カーライフ・ドライブを楽しむ
更新日:2024.10.10 / 掲載日:2024.10.10
3車3様のグランドツーリングGT
ジャンルやボディタイプが違えば選ぶルートも変わるのか?
クルマの進化は走ることの進化である。ドライブの魅力は、時を経て増すことはあっても、損なわれることはない。では、その魅力というものは、クルマの種類によって違うのだろうか。高いパフォーマンスの走りを味わえるクーペ、ハイスペックな技術が搭載されたSUV、ラグジュアリー性を持ったミニバン……。3車による、3様のグランドツーリングで、見た景色、走ったルート、得られた感動について、紹介していこう。
構成・文/フォッケウルフ 撮影/我妻慶一
(掲載されている内容はグー本誌 2024年10月発売号掲載の内容です)

楽しい長距離ドライブで最高の没入体験を味わう
昨今、「燃費が〜」という声を耳にする機会が減ってきた。もちろん、それ以前の時代のように、「速さが〜」という声だって聞かれない。「クルマ選びの基準にしている数値は?」と聞かれた際、多くの人は、「これといった基準はない」と答える。そういったことより、快適だとかカッコいいとか、なんとなく安心だとか……数値で測れない感覚的な部分が重要になっているのだ。
性能よりフィーリング。ある程度年を重ねてくると、クルマ選びの基準がそのような曖昧なものになってくる。運転して楽しいか、運転に没頭できるか。ずっと運転していたいのは、わざわざ時間をかけてでも乗りたいと思えるクルマだ。
目の前に広がる景色を目で見て、風を肌で感じて、カーブが迫ってくればステアリングを握ってコーナリングに備える。直線があれば、グッとアクセルを踏む足もとに力を入れる。そんなとき、ドライバーはふと、時間を忘れて運転の世界に没入していたことに気づくのである。
では、長距離でもずっと運転していたい、運転に夢中になれるクルマとはいったいどんなクルマだろうか。3台のグランドツーリングカーを持ち出し、運転を堪能しながら考えた。
目的地が同じでもルートや走り方はそれぞれ? SUV、クーペ、ミニ バンで移動の質はどう変わる?
ジャンルの異なる3台でクルマの魅力を味わう道程
今回は3人のスタッフで3台のクルマを選び出し、グランドツーリングを敢行した。オデッセイ、レクサスRC、アリア……と、どのクルマも素晴らしい走行性能と優れた快適性、そして旅に対応できるラゲッジスペースや装備を備えている。運転していて夢中にさせられるクルマばかりだ。
運転することが楽しくて快適なモデルを長距離乗り続ける。言うなれば、「グランドツーリング」とはクルマの魅力を存分に味わう行為である。しかし、それはどんなクルマでも同じように味わえるのだろうか。はたして、クーペとミニバン、背の高いクルマと低いクルマで、ルートは、移動の質はどう違ってくるのだろうか。そんなことを考えながら、まずは東京をスタートした。
ところでGTってなんですか?
運転を楽しみながら長距離を快適に走ることを「グランドツーリング」、それが堪能できるクルマの種類のことを「グランドツーリングカー」と呼ぶ。略して「GT」だが、歴史上、これが車名やグレード名に付いているクルマも多い。日本車でも、古くはベレットGT、近年であればスカイラインGT-Rなどモータースポーツで活躍するモデルに付けられてきた。現代においては、同じ運転を楽しめるスポーツカーとの違いとして、より快適性の高いモデルとして解釈されている。

NISSAN ARIYA
中古車中心相場 220万~550万円

2021年にデビューしたEV専用モデル。ボディタイプはクロスオーバーSUVで、電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」などを搭載し、高い先進性や快適性を誇る。「プロパイロット2.0」も設定されている。
LEXUS RC
中古車中心相場 420万~540万円

2014年に発売された2ドアのラグジュアリーなGTクーペ。パワーユニットは、2.5ℓ直4エンジンベースのハイブリッド、3.5ℓV6エンジン、2.0ℓターボエンジンをラインアップする。
HONDA ODYSSEY
中古車中心相場 60万~310万円

