車のエンタメ
更新日:2025.12.31 / 掲載日:2025.12.31
ショー取材でわかった! 国内ブランド未来予想図
Japan Mobility Show 2025 ダイジェスト
国内10ブランドの未来予想図
コンセプトモデルやプロトタイプなど、ショーモデルには各社のカラーが如実に表れる。ジャパンモビリティショー2025の出展内容から国内ブランドの進む道が見えてくる!?
●文:横田 晃 ●写真:澤田和久
※本記事の内容は月刊自家用車2026年1月号制作時点(2025年11月中旬)のものです。
CENTURY《センチュリー》
量産にこだわらず、オーダーメイドのセレブ御用達ブランドへ
JMS開幕の直前にエアフォース・ワンで日本にやってきたアメリカのトランプ大統領は、世界の訪問先でそうするように、大統領専用車、通称ビーストを都内で乗り回し、たっぷりと日本流のおもてなしを受けて上機嫌で日本をあとにした。
そのもてなしの極めつきが天皇陛下との謁見であり、ビーストとランデブー走行した現行センチュリーのSUVだった。
歴史が浅いがゆえに欧州のような貴族階級を持たないアメリカでは、本物のハイネス=上流階級への憧れが根強くある。ビジネスマン出身のトランプ氏にとっては、2000余年の歴史を誇り、世界でも唯一となった日本のエンペラーと対等に口を利くことは大きな名誉であり、自身の箔をさらに増す、嬉しいイベントだったに違いない。
JMSでのクーペモデルの発表とともに、そこにセンチュリーSUVが登場したことには、じつは大きな意味がある。長い歴史と伝統を誇る日本のものづくりの心を受け継ぎ、工業製品というよりも工芸品に近い工程と思想で生み出されたセンチュリーは、じつは日本にも息づくハイネスのために生まれ、これから世界で存在感を増すであろうブランドであることを、世界の目が東京に集まり、ニュースで発信される機会に示したのだ。
ガチガチの平等論者には許しがたいかもしれないが、日本を含む世界には、まだまだ庶民とは住む世界の違う人々がいる。それはたんにおカネを持っている成功者といった意味ではなく、生まれながらに尊敬されることを運命づけられたような人々だ。日本の皇族もふくめて世界の多くの古い国や街にいる、“名家”と呼ばれることの多い彼らの価値観に見合うブランドとして生まれるセンチュリーは、おそらくトヨタにとっては必ずしも大きな儲けを生まない、けれど世界におけるステイタスをさらに高める役割を果たすはずだ。
だからこのブランドの主な舞台は海外になるだろう。日本から職人を呼び寄せて本格的な日本庭園を作らせ、盆栽をめでるような、和の心と技を愛する世界のハイネスに、ほぼオーダーメイドで仕立てられ、送り届けられるブランドになると思われる。
それをシンボルとして、量産車の頂点として君臨するレクサスと、最高の実用車としてのトヨタ、さらにクルマ好きを唸らせる走りのブランドとしてGRを擁することになる。まさに盤石のラインナップではないか。
CENTURY(クーペ)




CENTURY(GRMN仕様)

CENTURY(SUVオーダーメイド仕様)


LEXUS《レクサス》/TOYOTA《トヨタ》/DAIHATSU《ダイハツ》
各ブランドが補完し合って万全の構えに
レクサスはJMSでは6輪ミニバンで人々の度肝を抜いたが、このブランドの立ち位置を考えれば、じつは不思議ではない。初代LSがビル・ゲイツに愛用されて話題になったように、もとよりレクサスは合理的なビジネスリーダーが似合う高級ブランドだ。
現在はLクラスミニバンのLMがアジアでもバカ売れしているが、日本でも企業の経営陣や政治家などが、動く執務室としてアルファードやレクサスLMを使うシーンは珍しくなくなっている。世界的にLクラスのセダンが凋落している中で、その地位をミニバンが受け継ぐことは、いわばトレンドなのだ。
JMSではメルセデスベンツもビジョンVと称する高級ミニバンを展示していたように、そのトレンドはこれから欧米へも広がっていくだろう。レクサスはそうした、アクティブな成功者たちのトレンドの最先端を走ることを義務付けられた高級ブランドなのだ。
だからカタマランと呼ばれる双胴船舶やパワーボート、ジョビイと称する空飛ぶクルマまでレクサスブランドで擁するのも当然のこと。走る執務室である6輪LSの車内で会議を終えたエグゼクティブが、EVのLSクーペを駆って週末を過ごす海辺のレクサスハウスに向かい、翌朝にはカタマランやパワーボートで海を楽しんで英気を養って、空飛ぶクルマで次のビジネスに駆け付けるといったライフスタイルがレクサスの世界観なのだ。
そのうえで、量販ブランドであるトヨタでは、未来のパワートレーンがどんな方向に向かおうと対応できる次世代カローラが世界のベストセラーであり続け、庶民の週末のささやかなアウトドアライフはbZ4XやランドクルーザーFJがしっかりカバーする。
もちろん、暮らしを支える物流のモビリティも手抜きなし。ハイエースを頂点に、働き手の年齢や性別、障害の有無まで問わないKAYOIBAKOコンセプトのアイテム群が、街の隅々までカバーする。もしかしたらトヨタは、商用車シリーズのKAYOIBAKOのブランド化も狙っているかもしれない。
モビリティの基盤を支えるダイハツの軽自動車もフルラインナップだ。ストロングハイブリッドの軽自動車が人々の足として活躍する一方、本格的なFRシャシーのコペンで走り好きを泣かせ、街のビジネスカーも次世代ミゼットからEVのアトレーまで完備する。
未来のモビリティは、トヨタグループにすべておまかせというわけだ。
LEXUS LS Concept



