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更新日:2025.05.16 / 掲載日:2025.05.16
トヨタが決算に強い理由【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ
トヨタ自動車の2025年3月期の決算は、増収減益だった。
連結販売台数:936万2000台(前年比99.1%)
営業収益:48兆367億円(前年比106.5%)
営業利益:4兆7955億円(前年比89.6%)
営業利益率:10.0%(前年比マイナス1.9ポイント)
親会社の所有者に帰属する当期利益:4兆7650億円(前年比96.4%)

肝心の減益の理由が何かと言えば、決算書の宿命とも言える対前年比較での評価が主要因である。
2年前、2023年3月期の決算には「半導体不足による通年の減産」に見舞われて、受注を受けたものの納車できないといういわゆる「受注残の繰越」が大量に発生した。2024年3月期には半導体生産の正常化にともない、前の期から繰り越した受注残をフルスピードで生産することで売り上げが上がり、また品薄期の受注なので値引き要求も極端に少なかったため利益が増大した。
つまり2024年3月期は、前の期からの大量の宿題を消化し、しかもそれらの利幅が厚かった。それと当該期2025年3月期を直接比較すれば利益が落ちるのは当然で、「上手く行き過ぎた年から、普通の年に戻った」つまり平常運転に復帰したに過ぎない。この分のマイナスが3529億円。
トヨタはそういう儲けが多かった年に「人への投資・成長領域」への総合投資を行い。次の成長に戦略投資を行った。こちらが7000億円。先の3529億円と合算して1兆529億円を前年利益から除外すると、4兆3000億円となり、当該期利益の4兆7955億円との差はプラス4955億円になる。つまり、特例的な数字を除外すれば当該期も実質的には約5000億円プラスの結果だったということだ。
さてもトヨタは強い。なぜこういつもいつも強いのかと言えば、最後の最後「製品が良いから」という話になる。トヨタは長年の様々な問題の原因は詰まるところ製品が全ての根源であることを理解した。

昨今中国製の安いBEVの可能性をよく問われるのだが、価格戦略で戦うということは、唯一の価値は価格であって、それより安い商品が出ればそれまでだと言うことである。実は価格だけではない。それが例えば0-100km/h加速でも同じで、トップの成績だったクルマはトップを奪われれば存在価値が半減する。
それはつまりクルマとして選ばれているわけではない。とくに価格は1番であることもメリットもとてもわかりやすいので、定期的に価格で勝とうとするエントラントが出現する。みなさんご記憶だろうか、インドのタタがリリースした27万円カーの「ナノ」。あの時も激安カーのナノが入ってきたら国産の軽自動車は全部やられるとメディアは騒いだ。
けれども結局ナノは前評判だけで、ほとんどヒットらしいヒットも記録せずに消えた。自分の身に当てはめれば、要らないものはタダでも要らない。欲しいものなら払える限り払う。そういうものだ。安さは一時の競争力にはなるのだが、恒常的な強みにはならない。

2019年にトヨタの幹部にインタビューした時、面白い話を聞いた。「クルマなんて動けばそれで良い。クオリティも要らないし、安全性も求めないという時代が来たら、我々トヨタは生き残ることができません」
1950年代であれば、日本車はタダ安さをもって戦うことができた。しかし今となっては、中国やASEANの安いクルマと戦わなければならない。
その時、何を価値として戦うのかと言えば、良品適価なのだ。まずはほかの商品ではなくこの商品が欲しいと思わせるだけの魅力がクルマに備わっていなければならない。トヨタはそのために「もっといいクルマ」を掲げ続け、価値あるクルマを作る努力を続けてきた。もちろん「良いものならどんなに高くても」ではマーケットに選ばれない。優れており、しかもバリューフォーマネーであることが求められるのだ。
話としては当たり前過ぎて詰まらないかもしれないが、トヨタの強みは突き詰めれば製品が良いということ。BtoCのビジネスはお客に選ばれてナンボという世界であることはどこまでも変わらない。