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更新日:2022.06.20 / 掲載日:2022.06.20

【レクサス RX】最新作RXはこうして誕生した。開発者が語る「レクサス進化論」

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス

 レクサスのミッドサイズSUV「RX」が、2022年6月1日に世界初公開された。同車は、1998年に、都市型クロスオーバーSUVの先駆けとして登場。その後、レクサスSUVラインアップで中心的な役割を担い、現在は約95の国と地域で販売され、その累計台数は、約350万台にも上る。そんなレクサスの屋台骨である新型RXのお披露目の舞台では、レクサスの新世代モデルを手掛けたチーフエンジニアが集結し、開発の舞台裏が語られた。

デザイン部門の責任者と各モデルのチーフエンジニアが集まり最新レクサスがどのように開発されているかが語られた

 会場に集結したのは、LXの横尾 貴己 氏、NXの加藤武井 武明 氏、RZの渡辺 剛 氏、RXの大野 貴明 氏の4名のチーフエンジニア。そして、全てのモデルのデザインに携わるレクサスデザイン部部長 須賀 厚一 氏が参加した。

 次世代レクサスの幕開けを象徴するモデルとして、2021年10月に発表されたコンパクトSUVの2代目「NX」が位置付けられているが、その改革の原点は、フラッグシップクーペ「LC」にあるという。かつて海外のジャーナリストから、「レクサスはつまらない」と指摘されたことをきっかけに、豊田章男代表取締役社長は、そのイメージを打ち破るべく、デザインと走りの良さを主軸に開発を行ったのが「LC」である。その開発で得た知見や魅力を全てのレクサスに展開することで、ブランド価値へと昇華させるべく、次世代モデルの開発が進められてきたという。その新世代モデルの第一弾となったのが、コンパクトSUVの新型「NX」だ。NXがキーとなったのは、次期型の開発のタイミングに加え、グローバル販売の約25%を占める主力車種であるためだ。つまり、NXが生まれ変わることで、より多くの顧客に新価値を理解してもらうことが出来るメッセージ性の高いモデルなのだ。

 開発では、デジタル技術を活用することで、軽量かつ高剛性の理想的な骨格作りをめざしたほか、SUVではあるが、走行が行えるようになったばかりの試験コースの「下山テストコース」で、厳しい視点を持つプロのレーシングドライバーにもチェックをしてもらったという。その結果、開発側の狙いと、走りのプロが求める理想に大きな乖離がある現実を思い知らされることになる。そこで下山テストコースで、開発チームの各担当者が合宿のように集中して集まり、テストと改良を繰り返すことで新型NXの磨き上げを実施。その成果が、「安心」と「安全」、そして「愉しさ」のある新たなレクサスの走りの基礎となった。

 次なる新型モデルは、SUVラインのフラッグシップ「LX」だ。トヨタのクロカン「ランドクルーザー」とベースを共有する本格派SUVだが、それを新レクサスとしてどう表現していくかが大きな課題だったという。そのブレイクスルーは、なんと豊田章男社長からの「砂漠にタキシード」のようなクルマというメッセージだったという。その言葉からデザイナーはコンセプトを「シルキーインゴット」とし、堅牢な金属の塊をシルクの布で多かったような雰囲気が目指したデザイン画を描き、それがデザインベースとなった。走りの面では、他のレクサスSUVとは異なり、フレームボディを持つため、険しい悪路走行が可能な強みがある。一方で、新レクサスが目指すドライバーと対話感のある意のままの走りをどのように表現するかを悩んだという。その実現に大きな助けとなったのが、「レクサスの味磨き活動」という取り組みだった。これはレクサス車全体の開発を統括するプレジデントの佐藤 恒治を含め、各モデルのチーフエンジニアや各部の開発設計の長や生産部の役員などが、土曜の下山テストコースに集結。互いの開発する新型車や新技術、アイデアなどを持ちより、互いのクルマを乗り比べたりすることで、意見交換や開発で得た知見を共有することで、全てのレクサス車で共通して得られる走りの価値の実現を目指す取り組みだった。これがチーフエンジンニアを中心とした独立性の高い開発体制からチーフエンジニア同士が協力し、互いのクルマを高めていく関係が生まれたという。

 いよいよ第3弾モデルでは、レクサス初のEV専用車である「RZ」となる。レクサスの走りを評価するマスタードライバーも強める豊田章男社長からは、「自動車屋が作るからこそのEV」や「レクサスらしいEV」などを問われ、その点を重視して開発を進めてきた。デザインでは、EVのため、冷却のためのラジエーターが備わらないため、フロントグリルは不要だ。グリルが不要なのに、レクサスの象徴であるスピンドルグリルを備えるのは、意味のないこと。そこで新たなアイデアとして浮かんだのが、スピンドルデザインをボディの中に取り込んでしまおうと生まれたが、「スピンドルボディ」という新しい表現だったという。また技術面では、電動パワートレインの特性を活かした新たな4WD「DIRECT 4」を開発するなど、電動化技術も進化させた。

 今回の主役である「RX」は、これまでの新型モデルの成果の全てを取り入れた第4弾となる最新の新世代レクサスとなる。新型の開発に当たり、豊田章男社長からも「レクサスのコアモデルであるRXだけに大変だと思うが、守りに入らずに打ち破って欲しい」と激励されたそう。そこで新たなRX像を目指したというが、当初は、その独自性を重視するが故、新世代レクサスの目指す走りの表現とは、少し異なる方向に進んでいた。走りの評価を行うマスタードライバーでもある豊田章男社長は、走行テストで、直ぐに気が付いたが、「アメリカを中心に支持されるラグジュアリーSUVだけに、穏やかな動きや風格は大切な価値だ。RXで他のレクサスの同様、走りに拘ると違うものになってしまうかもしれない」と言い、かなり評価に悩んでいたという。それは豊田社長自身も、変革を望みながらも開発チーム同様に、RXが築いた都市型ラグジュアリーSUVのパイオニアという価値の大切さを認識していたためだろう。しかし、最終的にはRXも次世代レクサスの走りの価値を与え、ドライバーと対話できるクルマに仕上げるように指示を出した。それは既存の価値観を守るよりも、新世代レクサスのメッセージである走りの魅力を追求することこそが、結果的に顧客の満足度をより高めることが出来ると判断したのだろう。そこには、LC開発へと繋がった「つまらないクルマ」なんてことを二度と言わせないという強い想いにあるのではないだろうか。

 新世代レクサス共通の走る歓びを身に着けた「RX」は、デザイン面でも既存のアイコン「スピンドルグリル」と次世代アイコンとなる「スピンドルボディ」をクロスオーバーさせたものに仕上げている。もちろん、そのデザインには、伝統のRXの特徴もしっかりと盛り込まれ、RXの系譜を感じさせるものだ。つまり、RXの伝統を受け継ぎながらも、次世代レクサスの新ブランド価値との融合を巧みに成功させたことを意味しているのだ。新型RXの発売は、今秋を予定している。登場まで、もうしばしの時間が必要となるが、都市型ラグジュアリーSUVの新トレンドを体現した魅力的なモデルとなっていると期待して良いだろう。

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大音安弘(おおと やすひろ)

ライタープロフィール

大音安弘(おおと やすひろ)

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

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