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更新日:2019.01.27 / 掲載日:2017.11.28
進化から革新へ BMW i8のシステム出力は362ps!!
走る楽しさ、持つ喜びを
【本記事は2014年6月にベストカーに掲載された記事となります。】21世紀のスポーツカーをどう考えるか? 燃費とパワーの両立というだけでなく、“走る楽しさ、持つ喜び”をユーザーにいかに伝え満足させるか、というコンセプト作りが大きな課題だった。ハイブリッド技術で先? をつけたトヨタ、ホンダも次世代スポーツカーに関し長年研究し、トヨタは’04年のジュネーブショーでイタルデザインに協力するカタチでミドシップのハイブリッドスポーツ“ボルタ”を提案し、ホンダは’01年東京モーターショーで“デュアルノート”を公開している。にもかかわらず、トヨタはオーソドックスなレクサスLFAを市販、ホンダは来年念願のハイブリッドスポーツを送り出す。日本がハイブリッド技術でリードしながらも、なかなか実現できなかったこの分野に、BMWが追い越すようにi8をこの6月以降北米をはじめ、ヨーロッパ、日本に投入する。しかもホンダが長期間研究してきたNSXとは少し違った方法でi8を完成させた。
これからの低炭素社会に対応するスポーツカーを提案
フロント部に内蔵されるモーターはコンパクトながら131ps、約25.5kgmのトルクを発生。2段変速で120km/hまで対応。
エンジンはわずか1.5L。新型ミニにも使われる3気筒エンジンに次世代ターボを装着、231psというパワーを得る。これにフロントに置かれる131psのモーターを加えたプラグインハイブリッドで、来年登場のNSXとはエンジン排気量が大きく異なる。小排気量にすることでこれからの低炭素社会に対応するスポーツカーを提案するのがi8で、NSXがV6ターボを採用するところと異なるポイントだ。しかし、やはり興味がもたれるのは、それでi8の走りがスポーツカーとして満足できるのか、という点につきる。
グローバル試乗会
試乗会前夜には高級住宅地、マリブの民家でレーザーライト体験付きセレモニーも
クルマ好きが知りたいこの最大のポイントを確かめるチャンスに早くも恵まれた。北米ロサンゼルスで行われたグローバル試乗会で、量産型i8に乗る機会が得られたわけだが、その試乗コースが洒落ていた。映画好きなら誰もが知っているジェームズ・ディーンゆかりの地であるハリウッド周辺を走るコースで、ジェームズ・ディーンが通ったカレッジのあるサンタモニカをスタートし、彼がポルシェ356スピードスターで腕を磨いたハリウッド北部の“マルホランドドライブ”を走り、サンタモニカに戻るというものだ。
低くワイドなボディは、それほど大きく見えない。
まずは簡単なレクチャーを受け、エクステリアを見てみる。全長4689mm、全幅1942mm、全高1293mmと、低くワイドなボディは、それほど大きく見えない。しかし、この手のエキゾチックカーにしてはタイヤが細い。これはi3でも同じだが、ブリヂストンとの共同開発による低燃費タイヤによるもので試乗車にはオプションのフロント215/45R20、リアは245/40R20 が装着されていた。ベースは195/50R20と215/45R20ともうワンサイズ細い。
BMWのブランド“i”に共通したイメージ
テールライト上部はフロント側からくり抜かれているようなデザイン処理。テールライト周辺のブラック処理はi3と同じ手法
全体的なデザインは、新しいBMWのブランド“i”に共通したイメージで、それをスポーツカーにすると、こんなデザインになる、という手法で、ボンネット、テールエンド部はブラックアウトされ、i3との近似性を表現している。
CD値0.26という空力性能を誇る。フロントのキドニーグリル内部は穴がなくカバーされている
