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故障・修理
更新日:2019.06.25 / 掲載日:2019.06.25

ロータリーエンジン の作動と原理

ハウジング内を回転するローターが直接吸排気ポートの開閉を行うため、レシプロエンジンのようなバルブは不要。簡単なメカニズムのため構成パーツが少なく、コンパクトに仕上げられる。

ロータリーエンジンは、まゆ型のローターハウジングの中をローターが出力軸を中心に遊星運動をしながら3つの頂点をハウジング内周面と接触させて回る時にできる容積変化を利用して吸入、圧縮、爆発膨張、排気する。

ロータリーエンジンは、2つの円をずらしてつなぎ合わせたような形をしたハウジングの中におむすび型の3角形のローターが組み合わされて構成されている。まゆ型の線は内部のローターの頂点が描くラインで、ペリトロコイド曲線といい、これこそがフェリック・バンケルが無数の線を描いた末、回転ピストン型内燃機関のために完成させたものなのだ。トロコイド曲線にはエピトロコイド曲線もあるが、こちらは、円の外周を、ある直径の円が転動する時に定められた点が描く線を指す。

 ロータリーエンジンの作動を理解するには、まずペリトロコイド曲線の原理を理解する必要がある。中央に外歯車を持ったギヤを固定し、それに内歯車を持ったギヤを組み合わせ、内外のギヤ比を2/3に設定する。内歯車を持ったギヤの先にペンを付けて回転させる。この時描き出されるのがペリトロコイド曲線なのだ。

真円のハウジングの中におむすび型のローターを入れても回転させることは可能だ。しかしこの場合、ローターの頂点に区切られた各作動室の容積は、ローターが回転しても変化しない。圧縮が必須の条件である内燃機関にとって、これは動力として成立しない。そこでトロコイド曲線の登場となる。ローターの頂点が、まゆ型のくびれた部分に近づくにつれ、作動室の容積は少なくなり、くびれた部分を通過すると容積は拡大していく。

 これがレシプロエンジンの圧縮、爆発行程のピストンの動きと同じ効果を示す。ローターがさらに回転すると、作動室は排気行程に入り、次に吸気行程となり、一つのサイクルを終了する。レシプロエンジンの場合、一つのシリンダーで4つの行程を完了させるが、ロータリーエンジンの場合、圧縮、爆発、排気、吸入のそれぞれの行程が、ハウジン内の異なった場所で行われる。

 ローターがハウジングの内面に沿って偏心しながら回転する動きを可能にしているのがレシプロエンジンのクランクシャフトに相当する、偏心したジャーナル部を持つエキセントリックシャフトだ。しかし、エキセントリックシャフトのジャーナル部分にローターが固定されてしまうと、ローターの各頂点はエピトロコイドの内周に沿って移動しない。そこで採用されたのがローター側に組み込まれるローター歯車と、シャフト側に組み込まれる固定歯車だ。

偏心ジャーナル、2つの歯車によって、ローターは自転しながら、エキセントリックシャフトの動きに従って公転もする。これがバンケル型ロータリーエンジンの最大の特徴なのだ。ローター歯車と固定歯車のギヤ比は3/2に設定される。これによってローターが一回転する間にエキセントリックシャフトは3回転する。たとえばRX-8タイプSの場合、最高出力8500rpmで発生しているが、ローターはその1/3、2833rpmで回っているにすぎない。燃焼のサイクルはレシプロエンジンの4ストロークと同じだが、一回の出力行程当たりの出力軸の回転は2ストロークに近い。

ロータリーエンジンの場合、排気量は一つのローターの容積に、ローターの数を掛けたもので表される。ローターの容積は、作動室の最大容積と最小容積の差で、圧縮比はそれぞれの容積の比率で表す。

ロータリーエンジン を構成するパーツ

ロータリーエンジンの部品類。バルブ機構を持たないロータリーエンジンはレシプロエンジンに比べて少ない部品点数で構成されている。

回転運動するローターから動力を取り出すロータリーエンジンを構成するパーツは、レシプロエンジンのそれと共通する部分はまったくない。ロータリーエンジンの骨格をなすパーツを見てみよう。

ローター
レシプロエンジンのピストンに相当するのがローター。それぞれの面に小さくくぼんだ燃焼室が設けられる。ローターの内側にはベアリング(油圧浮動メタル)が設けられ、エキセントリックシャフトの偏心したジャーナル部分に挿入される。ローターの内周の外側部分にはジャーナルに近接してローターギヤが挿入されている。図や写真で見ると、このローターギヤとセンターギヤでローターを支えているように錯覚するが、支えているのはジャーナルにかん合されたメタル部分であり、ギヤ部分は3/2のギヤ比で、ローターの自転運動と公転運動を制御する役目をしている。

