車の歴史
更新日:2025.06.21 / 掲載日:2025.06.21
新型登場で話題沸騰。ダイハツが誇る軽自動車の傑作 ムーヴ【名車の生い立ち#14】

先日、ダイハツ ムーヴがフルモデルチェンジを受けました。ここ最近はタントのような軽スーパーハイトワゴンに注目が集まりがちですが、実はムーヴもまだまだ人気モデルなのはご存知でしょうか。7代目となった新型ムーヴは手頃な価格でより広いユーザーに訴求するもので、今後もムーヴの人気は続きそうです。そんなわけで、今回はダイハツ ムーヴ30年の歴史を振り返ってみましょう。
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スペース系の新型軽自動車、初代ムーヴがデビュー

1990年代は軽自動車が大きく進化を遂げた時代でした。1990年に行われた軽自動車の規格改定により、ボディサイズが大きくなり排気量が550ccから660ccに拡大され、安全性や動力性能が大きく引き上げられたのがその理由。これを機に各メーカーから多様なモデルが登場し、軽の「安かろう悪かろう」の時代は過去のものとなりました。そんな折、1995年8月に登場したのがダイハツ ムーヴ。阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件など日本で大きなニュースが報じられたこの年の8月、期待のニューカマーとして華々しくデビューしたのです。
ムーヴがターゲットとしたのは、当時ホットだったハイトワゴン市場。そう、スズキ ワゴンRが独占する人気ジャンルを狙い撃ちしたのです。L500系ミラ(4代目ミラ)をベースにキャブフォワード型ワゴンとして仕立てたのは、スズキ ワゴンRと同じ。しかし、こちらは運転席側にもリアドアを備えた5ドアを採用しながら、ワゴンRと全く同じ79万8000円~という戦略的なプライスで対抗。そしてこれ以降、宿敵ワゴンRと苛烈なシェア争いをしていくことになります。
ムーヴは、ルックスも斬新でした。トリノ(イタリア)のデザイン会社であるI.DE.A社(イデア社)と共同で開発されたエクステリアはライバルと比べて一段と垢抜けたものに。特にAピラーからフロントバンパーに続く直線的なラインやグリルレスのフロントマスク(ムーヴカスタムを除く)は、現代の視点でも斬新な処理といえます。インテリアは、後部座席が左右独立のスライド&リクライニング機能が付いており、ヘッドレストを外すことでフルフラットにすることも可能。使い勝手も申し分のない完成度でした。ワゴンR一強の時代に待ったをかけたムーヴは、多くのユーザーに支持されました。
軽自動車の新規格に合わせて生まれた2代目

1998年、軽自動車は再び規格の改定が行われました。この改定のトピックは、ボディサイズの拡大。全幅と全高はそのままながら、全長が3.30mから3.40mに拡大したのです。これに合わせて各メーカーは一斉に軽の主力モデルをフルモデルチェンジ。そしてもちろん、ダイハツ ムーヴも乗り遅れることなくリニューアル。新しくなったムーヴは先代同様ミラと共通のプラットフォームが採用され、さらにSUVのテリオスキッドもこのファミリーに加えられました。
2代目ムーヴのエクステリアを手がけたのは、ジョルジェット・ジウジアーロ率いるイタルデザイン。シャープなデザインの先代から一転し、丸みを帯びたスタイルは新しい時代を感じさせるものとなりました。また、軽が新規格になったことで全長は100mm長い3395mmに。同時に衝突安全ボディ“TAF(Total Advanced Function)”を採用して安全性が高まったことも注目すべきポイントです。また、ラゲッジルームが広くなったことで軽ハイトワゴンとしての使い勝手も向上。ヘッドレストをつけたままリアシートを畳める左右独立ワンタッチ格納システムも採用され、さらに便利になりました。先代同様標準ボディのほか、丸目のヘッドライトが特徴的なムーヴカスタムも設定。こちらは若年層に高い人気を獲得し、アフターパーツなども豊富に展開されました。
ミニバンブームで再注目、使い勝手を高めた3代目