1994年にデビューした、ミニバンブームの立役者。低床・低重心設計による室内の広さや安定感のある走りが特徴。現行型は2013年に発売されるも、2022年に一度販売休止、2023年から再発売されている。

LEXUS RC

ラグジュアリークーペは優雅に燃える。
レクサスといえば、LSやRXの名前を挙げる人は多い。LSはフラッグシップだし、RXもトヨタ ハリアーの系譜を受け継ぐSUVのパイオニア、その気持ちはわからないでもない。しかし、今回はRCである。SC以来の2ドアクーペだ。2014年に発売されてから、今も現役で販売され続けるのには意味がある。
デザインの特徴はなんといってもモリっと突き出たスピンドルグリル。全体的には当時のレクサスらしく、柔らかなラインと直線的なラインが絡み合って美しい。インテリアは少し古さを感じさせるが、レトロで安心感がある。アナログ時計も光っている。
では走りはどうか。当時の輸入高級ブランドに別方向から挑んだ哲学がある。RCを所有していた人が、亡くなるときに愛車を振り返って「いいクルマ」だったと感謝するような乗り味。心温まるスポーツ走行。RCが今も新車で販売され続ける意味、それはこのクルマのあり方が美しいからに違いない。



自動車評論家 清水草一
見通しが悪くても渋滞のストレスなし
車高が低いクーペなので、安定感の高い走りが楽しめます。トランク容量はそれなりに広く、加えて2名までの乗車で後席も荷物置きに使えば、余裕の居住性もあります。乗り心地もクーペとしてはソフトで快適。まさしく「グランドツーリングカー」なので、ロングツーリングにはピッタリ。着座位置が低いぶん、混雑した道路では前方の見通しが悪くなりますが、レクサスらしい高級感のあるインテリアが、渋滞のストレスを和らげてくれるはずです。
自動車ライター 高橋浩司
基本性能の高さが爽快さと安心を生む
これ見よがしにパワーを主張することなく、アクセルの踏み込みに対する反応はじつに紳士的。操縦性と乗り心地のバランスが絶妙なことも相まって、スポーツカーのわりにそれを操るための高い技量を求められることがありません。視界が狭く、車内はタイトで適度に緊張を強いられますが、他ジャンルよりも高い水準にある「走る・曲がる・止まる」の能力は、目的地までの距離が長くなればなるほど際立ち、爽快と安心をもたらしてくれます。
編集ライター 安藤二等兵
この乗り味の迫力は他ジャンルにはなし
RCには何度か乗ったことがありましたが、他ジャンルのクルマと比較して乗ったのは初めて。感想はひと言、「乗る時間短っ!」でした。私は別の車種の長距離担当だったので、RCは峠道を走らせてもらっただけなんですが、なぜ時間が短く感じたかといえば、乗り味に迫力があったから。やはり搭乗位置の低さはダントツですし、単純に運転操作が気持ちいい。クルマなんだから、見栄を張らずに運転楽しもうぜって言われてる感じがします。

ツーリングはいかに楽しめるかが重要!
ということで……「ストレス測定アプリ」で長距離運転担当者のストレス度をチェック!
今回、スタッフが旅のお供としたのが、スマホアプリ『ストレススキャン』だ。これはスマホのカメラに人差し指を添えるだけで、ストレス指数と心拍数が計測できるというもの。運転スタッフ3名がそれぞれ長距離担当車を決め、スタート時とゴール時に測定。運転前と運転後のストレス指数を比較するというチャレンジだ。

RCのストレス指数は?


