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更新日:2019.11.29 / 掲載日:2019.11.29
TOYOTA ヤリス総力ガイド<1>プロトタイプ試乗&解説編
新型フィットとともに、今、大注目なのが、トヨタのヴィッツ改めヤリスだ。待望のTNGA(Toyota New Global Architecture)を採用、先行する新世代ライバルたちを一気にまくるか!?
●文:川島茂夫 ●写真:奥隅圭之
ヴィッツからヤリスへ、名実ともに大変革
初代以来の野心作でダウンサイズの有望株
「ゼロからの再定義」が初代ヴィッツの第一印象だった。とくにセンターメーターや小物収納など、インパネ周りのレイアウトと造形はそれまでにないものであり、視線や動線の最適化から引き出されたように思え、高い志を感じずにはいられなかった。とは言うものの、とかく先覚者は理解されないもの。国際戦略車の側面の強化やプレミアム志向の高まりもあって、先代では市場動向に則したオーソドックスな路線にシフトしている。
4代目に当たる次期モデルは車名を海外市場向けの「ヤリス」に変更する。さらに国際市場動向に迎合か? とも思ったのだが、初代に覚えた「再定義」あるいは「志」を感じさせるモデルだった。
ひとつのポイントは車体寸法。高級さや高性能感の演出もあって、どのクラスも拡大傾向だが、ヤリスは5mm全長を縮小し、先代とほぼ同サイズ。車体四隅の張り出しを抑えて取り回し寸法の縮小を図るなど、扱いや見た目で実質ダウンサイジングしていた。
初代ほど明白ではないが、トレンドよりも肌身感覚の使い勝手を大切にした設計は、良きヴィッツが還ってきたと思わせるに十分だ。
しかも、プラットフォームはカローラ系にも採用されるGA-B、ヤリスが皮切りとなる新開発1.5Lダイナミックフォースエンジン、最新型トヨタセーフティセンス(TSS)と、基本構成はすべて次世代型。スモール2BOXには贅沢とさえ言える内容である。ファミリー派ユーザー向けとも言い切り難いが、ダウンサイジング市場を大きな影響を与えるだろう。
スモール2BOXの走りの基準が変わる
初乗り!! プロトタイプ試乗インプレッション
乗り心地も安心感も高く、新エンジンは力強い
プロト車ゆえにサーキット試乗となってしまったが、ヤリスの実力はサーキットでは量れない。それは限界域での性能や特性が悪いという意味ではない。実際、サーキットも安心して走れるほどである。
全開加速から全制動、ブレーキを緩めながら旋回半径を絞っていく、そんな攻めの走りをしても意外なほどついてくる。誤解なきよう付け加えるならスポーツサス仕様ではない。サスチューンはタウンユースでの乗り心地も考慮した柔らかめの設定だ。転舵すればぐらりとロールするし、全制動ではノーズダイブも。ただし、急激に負荷を掛けてもストローク速度は極端に速くならず、フルストローク後の跳ね返りもほとんどない。
いわゆるノーマル脚なので、限界に近い走り方での反応は鈍いが、どういった状況でも4輪の接地バランスが大きく変化しないので、そう神経を使わずともラインに乗せやすい。中でも制動しながらのコーナリングでの安心感は格別だ。
こうした特性はFFも4WDも変わらなかったが、路面段差乗り越え時の突き上げ感は4WDのほうがマイルドだった。4WDはハイブリッド車(HV)だったので重量差によるものかとも思われたが、FFの1.5L車とHVでは目立った違いはなく、これはリヤサス形式の違いによるものだろう。
パワートレーンの注目は国産3気筒では最大排気量となる1.5Lダイナミックフォースエンジン。このサーキットでは高速での巡航距離が短く、直前まで全開近くで加速するため、高速での巡航ギヤ維持能力を詳しくチェックできなかった。だが、限られた条件下で試した限り、これまでの同系統エンジンと同じく、低中回転域での中間アクセルからのトルクの立ち上がりがよく、排気量以上の力感を示す。同エンジンのベースとなったRAV4の2L4気筒版と比較するとダウンシフトのタイミングが早めで、多少引っ張り気味の傾向だが、小排気量で高速域まで安定したドライバビリティを確保するための変速設定といえる。
