エンジンブレーキは適切に使用すると、燃費の向上やブレーキシステムの負担軽減などの恩恵が受けられる重要な運転テクニックです。
さらに、ハイブリッド車では「回生ブレーキ」というエネルギーを再利用できるエンジンブレーキが搭載されていて、ガソリン車以上に使いこなしたときの恩恵が大きいのです。
この記事では、エンジンブレーキと回生ブレーキの仕組みや役割・エンジンブレーキのメリットとデメリット・Bレンジを使用するおすすめのタイミングについて詳しく解説します。
ハイブリッド車にはエンジンブレーキに加えて回生ブレーキがある
ハイブリッド車にはエンジンブレーキに加えて、回生ブレーキが搭載されています。回生ブレーキは、エンジンブレーキと働くタイミングも役割も似ていますが、通常の減速では無駄になる運動エネルギーを、電力へと変換して蓄えられる非常に便利なブレーキシステムです。
ハイブリッド車には、Bレンジという回生ブレーキとエンジンブレーキを強く起動させるシフトレバーが存在します。適切なタイミングでBレンジを使用することで、燃費の向上やブレーキシステムの負担軽減が期待できます。
エンジンブレーキの仕組みや役割
エンジンブレーキは、アクセルペダルから足を離すことで発生する減速力のことです。フットブレーキやハンドブレーキとは、異なる仕組みや役割を持ちます。
適切なタイミングでエンジンブレーキを使用すると、ブレーキシステムの負担を軽減したり、燃費を向上させたりできます。
エンジンブレーキの仕組みや役割、重要性を理解しましょう。
エンジンブレーキはアクセルを戻すことで発生する自然な減速力のことです。
走行中にアクセルペダルから足を離すと、エンジンへの燃料供給がカットされます。エンジンは通常燃料がないと動きませんが、車は慣性で動き続けるため、ギアを通じてタイヤからエンジンが無理やり動かされる状態が起こるのです。
このときに、エンジンの止まりたい力と車の慣性で回される力という2つの反対の力が引っ張り合うことで大きな抵抗力が発生します。この抵抗力こそがエンジンブレーキの正体です。
フットブレーキはメインのブレーキで、エンジンブレーキはその補助をするブレーキです。
運転者がペダルを踏む操作によって、フットブレーキが機能します。フットブレーキは強い制動力を持ち、ブレーキペダルを踏む力で速度を細かく調整できるメインのブレーキです。
それに対してエンジンブレーキは、フットブレーキの補助的な役割をします。フットブレーキほどの制動力はなく、完全な停止にはフットブレーキを使用する必要があります。
エンジンブレーキは完全に止めるためのものというより、スピードを少しずつ落とすときに役立つ仕組みです。
また、フットブレーキの使用時はブレーキランプが点灯するため、後続車にブレーキをかけていることを教えられます。
ハンドブレーキは車を停車させた状態で維持するために使用し、エンジンブレーキは車の運転中に速度を調整するために使用します。
ハンドブレーキは、駐車時に車を固定するために使用するブレーキです。「サイドブレーキ」「パーキングブレーキ」とも呼ばれています。
ハンドブレーキには、レバー式・足踏み式・電動式など様々な種類があります。
回生ブレーキの仕組みや役割
ハイブリッド車には回生ブレーキというエネルギーを再利用できるブレーキが搭載されています。
回生ブレーキとエンジンブレーキは働くタイミングも役割も似ていますが、エネルギーを再利用できる点が大きく違います。
ハイブリッド車は回生ブレーキによって、ガソリン車にはできない燃費の良さを実現するのです。そのため、回生ブレーキを有効に活用できるよう、仕組みや役割を理解しましょう。
生き返りを意味する回生ブレーキは、失われてしまうはずだったエネルギーを再利用できるエコな仕組みです。車の減速時に、タイヤの回転力によってモーターを回して、本来失われてしまう運動エネルギーを電気エネルギーにしてバッテリーに回収します。
バッテリーに蓄えられた電気エネルギーは、走行時のエネルギーやエアコン・ライトなどに使われます。そのため、回生ブレーキはハイブリッド車の燃費性能の良さに貢献しているのです。
この仕組みは、自転車用のライトなどにも使用されています。
エンジンブレーキと回生ブレーキは、車を減速させるという同じ役割を持っていますが、運動エネルギーの変換先が違います。