CD値は0.26と低く、空力の向上を狙ったというリアフェンダー上部からテールライト上部までの“エグレ”の処理がデザインのひとつの特徴となっている。
シザードア
シザードアと呼ばれるハネ上げ式ドアを採用した大きな理由はドア開放時の隣りのスペース。ハネ上げ式により50cmほどスペースがかせげる
“シザードア”と呼ばれるハネ上げ式のドアを開けシートに座る。少しサイドシルが厚くちょっと乗り込むには足を広げながら入る感覚で、いかにもスポーツカーだが、インパネ回りはやはりiブランドらしくiPadのようなタブレットタイプのモニターが中央部にあり、未来的。けれども全体的にはスポーツカー的な精悍な感じではなく、ラグジュアリースポーツとして上質なものだ。
eドライブモードを試す
フロント部に内蔵されるモーターはコンパクトながら131ps、約25.5kgmのトルクを発生。2段変速で120km/hまで対応。エンジンは横置きでミドシップに配置。
最初にi8の特徴でもある、37kmのEV走行が可能なeドライブモードを試す。シフト脇のeドライブボタンを押すとEV走行が可能で、最高速度は120km/hまでカバーできる。モーターはフロントに置かれ前輪を駆動するため、EV走行時はFFとなり、速度に応じ2段変速ATが組み込まれている。サンタモニカから海岸部を北上する時にこのEV走行を試すが、80km/hでプラスで流れる交通のなかで、必要な加速力はどの速度域でも充分で、一般のスポーツカー以上の加速力をみせる。音もなく静かにそして力強い加速感は、どことなく未来的で楽しい。25.5kgmというモーターの最大トルクに達するのはあっという間で、このEV走行のダイレクトな感覚はガソリンやディーゼルでは味わえないものだ。
スポーツモードをセレクト
前輪をモーター、後輪をエンジンで駆動するPHV4WDだ
そして注目のマルホランドでのワインディングロードだ。ここでシフトを左に倒し、スポーツモードをセレクト。エンジンパワーとモーターパワーを最大限に発揮しての走行となる。メーターがブルーからレッドに変わり、アクセルを踏みつけると、後方からけっこう勇ましいエンジンサウンドが唸り、たちまち100km/hを超える。発表値は4.4秒というから相当速い。一気にシートバックに押しつけられる。パドルを操作し、タイトなマルホランドのコーナーを駆け抜けるのは痛快そのもの。フロントのモーターとリアのエンジンパワーによる駆動力は協調制御され、姿勢を乱すことはない。フロントタイヤが限界を超え、アンダー傾向が強まると、エンジンもパワーが絞られ元のラインに戻ろうとする。その間、アクセルが反応しない瞬間があるが、この手のタイトなコーナーが続くコースでは、安全性を優先するスタビリティコントロールによるものだ。とにかく安全方向にセッティングされていて、振り回して走るという古典的な楽しさを味わうことはできない。ブレーキはこの手のスポーツカーとしてはやや甘いように感じた。細めの環境型タイヤの接地面積の小ささが影響しているのかもしれないが、だからといって効きが悪いわけではないので報告しておこう。全長100kmにもおよぶマルホランドドライブは予想以上に起伏に富んだコースで、かつてここを走った名優は、どんな思いでクルマに接していたか思いを馳せながら試乗を終えた。
スポーツカーとしての低炭素社会へのチャレンジ
総合的にいえば、1917万円という高額なスポーツカーをどう考えるかだが、新しい時代に向けた超軽量なカーボンボディ、小排気量エンジンを選び、スポーツカーとしての低炭素社会への対応など、驚くべきチャレンジか満載されている。これからの自動車にとってこれは長足の進歩に違いない。これまでのスポーツカーからの進化ではなく、革新的なスポーツカーが生まれたというべきだろう。ちなみに豪快なエンジン音は、マフラー出口近くに装着されるスピーカー(サウンドジェネレーター)によるもので3気筒エンジン音は、V6サウンドのように電気的にアレンジしたものだという。