また、3気筒では国産車の最大排気量なのに、振動面の粗さは皆無といっていい。高回転域はもちろん、振動が目立ちやすいアイドリング時も並の4気筒と同等以上。アクセルを踏み込んだ時の排気音に3気筒らしいパルス感を感じるが、車格感を損ねるほどでもない。ちなみに排気パルスは4気筒の3/4。つまり同じエンジン回転数で走らせていても、音質的には4気筒より低い回転数で走っている感覚だ。これも力強さの演出にひと役買っている。
HVシステムはこの3気筒エンジンをベースに新規開発されているが、エンジンパワーを直に駆動に使わないので、ガソリン車ほど新エンジンの効果は感じられない。正しくはハイブリッドシステム全体の性能向上として認識してしまうため、エンジン本体の向上代が分かりにくいということだ。また、電動アシストにより踏み込み反応のいいハイブリッドは、元々ドライバビリティに優れていた。つまり正常進化の領域だ。
性能向上の要点のひとつはパワフルあるいは小気味のいいコントロール感。燃費向上やガソリン車からの乗り換えを意識してか、これまでのハイブリッドは反応を鈍(なま)しすぎていたきらいがあったが、ヤリスの新ユニットは浅い踏み込みでのトルク立ち上げがよく、スッと伸びていくような印象。電動らしさを濃くしたともいえる。高速での加速の伸びもガソリン車よりいい。
なお、ハイブリッドの4WD車、E-Fourは後輪に独立した電気駆動系を持つが、動力性能の上乗せはなし。後輪ユニットは発進時のパワーアシストのみでモーター出力も小さく、回生にも寄与しない。いわゆる生活四駆である。
ヤリスのパワートレーン開発では燃費をかなり意識したとのことだが、ガソリン車もハイブリッド車も軽量小型クラスらしい小気味よさとツーリングカーらしい余力感を上手に融合させている。限られた状況下ながら、スモール2BOX車の走りの基準を変えるに相応な実力を備えているのは実感できた。しかも、ここでは試せなかった高機能なLKAなどの運転支援システムもあり、今後の公道試乗に期待は膨らむばかりだ。
大柄な男性のバックレストを立てたアップライトな着座姿勢も無理なく取れる。ドラポジによるメーターの視認性も標準的なレイアウトなわりに良好。インテリアやシートの設えや居住空間の制限が少なく自由度が高い。
乗降性はヤリスの気配り設計の最たるもの。ワンタッチで退避復帰操作が可能なメモリー機能付シートや脚捌きの邪魔にならないように抉られたドアトリム下部の造形など、使い心地のよさへのこだわりには感心させられる。
試乗コース
袖ヶ浦フォレストレースウェイ
今回の試乗の舞台はコース長2.5km弱のJAF公認サーキット。主に4輪/2輪のスポーツ走行やイベントレースに使用されるコースだ。
試乗車両
1.5Lのガソリン車&HV、4タイプ
今回試乗したのは新開発1.5Lのガソリン車・FFのCVTと6速MT、HVのFF/4WD。ホイールは14インチから16インチだ。(下記参照)
11.5Lハイブリッド・4WD(185 / 60 R 16・スチール)
21.5Lハイブリッド・FF(175 / 70 R 14・スチール)
31.5Lガソリン・FF/CVT(185 / 55 R 16・アルミ)
41.5Lガソリン・FF/6MT(175 / 70 R 1・スチール)
ここに注目! 別視点ひとことインプレ
スポーティさに注目 by 山本シンヤ
「FF系TNGAでイチバンの傑作かも」
穏やかで操作に忠実なステア系、重心の低さと剛性の高さを感じるボディ、無駄な挙動が抑えられ自然で連続性を持つハンドリング、大きな縁石越えでもしなやかで優しい快適性と、ヴィッツと比べると激変。ガソリンとハイブリッドの走りの差が小さいことも驚きで、FF系のTNGAプラットフォームの中でも一番出来がいいのかも!? 1.5L+6速MTは最も軽快でスポーティハッチと呼んでいいレベル。ハイブリッドは力強さで選んでも間違いない。
ファミリーユースに注目! by まるも亜希子