LEXUS LS Coupe Concept


LEXUS Sport Concept


TOYOTAKAGO-BO

DAIHATSU KAYOIBAKO-K

DAIHATSU K-VISION

NISSAN《日産》
電動化を進めつつラインナップの充実を図る
カルロス・ゴーン元社長の事件後、株主であるルノーとの関係を対等まで改善したものの、その後も長らく社内が混乱して巨額の赤字に陥ってしまった日産。現在は新社長のハンドリングの下で、ようやく本来の実力を発揮できる環境を取り戻しつつあるようだ。
JMSでワールドプレミアとなった新型エルグランドは、それを告げる号砲だ。’26年1月から国内向けデリバリーが始まる新型リーフや、’27年度前半の国内導入がアナウンスされた新型パトロールなど、元気のなかった国内市場にも、ようやく新車の導入が本格化することがアナウンスされている。
イヴァン・エスピノーサ社長が進める経営再建策、Re:Nissanでは、各市場の特性を見極めて最適なモデルを投入する戦略が示されている。JMSではプレスデーのみの展示だった欧州仕様EVの新型マイクラ(マーチ)と、中国向けのスタイリッシュなEVセダン、N7はその一例だ。
その仕上がりはなかなか魅力的で、国内でも話題を呼びそうと思わせた。今日の日本が、世界の市場と大きく価値観が異なるとは思えない。せっかくの魅力的なモデルは、積極的に日本市場にも導入してほしいところだ。
N7


MICRA


新型エルグランド

パトロール

HONDA《ホンダ》
EV時代にも通用する「ワクワク」とは——
2輪、4輪車から耕うん機、汎用エンジンに船外機、ホンダジェットで陸海空を制した上に、着陸再使用が可能なロケットの実験にも成功し、宇宙のモビリティまで手がけることをJMSのブースで示したホンダ。
2040年のエンジン車からの完全撤退の方針は維持するホンダだけに、ショーの2輪、4輪の展示ではやはりEVが目立ったが、動力源や活躍の舞台を問わず、ホンダらしいワクワクできる総合モビリティメーカーであり続けることを宣言している。
世界初公開となったEVコンセプトのSuper-ONEも、キュートな外観とは裏腹に、スポーツ走行を盛り上げるBOOSTモードを搭載。スイッチオンで出力が増大するだけでなく、エンジン車のようなギヤが切り替わる感覚とエンジンサウンドが轟いて、ドライバーをやる気にさせる演出がされている。
類似のシステムはハイブリッド車の新型プレリュードにも搭載されていて、それをギミックと言ってしまえばそれまでだが、走りを知り尽くしたホンダだからこそ、そういう遊び心にも説得力があるとも言える。
狙い通りの特性や演出が実現可能なEVは、じつは作り手のセンスが問われるのだ。
Honda 0 α(アルファ)


Honda 0 SUV

Honda 0 SALOON(サルーン)

Honda Micro EV

Acura RSX Prototype

MAZDA《マツダ》
独自のこだわりで走る歓びに邁進していく
「走る歓びは、地球を笑顔にする」をテーマに掲げ、マツダは魂動デザインにますます磨きをかけて、ロータリーエンジンも諦めないことをJMSで明確に発信している。美しくてかっこよくて、音や振動もふくめて走りを楽しめる、ZOOM-ZOOMなクルマを作り続けるのがマツダというわけだ。
もちろん、エンジン車に全振りではなく、オリジナルのストロングハイブリッドシステムの開発も明言しているし、ロータリーエンジンも発電専用としたシリーズハイブリッドをすでに世に出しているが、「やっぱエンジンの鼓動って、気持ちいいよね」という共感こそ、ブランド価値だと言っているのだ。
JMSで発表されたCO2回収システムやカーボンニュートラル燃料を使ったエンジン開発など、環境性能と燃料を燃やして走る歓びを最大限に両立させる技術は、その共感を具現化するための、こだわりの表明でもある。
今回のブースでは大型クーペも公開されたが、注目は小型車。マツダビジョンXコンパクトの車名で発表されたコンセプトカーは、ほぼこのイメージで次期マツダ2となるはず。マツダらしさの要となる次期ロードスターも、すでに開発終盤だろう。
MAZDA VISION X-COUPE



