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更新日:2024.06.10 / 掲載日:2024.06.07

拡大する不正問題を考える【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ、マツダ

 6月3日、国土交通省はダイハツの不正事案を踏まえて、他の自動車メーカー、装置メーカーなど85社に不正行為の有無に関する調査報告を指示したところ、トヨタ、マツダ、ヤマハ発動機、本田技研工業、スズキの5社から不正行為ありの報告があったと発表した。

 なお、このリリースの文中には「5月末時点の報告結果は以下のとおり」と記載されており、合わせて調査完了は68社、調査継続中17社と書かれていることから、普通に読めばこの17社からまだ追加の事案が出てくる可能性が高い。すでにそうなりつつあるが、今後さらに対象社が増えれば業界を揺るがす信用失墜問題になるだろう。

トヨタが公表した「型式指定申請における調査結果について」より

 さて問題はこの十把一からげの「不正」の中身である。本当に誰が考えても不正としか言えないものも確かにあるのだが、情状酌量の余地があるものや、ほとんど形式犯にすぎないものものまで混在している。むしろ件数ベースで全体を見渡すとそういうものがほとんどだ。この問題はすでにダイハツの不正の時から連続していて、例えば筆者が形式犯、もしくは情状酌量の余地ありと考える「不正」は以下のようなものだった。

 試験成績書に、試験に供されたクルマの車体番号を書き込む規定の試験で、ついうっかりの手配ミスにより車体番号のない同型車両でテストを行ってしまった。ダイハツの場合、試験に必要なクルマだけ車体番号が打刻される。

 そのため試作車全てに車体番号が打刻されているわけではない。それは試験成績書に打刻番号が必要な試験と必要ない試験があるからだ。逆に言えば打刻の手配をしている試験車としていない試験車が混在している状態なのだが、そうした状況下で車体番号打刻のない個体を取り違えて試験を実施し、試験成績書の欄を埋めるために、別の同型車の車体番号を記入した。単純化すればこの試験に供したクルマに打刻さえ打ってあれば不正ではなかったのである。

 今回国交省から発表されたマツダのケースでは2パターン5件の「不正」が報告されている。一つ目は、「衝突試験における試験車両の不正加工」という禍々しい名前なのだが、詳細に見ると、実態はだいぶ違う。

マツダが発表した「型式指定申請に関する国土交通省への調査報告について」より

 この「不正」、エアバッグを自然起爆(衝撃センサーによる起爆)ではなくタイマーで起爆したことが問題になっている。これらの「不正」はフルモデルチェンジではなく、いわゆるマイナーチェンジの際に安全性を確認するために行われた。

 衝突時の乗員保護には大きく分けて、2つのステージがある。最初のステージは衝突して、衝撃センサーが反応し、センサーからの信号でエアバッグが作動するまで。2つ目のステージは、開いたエアバッグとシートベルトが連携して、乗員の頭や体がハンドルや内装材と一定以上の加速度でぶつからないように保護するステージだ。

マツダが発表した「型式指定申請に関する国土交通省への調査報告について」より

 問題の対象となるアテンザは、フルモデルチェンジ以降、シャシーは変わっていないし、試験の衝突速度の指定も変わっていない。つまり、1つ目のステージはフルモデルチェンジの時に十分テストを行って安全性が確保されている。

 一方で、マイナーチェンジでインパネのデザインが大幅変更され、それに伴って助手席エアバッグが変更された。なのでここでしっかり確認しておきたいのは2つ目のステージである。よってマイナーチェンジの変更で条件が変わる2つ目のステージを重点的に確認することの方が、より乗員の安全がしっかり確認できる。そうマツダの担当者は考えた。

 しかしリアルな衝突試験では、衝突速度にも法規で許された範囲内でのブレがあるし、どうしても運の要素もあって、エアバッグの起動タイミングにもブレが出る。理系の人なら実験データがブレるということはよくよくご存知だと思う。まあコインを2回投げて必ず裏と表が1回ずつ出るかをみれば嫌でもわかると思う。もちろんそのブレも含めてフルモデルチェンジの時のテストで安全性は確認済みなのだが、担当者はこのブレを嫌った。

