車のエンタメ
更新日:2018.11.27 / 掲載日:2017.04.04
世界で2台! 走れるプロトタイプ、日産Blade Gliderを体験
文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
電気自動車の走りはつまらない……。実際はそんなことがなくむしろ楽しいのだけれど、残念なことに世の中一般にはその事実がなかなか伝わっていない。それなら論より証拠、というわけで日産が企画したのが「NISSAN INTELLIGENT POWER体験会」という名のメディア向けのイベントだ。
「日産インテリジェントパワー」とはモーターで走る電動駆動車を中心とした先進車両を指す総称。日産によると「ダウンサイズターボやエクストロニックCVTといった燃費向上や快適な走りを実現するための既存技術も含まれる」とのことだが、話がややこしくなってくるのでここではシンプルに電動駆動、つまりエンジンではなくモーターで駆動力を生み出して走る車両を中心に話を進めていこう。
イベントには原付登録の超小型モビリティとして「チョイモビ」として横浜市でおこなわれているカーシェアリングで使用される「NISSAN NEW MOBILITY CONCEPT」から市販のリーフやノートシリーズのノートeパワーまで数多くの電動車両が用意されていたが、メインはやっぱり「Blade Glider(ブレードグライダー)」。なんとも先進的なこの車両の走りを、同乗とはいえ体験できるという貴重な機会なのだ。
ブレードグライダーは市販車ではなく、なんともユニークな形をしたコンセプトカー。遡れば2013年の東京モーターショーでお披露目されたものだが、その後も開発は継続しており昨年には「きちんと走れるプロトタイプ」として再び姿を現した。
前輪のトレッドが狭く、フロントノーズが細く長いデザインは真上から見ると三角形のよう。そして1列目はドライバーシートを中央に、2列目を左右二人掛けとした特殊なシートレイアウトを採用。日産のグローバルデザインセンターと日産デザインヨーロッパが共同で担当した特殊なデザインと奇抜なパッケージングは市販されていないどのクルマとも異なる個性があり、未来を感じさせてくれる。
ハイライトはなんといってもパワートレインだ。高出力モーターとリチウムイオンバッテリーを組み合わせた電気自動車だが、単に市販のリーフに組み込まれているものを流用したわけではい。ウィリアムズ・アドバンスド・エンジニアリング(F1で有名なウィリアムズの一部門)の手によりまったく別物のシステムがブレードグライダーのために開発されたということからも、このクルマにかけた意気込みが伝わってくるというものだ。
バッテリーは5個のモジュールで合計200kW。この数字が市販リーフ(後期型で追加された大容量バッテリー版)の6倍以上と聞けばその凄さが理解できるだろう。モーターは左右それぞれにインホイール式に装着されており、各130kW(177ps)。合計での最高出力200kW(272ps)、最大トルク707Nm(72.1kgm)というとんでもないハイパワーだ。その結果、最高速度は190km/h、0-100km/h加速は5秒以下という俊足を誇る。
スルスルスルと静かにスタートし、次第にシューンと素早く加速していく様子は従来のエンジン車の高性能車とはまったく印象が異なるものだ。今回、リヤシートへの同乗ながらその走りを体験することができたのだが、加速感は想像を超えていたことを素直に白状しよう。EVはスムーズで速い加速が特徴だが、このブレードグライダーは出力に余裕が増していることからその印象は市販リーフよりもさらに強かった。まるで雲、それも筋斗雲にでも乗っているかのような滑らかさだった(雲には乗ったことないので想像だが)。
日産はこのブレードグライダーが「ニッサンインテリジェントパワーを象徴する存在」であり「EVのFun to driveを実現」というが、確かにそれも納得。EVといえばエネルギー効率の良さが強調されることが多いが、実際に乗ってみるとその走りの爽快感の虜になる。日産の狙い通りでなんとも悔しいのだが、EVは走りの愉しさでいっても決して退屈でもつまらない乗り物でもなく、興奮できる加速性能とフィーリングを持っていることを同乗体験で改めて感じることができた。
もちろんコーナリングに関しても同乗で分かったことがある。それはコーナー進入時の回頭性の高さだ。重心が低く、そして重量物が車両後方に集中していることによる車両前端の軽さからハンドル操作に応じてスススッと素直にクルマの向きが変わっていく様子は後席からでもしっかりと理解できた。しかもハンドリング性能を高めるため後輪には左右に伝わるトルク配分を自動的に制御するトルクベクタリングシステムが組み込まれていて、システムは「off」「agile」そして「drift」という3つのモードを設定。EVとドリフト……なんとも意外な組み合わせだが、速さだけでなく「走りを楽しむ」という面でもEVは高い可能性があることを示唆しているトピックといえる。
また今回のイベントでは、ブレードグライダー以外にもいくつかのインテリジェントパワーのクルマが用意されそれらは自分で運転することもできた。そのうちの1台はリーフのパワーユニットを活用して作られたレーシングカーの「リーフRC」で、モーター駆動がいかに爽快かを味わうことができた。それは絶対的な速さに違いがあるとはいえ、市販の電気自動車リーフやエンジンで電気を起こしてモーター駆動するノートeパワーでも同じだったのは言うまでもない。
この体験を通して、日産の持つEV技術がエコロジーなだけでなくエキサイティングなドライビングをももたらしてくれることはしっかりと理解できた。だからこそあえて日産に注文を付けたいのは、次はインテリジェントパワーを活用してその「楽しさ」を広くアピールするようなクルマを発売するべきではないだろうか。たとえば、思い切りドリフトを楽しめるモーター駆動のFR車なんてどうだろう。電気自動車でもいいし、eパワーを活用したフロントエンジン・リヤドライブもいいかもしれない。そんな“先進テクノロジーのシルビア”のようなクルマに乗ってみたいと思う日産ファンはきっとボクだけではないだろう。元シルビア乗りのひとりとしても、そんな楽しさを詰め込んだクルマの登場に期待しないわけにはいかない。
Blade Glider(ブレードグライダー)
車両のバッテリーから給電するヴィークル・トゥ・ホームのデモンストレーション
電動パワートレーングループ パワートレーン主管の仲田氏。プレゼンの照明も車両から給電した電力で賄われていた
コンセプトカー日産NAVARA EnGurd Concept
超小型モビリティ チョイモビ。