MAZDA VISION X-COMPACT



MITSUBISHI《三菱》
“三菱らしさ”に貢献する技術開発に余念がない
三菱ブースのテーマは「FOREVER ADVENTURE」。それを支えているのは、同社の持つ電動化技術と4WD技術だ。
電動化技術はアライアンスを組む日産と同じ強みだが、じつはランエボでもおなじみの精緻な電子制御4WD技術との組み合わせこそが、三菱が三菱らしくあり続けるポイントとなるコア技術なのだ。
JMSに展示されたコンセプトカーのELEVANCE Conceptも、各タイヤを独立して駆動する4モーターシステムとアナウンスされている。それで何ができるかというと、普通の1モーター式4WDでは乗り越えられないような大きな段差も、前後各輪が協調しながらゆっくりとよじ登れてしまう。
しかも、そのために特別な運転技術はいらず、ドライバーは普通に発進操作をするだけ。もちろん物理的な限界は必ずあるが、これまでなら特殊な技術やメカニズムを必要としたシーンでも、誰もが容易に走破できるクルマが、三菱の技術で可能になるというわけだ。
同時に、そのメカニズムを活かした心地よい走りの味わいの作りこみにも、近年の三菱は力を入れているようだ。4WD+EVだからこその魅力の実現を期待したい。
MITSUBISHI ELEVANCE Concept





SUBARU《スバル》
パワートレーンが変わってもスバルの真価は不変
スバルの未来戦略は、EVでもエンジン車でもユーザーに積極的に選ばれる、個性的なブランドであり続けること。米国でフォレスターなどに設定されて好評のウィルダネスに代表されるアドベンチャーと、かつてはWRCで、近年ではサーキットで活躍するパフォーマンスという2つの柱がその原動力だ。
本格的な走破性を追求したウィルダネスシリーズは、日本のオフロード程度ではオーバースペックの内容だが、だからこそ、ホンモノを手にする歓びが味わえる。いわば作家物のカスタムナイフのような魅力だろう。
クルマの根源的な魅力である、ターマックでの走りを究めるパフォーマンスもそう。公道で全性能を引き出すことは許されないオーバースペックが価値となるラインだが、エンジン車でもEVでも、スバルらしい走りが楽しめるというのがメッセージだ。
各社の開発者が、今や純粋な走りのパフォーマンスではEVのほうが上という。これまでは実用車としての性能で語られてきたEVも、これからはかつてのエンジン車と同様にどれだけ楽しく、安全に楽しめるかという個性の勝負になる。スバルの真価は、その領域でこそ発揮されるというわけだ。
Forester Wilderness prototype


Trailseeker prototype


Performance-E STI concept

Performance-B STI concept

SUZUKI《スズキ》
地に足の着いた堅実な取り組みで地歩を固めていく
他社が頼みとする北米と中国の市場を、すっぱりと諦めたことで躍進しているのがスズキ。インドや東欧といったこれからの発展が期待できる市場に強いだけに、未来戦略でも地に足の着いた取り組みが目立つ。
JMSでは気軽な街乗り軽EVのコンセプトカーが発表されたが、これは270㎞以上と控えめな航続距離に抑えたEVだけでなく、次期ワゴンRのデザインスタディも兼ねたコンセプトカーと考えるのが自然だろう。
トヨタ、ダイハツと共同開発した商用軽バンEVや、電動SUVのeビターラなど、現実的なEV対応をぬかりなく進める一方で、スズキらしいのがFFV=フレックスフューエルビークルと称するシリーズだ。
トウモロコシやサトウキビから作られるバイオエタノールや、インドでは大量に発生する牛糞から作られるバイオガスを燃料とするクルマの開発に本気で取り組んでいる。インドにスズキがバイオガス工場を建設し、10頭の一日分の牛糞からクルマ1台が一日走れるガスを作り、供給する計画も進んでいるのだ。
CO2排出量にカウントされないこれらの燃料は、普及できればカーボンオフセット対策の革命になるかもしれない。
e EVERY CONCEPT

フロンクス FFV コンセプト

MOQBA(モクバ)2

MITRA コンセプト


Glydways
