車の最新技術
更新日:2021.06.25 / 掲載日:2021.06.25

話題の新電池「全固体電池」って何ですか?【EVの疑問、解決します】

文●大音安弘 写真●レクサス、ホンダ

 電気自動車のエネルギー供給源となる駆動用バッテリーは、ハイブリッドカーを含め、ほとんどの電動車がリチウムイオン電池を搭載しているのが現状です。ところが、2021年1月、中国の新興電気自動車メーカー「NIO」が、新電池の搭載を予定した新型EV「ET7」を発表し、大きな話題となりました。この新電池が「全固体電池」と呼ばれるものです。全固体電池は一体どのようなバッテリーで、なぜ大きな話題となったのが、メリットとデメリットを含め、解説します。

疑問:話題の新電池「全固体電池」って何ですか?

答え:従来のリチウムイオン電池の弱点を克服した未来の高性能電池

リチウムイオン電池が主役になった理由と抱えている弱点

レクサス新型NXに搭載されるPHEV用バッテリー

レクサス新型NXに搭載されるPHEV用バッテリー

 自動車に限らず、充放電を繰り返す充電式バッテリーは、身近な家電にも多く取り入れられています。現在の充電式電池の主力は、リチウムイオン電池。以前は恐ろしく高価でありましたが、その性能の高さから瞬く間に普及が進みました。身近な存在となった一例が、モバイルバッテリー。かつては特別感がありましたが、今や出先でのスマホの充電に困らぬように、多くの人が持ち歩くようになりました。

 リチウムイオン電池のメリットは、実用化されている電池の中で、電圧とエネルギー密度が最も高く、放電時の電圧低下の低いことにあります。つまり、とても高性能な電池なのです。その一方で、デメリットとして、バッテリー内部の電解液が可燃性であるため、精密な制御が必要です。また内部の緻密な作りのため、耐衝撃対策も重要です。近年、安価なモバイルバッテリーや電動バイクなどが突然発火する火災事故のニュースを耳にするようになりましたが、これらは保護機構や制御など信頼性に繋がる部分に課題を抱えているケースが考えられます。EVなどの電動車は、事故の際、リチウムイオン電池にまつわる火災を防ぐべく、何重もの対策が施されています。ですので、正しい使い方をしていれば、燃える危険性はほとんどありません。

全個体電池とは、中身が液体から個体になったリチウムイオン電池

ホンダは三部敏宏氏の社長就任挨拶で独自の全固体電池の開発について言及した

ホンダは三部敏宏氏の社長就任挨拶で独自の全固体電池の開発について言及した

 さて話題の全固体電池に話を戻しましょう。全固体電池は、その名の通り、全部が固形となる充電式電池です。つまり、12Vの鉛バッテリーやリチウムイオン電池のように内部に電解液が存在しません。電解液の代わりに、固体電解質がその役目を果たします。

 そう、実は全固体電池もリチウムイオン電池の一種なのです。リチウムがイオンとなり、負極と正極の電極間を移動することで充放電を実現する仕組みは全く同じです。ただ電解液を使う既存のリチウムイオン電池では、ミクロの穴を備えるセパレーターが負極と正極を分けていますが、全固体電池にセパレーターはなく、固体電解質が、その役目を担います。このような構造の違いから、重量と体積の両面でエネルギー密度が大幅に高めることが出来るのです。その能力は、2倍以上にもなると言われています。しかも、電解液の弱点である液漏れや劣化、限定される使用温度領域などの課題から解放され、安全性や耐久性も向上します。さらに、電解液を使うリチウムイオン電池の性能限界が見えだした現状も、その実用化を後押ししています。

 そんな夢のような全固体電池がまだ実用化されていない理由は、構造の違いによる課題も多いことにあります。最重要となるのは、電解液の代わりとなる電解質の開発です。液体よりもイオンが流れやすい固体の電解質を見つけ、さらに量産に求められるコスト、生産性、安全性、耐久性などの課題をクリアしなくてはなりません。事実、NIOが搭載するという全固体電池ですが、その素材などについての情報は現時点では明かされていません。そのため、量産市販化に疑問の声もあるのは事実です。

 もちろん、これだけの情報が溢れる今、全固体電池が夢の技術で終わることはないでしょう。焦点となっているのは、誰が勝ち鬨(かちどき)を挙げるかです。国内では、トヨタが積極的に開発に取り組んでいますし、それ以外の企業も全固体電池の実用化に向けて邁進しています。今後、訪れる電動化車にどんな影響を集めるかが注目される新技術、それが全固体電池なのです。

執筆者プロフィール:大音安弘(おおと やすひろ)

自動車ジャーナリストの大音安弘氏

自動車ジャーナリストの大音安弘氏

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

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グーネットマガジン編集部

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