従来のエンジンブレーキは、運動エネルギーをブレーキを止めるときに使用する摩擦熱に変換して、空気中に放出してしまっていました。
一方で、回生ブレーキは運動エネルギーを、電気エネルギーにしてバッテリーに蓄えられます。回生ブレーキの制動力はそこまで強くないため、ハイブリッド車ではエンジンブレーキと回生ブレーキの両方を上手く組み合わせて使っているのです。
通常、ハイブリッド車では回生ブレーキを優先して使用するように設定されています。ところが、バッテリーが満タンに近づくと、過充電を防ぐために回生ブレーキの効きが弱くなってエンジンブレーキに切り替わるのです。
切り替わったとしても、乗り心地に大きな差はないため乗る側に違和感はないでしょう。バッテリー残量は車内から確認できるため、ぜひ一度確認してみてください。
ハイブリッド車であれば、電気エネルギーを駆動用モーターに再利用して有効に活用できます。ところが、ガソリン車はガソリンエンジンのみで走行するため、回収できたとしても集めたエネルギーを有効活用できないという問題があります。
シフトレバーのBレンジを活用しよう
Bレンジは回生ブレーキとエンジンブレーキを強く起動させるシフトモードのことです。ガソリン車でいう2(セカンド)、L(ロー)と同じ役割をするため、下り坂などで使用するのがおすすめです。
適切なタイミングでBレンジを使用すると、ブレーキシステムの負担を軽減したり、燃費を良くしたりできます。しかし、街乗りや平坦な道でBレンジを使ってしまうと、反対に燃費が悪くなる可能性があります。
Bレンジの役割や使うタイミングを理解しましょう。
Bレンジはハイブリッド車のシフトに存在し、回生ブレーキとエンジンブレーキを強く起動させるシフトモードのことです。
Bはブレーキ(Brake)を意味しています。ガソリン車のシフトにある2(セカンド)、L(ロー)と同じ役割をしますが、2とLと違って段階は1つしかありません。
Bレンジに入れることで、回生ブレーキとエンジンブレーキが強く働き、ブレーキシステムの負担軽減や燃費の向上に効果的です。
ハイブリッド車は基本的に回生ブレーキを優先しますが、バッテリーが満タンに近いときは、回生ブレーキがあまり効かなくなってしまいます。そのときはBレンジを合わせて使用すると、物理的なエンジンブレーキを合わせて効かせられるため、バッテリーが満タンに近いときほどBレンジを使用するメリットは大きくなっていくのです。
Bレンジを使用するのにおすすめのタイミングは、長い下り坂や高速道路の減速時です。
反対に、Bレンジを街乗りや平坦な道で使用すると、燃費が悪くなってしまう場合があるため注意が必要です。これは回生ブレーキで回収する電力よりも減速が強すぎて効率が落ちるためだとされています。
長い下り坂でフットブレーキを踏み続けると、ブレーキの制動力が落ちるフェード現象やペーパーロック現象を引き起こす可能性があります。長い下り坂のときはフットブレーキだけに頼らず、回生ブレーキやエンジンブレーキを併用しましょう。
また高速道路ではスピードが速いことから、フットブレーキで急にスピードを落とすと、シフトロックがかかって車の挙動が乱れる可能性があるため危険です。フットブレーキで急にスピードを落とすのではなく、Bレンジを使用して徐々に減速するよう心がけてください。
また、バッテリーが満タンに近いと回生ブレーキがあまり効かなくなるときがあります。そのときはBレンジを合わせて使用すると、物理的なエンジンブレーキも合わせて効かせられるため、バッテリーが満タンに近いときのBレンジの使用がおすすめです。
Bレンジを街乗りや平坦な道で使用してしまうと、回生ブレーキで回収する電力よりも減速が強すぎて効率が落ちてしまうのです。そのため、強い力で減速する必要のない場面では、Bレンジは使用しないほうが良いでしょう。
Bレンジの使用におすすめのタイミングは、長い下り坂や高速道路の減速時などです。これらのタイミングでBレンジを使用すると、燃費の向上やブレーキシステムの負担軽減が期待できます。適切なタイミングを理解して、Bレンジを有効に活用してみてください。
エンジンブレーキを使うメリット
エンジンブレーキは安全運転にも燃費向上にも欠かせない重要なテクニックです。エンジンブレーキを使うメリットとして以下の4つが挙げられます。
- ブレーキシステムの軽減
