カーライフ
更新日:2024.07.18 / 掲載日:2024.07.18

クルマ好きなら人生で一度は訪れたい街【工藤貴宏】フランス、ル・マン24時間レース観戦記

文●工藤貴宏 写真●工藤貴宏、アルピーヌ

 突然ですが「ル・マン24時間レース」をご存じでしょうか。フランスの「サルトサーキット」で開催される101年の伝統を持つレースで、40代後半以上のクルマ好きならマツダの優勝の衝撃を覚えているかもしれませんね。

 マツダは“実質的にロータリーエンジンで優勝を狙える最後の年”となった1991年に、ロータリーエンジンを搭載したマシンで悲願の日本車初優勝。最近ではトヨタが2018年に初優勝したのち5年連覇をするなど日本の自動車メーカーとも関連が深いレースです。

自動車メーカーも夢見る「ル・マン24時間レース」

ル・マン ミュージアムに展示されているマツダ 787B

 そんな「ル・マン24時間レース」は現在ではWEC(世界耐久選手権)の年間6戦のうちの1戦に組み込まれていますが、あまりに「ル・マン」の存在が大きいゆえに「WECでシリーズチャンピオンになってもル・マンを制しないと意味がない」なんて言われているほど。

 そしてル・マン24時間レースは、モナコの「F1モナコグランプリ」やアメリカの「インディ500マイルレース」と並んで“世界3大レース”のひとつに数えられるレースです。ワタクシライター工藤貴宏もクルマ好きとして1度は現地で観戦してみたい……と思い続けて数十年。

 というわけで、どうしていきなりル・マンの話をはじめたか。何を隠そう筆者は苦節ウン十年、人生初の“ル・マン生観戦”に出かけてきたからです。やったぜ!

 北極をまわるフライト(ロシア上空を通れないせいで欧州までの飛行時間が長い!)でパリ郊外のシャルルドゴール空港に到着し、そこからル・マンまではクルマで約3時間。(パリ市内の渋滞とオービスの前以外は)やたらと飛ばすドライバー(運転は上手だった)のおかげで思った以上にスムーズに到着した、フランスの田舎町ル・マン。ちなみに「ル・マン」は街の名前なんですが、驚いたのは街の雰囲気。さすがル・マンです。

 路面電車がル・マン24時間レース仕様のラッピングになっている車両が多数だし、街のお店も本屋はル・マン24時間レースに関する本がディスプレイされている……のはまだわかるとして、薬屋とか美容院まで窓の飾りがル・マン仕様になっているのはさすが。街を上げてレースを盛り上げていこうという想いがひしひしと伝わってくるじゃないですか。

 101年もの伝統があるレースだし、街を代表するイベントだし、ル・マンという名称が世界的に有名なのはこのレースのおかげ。そう考えれば、確かにレース期間になると街全体がお祭りモードなのは当然といえば当然なのかもしれませんね。それにしても、レースでここまで街が盛り上がるって素晴らしいんじゃないかな……とクルマ好きとしては素直に思います。

 レースの会場となるのは、街から路面電車でも行かれる「サルトサーキット」。全長約13.6kmという距離の長さも凄いけど、日本ではちょっと考えられないのがコースの内訳。

ル・マン24時間レースが行われるサルトサーキットは2/3が期間中公道を封鎖して作られる

 2/3が封鎖された公道だなんてちょっとすごくないですか。その公道閉鎖区間と「ブガッティサーキット」という常設のレーシングコースを組み合わせてサルトサーキットになるのです。そして、そんな長いコースを予選時はたったの3分20秒台でまわってくるのだから信じられない! 最高速度が出るのはなんと公道区間ですが、そこでは300km/h をオーバー。かつて(直線が長かったころ)は400km/hを超えていたというからもはや呆れるしかありませんね。

 それにしても、さすが世界3大レースのひとつです。規模が凄いんですよ。24時間戦うためにチームがピット裏に立てているトレーラーハウスの規模も台数も凄いし、23台が戦う最上級カテゴリーへタイヤを供給するミシュランタイヤが持ち込んだタイヤの本数はなんと4100本! すべてが桁違いなのは、さすがル・マンです。とんでもないですね。

 そんなル・マンだけにスタートやそのセレモニーは大賑わい。だけど、1時間も経つとグランドスタンドでレースを見ている観客は目に見えて減っていきます。

 じゃあ何をやってるのか? 自動車メーカーのストアに買い物に行っている人や、ホームストレート以外でレースを見ている人もいるのですが、かなりの人たちが飲んでいるんですよ。お酒を。レースも見ないで(笑)

 サーキット内のあちこちにバー、日本の感覚でいうとビアガーデンみたいなのがあって、みんなそこで楽しんでいる。レースも見ないで(大切なことなので2回目)。

 でも、個人的にはそういうのもアリなんじゃないかなと思うんですよね。「レース」という名目で集まり、「レース」という名目でお酒を飲む。いいじゃないですか、お祭りみたいです。

 お祭り……⁉ 現地へ行って感じたのは、ル・マン24時間レースというのは、レースという名のお祭りだってこと。100年以上の伝統があるお祭りであり、せっかく参加するなら楽しまなきゃソン。レースだからと言って、ひたすら走るクルマを眺めないといけない理由なんてないんです。気楽にでかけて、その場の雰囲気を楽しめばいいんですよ。

 ちなみにビールは500mLで10ユーロ……だいたい1700円⁉ ちょっと気軽には飲めないですよね。…円安がなんとも恨めしい!