2000年代に入ると、ミニバンブームがやってきました。90年代までのミニバンといえば商用車ベースのものが中心で乗り味や装備もやや大味。しかし、新時代のミニバンは乗用車のプラットフォームを用いるのが主流になった結果室内が広く、セダンやワゴンから乗り換えるユーザーがどんどん増えていったのです。その風向きは軽自動車にまで及び、居住性や利便性が重視されるようになりました。そんななか、2002年10月にダイハツ ムーヴがフルモデルチェンジ。2002年といえば、日韓共催ワールドカップで盛り上がった年です。3代目となったムーヴは「生活革新!エキサイティングミニバン」というコンセプトで発売されました。

初代と2代目は共通のシャシーを採用していたのに対し、3代目はプラットフォームからリニューアル。エクステリアは、流行りのミニバン風となったことも話題となりました。リアは、初代ムーヴ以来のアイデンティティである縦長コンビネーションランプを採用し、ムーヴらしさをアピール。インテリアは、リアシートに250mmの左右一体式ロングスライドとワンモーション荷室フラット機構を採用し、利便性もさらに高まりました。誰にでも手が届く小さなミニバンとして、ムーヴは再度注目を浴びたのです。
クラスを超えた高品質ハイトワゴンを目指した4代目

2000年代半ばになると、各メーカーは多くの軽自動車を生み出しました。ダイハツもスタンダードなミラ、ハイトワゴンのムーヴに軸足を置きつつ、2002年にはスポーツカーのコペン、2003年にはスーパーハイトのタント、2005年にはカジュアル路線のエッセ、さらには2006年に流線型フォルムのソニカなど多彩なモデルで展開。ユーザーの多様なライフスタイルにきっちりと応えて行きました。だからこそ、核となる新しいムーヴには大きな期待が寄せられていたのです。
そんななか、2006年10月に4代目ムーヴが登場。今回はプラットフォームからエンジンまで全てを一新。エクステリアは、ビッグキャビン&コンパクトノーズをさらに進化させ、バンパーからルーフまで滑らかな曲線を描く流麗なデザインとなったのが見どころです。特にバンパーからピラーまで続くラインは、初代ムーヴのオマージュといっていいもの。一方ムーヴカスタムでは、伝統の4灯タイプのヘッドライトや大型フロントグリルを採用したほか、ビームサーベルをイメージした縦型リアコンビランプを導入し、よりスタイリッシュなものとなりました。

プラットフォームを一新したことで、ホイールベースは2490mmのロングホイールベースを採用。当時の軽自動車のなかではトップクラスの室内長2110mmを実現したほか、前後カップルディスタンス(前後の乗員同士の距離)は1065mmと、ライバルと比べて圧倒的な広さを身につけたました。また、標準モデルでは2トーンカラーのインパネ、ムーヴカスタムではメタリック調のデザインや自発光式メーターを採用し、質感も大幅にアップ。パワートレインは新設計「KF-VE」エンジンとCVTを導入し、洗練された走りと低燃費を実現したことも4代目の特徴といえるでしょう。
アイドリングストップでエコカー需要に応えた5代目

2010年代に入ると、燃費に優れたエコカーのニーズが増えて行きます。この時代、特に注目を集めたのが「電動化」という言葉。日産から新型電気自動車「リーフ」が発売されたほか、ハイブリッドカーなども増え始めた時期で、電動化は今後のキーになると多くのひとが考えていました。2009年から始まったエコカー減税制度も追い風となったことで、世にエコカーブームが到来。軽自動車はもともと小排気量で低燃費なクルマが大半でしたが、さらに踏み込んだエコテクノロジーを盛り込む必要に迫られたのです。

