車検・点検・メンテナンス
更新日:2018.04.27 / 掲載日:2018.04.27

足回りの達人 1:ショックアブソーバーのOH術

ビルシュタインの達人に聞く
クルマのボディコントロールの要諦!

経年変化するため、 2年毎のチェックを推奨

取材協力:株式会社ラック

 サスペンションのパーツの中でも、ショックアブソーバー(SA)はクルマの乗り心地やボディコントロール(ロールやピッチングなどの制御)を決める重要なものとなっている。SAはシリンダー内にあるオイルの流動抵抗を利用して、クルマの上下振動をすばやく抑えるために使われるが、オイルを使用するほか、しゅう動部があるので徐々に性能が低下してしまう。一般的な純正装着品は、劣化や不具合(ガス抜けやオイル漏れ等)があると丸ごと交換されるが、スポーツタイプではオーバーホールして性能を回復させたり、セッティング変更ができるタイプもある。そこで、使い込んだSAでは、どのような部分にダメージが発生するのか?どんな方法でオーバーホールされるのかをラックさんで見せてもらった。
 担当の坂牧さんは、この道30年の大ベテラン。長年積んできた豊富な経験と技術の高さや的確なアドバイス力で、カーメーカーの新車開発でSAのセットアップやチューニングを行ったこともある。また、ドイツ本国のビルシュタイントレーニングセンターにおける認定エンジニアでもある。
 今回は、ランエボで使われていた倒立型のフロントSAのオーバーホールを行ってもらった。外観からしてもかなり使い込まれた様子である。
 坂牧さんに言わせると、SAのコンディションを良い状態に保つには2年ごとくらいにOHするのがオススメという。特に倒立型では、アウターシェルとチューブがスライドする部分のダストシールの劣化やグリースの減りなどがあるので、ノーメンテナンスでは、過度に消耗が進んでしまう恐れがあるのだ。そうなると、交換しなくても良いパーツまでダメージを受けてしまうので結局は高く付いてしまうことにもなる。

倒立式なので、ピストンロッドの先端がアウターシェルの底に固定されている。ロック剤が塗布されていて固着しているので、温める。自作のロックナット解除ツールでロッド先端を痛めずに外す。初期の緩めに成功したら通常工具で回せるようになる。

Point!ショックの作動で水が発生する!?
倒立式ショックアブソーバーは、ケース下側の大気が圧縮収縮を繰り返すので凝縮水が発生し、サビの元に。全長調整式車高調でネジが固着する原因にもなる。そこでラックのオリジナル品は通気の小孔が設けてある。

アウターシェルからショックアブソーバー本体を取り出す。特にメンテナンスは行っていなかったようだ。アウターシェル上部のオイルシールが劣化で切れている。

アウターシェルの内部。逆さまになっているショックアブソーバーのチューブは上下のメタルで支持されている。さらにメタルの間にはグリースが入っている。このグリースがシェルの下側に少しずつタレていき、量も減ってくる。もう少し早くOHすべきだった。

構成パーツと基本交換パーツ
主要部を分解した状態がこれ。アウターシェルは通常外から見える部分で、スプリングが付けられるほか、車両のナックル側と接続され、サスペンションの構造部材として機能する。その下にあるのがショックアブソーバー本体。太いチューブのあるほうにピストンやオイルなど減衰力を発生させるメカが入っている。通常の正立式、あるいは複筒式とは逆である。上下のメタルが接触する部分があるため、使い込んだチューブの外側は2箇所で光沢部がみられる。ショックアブソーバーの下は消耗パーツ。メタルは円筒のもので、通常は摩耗が進むアッパー側のみ交換でOK。その他、アウターシェルのパーツではオイルシールやワイパーを交換。

ピストンロッドは特にシビアにチェックされる

 SAでトラブルを起こしやすい部分にピストンロッドのキズがある。要注意エリアは常用ストローク域で光沢が出てくる部分。オイルが漏れているような場合、異物を噛み込んでキズが付いていることがある。SA内部にはオイルがあり、窒素ガスが封入されているので、キズをきっかけに、オイルが滲んくることもある。こうなると、性能が急速に低下するのでオーバーホールするか、アッセンブリー交換することになる。
 ちなみに、ピストンロッドは内部のオイルで潤滑していて、外部に露出している部分も薄いオイルフィルムが生成されている。そのためクルマを長年止めたままにしておくとオイルフィルムが失われ、次の走行でカジリを発生させることもある。普段乗らないクルマのエンジンを定期的に掛けてオイルを回して調子を維持するのと同じように、SAも定期的に走行してオイルフィルムを維持したほうが良いそうである。
 今回オーバーホールしたものでもピストンロッドにはわずかな線キズがあった。このSAは倒立式なのでピストンロッドはアウターシェル内部にあるが、それでもキズがつくことがあるのだ。幸いキズは軽度だったので、旋盤で回転させながらサンドペーパーで研磨修正可能なものだった。そのようなキズも言葉で言うと簡単に発見できそうだが、漫然と眺めても全くわからないレベルのもの。坂牧さんの元には、オイル漏れを起こしたSAの診断品がプロから持ち込まれることもある。それは、オイルが漏れていても、どこにキズがあるのか現場では判定できないもの。爪先が少しでも引っ掛かかるものは、トラブルを起こすに十分なレベルとなる。

アウターケースからショック本体を取り出す。ダミーのチューブを入れて、シェル上部にあるストッパーをプーラーで抜き取る(ないモデルもある)。ドライバーを加工したバーでダストシールを抜き取る。アッパーメタルを取り出すため、タガネで折る。折り目を作って、プライヤーでメタルを取り出す。