 ところで、約10日間に及ぶレース期間中は車検や決勝前日のドライバーパレードがサーキットではなく市街地の広場でおこなわれるなど、街全体がレース関連のイベントで盛り上がります。それも町をあげてのお祭りだと感じさせますね。

 レースの話もしておきましょうか。ちなみに今年の優勝はフェラーリ。……なのですが、とんでもない大バトルが展開されていました。だって、24時間走ったゴール時にトップと同一周回のマシンが8台もいたんですよ。24時間も走って、311周もして、4200㎞以上も走ったにもかかわらず、トップとコース1周分も差がつかない車両が8台もいるなんてどんだけ!

 ちなみにトップでゴールしたフェラーリの“エネルギー残量(残りの燃料とバッテリー内の電力)”はたったの2%。そして2位となったトヨタとのゴール時のタイム差はわずか14秒でした。あと1周する必要があったら、フェラーリは給油が必要だったという“逃げ切り”といっていいでしょう。

アルピーヌがル・マンで新型車「A290」を世界初公開

アルピーヌ A290

 ところで、筆者がル・マンを訪れた理由はレースのほかにもうひとつ。フランスのスポーツカーブランド「アルピーヌ」がレース開催期間中のサルテサーキットで新型車「A290」を世界初公開。それを見届け、新型車をチェックしてきたのです。

 アルピーヌはルノー傘下にあるブランドで、現在のラインナップは2シータースポーツカーの「A110」のみですが、なんと日本での販売は本国フランス、そしてドイツに次いでイギリスと3位を争っている状態(日本ではこれまで累計約1400台を販売)。日本には、思っていた以上にアルピーヌ好きが多いんですよね。

 リスタートした同社においてA110に続くA290は高性能仕様のコンパクトハッチバックで、パワートレインはモーター。EV(電気自動車)なのです。

 「ルノー5(サンク)」という日本未発売のEVがベースにはなっているけれど、見た目からしてそれとは別物なのがまず注目したいところ。顔つきが異なっているのに加えて、片側約3cm張り出したフェンダーがスポーツモデルを主張。ちなみにヘッドライトの脇にあるアクセサリーランプの「X」は、昔のラリー車のテーピングをイメージしたのだとか。

アルピーヌ A290

 もちろん動力性能も強化してあって、モーター最高出力はサンクの高性能仕様である150psに対して、A290の高出力タイプでは218psに拡大。「軽さを重視する。10psのパワーアップと10㎏の軽量化なら、後者をとる」と同社CEOが説明するポリシーに従い、1479㎏というEVとしては軽い車両重量も注目したいポイントですね。

 A290のパッケージングは純粋なスポーツカーでなないし、駆動方式もA110の後輪駆動と違って前輪駆動。でも運転感覚はすごぶる評判がいい「A110のフィーリング」をベンチマークにしているのだとか。とても楽しみじゃないですか。

アルピーヌはル・マン24時間レースを含むWECのハイパーカークラスにアルピーヌ A424で参戦している

 ちなみに現在のアルピーヌは「ルーテシアR.S.」や「メガーヌR.S.」を生み出した「ルノー・スポール」の組織がルノーのブランド戦略変更により名称をチェンジしたもの。つまり、日本の運転好きを虜にし、日本でも多くのファンを生んだルーテシアR.S.やメガーヌR.S.のあの楽しいハンドリングを受け継ぐのは間違いないはず。何を隠そう筆者も元ルーテシアR.S.オーナーなので、期待するなっていうほうが無理に決まっているじゃないですか。

 アルピーヌの日本法人によるとそんなA290の日本導入に関しては「未定」とのことですが、きっと導入されると信じて期待したいところ。現地での納車がはじまるのが今年の年末から来年の頭にかけて、そして右ハンドル仕様の生産が2025年からとのことなので、日本へ入ってくるのははやくて2025年後半くらいでしょうかね。

 現地の価格は3万8000ユーロからとのことですが……ここでは日本円への換算はあえてやめておきます(笑)。日本導入がはじまるまでには、円安が解消されることを強く強く願いましょう。

 いずれにしても、運転するのが楽しみな1台です。それにしても、レースの雰囲気は最高だったな。

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工藤貴宏(くどう たかひろ)

ライタープロフィール

工藤貴宏(くどう たかひろ)

学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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