カーライフ
更新日:2026.07.10 / 掲載日:2026.07.10
4歳までは後ろ向きで。安全のプロが伝えるチャイルドシートの真実【ボルボ】

文●内田俊一 写真●ユニット・コンパス、ボルボ
ボルボ・カー・ジャパンは、BEVの新型フラッグシップ「ES90」と「EX90」の日本導入に際し、メディア向けのセミナー「子どもの車内安全に関するメディアセミナー」を開催した。
講師として登壇したのは、本国スウェーデン・イェーテボリのボルボ・カーズ・セーフティセンターでシニア・テクニカル・スペシャリスト(Injury Prevention)を務めるロッタ・ヤコブソン博士(チャルマース工科大学客員教授)だ。
安全に半生を捧げたプロフェッショナル

ヤコブソン博士は37年にわたり車両の安全開発に携わり、世界初となる複数の安全技術の研究・評価を行ってきたパイオニア。「人命を守り、障害リスクを減らすことに情熱を注いできた。長年にわたり実際の事故から得られた知見をもとに、分野を横断して優れた研究者やエンジニアと協力してきた。現在は車内外の人を守るべく、新たな知見を生み出す職責を担っている」と自身の職務を説明する。
2027年に創業100周年を迎えるボルボだが、その創業者は「クルマは人によって運転される。従って、ボルボが製造する全てのクルマの背後にある指針は、安全であり続けなければならない」との言葉を残している。ヤコブソン博士は、この精神こそが「全て人間中心の考え方」というボルボの安全開発に対する姿勢の原点であると明かした。

ボルボで最もよく知られたイノベーションといえば「3点式シートベルト」だろう。1950年代のシートベルトは腹部を横方向に支える2点式が主流だったが、身体を保持する性能としては不十分だった。そこでボルボは、上半身と下半身を1本のベルトで、かつ鎖骨と骨盤の強固な骨格部分で拘束する3点式を発案。さらに「使われなければ何の助けにもならない」という理由から、片手で簡単に装着できる操作性にもこだわった。これこそが、60年以上経った今でも基本原則として生き続けるレイアウトなのだ。
当初、この3点式シートベルトは専門家からも受け入れられなかったという。しかし、実際の事故データや実験結果を提示し続けることで社会的に認められていった。こうした地道な調査活動が、現在の「ボルボ交通事故調査センター」の設立へと繋がっている。
同センターは、統計的な事故データの収集だけでなく、特定の事故についての詳細な調査も行う。イェーテボリのオフィス近隣で発生した事故であれば現場調査も実施し、1970年以降、専任チームが24時間365日体制で対応しているという。

その取り組みから生まれたのが“サークル・オブ・ライフ”という循環機能だ。実際の事故データから安全要件を確認して製品を開発し、そのプロトタイプで検証を行って生産化。そして再び実際の事故データを分析し、さらなる改善へと繋げていくサイクルである。
チャイルドシートは「後ろ向き」に

今回のセミナーで、ヤコブソン博士は子どもの車内安全における2つの重要なテーマを挙げた。ひとつは「子ども自身の安全」、もうひとつは「子どもを車内に残さないための措置(置き去り防止)」である。
子どもの安全について、ヤコブソン博士は「後ろ向きのチャイルドシートを、少なくとも4歳までは使うこと。これがボルボの推奨だ」と明言する。同時に「4歳以上の子どもはブースターシートを使うこと」を強く勧める。ブースターシートとは、身長の低い子ども用に座面を高くし、大人用のシートベルトを正しく着用できるようにするための補助アイテムだ。
後ろ向きのチャイルドシートが推奨される理由は明確だ。通常、衝突事故は車両の前側で起きることが多く、速度が出ているため重大な被害をもたらしやすい。子どもの体を正面や側面の衝撃から守る際、最大のネックとなるのが「骨の成長度合い」である。