そんななか、2010年12月にはムーヴがフルモデルチェンジを受けて5代目が登場。新型ムーヴの新機軸となったのは、新開発のアイドリングストップ機能「eco IDLE(エコアイドル)」の導入でした。これは、信号待ちなどでエンジンが自動的に停止し、発進時に再びエンジンが作動するもの。また、第2世代のKF型エンジンを搭載したことで、10・15モード燃費は27.0km/Lを実現しました。また、軽自動車最大(2010年12月発売時)となる室内幅1350mmとなったことで、ゆったりくつろげる空間に。2012年12月のマイナーチェンジでは、クラストップレベルのJC08モード29.0km/Lの低燃費を達成するとともに、軽自動車初となる衝突回避支援システム「スマートアシスト」を搭載するなど、軽という枠を超えた環境性能と安全性能を身につけました。
時代のニーズに合わせて進化を遂げた6代目

2014年12月、ムーヴはフルモデルチェンジを受けて6代目が登場しました。開発コンセプトは「次世代ベストスモール」。昔とは異なり、もはや軽自動車は我慢して乗るクルマではなく、ライフスタイルによって積極的に選ぶものになっていきました。だからこそ基本性能の向上や先進装備の充実は不可欠な要素。とはいえ、軽の本質である優れた燃費性能や手頃な価格であることも要求され、軽自動車開発のハードルはどんどん上がっていったのです。

そのどちらも両立したのが6代目ムーヴ。プラットフォームは、軽量高剛性ボディ骨格「D monocoque(Dモノコック)」を採用し、走りの性能は飛躍的に高まりました。また、内外装の質感も進化し、リッターカーと遜色のないものに。特に注目なのが、ムーヴカスタムに設定された新グレード「ハイパー」。こちらには、ダークメッキのフロントグリルを採用して迫力あるエクステリアを構築。室内には、ブルーステッチを施した本革+ファブリックシートを採用して高級感を演出しました。また、燃費はJC08モードで31.0km/L(NA/2WD)を達成。安全面では、スマートアシストに後方誤発進抑制機能を追加するなど、こちらも進化。今まで以上にリッチなクルマとなったのです。

しかしながら、すでにこの頃は軽スーパーハイトワゴンが台頭していた時代。ムーヴよりも広くて快適なタントが販売台数を伸ばしており、スライドドアを持たないムーヴは以前ほどの勢いはなくなっていました。そこで2016年9月に投入されたのが、ムーヴの派生車「ムーヴキャンバス」でした。ムーヴという名前は持つものの、中身は別物。最大の特徴は両側スライドドアを採用したこと。また、上級ミニバンのような押し出し感の強い本家ムーヴとは異なり、こちらは女性をターゲットとした柔和なデザインを採用したのが特徴です。その後、ムーヴとムーヴキャンバスの2モデル構成で販売されましたが、6代目ムーヴはモデルチェンジを受けることなく9年間販売された後、2023年6月をもって生産終了してしまいました。一方、ムーヴキャンバスは2022年7月にフルモデルチェンジを受け、本家に代わってムーヴブランドを牽引していくことになったのです。
2年のブランクを経て復活した新生ムーヴ

2023年の生産終了から2年経った2025年6月、ムーヴは新しくなって帰ってきました。初代が誕生してから30周年という節目もあり、華々しい復活を遂げたのです。7代目となるムーヴの最大の特徴は、スライドドア全グレードに標準装備したこと。すでにムーヴキャンバスで導入されていましたが、いよいよ本家のムーヴにも設定されたのです。タッチ&ゴーロック機能、ウェルカムオープン機能、スライドドアイージークローザーなどの便利な装備もしっかり盛り込まれているので、利便性は格段にアップしました。また、DNGAのプラットフォームを採用したことで、加速性能、操縦安定性なども改善。なお、初代から続いてきたムーヴカスタムは廃止され、スポーティ系は「RS」グレードにまとめられました。

30年にも及ぶムーヴの歴史を振り返ると、時代に合わせた進化を続けてきたことがわかります。タントのようなスーパーハイトワゴンにかつての地位を譲りつつも、適度な車高で安定した走りが楽しめること、そして高騰の一途をたどった価格に歯止めをかけ、138万8500円からという手頃な価格を実現したことも注目すべきポイントでしょう。新しくなったムーヴ、今後も多くのユーザーに愛されることは間違いありません。
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ライタープロフィール
1977年の中古車情報誌GOOの創刊以来、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。
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