 運が作用して、2ステージ目の条件が楽になるケースがありうるからだ。そこでタイマーを使って厳密に法規基準通りのブレのない中央値の場合の起爆を再現し、2ステージ目のシートベルト性能やインパネ形状の確認をより高精度に確認しようと考えた。そのためにエアバッグをタイマーで作動させた。言ってみれば法規より、より良い試験方法を模索して実行してしまったわけだ。これが「不正」の実態である。

 もうひとつの「不正」は、エンジン出力試験である。エンジンを約1時間連続運転しながら、およそ500rpm毎にトルクを計測する試験だ。これは試験場のエンジンベンチ上で行われる試験だが、実際のクルマと違って、走行風による冷却がない。吸気温度には法規で25℃(±10℃)という指定があり、つまり外気温は15℃から35℃までOKということになる。

 特に気温が高い条件で1時間の連続運転をすると、試験中のエンジンの冷却に問題が生じる。流石に排気系にはファンで冷却風を送って対処しているのだが、吸気側は無対策だった。するとエンジン全体の熱やインテークマニフォールド内の発熱で、吸気口では規定値内に収まっていた空気が、エンジン制御のセンサーに到達するまでに異常高温に達し、エンジンの保護機能が働いて点火時期を補正してしまう。

 しかし、これはクルマに搭載されて、走行風が当たっていれば起きない補正である。実験場のベンチでだけ起こるリアルな現象と、ユーザーが路上で運転する時に起こるリアルな現象。どちらを本当とするべきか。ここでエンジニアは路上のリアルを取った。当該エンジンは何度も車載状態で社内テストを繰り返してきており、点火時期補正など通常条件では発生しないことを知っていたからだ。そうしてソフトウエアを制御して、点火時期補正をオフにしたのである。

マツダが発表した「型式指定申請に関する国土交通省への調査報告について」より

 そもそも試験環境がリアルな走行をエミュレーションできていないのが問題で、インテーク側にも妥当な量の走行風を当てるべきである。しかし今そこで試験を行なっている人にはそういうそもそも論は無意味である。だからエンジニアは本人の信じるよりリアルな選択をした。

 こうしてみると、少なくとも悪意を以て結果を欺こうとしたものではないケースが多分に「不正」とされてしまっている現状が伺える。手順のミスや難しいケースでのルールの解釈ミス。それらが全部するすると「不正」となってしまう現状はどうなのだろうか。

 例えば航空の世界では、「人はミスをする」ことが前提に、そのミスをシステムでカバーするように制度が設計されている。あるいはクルマだって、設計にミスがあれば、リコールという制度があって、ミスをそのまま「不正」にさせないようになっている。しかしこの認証制度だけは「ミスはない」ことが前提でできており、いかなる場合も手順を間違えたり、解釈にミスがあってはいけないことになっている。つまりは制度設計が前近代的要素をはらんでいるのだ。

 筆者は断言するが、「ミスを怠慢」とするルールである限り、今後も「不正」は続くし、絶対になくならない。今後も「不正」は永遠に続くだろう。厳密な調査をすればするほど、たくさんの「不正」が見つかることになる。

 そういう点を完全に無視して、国交省は厳しく自動車メーカーを非難する。さらに言えばメディアはインモラルな行為としてセンセーショナルに書き立てる。その度に思うのだ。「メディアは誤報も誤植も、全部同じインモラルで非難される覚悟があるのか」と。

 まあ、全体を負の方角に持っていっても仕方ない。やはり本来は、認証制度を「人はミスをする」という当たり前のことを前提にした近代的な制度設計へと早急に進化させるべきである。そして最後に当たり前の話だが、だからと言って、不正の全てが許されるわけではない。中には本当に意図的な不正も含まれている。そしてそういう不正こそを厳しく弾劾すべきだと思うのだ。そうした問題は今後各社の発表が出揃ったら改めて書くつもりだ。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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