「3人家族や、ママ&子どもに良い選択」
ボディサイズが拡大するクルマが多い中、ヤリスは小ささにこだわって走りを極めて登場した。その良さは市街地を走るくらいでも感じられ、小回りが効くなど運転しやすさもアップしており、初心者から熟練者まで満足度が高そうだ。後席スペースはタイトで、4人家族にはやや窮屈な印象だが、乗り心地が悪いわけではなく、静粛性もコンパクトクラスの標準レベル。安全装備も充実し、3人家族やママ+子どもなら良い選択と言えそうだ。
主要コンポーネントを刷新
TOYOTA ヤリス
●2020年2月中旬発売
(ガソリン車の4WDは4月発売予定)
【エクステリア】拡大志向ではなく、バランス良くまとまる
車体寸法諸元は現行ヴィッツとほぼ同じ。兄貴分のカローラスポーツ対比では全長が430mm、全幅が95mm小さく、全高は65mm高い。小さな車体でキャビンスペースを稼ぐスモールカーらしいプロポーションだ。短い前後オーバーハングやリヤピラーデザインで、視覚的によりコンパクトに見せ、小さい事に価値と知性を感じさせる外観と言えよう。
大胆、活発などの意味を込めた「B-DASH!」がキーワード。凝縮したキャビン、タイヤを強調する造形が力強い。リヤデザインはウインドウとコンビランプが連続したグラフィックを採用。
●ボディカラー 2トーン6色 ※はオプションカラー
ブラック×コーラルクリスタルシャイン※
ブラック×アイスピンクメタリック※
ブラック×シアンメタリック※
ブラック×アバンギャルドブロンズメタリック※
ホワイト×センシュアルレッドマイカ※
ホワイト×ブラック※
●ボディカラー モノトーン12色 ※はオプションカラー
コーラルクリスタルシャイン※
アイスピンクメタリック
サーモテクトライムグリーン※
シアンメタリック
ダークブルーマイカメタリック
センシュアルレッドマイカ※
ボルドーマイカメタリック
ブラック
アバンギャルドブロンズメタリック
シルバーメタリック
ホワイトパールクリスタルシャイン※
スーパーホワイト II
【インテリア】居心地の良さと機能性が融合
インテリア全体は車格相応のカジュアル感でまとまり、好感。小径ステアリングやメーターパネル等をコンパクトにまとめているため、寸法より広く感じられる。逆に中央のモニターは妙に大きく感じられた。なお、メーターは鮮やかなグラフィックもあって視認性がいい。
「SPORTECH-COCOON」をキーワードに、機能的で心地良い空間に。前席を外側に10mmずつ追いやり、席間を20mm拡げている。
上級グレードのシート表皮はツイードのようなジャージ素材×合皮。ドアトリムオーナメントにはフェルト素材を採用し質感をアップ。
デジタルメーターはそれ自体の視認性はもちろん、フードレスとすることでインパネ上面のスッキリした印象にもひと役買っている。
前回の位置に簡単に戻せるトヨタ初のイージーリターンシート。
【ユーティリティ】容量には余裕がないがひと工夫あり
現行ヴィッツより有効室内長は若干減少した。後席は狭くはないが、男性4名乗車の必要十分レベル。荷室はクラス相応。ファミリーユースには余裕はないが、二段式床面ボードの採用もあり積載の利便性は良好である。
ラゲッジ長は700mm。現行ヴィッツ同等を確保しているものの、リヤウインドウ傾斜がきつく、多積載には不向き。ラゲッジボードを上段にセットすれば後席格納時にフラットフロアになる。
【パワートレーン&シャシー】TNGAに基づく最新メカニズムを採用
1.5Lエンジンの基本構造はRAV4の2L直4をベースに開発。強タンブル流により大量クールドEGRと急速燃焼を可能とし熱効率の向上を図ったのは共通だが、高回転域でのドライバビリティや燃費向上のため、吸気ポート形状や圧縮比を変更。また、ガソリン車にはバランスシャフトも装備される。シャシーはコンパクトクラス用にGA-Bプラットフォームを新たに開発。リヤサスは4WD車にダブルウィッシュボーン、FF車に新開発のトーションビーム式を採用する。