アペックスシール
ローターの3カ所の頂点に挿入され、ハウジングとの間を密閉するのがアペックスシール。初期のロータリーエンジンでは、特殊な方法でアルミを浸み込ませた高強度カーボンが使用され、その後、金属製が使用された。RX-8に搭載されたRENESISでは2分割タイプで、シール性を向上させながら、慣性質量を低減し、ハウジングへの追従性を向上させている。

コーナーシール
アペックスシールとサイドシールの接点部分に装着される。旧タイプは中心部の材料がフッ素樹脂系だったが、ポートのタイプが変わって熱の加わり方が変わったため、現行は金属製になっている。

サイドシール
ローター側面とサイドハウジング間を密閉するためのシール。レシプロエンジンのピストンの圧縮リングのような役目を果たしている。断面形状を内側に向かって台形状にし、サイドシールに集まりやすい排気から生成されるカーボンを削ぎ落としやすくしている。

オイルシール
サイドシールの内側に2本装着される。レシプロエンジンのピストンのオイルリングと同じ働きをしている。スプリングによって内側から押し上げられ、サイドシールとの密着を保っている。

カットオフシール
RENESISになって初採用されたのがカットオフシール。サイドシールとオイルシールの中間にセットされる。サイド吸気、サイド排気では、このシールがないと、吸気と排気にオーバーラップが発生し、排気が吸気に混入される。カットオフシールによってこれが抑制され、燃焼効率を向上させる。サイド排気を可能にしたキーテクノロジーがこれだ。

エキセントリックシャフト
偏心シャフトともいわれるが、偏心しているのシャフトではなく、それに付随するシャフトに対するジャーナルの中心部分。これによってトロコイド曲線が成立する。このジャーナル部分にローターがセットされ、ジャーナルを回転中心として、自転しながら、さらに偏心した公転運動をする。

固定歯車
サイドハウジング固定され、ローターギヤとかみ合っている。このギヤにガイドされてローターは自転しながら公転する。

ローター歯車
ローターの内側の一片に挿入されている。これが固定歯車とかみ合い、公転と自転をガイドする。ローター歯車と固定歯車のギヤ比は3/2に設定されている。このため、ローターが一回自転する間にエキセントリックシャフトは3回転する。

ローターハウジング
ロータリーエンジンの要ともいうべきものがローターハウジング。内面はペリトロコイド曲線で構成されている。この部分に2本の点火プラグ、フューエルインジェクター、潤滑オイルインジェクターが装着され、外周部には冷却水通路が巡らされている。

サイドハウジング
ローターハウジングを両側から挟み込み、作動室を密閉する。2ローターでは3枚使用される。RENESISでは吸気ポート、排気ポートの両方がここに開けられているが、旧型ロータリーエンジンでは、排気ポートはローターハウジングに設けられていた。

サイド排気でイノベーション

RENESISのハウジング構造。

  ロータリーエンジンを実用化し、生産を続けてきたのは世界の多くの自動車メーカーの中でマツダ一社だけだった。初期のロータリーエンジンから年を追うごとに改良が進められたが、ターボ付きロータリーエンジンには排ガス規制という厚い壁が立ちふさがっていた。世界でただ1台のロータリーエンジン車だったRX-7は、「平成12年規制」を前に、2002年、生産中止に追い込まれた。しかし、マツダでは次のロータリーエンジンが少数の技術者の手で開発されていた。それが2003年に発表されたRENESISと名付けられたノンターボのロータリーエンジンだ。

RENESISのハウジング構造。
  吸気ポートの他に排気ポートもサイドハウジングに設けられている。RENESISのプライマリー吸気ポートにはジェットエアミキシングシステムが加えられる。空気流速を高め、燃料を微粒子化し、燃焼を促進させる。

サイド排気でイノベーション

RENESISで新たに設けられたカットオフシール。サイドシールとオイルシールの間に設けられ、吸気ポートと排気ポートのオーバーラップを防ぐ。RENESISのキーテクノロジーだ。

  従来のロータリーエンジンは、吸気はサイドハウジングから、排気をローターハウジングから(ペリフェラルポート)行っていたが、RENESISでは排気もサイドハウジングから行うように改良された。これが重要なキーテクノロジーとなる。
  排気をサイドにすることで吸気行程と排気行程のオーバーラップをなくすることができる。オーバーラップがないということは、排気行程の排気が吸気行程に入り込まず、安定した燃焼が可能になり、さらに排気ポートが両サイドのハウジングに設けられることにより、ペリフェラルポート式より排気ポート面積が拡大され、排気抵抗の低減が可能となった。
 サイド排気の利点はこの他にもう2点ある。排気ポート面積の拡大により、排気オープンタイミングを遅らせることができるようになり、膨張行程が長くなったことと、排気行程末期の有害排ガス(主にHC)をペリフェラルポートから吐き出すことがなくなったことだ。これらによって熱効率が向上し、さらに排ガスもクリーンなものになった。
 サイド排気の実現に大きく貢献しているのが新設定のカットオフシールだ。従来のロータリーエンジンは2本のオイルシールと3対のサイドシールで構成されていたが、RENESISではサイドシールとオイルシールの間にカットオフシールと呼ばれる第4のシールが挿入されている。ロータリーエンジンの場合、サイドシールとオイルシールの間のわずかな隙間で吸気ポートと排気ポートが連通してしまう。これを防ぐのがカットオフシールなのだ。