NISSAN ARIYA

しなやかに駆けるオールラウンドSUV。
世界中の人々を魅了する正統派のクロスオーバーSUVでありながら、パワーユニットはモーター。誤解を受けがちなEVの「本当の姿」はグランドツーリングでこそ語ることができる。走行可能距離メーターがどんどん減っていくのが怖くて遠出はできない! なんて話、今は昔。このクルマの一充電航続可能距離は460km以上。たいていの目的地なら給電せずとも辿り着ける。
もちろんグランドツーリングなら、一度くらい充電スポットのお世話になるかもしれない。しかし充電スポットを探すドライブも、それはそれでオツなものだ。知らないところへ行ってクルマを降りることで、きっと日常では感じられなかったおもしろさがある。EVを長距離運転して得られる感覚は、内燃機関(エンジン)とは似て非なるものになる。初めて英語を使いこなしたときのような、ドレスコードがあるレストランへ行ったときのような、誇らしさとうれしさだ。



自動車評論家 清水草一
バッテリー容量は余裕ACCの制御も特筆もの
EVだけに、静粛性や快適性はずば抜けています。EVというと航続距離が気になりますが、アリアはバッテリー容量に余裕があり、片道200kmまでなら途中充電なしで走り切れるはず。近年は高速道路のSA・PAの急速充電器も充実しているので、それ以上の遠出も問題なし。加えてアリアの「プロパイロット」は超優れもの。ACC(アダプティブクルーズコントロール)をONにしたときの制御は素晴らしく、とても安心です。
自動車ライター 高橋浩司
電池残量に心配なしとツーリングで実感!
BEVで長距離を走るのはエンジン車と違う楽しさや心地よさがある一方で電欠という不安が伴います。一定速度を維持して高速道路を走る、平地より負荷が大きな峠道を上る、9月とはいえ猛暑日でしたからエアコンは全開と、電池を惜しげもなく使用する状況。しかし、国産BEV最大の91kWhという大容量が功を奏して、ことさら電池残量を気にすることがなく、グランドツーリングに過不足ない能力を有していることを実感しました。
編集ライター 安藤二等兵
現代的にアップデートされた価値観が味わえる
EVってこんなに切れ味のいい動力性能を持っていたっけ? と衝撃を受けました。それもそのはず、今回のツーリングでは充電の心配をする必要がなかったから。これまでEVに試乗したときって、いつも知らず知らずのうちに気を使ってアクセルを思いっきり踏み込めなかったのかもしれません(笑)。搭載された技術とデジタル情報の多さもすごいし、ガジェット好きな仲間と、現代的な価値観でツーリングを楽しむならコレですね。

アリアのストレス指数は?


HONDA ODYSSEY

ゆったり堂々と、風格のミニバン。
一時的に日本での販売をやめていた時期、オデッセイがどこで何をしていたかといえば、海外ではそのまま売られていたって。え? つまり日本人が作り出したこの素晴らしいGTミニバンを日本人は放棄して、外国ではそのまま楽しんでもらっていたのか。なんとも不思議でもったいない話である。
そもそもミニバンは車高も重心も高いから、コーナリングなんて怖くて曲がれない。そういった代物だった時代に、乗用車ライクな乗り味を武器として誕生したのが初代オデッセイ。家族を乗せて多人数乗車でドライブをワイワイ楽しめる、そんなクルマのパイオニアだ。
クルマはいつの時代も、オーナーの移動欲求に応える存在でなくてはならない。けれど、同乗者の欲求も満たしてあげなくちゃいけない。今売れているありきたりの電化製品ではなく、ちょっとでも機能性が心に響くものを選ぶ。そんな人なら、きっとオデッセイを選ぶだろう。