新プラットフォームは凝縮キャビンとタイヤの四隅配置を狙う。高張力鋼比率の向上や、外板薄板化等により、従来比50kgの軽量化と重心位置の最適化を達成。見えない所に多数の「トヨタコンパクト初」の技術が投入されている。
●GA-Bプラットフォーム
初採用されたコンパクトカー向け新型プラットフォーム「GA-B」。クルマの基本性能として必要となる「軽量・高剛性・低重心」を高水準で実現し、クラスを超えた走りを支えている。
●1.0L直3エンジン
従来ヴィッツのユニットを改良。空燃費最適化や軽量化により燃費が向上している。
●1.5Lダイナミックフォースエンジン
TNGAコンセプトで新開発。燃費と動力性能を両立しつつ小型軽量化も果たしている。
●ダイレクトシフトCVT
TNGAモデルではおなじみの、いわゆる発進ギヤ付きCVT。これも高効率化に寄与する技術だ。
●1.5Lダイナミックフォースエンジン+THS II
モーター出力を従来比30%高め、電気の伝達損失も30%低減。動力性能も燃費も改善している。
●HEV用トランスアクスル
複軸化やギヤ駆動ポンプ、高電圧化、発電モーター小径化など、新技術満載で効率アップ。
●E-FOUR
後輪駆動モーターを搭載。2リンク・ダブルウィッシュボーンサス採用でコンパクト化。
【先進安全&運転支援機能】ACC/LKAに半自動駐車機能も備える
走行ライン制御LKAはレーダーによる前走車追従機能も備え、国産LKAでは最も高機能である。なお、電子制御パーキングブレーキを採用していないためACCは作動速度域の下限が30km/hに制限されるのが上級クラスとの差。駐車支援も見所。設定も半自動でメモリー機能も備える。作動中に誤ってアクセルを踏むと一時中断するので、信頼感も上々だ。
●トヨタセーフティセンス
プリクラッシュセーフティ(交差点シーン対応)
歩行者検知(昼/夜)や自転車検知(昼)を行う。トヨタで初めて右折時の対向直進車(2輪含む)や右左折語の横断歩行者も検知。
レーダークルーズコントロール
いわゆるACC(追従クルコン)。高速道路において30km/h以上で走行中、加減速を自動で行い、先行車と適切な車間を保って走行する。
レーントレーシングアシスト
レーダークルーズコントロール作動時に、操舵を支援して車線を維持。車線が見えない状況でも先行車を追従して支援を継続できる。
●アドバンストパーク
トヨタ初、アクセル/ブレーキ/操舵が自動で、運転者はガイド通りに前進/後退を選ぶのみ。白線のない駐車位置の記憶も可能だ。
【1】開始
【2】前進
【3】後退
【4】完了
【装備/インフォテイメント】ディスプレイオーディオ(DA)を標準装備
通信機標準搭載で、その機能を活かしたDAの採用などインフォテイメントの拡充も見所。使い勝手向上装備も継承し、老若男女を問わず人に優しい使い勝手を求めたユニバーサルデザイン志向のシート機能も注目だ。
●ディスプレイオーディオ
DCMやDAを標準装備。拡張性にも配慮され、様々なサービスでカーライフをサポート。
●ターンチルトシート
運転席/助手席に回転と同時に座面高を下げて乗降を助けるターンチルトシートをオプション設定。回転時に膝がダッシュボードに当たらないよう、2リンク機構を備えている。
●ホイール
ホイールは全4種類。16インチは切削光輝+ブラック、それ以外はシルバーメタリックだ。
14インチホイールキャップ
15インチホイールキャップ
15インチアルミホイール
16インチアルミホイール
現時点でのベストバイは!?
1.5L車が好バランス。付加価値志向ならHV
ターンチルトシートやシートスライドのメモリー機能など、乗降性向上へのこだわりは際立っている。ポルテやラウムを開発したトヨタならではとも言えるし、リタイヤ世代のダウンサイジングも含む新たなアプローチでもある。そういった装備や機能を選んでこそ、ヤリスを選ぶ意味も深まる。
ならば走行性能面ではどうか。高速長距離を考えれば1.5L車が標準。ハイブリッド車は付加価値志向の選択となる。高速巡航性能と長距離燃費の向上も特徴であり、今回の試乗印象からしても1.5L車をベースに装備の充実を図ったほうがいいだろう。