車の歴史
更新日:2024.12.13 / 掲載日:2024.12.13
軽自動車なのに走りは本格派!プロも愛したスズキ ジムニーの歴史【名車の生い立ち#8】

積雪や未舗装路など、悪路を走る時に心強いのがオフロードカー。これから冬を迎えるにあたり、オフロードカーを検討しているひとも多いはず。そんなオフロードカーを身近にしてくれたのが、スズキ ジムニーです。半世紀以上にも及ぶ歴史をもったジムニーは、さまざまなシーンで活躍する名車のなかの名車。今回は、そんなスズキ ジムニーの歴史を紐解いてみましょう。
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土木業、林業で使うプロの道具として愛された初代ジムニー

高度経済成長の真っ只中だった1970年、スズキはジムニーを発表しました。日本は大阪万博の開催で賑わい、植村直己がエベレストに日本人として初登頂を達成した年。そんな時代に生まれたジムニーは、簡素ながらも高いオフロード性能を売りとしていました。ジムニーの原型となったのは、ホープ自動車が1967年に製造した4WD車「ホープスターON型」。ホープ自動車はかつてオート三輪の製造を行っていた会社ですが、ホープスターの製造権をスズキが買収。このノウハウを活かして開発された初代ジムニーは、安価なのに本格的なオフロード性能を持ち、土木・建設業の測量、林業のパトロール、山間地での荷物運搬など多方面で大活躍。プロ御用達のクルマとして、ジムニーの歴史は始まりました。

1972年には「LJ20」へと進化。パワートレインは空冷から水冷2サイクルになり、中低速のトルクがアップ。登坂力35°を実現し、過酷なレース「メキシカン1000」では大排気量の外国勢を相手にしながら34時間無事故で完全走破するという偉業を達成しました。また、スペアタイヤが室外に配置され、4名乗車となったこともトピック。さらに横スリットから縦8本型スリットのフロントグリルも新たなアイデンティティとなりました。

1976年には軽自動車の規格が変更されたことを受け、改良モデルが発売されました。エンジンの排気量は359cc 2サイクル・2気筒から539cc 2サイクル・3気筒に変更。550ccクラスになったことから「ジムニー55」の愛称で呼ばれました。1977年には、輸出仕様として800ccの4サイクルエンジンを搭載した「ジムニー8」が登場。これを足がかりとして海外市場へ本格参入したスズキは、世界にその名を広く知らしめました。
オンロードも意識して実用性や快適性を高めた2代目

1981年5月、ジムニーは11年ぶりに全面改良を受けました。高度経済成長も終わりを迎え、新しい時代に入った日本の出来事といえば、2代目ウォークマンの発売(ソニー)、日本初のLDプレイヤー「LD-1000」の発売(パイオニア)など。ほかにもなめ猫ブーム、ピンクレディーの解散などが大きな話題になりました。そんな時代に登場した2代目ジムニーは、従来のプロユースのイメージから一転し、カジュアル志向を強めたデザインとなったのが特徴。とはいえ、ラダーフレームに前後リジッドサスペンションという設計はそのままで、オフロード性能はこのクラスとしてはトップレベル。日本のクロカン市場(当時はRVと呼ばれていた)をリードする人気ぶりでした。先代にあったジムニー8は、国内のユーザーからのラブコールが多かったため、排気量を970ccに拡大した「ジムニー1000」も翌年に登場しています。さらに1984年には、1.3Lエンジンを搭載した「ジムニー1300」も発売され、バリエーションを拡大していきました。

1986年になると、ジムニーは大幅改良を受けました。「JA71」と呼ばれる2代目の大幅改良型は、新開発の電子制御燃料噴射装置、4サイクルターボを搭載して走行性能をアップ。1990年には排気量が新規格の660ccクラスに拡大され、AT車やパワステなども導入され格段に乗りやすくなりました。1993年、1.3Lエンジンとワイドボディを組み合わせた「ジムニーシエラ」が登場。骨太のフロントグリルガード、大型フォグランプが存在感を高めたスタイルは大ヒット。当時はクロカンブームだったこともあり、手頃な価格で買えるオフロードカーとして幅広いユーザーに重宝されました。
軽自動車の新規格に合わせて開発された3代目

1998年10月、ジムニーはフルモデルチェンジを受けました。この年は長野オリンピックの開催、明石海峡大橋の開通、郵便番号が7桁になったことが話題に。一方自動車業界では、軽自動車の規格が変更され、ボディサイズの上限が拡大されたのが大きなニュース。これに合わせて各メーカーは軽自動車を一斉にモデルチェンジし、ジムニーもそのなかの1台となったのです。ボディの拡大により室内は広く快適に。安全性も格段に高まったことで、日常でも使えるオフロードカーとしてのポジションは揺るぎないものになりました。とはいえ、初代から続くラダーフレームのシャシーはそのままで、山間部の険しい道でも乗り入れることが可能なプロユースとしても重宝されました。

その後も小改良を繰り返し、数多くの特別仕様車をリリース。2018年までの20年間、デザインを大きく変えることなく生産が続けられました。なお、1998年1月には軽自動車に先行して1.3Lモデルの「ジムニーワイド」が登場。2002年には先代モデルと同様「ジムニーシエラ」の名称に改められています。
原点回帰したデザイン大ヒットした現行型ジムニー

2018年、ジムニーはフルモデルチェンジを受けて4代目となりました。先代モデルの発売から20年経ち、軽自動車の世界も多様性の時代に。しかしながら、ジムニーほど本格的なオフロード性能を持った軽自動車はほかになく、その初志貫徹のコンセプトに多くのファンが共感していました。そんな4代目ジムニーは、「プロの道具」をコンセプトに掲げたデザインを採用。角の切り立ったボディや5スロットのフロントグリル、丸型ヘッドライトなどはまさに原点回帰といっていいもの。これは同年に「グッドデザイン金賞」を獲得しています。
ラダーフレームも新設計となり、さらにXメンバーとクロスメンバーを加えたことで剛性も大きく高まりました。また伝統の3リンクリジッドサスペンション、ハイ・ロー切り替え可能な4WDなど、高いオフロード性能も健在。その完成度から、予約受注が殺到して長い納車待ちができるほどの人気ぶりに。それゆえ高額を付けて店頭に並べるショップも出てくるほどでした。同時に設定されたジムニーシエラには、新開発1.5Lエンジンが搭載され、ゆとりのある走りを実現。
ホープスターの時代から現在まで半世紀以上にも及ぶ歴史をもつジムニー。時代が移り変わってもコンセプトを変えず、連綿と生産が続けられてきたのはスズキが大切に育ててきたクルマだからにほかなりません。一般ユーザーはもちろん、各種方面で働く「プロ」に愛用されたジムニーは、今後も大いに活躍してくれるでしょう。