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故障・修理
更新日:2019.06.25 / 掲載日:2019.06.25

最新ロータリーエンジンのメカニズム

RENESISのハウジング構造。

ロータリーエンジンを実用化し、生産を続けてきたのは世界の多くの自動車メーカーの中でマツダ一社だけだった。初期のロータリーエンジンから年を追うごとに改良が進められたが、ターボ付きロータリーエンジンには排ガス規制という厚い壁が立ちふさがっていた。世界でただ1台のロータリーエンジン車だったRX-7は、「平成12年規制」を前に、2002年、生産中止に追い込まれた。しかし、マツダでは次のロータリーエンジンが少数の技術者の手で開発されていた。それが2003年に発表されたRENESISと名付けられたノンターボのロータリーエンジンだ。

RENESISのハウジング構造。
吸気ポートの他に排気ポートもサイドハウジングに設けられている。RENESISのプライマリー吸気ポートにはジェットエアミキシングシステムが加えられる。空気流速を高め、燃料を微粒子化し、燃焼を促進させる。

サイド排気方式への転換

RENESISで新たに設けられたカットオフシール。サイドシールとオイルシールの間に設けられ、吸気ポートと排気ポートのオーバーラップを防ぐ。RENESISのキーテクノロジーだ。

従来のロータリーエンジンは、吸気はサイドハウジングから、排気をローターハウジングから(ペリフェラルポート)行っていたが、RENESISでは排気もサイドハウジングから行うように改良された。これが重要なキーテクノロジーとなる。
排気をサイドにすることで吸気行程と排気行程のオーバーラップをなくすることができる。オーバーラップがないということは、排気行程の排気が吸気行程に入り込まず、安定した燃焼が可能になり、さらに排気ポートが両サイドのハウジングに設けられることにより、ペリフェラルポート式より排気ポート面積が拡大され、排気抵抗の低減が可能となった。
サイド排気の利点はこの他にもう2点ある。排気ポート面積の拡大により、排気オープンタイミングを遅らせることができるようになり、膨張行程が長くなったことと、排気行程末期の有害排ガス(主にHC)をペリフェラルポートから吐き出すことがなくなったことだ。これらによって熱効率が向上し、さらに排ガスもクリーンなものになった。
サイド排気の実現に大きく貢献しているのが新設定のカットオフシールだ。従来のロータリーエンジンは2本のオイルシールと3対のサイドシールで構成されていたが、RENESISではサイドシールとオイルシールの間にカットオフシールと呼ばれる第4のシールが挿入されている。ロータリーエンジンの場合、サイドシールとオイルシールの間のわずかな隙間で吸気ポートと排気ポートが連通してしまう。これを防ぐのがカットオフシールなのだ。

周辺メカニズムの改良

ペリフェラル排気とサイド排気の比較。ペリフェラルでは排気と吸気のオーバーラップがあるため、排ガスが吸気行程に侵入する。サイド排気ではこれがなくなる。

RENESISのキーテクノロジーはサイド排気とカットオフシールの採用に代表されるが、これに伴い周辺のメカニズムにも細かく手が入れられている。サイドシールの断面形状はキーストーンタイプというくさび型に変更されている。サイドシール部には排気のカーボンが溜まりやすいが、この形状にすることによって、カーボンを削ぎ落としやすくなり、摺動面への密着度も高まる。

ローターハウジングの潤滑のためのオイルインジェクションは、従来の1本インジェクションから2本式に替えられた。ロータリーエンジンの潤滑はキャブレターにオイルを入れることから始まり、インテークマニホールドへの供給、そして電子制御式ダイレクト給油に至り、この方式にたどり着いたのだった。ローターハウジングの両サイドにハの字型にインジェクションホールが設けられ、オイルはサイドハウジングに向かって噴射される。噴射というと大量のそれを連想するが、アイドリング時の噴射量は1分間にわずか1ccにすぎない。

ペリフェラルポート式と同様に点火プラグはリーディングとトレーリングの2本だが、突き出し長さが異なっている。リーディングプラグの燃焼室側にはほとんど凹みがなく、トレーリング側にはわずかな凹みを設けてある。トレーリング側の凹みは圧縮と燃焼に微妙な良好な影響を与えるためなのだという。プラグ形式も変更された。従来は4カ所の側方電極を持つ白金タイプだったが、単一の小さな側方電極と極細のイリジウム中心電極を持つタイプになっている。

RENESISにはスタンダードユニットとハイパワーユニットの2種が設定されている。両者の大きな違いは吸気システムにある。ハイパワーユニットは、吸気ポートが1ローター当たり3個設けられ、さらに吸気管の上流に可変インテークバルブがセットされ、エンジン回転数に応じて吸気ポートを使い分ける。たとえば3750rpmまでは3カ所ある吸気ポートのうちの1カ所のみから吸気し、流速を高め、トルクを向上させる。6250rpmの高回転域に入ると全てのポートを開き、高速域での出力とトルクを増大させる。7000rpmを超える高回転域では可変インテークバルブも開き、吸気管長を長くし、トルクを増大させる。これらは制御の一例だが、回転領域によって3つのバルブがきめ細かく制御される。

スタンダードユニットでは吸気ポートが2カ所になり、可変インテークバルブも加えられる。これらの改良によってノンターボながら、ハイパワーユニットは250ps/8500rpmを発生し、スタンダードユニットでも210ps/7200rpmを発生する。

 ハイパワーユニットのフューエルインジェクターは、3カ所の吸気ポートに合わせて3本セットされる。低回転から中回転域でもっとも多用されるプライマリーポート用のインジェクターは、燃料を超微粒子化するために12個の噴孔が設けられ(他の2つは4噴孔)、さらに燃料の霧化、気化、混合を促進させるために、ポート内部に細いパイプの先端からジェットエアを噴出するジェットエア・フューエルミキシング・システムも採用されている。これらの改良の他、軽量アペックスシール、カーボンかみ込みを解消する台形状のサイドシール、単体で5%の重量低減を行ったライトウエイトローターなども採用されている。

マツダ・ロータリーエンジンの祖ともいえる山本健一氏の時代に、サイド排気方式を実験した資料が残っているという。しかし、カーボンで排気ポートが詰まるという障害や、吸気と排気のオーバーラップという問題を抱えていたため、この方式はお蔵入りとなり、マツダのロータリーエンジンはペリフェラル排気で実用化を達成した。しかし、エンジニアの粘り強い努力によって、初期に実験されたサイド排気で、再びロータリーエンジンは復活した。

基本的に同じメカニズムを用いて、水素を燃料とする水素ロータリーも開発され、RX-8に搭載し公道実験が行われた。水素を内燃機関で燃やす実験を行っているのはマツダとBMWなど。安いコストで移行できるポスト化石燃料の有力なパワーソースとしては注目する価値はある。

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グーネットピット編集部

ライタープロフィール

グーネットピット編集部

車検・点検、オイル交換、修理・塗装・板金、パーツ持ち込み取り付けなどのメンテナンス記事を制作している、
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