「子どもの頸椎(首)まわりは、特に保護されなければならない。乳幼児は頭部が重い一方で首が弱く、筋力も未発達だからだ」とヤコブソン博士は説明する。前向きのチャイルドシートでは、衝突時にシートベルトだけで身体を拘束するため、重い頭部が前方に振り出され、未発達な首に大きな負荷がかかってしまう。一方、後ろ向きであれば、前方への強い衝撃をシートの背面全体で受け止め、頭や背中を保護しながら衝撃を分散できる。同じ年齢でも体格差(身長・体重)はあるが、骨の成長スピードにはそれほど大きな差がないため、ボルボでは「年齢(4歳まで)」を基準に後ろ向きを推奨しているという。

成長に伴い、いつから前向きに座らせるべきか。そこでキーになるのが「骨盤」だ。骨が成長してきたとはいえ、子どもの体つきは大人とは異なる。シートベルトを骨格のなかでも強い「骨盤」に沿って正しく装着させるために、ブースターシートによる着座位置の底上げが必須となるのだ。座面を上げることで、シートベルトが首ではなく、適切な肩の位置にかかるようにもなる。
では、何歳くらいになればシートベルトのみで安全に着座できるようになるのだろうか。ヤコブソン博士によれば「目安はおおよそ身長150cm、10歳頃」だという。それを見極めるための「5ステップのテスト」が紹介された。
チャイルドシート卒業を見極める5つのテスト
- 1.子どもが背中を車両シートの背もたれにぴったり付けて座れるか。
- 2.子どもの膝が、シート座面の先端で自然に曲がるか。
- 3.腰ベルトが、お腹ではなく子どもの太ももの上部(骨盤)にかかっているか。
- 4.肩ベルトが、首にかからず、首と肩の間に適切にかかっているか。
- 5.走行中、ずっと前かがみになったり横に傾いたりせず、正しい姿勢を維持していられるか。
これらすべての条件をクリアできて初めて、大人と同じようにシートベルトを安全に使用できるようになる。
テクノロジーという「第二の目」

続いて、子どもやペットの車内置き去り防止について。近年、日本でも車内置き去りによる悲惨な熱中症死亡事故が報道されているが、ボルボはこの問題をどう捉えているのか。
ヤコブソン博士は「悪意や明らかな過失による事例は非常に稀である」と指摘する。「親や保護者が疲れていたり、心配事で気が散っていたり、急なスケジュール変更を迫られたりしたことで、脳が『車内に同乗者がいること』を一時的に失念してしまうケースがほとんどを占める」という。そこでボルボは、人間が最善を尽くせなかったとき、それをサポートする「第二の目」としてのテクノロジーを開発した。

新型BEVであるES90とEX90には、高度な車内レーダーシステムが搭載されている。ミリメートル以下の微細な胸の動き(呼吸)をも検知できる高精度なレーダーにより、ドライバーが降車してドアをロックしようとした際、車内やラゲッジスペースに人やペットが残っていると検知した場合、ロックがかからないようにしてドライバーに通知する仕組みだ。そのうえでロックを作動させる場合は、バッテリーが残っている限りベンチレーション(換気機能)が動き続け、車内温度の上昇を防ぐ。ただし、博士は「これを過信して同乗者を長時間車内に残すことは決して推奨されない」とも付け加えた。
正しい知識こそが命を救う
今回のセミナーを受けて、私自身に大きな2つの気づきがあった。それは「人はミスをする生き物である」ということ、そして「正しい知識こそが命を救う」ということだ。
子どもの骨の発達状態や、衝突時のリスクという「知識」を正しく持っていれば、後ろ向きチャイルドシートやブースターシートの必要性は、妥協の余地がないほど絶対的なものだと理解できる。たったそれだけの知識で子どもの命が救われるのであれば、これほど簡単なことはない。
子どもが嫌がるから、あるいは面倒だからといって、走行中に車内で自由に遊ばせるなど論外である。そして、自動車メーカーが用意してくれた最先端の安全機能も、私たちが正しい知識を持って正確に使ってこそ初めて意味を成す。安全への投資と知識のアップデートの大切さを、改めて痛感させられる有意義なセミナーだった。