- フェード現象を回避できる
- ペーパーロック現象を回避できる
- 燃費の向上
それぞれのメリットについて詳しく説明していきます。
エンジンブレーキを活用することで減速の補助ができて、ブレーキペダルを強く、長時間踏み続ける必要がなくなります。
ブレーキペダルを強く踏むと、摩擦力が強くなってブレーキパッドやブレーキオイルなどのブレーキシステムにダメージが及びます。エンジンブレーキを活用することは、結果的にブレーキシステムの強い摩耗を減らし、部品を守ることに繋がるのです。
長い下り坂などでフットブレーキを連続で使用していると、ブレーキの効きが悪くなる「フェード現象」が起きる場合があります。
フェード現象は、ブレーキの摩擦によってブレーキパッドやディスクが高温になることで制動力が落ちてしまう現象です。ブレーキパッドやディスクの温度が上がるにつれて、徐々にブレーキの効きが悪くなっていってしまいます。
フェード現象を防ぐためには、長い下り坂などではフットブレーキとエンジンブレーキを併用して、摩擦によるブレーキへのダメージを軽減させることが大切です。
長い下り坂などフットブレーキを連続で使用していると、フェード現象だけでなく「ペーパーロック現象」が起きる危険性もあります。
ペーパーロック現象は、摩擦熱で高温になることによってブレーキ液が沸騰してしまい、油圧が効かなくなる現象のことです。車のブレーキは、フットブレーキを踏むことで油圧を調整し、油圧の力でタイヤにブレーキの指令を出しています。
油圧が効かなくなってしまうと、フットブレーキを踏んでもタイヤにブレーキの指令が届かず、ブレーキがまったく効かなくなる可能性があるため非常に危険です。ペーパーロック現象を防ぐためにも、長い下り坂ではエンジンブレーキを併用して、ブレーキ液が高温になるのを抑えましょう。
アクセルペダルから足を離すと、燃料の供給が止まる、または供給が大幅に減少されるため、燃料の無駄な消費が抑えられ、燃費の向上が期待できます。
ハイブリッド車は、回生ブレーキでエネルギーを再利用する仕組みも兼ね備えています。エンジンブレーキを使用することで、燃料の消費が抑えられるかつエネルギーが充電できます。
そのため、減速するときはフットブレーキで急に止まるのではなく、エンジンブレーキを使って徐々にスピードを落とすようにしましょう。
エンジンブレーキを使うデメリット
エンジンブレーキは適切に使用しないとデメリットとなる場合もあります。
エンジンブレーキを使う際にデメリットになる可能性があるのは、主に以下の3つです。
- ブレーキランプが点灯しない
- 前後のタイヤの回転差が生まれて車体のバランスが崩れる
- 使いすぎるとエンジンやトランスミッションに負担がかかる
それぞれの理由について詳しく説明します。
エンジンブレーキは使用してもブレーキランプが点灯しないため、後続車に減速を伝えられません。ブレーキランプはフットブレーキを踏んだときに点灯するもので、アクセルペダルから足を離しただけでは点灯しません。
ブレーキランプが光らず、後続車が減速に気づかないと、最悪、追突事故を引き起こす危険があります。追突事故を防ぐためには後続車と十分な車間距離を空けることが大切です。
もし後続車との車間距離が近いときに減速したい場合は、減速を知らせるために一度フットブレーキを使うのも検討しましょう。
エンジンブレーキは駆動輪に減速をかける仕組みのため、前後のタイヤの回転差が生まれて車体のバランスが崩れやすくなるため注意してください。
特に、雪道や雨天時などタイヤが滑りやすい悪路のときは、エンジンブレーキを使用するとスリップが起こりやすくなってしまうので使用を避けましょう。
適切にエンジンブレーキを使えばブレーキパッドの摩耗を抑えられますが、使いすぎるとエンジンやミッションの故障リスクを高める可能性があるため、エンジンブレーキの使いすぎには注意しましょう。
エンジンブレーキは、ギアを下げることでエンジンの抵抗を強めます。ギアが下がると回転数が上がるため、エンジンブレーキを使用すると、エンジンの回転数が上がっている状態になります。そのため、エンジンブレーキを使用するときは、回転数に注目して許容範囲の2,000〜4,000回転に納まるようにフットブレーキを併用してください。
フットブレーキとエンジンブレーキをバランス良く使用するのが大切です。