自動車評論家 清水草一
高速道路での安定感が光った
ミニバンとしては全高が低く、そのぶん重心が低いので、比較的キビキビと走ることができます。高速道路でも安定感が高く、ファミリーでのロングツーリングにはベスト。ミニバンとしてはスポーティなデザインで、室内の広さは「まあまあ」程度ですが、実用上何の問題もなし。シートは普通のミニバンより明らかに上質。座り心地がいいので、家族のみんなの気分もアガるはず。ハイブリッドなので燃費もかなりいいです。
自動車ライター 高橋浩司
箱型ミニバンっぽくない雰囲気がいい
多人数が乗れて、趣味の道具も余裕で積める。しかも走りがスムーズで快適だから、運転のストレスが極めて少ない。ロングツーリングという観点で選ぶなら最上の選択でしょう。高級ミニバンに分類されますが、内外装ともに装飾が抑えめで知的な雰囲気が漂うから箱型ミニバン特有の生活感がないのもいいですね。家族や仲間を乗せてドライブするのがミニバンの定石ですが、車載輪行ひとり旅とかソロキャンなど、お一人様用途にもオススメ。
編集ライター 安藤二等兵
セダンライクに乗れるミニバンの秀作
初めてオデッセイに乗ったときの衝撃は、今も覚えています。なんだか室内空間がスカスカしていて部屋ごと動いているような、でもそれほど違和感なく運転できる感覚……。それから歴代モデルに乗ってきましたが、少しずつ少しずつ進化してきました。低床設計で車内はさらに広くなり、セダンライクに運転できる重心の低いたたずまいもたまらない。今回久しぶりに現行型のオデッセイで長距離を運転して、改めて秀作だと確信しました。

オデッセイのストレス指数は?


グランドツーリングを終えて…… クルマ好きたちが体感した心地よさの正体
公共交通機関と違ってクルマは、自由にルートを選ぶことができる。さらに乗るクルマのジャンルまで違うとなれば、見えてくる景色も、選ぶべきルートも、全然違ったものになる。オーナーの移動欲求に応えてくれる3台のGTによるグランドツーリング、得られた感動はそれぞれだ。

時代とともに進化したGTによる最高のトリップ
1929年に登場した「アルファロメオ 6C1750スポルト」は、「グランツーリスモ」と呼ばれた。このクルマを最古のGT(グランドツーリングカー)だという人もいるが、大衆車がやっと普及し始めた時代にあって、大衆の憧れの存在だったスポーツカーでもある。
つまり、GTは自動車ヴィンテージ期から存在するものであり、人々にそれまで見たことのない世界を体験させる機能や性能を原初的に持っていたことになる。しかし、当時はまだ舗装路などのインフラも整っていない時代。クルマを取り巻く環境の変化とともに、GTも「快適に走れる」という魅力をプラスしながら進化していった。
そして、現代のGT、つまりグランドツーリングカーに至るわけだが、大意は「長距離をスポーツ走行を楽しみながら快適に走れるクルマ」へと集約された。パワフルなパワーユニット、優れたハンドリング、しなやかに引き締められた足まわり、そして静かなキャビンなどを必然的に備えている。
公共交通機関と違って、クルマは自分で行き先やルートを選択することができるのが魅力だ。その魅力に運転の楽しさと快適性を加えることで、オーナーの旺盛な移動欲求に応えてくれる存在となる。それが現代のGTなのだ。そういった意味でも、今回集めた3台は、どれをとっても世界に誇れる現代版のGTといっていいだろう。
長距離を走る「グランドツーリング」では、クルマのさまざまな魅力や運転の楽しさを味わえることに加えて、ちょっとしたドライブとは異なる、ある種、映画や小説にも似た特別な体験が得られる。美しい風景、立ち寄った店、美味しい食事、人との出会い───。
今回は3つのボディタイプのGTを選んで、グランドツーリングへ旅立った。3台で同じルートも走ったが、1台ごとの独自ルートもあって、今回の参加スタッフは誰もが運転慣れしたメンバーであったが、それぞれが異なる特別な体験をすることができた。
RCではレクサスの上質さがすごく活きていてラグジュアリー感を堪能できた。あまり峠を攻めるようなクルマじゃないってところもよかった。アリアによるEVロングトリップはとても新鮮だった。長時間乗ったからこそ、電子デバイスも使いこなせた。ミニバンなのに乗り味がどこかスポーティなオデッセイはちゃんと運転が楽しかった。一方で無国籍な世界観は郷愁にも通じていた。
得られる感動の種類も、心地よさも、みんな違って、どれもいい。そもそもグランドツーリングは、クルマの世界観を思い切り体験できる行為なのだから。






