トヨタの勝ちパターンは先手必勝ではない。1960年代以降は、あと出しじゃんけんのような戦法を何度となく駆使して、人気車を育成してきた歴史がある。その典型がアルファード。高級ミニバンのジャンルで先行したのはエルグランドで、グランビア/グランドハイエースの時代に、トヨタは惨敗を喫した。
だが、その反省を踏まえて開発した初代アルファード(H10W系)でがっちりとユーザーの心をつかみ、兄弟車のヴェルファイアを加えた2代目のH20W系で、見事に宿敵を後方に置き去った。エルグランドがFF化にともない方向性を変えてからは、市場を完全に牛耳っている。なら、新型のH30W系における戦略は? 正常進化の方向だが、ねらいは大胆。「大空間高級サルーン」のコンセプトが示すように、ミニバンの枠を突き破り、日本を代表する高級車の座に上りつめようとしている。
たとえば外観。開発責任者の吉岡憲一チーフエンジニアは、「高級ホテルや格式高いゴルフ場に乗りつけたときに、センチュリーやメルセデスSクラスと同様の扱いを受けられるクルマにしたかった」と語る。
威風堂々の表現がはまるマスクや、極上の移動を約束する「エグゼクティブパワー&リラックスキャプテンシート」は、その開発方針を具現化したもの。高い天井が生む大空間という、セダンにない素養を持つアルファード/ヴェルファイアはすでにセレブやエグゼクティブに大好評だが、人気が一段と加速するはずだ。
とはいえ、「運転手付き」の層は少数派。基本の立ち位置は高級ミニバンで、ステイタス性や快適性にこだわるファミリー層を主なターゲットとする。走りと乗り心地を大幅に向上させる独立式リヤサスや、使い勝手をさらに高めたパッケージは、どんな用途でもアル/ヴェルの進化を実感させるものなのだから、顧客満足度をより高めるのは間違いない。
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