎜のロングホイールベースを採用したこともあって、キャビンはかなりのゆとりが確保されている。特に後席レッグスペースはこのサイズのSUVとしては最大級の余裕がある。リヤシートは前倒格納に加え160㎜のスライド機能も備えるなど、レジャー用途にも耐えうる実践的なアレンジが可能だ。












結論《最新BEV「e VITARA」その実力はどのくらいか?》
航続距離は少し物足りないが起爆剤なのは間違いない
eビターラに泣き所があるとすれば、49kWhの2WD車で400㎞以上とされる航続距離。純正ナビで充電スポットを簡単に検索できるとはいえ、充電時間のことを考えると、もう少し航続距離は欲しかったというのが率直な感想だ。
ただ、この充電問題はBEVに共通する課題で、逆に言えばeビターラは、コンパクトSUVとして高水準でまとめられたモデルで、航続距離くらいしか気になるところがない。さらに安全性や耐久性を重視したバッテリーの選択も好感が持てる。実用性のセオリーやストレスの少ない走りなどポイントを押さえた設計は、BEVを「本格的に普及させていく」という、姿勢の表れだろう。
ちなみに気になる価格は、現時点では未定とのこと。ただ、日々の生活を豊かにする道具ということを考えれば、多くのユーザーが手頃感を感じる価格に落ち着くと思われる。