周辺メカニズムの改良

ペリフェラル排気とサイド排気の比較。ペリフェラルでは排気と吸気のオーバーラップがあるため、排ガスが吸気行程に侵入する。サイド排気ではこれがなくなる。

 RENESISのキーテクノロジーはサイド排気とカットオフシールの採用に代表されるが、これに伴い周辺のメカニズムにも細かく手が入れられている。サイドシールの断面形状はキーストーンタイプというくさび型に変更されている。サイドシール部には排気のカーボンが溜まりやすいが、この形状にすることによって、カーボンを削ぎ落としやすくなり、摺動面への密着度も高まる。

 ローターハウジングの潤滑のためのオイルインジェクションは、従来の1本インジェクションから2本式に替えられた。ロータリーエンジンの潤滑はキャブレターにオイルを入れることから始まり、インテークマニホールドへの供給、そして電子制御式ダイレクト給油に至り、この方式にたどり着いたのだった。ローターハウジングの両サイドにハの字型にインジェクションホールが設けられ、オイルはサイドハウジングに向かって噴射される。噴射というと大量のそれを連想するが、アイドリング時の噴射量は1分間にわずか1ccにすぎない。

 ペリフェラルポート式と同様に点火プラグはリーディングとトレーリングの2本だが、突き出し長さが異なっている。リーディングプラグの燃焼室側にはほとんど凹みがなく、トレーリング側にはわずかな凹みを設けてある。トレーリング側の凹みは圧縮と燃焼に微妙な良好な影響を与えるためなのだという。プラグ形式も変更された。従来は4カ所の側方電極を持つ白金タイプだったが、単一の小さな側方電極と極細のイリジウム中心電極を持つタイプになっている。

 RENESISにはスタンダードユニットとハイパワーユニットの2種が設定されている。両者の大きな違いは吸気システムにある。ハイパワーユニットは、吸気ポートが1ローター当たり3個設けられ、さらに吸気管の上流に可変インテークバルブがセットされ、エンジン回転数に応じて吸気ポートを使い分ける。たとえば3750rpmまでは3カ所ある吸気ポートのうちの1カ所のみから吸気し、流速を高め、トルクを向上させる。6250rpmの高回転域に入ると全てのポートを開き、高速域での出力とトルクを増大させる。7000rpmを超える高回転域では可変インテークバルブも開き、吸気管長を長くし、トルクを増大させる。これらは制御の一例だが、回転領域によって3つのバルブがきめ細かく制御される。

 スタンダードユニットでは吸気ポートが2カ所になり、可変インテークバルブも加えられる。これらの改良によってノンターボながら、ハイパワーユニットは250ps/8500rpmを発生し、スタンダードユニットでも210ps/7200rpmを発生する。

 ハイパワーユニットのフューエルインジェクターは、3カ所の吸気ポートに合わせて3本セットされる。低回転から中回転域でもっとも多用されるプライマリーポート用のインジェクターは、燃料を超微粒子化するために12個の噴孔が設けられ(他の2つは4噴孔)、さらに燃料の霧化、気化、混合を促進させるために、ポート内部に細いパイプの先端からジェットエアを噴出するジェットエア・フューエルミキシング・システムも採用されている。これらの改良の他、軽量アペックスシール、カーボンかみ込みを解消する台形状のサイドシール、単体で5%の重量低減を行ったライトウエイトローターなども採用されている。

 マツダ・ロータリーエンジンの祖ともいえる山本健一氏の時代に、サイド排気方式を実験した資料が残っているという。しかし、カーボンで排気ポートが詰まるという障害や、吸気と排気のオーバーラップという問題を抱えていたため、この方式はお蔵入りとなり、マツダのロータリーエンジンはペリフェラル排気で実用化を達成した。しかし、エンジニアの粘り強い努力によって、初期に実験されたサイド排気で、再びロータリーエンジンは復活した。

 基本的に同じメカニズムを用いて、水素を燃料とする水素ロータリーも開発され、RX-8に搭載し公道実験が行われた。水素を内燃機関で燃やす実験を行っているのはマツダとBMWなど。安いコストで移行できるポスト化石燃料の有力なパワーソースとしては注目する価値はある。

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グーネットピット編集部

ライタープロフィール

グーネットピット編集部

車検・点検、オイル交換、修理・塗装・板金、パーツ持ち込み取り付けなどのメンテナンス記事を制作している、
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