内部に残っているグリースをヘラで丁寧にかき出す。このグリースいかんで上下動のフリクションが大きく変わるくらい重要なもの。黒く変色しているのが分かる。下部にあるワイパー部を取り出す。ここからショックアブソーバー本体の分解。タガネでキャップを取り外す。ピストンのガイド部が見えるが、ここからはより高度な技術が必要。

常用ストローク部の摩耗チェック
倒立式なので、ショックアブソーバー自体に加わる曲げ力は少ないが、常用時にピストンロッドがガイドとしゅう動する部分では光沢がでてくる。摩耗や異物噛み込みのダメージが出やすい部分なので入念にチェックする。

ショックアブソーバー本体の分解。単筒式は内部には高圧の窒素ガスが封入されている。独自のマシンを駆使して、OHする。デジタル表示は反発力計。ガイドキャップのクリップを外し、徐々にガイドを抜き出す。このように泡が出てくる場合はオイル中に窒素ガスが混ざっている状態。反発力を見ながらゆっくりピストンを上げていくとリバウンドストッパーが現われる。最後にフリーピストンが出てくる。この下に窒素が封入されていたのだ。

ピストンの分解。シリンダー内部の上面に薄くサビがでている。ここは後で研磨する。ピストンロッドを治具に固定。ナットを外してピストンとシムを取り外す。

ピストンの上下(伸びと縮み側)にあるシムを順番に並べてチェックすると、固形状のスラッジがでてきた。これがシムに挟まると減衰力が狙い通りに出ない原因となる。

減衰力を測っても劣化の正体は掴みづらい

 今回オーバーホールしたSAは、ラックで設定されている基本メニューで洗浄や消耗パーツの交換が行われた。倒立式なのでアウターシェルのアッパーメタルやグリースは交換され、SA自体ではフリーピストンのOリングやピストンシール、ガイド部が交換されている。もちろんオイルも新品となり、内部のスラッジも排出されている。
 また、坂牧さんは単にオーバーホールするだけでなく、1本ごとにカルテを作って保存している。具体的には、シムの寸法を一枚一枚測定するなどしているのだ。ビルシュタインの場合、工場で組み立てる際に、公差範囲に収めるために小径シム一枚を使ってアジャストすることがあり、同じ車両に装着されていた左右でも、シムが異なる場合があるためだ。
 オーバーホール後のSAは減衰力も測定されるが、これは数字を狙っていくというより組付けが正しいかをチェックする意味で行なっている。SAはピストンのストローク速度と向き(伸びや縮み)に見合った減衰力を発生するのだが、減衰力を測ってグラフ化しても、それだけで劣化度合いを判定するのが難しいという。セッティングを変える場合でも、実車での挙動をみたりドライバーの希望を聞いて、それを元にシムを変えているのだという。今回の比較でも、ピストンスピードが0.1m/sまでは、OH前の方がわずかに上回っているし、圧縮側に関してはほとんど同じ特性になっている。それでも手押しで動きの違いがハッキリ分かるのが不思議なところである。
 ラックでは、事前予約することで日帰りオーバーホールできるメニューも用意されている。興味のある人は一度相談してみるとよいだろう。

ピストンロッドはわずかな線キズも見逃さない
ピストンロッドのチェックで、わずかな線キズが見つかった。坂牧さんに教えてもらっても、素人だと見えるのに時間が掛かるくらいの細いもの。このままだとオイル漏れの原因となるが、旋盤と#800以上のペーパーを使って修正することができる。

これは純正装着タイプのビルシュタインで非分解式。オイル漏れの調査で送られてきたもので、スプリングシート付近にホコリが吸い寄せられている。坂牧さんチェックによると、異物の噛み込みで線キズができたようで、本体の不具合ではないと判断された。

分解されたピストンやシムはホワイトガソリンで洗浄。エアブローして再度並べられる。シムの変色した部分はそのままで問題ない。チューブ内(シリンダー)も上端のサビを除去し、キレイに洗浄される。

ショックアブソーバーのセッティングを決める重要なパーツが各種のシム。ビルシュタインはこのシムが非常に豊富なのがメリットで、多数の径がある。単に数が多いというより、刻みが細かく設定され、よく使われるサイズでは0.25mm刻みとなっている。

ピストンやシム、ピストンロッドは再使用できることが多い。ピストンロッドにシムを元通りにセット。ピストンを載せさらにシムを重ね、ロックナットを装着。組み上がったピストンは、オイルに浸しておき、シムとピストン間のエア抜きを実施。他のパーツも、オイルに浸しておく。フリーピストンのOリングは新品に交換。ピストンシールは平たい状態で供給されるが、オイルに浸してからピストンに装着。シリンダーへの組み付け時はエア抜きを徹底する。

アウターシェル内部のグリースを新品にする。適量を取り内部に均等に塗布される。工程上はこちらの方が先で、ロワ側メタル下にあるワイパーを装着。内部にキレイにグリースが塗布されている。これでチューブの動きもなめらかになる。OHされたショックアブソーバー本体が入れられる。

ショックアブソーバーテスターで、減衰力を測定。これは組み間違いなどのエラーがないかをチェックする目的で使用する。減衰力データは参考値としてみる。どちらかというと往復時の特性(リサージュ波形)を重視。




提供元:オートメカニック


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グーネットピット編集部

ライタープロフィール

グーネットピット編集部

車検・点検、オイル交換、修理・塗装・板金、パーツ持ち込み取り付けなどのメンテナンス記事を制作している、
自動車整備に関するプロ集団です。愛車の整備の仕方にお困りの方々の手助けになれればと考えています。

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