故障・修理
更新日:2023.01.31 / 掲載日:2023.01.31
マイカーでも起きている「子どもの車内置き去り」 防止装置の普及は低廉化がカギ
静岡県で3歳の女の子が通園バスの車内に取り残されて死亡した事件を受けて、政府は10月12日、再発防止のための緊急対策をまとめた。その中で、4月から子どもが送迎バスを乗る時と降りる時の所在確認と、置き去りを防ぐための安全装置の設置が義務づけられた。これにより安全装置を巡る商戦が俄かに活気づいている。自動車メーカーでは三菱ふそうトラック・バスが他社に先駆けて自社開発製品を発売した。
国が車内置き去り防止装置の設置費用の18万円を補助
置き去り防止対策では、子どもの所在確認は保育所、幼稚園、認定こども園、特別支援学校などに加え、小学校や放課後児童クラブも対象になる。安全装置の設置は保育所、幼稚園、認定こども園、特別支援学校など約4万4千台の送迎バスが対象になり、1年間の経過措置が設けられた。都道府県による指導監査などで適切な対応が行われているかを確認し、義務違反が明らかになった場合は業務停止命令の対象となり、命令に従わない場合は罰則が科される。
小倉将信こども政策担当相は11月1日の記者会見で、安全装置設置の財政措置として、設置費用1台当たり18万円を補助する方針を明らかにした。義務化はされないが、装置の設置を勧める対象の小中学校などのバス約1万1千台についても半額を補助する方向で検討している。
従来から送迎バスによる置き去り事故は発生していたため、置き去り防止装置は開発されていたが、本体に加え設置費用もかかることから、これまで設置は進んでいなかった。しかし、園児などの送迎バスへの設置が義務づけられたことで、対象車両への設置が確実に進むため、装置メーカーは売り込みに躍起となっている。
こうした中、三菱ふそうは置き去り防止装置を自社開発し、新車への設置は完成車の生産ラインで行い、販売済み車両は全国の販売拠点で対応できるようにする。
5人に1人が置き去りを経験 安全装置は1万円までが多数

置き去り防止装置への注目が高まる中、自動車内装材の専門商社である三洋貿易は「子どもの車内置き去り実態調査」を5月に実施した。同調査は、子どもを乗せて車を運転するドライバー2652人と、幼稚園・保育園で送迎を担当する267人を対象に実施した。
調査結果のうち、子供を乗せて車を運転するドライバーの結果を見ると、直近1年間で「車に子どもを残したまま車を離れた(車内に子どもだけにした)」ことがあると回答した置き去り経験者は22%と5人に1人に及んだ。車内への置き去りが起きる理由は、73%が「保護者の意識が低いから」、32%が「用事を済ませる間に子どもを見てくれる人がいないから」と回答した。

次に、子どもの車内放置を検知し防止するシステムがあれば欲しいか質問すると、「欲しい」は全体では44.4%となったが、20代は56.8%、30代は50.7%と子育て世代は半数以上を占めている。欲しいと回答した人にいくらまで支払うか質問すると、各年代とも「無償から1万円程度まで」が多数を占めているが、特に20代は83.0%、30代は79.5%とほぼ8割を占めている。

乗用車で普及するには安価で 使い勝手の良い製品開発がカギ

安全装置の設置義務づけにより、送迎バスでの置き去り事故は確実に防止されると思うが、三洋貿易の調査結果を見ると、一般の乗用車においても車内置き去りは発生しており、しかも直近1年間だけでも5人に1人が置き去りを経験しているのは驚きである。
実際に過去には置き去りによる痛ましい死亡事故が起きている。11月12日、大阪府岸和田市の保育所の駐車場で市内に住む2歳の子どもが後部座席に倒れていて、病院で死亡が確認された。父親は保育所に「預けたつもり」の子どもを車内に置き去りにして死亡させたと報じられた。2020年6月には茨城つくば市で2歳の子どもが車の中で長時間放置されて死亡した。父親は子どもを「保育園に預けたつもりになっていた」と話し、子どもを車に残したまま在宅勤務をしていた。
この事故に共通しているのは、2件とも父親は別の子どもの送迎もしており、その子どもたちはきちんと送り届けていることである。にもかかわらず、1人の子どもだけ「保育園に預けたつもり」で車内に置き去りにしてしまった。神経科学者によると、これは誰にでも起こり得る「記憶障害」なのだという。
こうした車内置き去り事故から子どもを守るためには、置き去り防止装置が最適だが、先の調査結果で装置が欲しいと回答した人の予算は「1万円以下」が圧倒的である。現在市販されている装置は送迎バスなどを対象にしたものが多く、安価なものでも数万円はする。今後、置き去り防止装置が乗用車にも普及していくためには、安価で使い勝手の良い製品開発が求められそうだ。
出典:アフターマーケット 2023年 1月号