輸入車
更新日:2022.12.02 / 掲載日:2022.11.23
【VW ID.4】ついにやってきたVWの本格電気自動車を試乗レポート

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス
いよいよVWが日本でのEV戦略を本格化させる。その記念すべき第一弾となるモデルが、フォルクスワーゲンEVモデルライン「ID.」で世界戦略車として位置付けられるミッドサイズのクロスオーバーSUV「ID.4」だ。
e-GOLFなど従来のVW EVと決定的に異なるのは、既存のアーキテクチャではなく、EV専用アーキテクチャ「MEB」で開発されていることだ。MEB最大の特徴は、前後タイヤ間のフロア下に、大容量バッテリーを搭載できるようにしたこと。その結果、長い航続距離の確保に加え、ロングホイールベースが生むひとクラス上のモデルに匹敵する室内空間を実現しているという。
因みに、ID.4は、VW初のフルEVとなるSUVとして2020年に発表され、欧州、米国、中国でも生産。2021年だけで世界で12万台が販売されている。
電気自動車だからこそ成り立つプロポーション

ID.4のスタイルは、オンロード向けの都市型クロスオーバーにデザインされている。肉厚なボディとコンパクトなガラスエリア。そして、張り出したフロントバンパーなどが、力強さを演出しているが、プロテクションモールなどの演出は控えめ。だから、タフネスさというよりも、EVによる力強い走りを印象付けるのが狙いだろう。シャープな前後LEDランプは、最新VWとも共通するが、ライトデザインは、より凝ったもの。特にテールランプは、立体的にLEDライトを配置することで、イルミネーション的なアクセントとなっており、ユニークだ。EVの場合は、フロントスペースに収めるメカニズムが少ないため、ボンネットも短くできる。そのため、顔付きがフレンチブルなどのブサカワを彷彿させるものとなっている。それがEVで感じる無機質さを薄め、ID.4の親しみに繋がる。

メカニズムは、電動となるだけでなく、他のVWとも大きくレイアウトが異なる。エンジン車では、FF車が基本となるVWだが、ID.4は、後輪側にモーターを搭載する後輪駆動車となる。エンジン車でいえば、RRに近いのだ。パワートレインは2種類が用意される。「Lite」と呼ばれるグレードは、52kWのリチウムイオン電池を搭載し、航続距離は388km(WLTC)に。モーター性能は、最高出力125kW(170ps)、最大トルク310Nmだ。もうひとつが、「Pro」と呼ばれる上位モデルで、77kWのリチウムイオン電池を搭載し、航続距離は561km(WLTC)とする。モーターの出力も強化され、最高出力150kW(204ps)、最大トルクは同様の310Nmとなる。
因みに2台には装備差があり、「Pro」の方が贅沢な仕様となるが、重量差が190㎏もある。電池って重いんだなぁと実感させる数字だ。参考までに充電時間についても触れておくと、200Vの普通充電の場合、6kW出力で「Lite」が約9時間、「Pro」が約13時間となる。急速充電は10から80%まで充電した場合、94kWの高出力のもので、「Lite」約36分、「Pro」が約42分と公表されている。もちろん、この時間差は、性能ではなく、充電量の多さによるものだ。




スイッチ類を少なくしたプレーンで見晴らしのいい室内

インテリアは、余計な凹凸を強力抑えたプレーンなスタイルだ。
特にコクピットまわりは、必要な情報を集約したデザインで、コンパクトなメーターパネルで操作に必要なスイッチはステアリングホイールまわりに集約される。シフトスイッチを探すと、なんとメーターパネルの右サイドに設置。これほど高い位置にシフトがあるクルマは、BMW i3以来かも……。ただ乗降時に確認するメーターパネルの脇なので、シフトにはすぐに気が付けるだろう。またスタートボタンについても、ブレーキペダルを踏むと「ON」になる機構を備えるので、乗り込んでシートベルトを締め、Dにシフトというスムーズなスタートも可能となる。この辺のロジックは、EVならではと言えるだろう。
その他の細やかな設定などは、ダッシュボード中央のタッチスクリーンで行う仕組み。このため、ガラスエリアの視界を遮るものが、最小化されるため、前方視界も良好というわけだ。これは同時に開放感に繋がるので、ドライブの快適性も高まる。シート自体もゆったりしており、これならば大柄な男性も快適だろう。
後席は床がフラットとなるため、3名乗車も使いやすい。着座姿勢は、椅子に近い。もう少しフロアと座面の高さがあるとより快適とは思うが、現状も不満はないレベルであり、十分に快適なロングドライブが楽しめるだろう。ラゲッジスペースは、標準時で543L、後席を全て倒せば最大1575Lまで拡大するので、日常からレジャーまで、しっかり活躍してくれそうだ。






「誰もが使いやすいクルマ」をEV時代でも実現していく

乗り味は、良い意味で普通。ここでいう普通とはなにか。それはEVで有りがちな敏感なアクセルではなく、ドライバーがコントロールしやすい操作性が保たれていることを意味する。つまり、エンジン車に近い感覚の加速性能なので、楽に速度調整が行えるのだ。
もちろん、アクセルを全開にすれば、EVらしい俊敏さも見せるが、それも他のEVと比べると控えめ。しかし、そこがVWの狙いらしい。ID.4は、エンジン車から乗り換えても違和感のない走りを目指しているからだ。電動化の強みである加速の良さを武器としてアピールするのではなく、あくまでスムーズで静かな走りを重視したEVなのである。
正直、今、率先してEVに乗り換える人には、その味付けでは好みが分かれるだろう。しかし、複数のドライバーが共有するファミリーカーでは、そのナチュラルな味わいは強みとなるはず。もちろん、回生ブレーキも控えめとなるなど、もっとEVの強みを前面にだしても良いのではと思う点があるのも確かだが、確かに乗り易い。輸入車エントリーとして長年愛されるゴルフを送り出すVWならではのEVだ。ID.4は、EV初心者に優しい一台なのだ。ただ価格は、499万9000円~636.5万円と、ゴルフやT-ROCと比べると、ちょっとお高いのも事実。さらにナビゲーションシステムも、現時点では非設定だ。それらを含め、今後の発展に期待したところはあるが、IDシリーズがVWらしいEVを目指していることが確認できたことは嬉しい発見であった。