故障・修理
更新日:2019.06.12 / 掲載日:2019.06.12
AA63セリカラリー車製作プロジェクトVol.4
かつて大人気を博したWRCのカテゴリーであるグループB。その参戦用マシンとしてトヨタが選んだのが、最後のFRとなったA60系セリカだ。そんなA60系セリカをベースにラリー車を製作し、GAZOOラリーチャレンジ参戦を目論んでいる。しかしベースとして見つけてきたセリカがあまりに錆び過ぎていて、作業は難航中。
グループB仕様としてWRCを戦ったA60系セリカで、トヨタ車を中心に燃料電池車のミライから80~90年代、走り好きに大人気だったスターレットやレビン&トレノなどがターマックのラリーコースを走るGAZOO ラリーチャレンジ。開催地の自治体と連携を図るなどして、地味になりがちな国内ラリー競技らしからぬ華やかさがあり、エントラントはもとより、観戦者やクルマにあまり興味のなかった人からも「なんか賑やかで面白そう」と人気を博しているラリーなのだ。
そんなGAZOOラリーチャレンジに参戦すべく車両製作中なのが、あきる野市にあるレーシングサービス・ロゴス。代表の久保さんが見つけてきたベース車両が、あまりにも錆が激しく、まともに動くようなボディへと修復する作業が、えらく難航しているのだ。
その修復を手がけているのが海老名メカ。「こんな作業ばかりレポートされちゃうと、鈑金屋さんかと勘違いされちゃいますよね? 本業はレースメカニックですから!」と取材に伺うたびに念押しされている(笑)。しかし何でも出来てしまうのがレースガレージのメカニック。鈑金作業など専門外のようだが、土曜日の予選でクラッシュしたマシンを翌日の決勝レースに間に合うようにピットで即席鈑金なんて作業もこなす。即席とはいえレースを戦える状態にまではしっかり戻すわけで、要点を押さえた鈑金術に掛けては、下手な鈑金屋さんよりもハイレベルだったりする。
そんな海老名さんをもってしても、この錆の酷いAA63セリカはなかなか手強いようだ。時間が掛かるのは錆びてしまった部分を元の形に近いパネルをいちいち作って溶接しないといけないため。しかも現在作業しているトランクフロア部のように欠損部が広いと、作業時間は増すばかり。しかし今回の作業でひと山こせた感じ?かも?
前号の作業では?
1 鉄板に穴をあけて溶接
製作したトランクの床となる鉄板にスポット溶接(※溶接の種類ではなく、補修鈑金時に行う本来のスポット溶接と同じ役割となる部分溶接を示す)用の穴を開ける。ちなみにまずはフレーム部と新造パネルを溶接するので、フレーム形状に合わせて穴を開けた。
2 現物合わせで鈑金
もともとのトランクの床は、凹凸があり平面ではない。そこに平板で作ったパネルを載せても、残念ながら溶接したい部分のパネル同士が密着してくれない。というわけで、まずはパネル同士の隙間が少ない部分を鈑金ハンマーで叩いて隙間を無くしてから溶接する。
3 フレームの形に平らな鉄板を叩いて成形
4枚目の写真は現在溶接するフレーム部の上面と新造パネルを真横から見たもの。矢印のある付近を見てもらうとわかるように、かなり大きな隙間があるのだ。この隙間をハンマーなどで叩いて密着するように成形していく。鈑金ハンマーの他、大型のハンマーや、木材を当て板代わりに用いて密着させられた部分から溶接で固定していくのだ。
4 隙間が大きい部分はタッピングビスを使って
ハンマーで叩くだけでは密着させられないほどの隙間は、ドリルでフレーム側まで貫通する穴を開け、新造パネルの上から隙間よりも長いタッピングビスをその穴にねじ込んでいく。ソケットレンチを使いフレームと新造パネルが密着するまでタッピングビスをねじ込む。下の写真を見てもらうとわかるように、新造パネルが床に合わせて変形した。
5 フレームとの溶接完了!
さらに鈑金ハンマーで溶接する穴の開いた部分を叩きフレーム部上面と新造パネルを密着させてからスポット溶接する。右の写真はフレーム部に新造パネルのスポット溶接が完了した状態。レポートではあっという間だが、それなりの時間が掛かっているということを本誌の読者のみなさんであればお分かりになっていただけるはずだ。
6 運転席側も同じように溶接
運転席側も同様に新造したパネルをスポット溶接していく。こちらは先に溶接した助手席側よりもフレーム部上面の形状がフラットに近かったようで、ハンマーによる鈑金のみで溶接部の成形を行うことができた。
7 ワンオフ補強材にも溶接
錆びて欠損してしまったバックパネルとフロアなどをまとめて溶接してあるミミの代わりになるようにと製作したアングル材改のバーにも新造パネルをスポット溶接する。フロア形状に合わせるために叩いたことで新造パネルが変形しているが、こちらはバイスクリップで固定して溶接できるので問題なし。
8 トランクフロア部をジャッキで持ち上げ
スペアタイヤ収納部となるフロアと新造パネルを溶接するべく、まずはジャッキでフロア部を持ち上げる。これは自重でフロアが垂れ下がっているので、本来の位置に戻してやるため。右の2点の写真を見比べてもらうと、下のジャッキで支えていない方はフロアと新造パネルが離れてしまっていて、隙間があるのがわかるはず。
9 フロア部も新造パネルと溶接で合体
フロアと新造パネルを溶接する。こちらは新造パネルに穴を開けての溶接ではなく、新造パネルの淵とフロアを点付け(といっても仮ではない)で数カ所溶接している。ラリー車としての強度はこれで十分なようだ。
10 スペアタイヤの凹に合わせて、助手席側パネルを鈑金開始
運転席側はフロアが細かい凹凸を除けば基本平面だったのであっさり完了となったが、助手席側はタイヤハウスが絡んでくるので、ここからが作業の本番となる。まずは大きめに切り出してあったスペアタイヤの凹みに掛かる部分を適量とするために、改めて凹み部分の型紙を段ボールで製作し、それに合わせて新造したパネルにマーキングを施し、さらに余分となる部分の鉄板をプラズマカッターを用いて切り取ってやる。
11 大型のハンマーで叩いて、平らな鉄板を凹んだフロア形状に合わせていく
ここからひたすらスペアタイヤの凹みに合わせて平らだった新造パネルをハンマーで叩いて曲げていく作業となる。軽いハンマーでは鉄板は曲がってはくれないので、そこそこ重さのあるハンマーを用いて辛抱強く鉄板を叩く作業は、かなりの重労働となる。
じわじわと新造パネルの鉄板がスペアタイヤの凹みに合うように変形していく。この状態まで曲げるのにも相当の時間を要しており、作業をしている海老名メカは涼しい顔でやっているが我々サンメカが同様の作業をしたならば、既に腕がパンパンになっているはず。
12 余分な部分を切り取ってさらに叩く
ある程度叩いたところで、さらに余分となる部分をプラズマカッターで切断。曲げる部分の鉄板は長いほど曲がり辛いので、最小限にしておいた方がいいようだ。また叩くことで鉄板も伸びていると思われるので、形を整えておくという意味もある。その後は再びハンマーでひたすら叩く。溶接可能な隙間となったところで完成となる。
タイヤがしっかり収まるかも確認
スペアタイヤがしっかり収まることを確認。ラリー車両は、スペアタイヤの搭載は不可欠となるので、タイヤが収まらないと意味がないのである。トランクの床部の修復の大きな山が越えたので、次回取材に行く際に大幅に作業が進んでいるはず?