都会のジャングルを俊敏に走り抜けるコンパクトスポーツクロスオーバーカー　日産ジューク

【本記事は2010年7月にベストカーに掲載された記事となります。】「ゴルフでいうなら、我々のクルマはフェアウェイにはない。ラフにある。だがOBではない」これは商品企画のチーフプロダクトスペシャリスト、松富諭氏の発言だが、ジュークのキャラクターは、まさにこの言葉に集約される。キューブやティーダに使われるBプラットフォームを採用しており、日産自身もこのクルマを「“コンパクト”スポーツクロスオーバー」と称しているが、なかなかどうして、実車を見ると1765mmの全幅を持つだけあって、まったく貧弱に見えない。それでいて全高はティーダより30mm高いだけの1565mmなので、車両全体からガッチリと地面をつかむような、マッシブな力強さが溢れている。が、そのキャラクターは、いかにもSUV然とした力強いルックスとは裏腹に、スポーツに近い性格を与えられている。詳しくは次ページ以降で紹介するが、このジュークはムラーノやデュアリスの小型版ではなく、より都会を機敏に走り抜けることが重視されているのだ。

冒頭の松富氏の言葉にあるとおり、この手の個性の強いクルマは販売的に苦戦する可能性はある。だが、どうだろう。このクルマからは「退屈」という要素が、どこにも見つからない。見慣れてくると愛嬌すら感じさせるフロントマスク、車格から考えると強めに主張する前後フェンダーといった外観はもちろん、インパネまわりにも新しい工夫が溢れている。「ターゲットが限られるかも」という危機感から、日産が必死に魅力を入れ込もうと努力したのではないかと、思わず勘ぐってしまうほど、新鮮さに溢れている。

今回発売されたのは1.5Lエンジンを搭載した2WDモデルで、本命とされる1.6L直噴ターボ搭載モデルは秋頃登場するといわれている。が、現段階でもこのクルマの魅力が薄いとはまるで思えない。見る者を、乗る者をワクワクさせる。ジュークにはそれだけの魅力が間違いなくある。前ページで書いた「乗る者をワクワクさせる魅力」について、少し詳しく解説したい。まずはクルマの魅力を決定的に左右してしまうエンジンだ。直噴ターボの登場が秋ということは先ほども書いた。が、1.5LのNAエンジンにも魅力を高めるべく多くの工夫が施されている。

エンジン自体はティーダやノートにも搭載されるHR15DEだが、吸気マニホールドのチューニング変更、排気側にもCVTCを追加するなどの大幅な改良が施された。また、量産エンジンとしては世界初となる、1気筒あたりに2本のインジェクターを配する「デュアルインジェクタシステム」も採用されている。これは吸気バルブ近辺にスリム化したインジェクターを2本配置し、より広角に燃料を噴射できるようにするもの。さらに燃料噴射孔を小径化することで、噴射する燃料粒径を小さくし、燃焼安定性を大幅に向上させている。その結果得られた出力は、114ps／15.3kgmと、ティーダ／ノートの109ps／15.1kgmより向上し、10・15モード燃費も19.0km／Lと、全車50％のエコカー減税対象となっている。そのエンジンに組み合わされるCVTも、ジヤトコと開発した新世代のもの。プーリーの小型化に超扁平トルクコンバーターの採用などで、従来のものより軽量＆コンパクトになっているが、最大の特徴はやはり副変速機を持つ点。これにより従来のCVTより20％以上広い変速比幅を実現、低速や出足ではレスポンスよく、高速では低回転で低燃費に貢献する。

足回りではフロントに井桁型サブフレームを採用。高剛性化が図られている。ステアリング操作に対してダイレクトにクルマが反応し、さらにコーナリング時のロールも、デュアリスなどに比べ圧倒的に少ないという。相当に活発な走りが期待できそうだ。そのあたりは試乗時にじっくりチェックしたい。

内装で真っ先に目を引くのは、センターコンソールだろう。バイクの燃料タンクからシートに続くフォルムをイメージしたというだけに、実に有機的な形をしている。だがジュークの内装にあって最もユニークなのは、そのセンターコンソール前方に位置する「インテリジェントコントロールディスプレイ」と呼ばれるディスプレイだ。このディスプレイ、「AIRCON」「D-MODE」ボタンを押すことで、なんと表示内容はおろか、ディスプレイ横の操作スイッチ表示までガラリと変わってしまうのだ。これはディスプレイ裏側に配置されたふたつのLEDランプと、特定波長のみ透過する特殊なフィルタにより、表示を切り替えているのだが、スイッチ部の表示が丸ごと切り替わるというのは、見た目にすごく新鮮で面白い。また、D-MODE時にはディスプレイ左のスイッチで、「ノーマル」「スポーツ」「エコ」の3つのドライブモードを選択することが可能。エンジン、CVT、エアコンを協調制御させることで、シーンや気分に応じた走りができる。

その反面というか、ユーティリティのほうは意外と普通な印象。ワンアクションで前倒しでき、フラットな荷室とすることができるリアシートや、大容量アンダーボックスなどはあるが、特に新鮮というものではない。また、ホイールベースがノートより70mm短く、ルーフが後方に行くほどスラントしていることもあって、後席の開放感もソコソコといった感じだ。

だが、それらのネガがあったとしても、このジュークにはほかのクルマとは違う強烈なアピールがある。ハマる人には「ほかのクルマは考えられない」というほど刺さる要素が満載だ。「我々のクルマはフェアウェイにはない。ラフにある。だがOBではない」チーフプロダクトスペシャリスト、松富氏のこの言葉はまさに真実だ。「人生、平らな道じゃつまらない」と考えているアナタには、ぜひこのジュークをオススメしたい。ただし、現状は2WDだけなのであまりに深いラフは勘弁だ。

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