車の歴史
更新日:2021.07.29 / 掲載日:2021.07.27

昭和・平成を彩ったオープンカーの誘惑【VOL.1】

 普通のクルマから見る景色をモニターの画面だとするなら、オープンカーのそれは映画館のスクリーン。屋根がないだけで、臨場感は雲泥の差。温度や湿度、風の匂いなど、季節をダイレクトに感じられるのもこの上ない魅力だ。

オープンカーは人生のお楽しみ

 下戸の筆者は酒飲みの友人から「酒を飲まないのは、人生の楽しみをひとつ知らないことだ」と失敬なことを言い放たれることがある。そんなときは、「オープンカーに乗らないのは、人生の楽しみをひとつ知らないことだ」と言い返す。ごく普通のミニバンやセダンに乗る彼らのたいがいは、それで黙る。

 そう、数あるクルマの中でも、オープンカーは人生の楽しみに数えるに値する乗り物だ。かく言う筆者もスズキカプチーノやスマートロードスターといったオープンスポーツカーをそれぞれ10年以上、都合27年も乗り継いだ。家族のための実用車選びも、最低でもサンルーフ付き。できればキャンバストップが選択条件。今も古いマツダデミオのオープントップが手元にある。次に乗り換えたい屋根の開くクルマがないのだ。

 オープンカーに初めて乗った人の多くは、「気持ちいい~」と声を上げる。ダイレクトに感じる日差しや風の匂い。耳元で聞こえる山鳥の鳴き声や、ガードレールの向こうを流れる川の瀬音。都会のビル街でも、風に揺れる街路樹の葉ずれや木漏れ日を感じ、その中に営巣した鳥のさえずりや交差点を渡る人々の話し声も驚くほどクリアに聞こえてくるのである。

 だからオープンカーと過ごす時間は少しも退屈しない。空調を内気循環にして、窓を閉め切って走る車内がいつもの居間の延長なら、室内外の隔てのないオープンカーは、いつもの道ですら匂いや風の感触も味わえるボディソニックシートでのスペクタクル上映会にしてくれるのだ。

弱みも吹き飛ばす魅力

 もちろん、酒飲みが人生の楽しみばかりでなく、時に痛い目を見るように、オープンカー乗りにもつらいときはある。

 乗ったことのない女のコは「海沿いをオープンカーで走ったら気持ちよさそう」などと無邪気に言いそうだが、うっかりオープンで真夏の湘南の渋滞にはまれば、あまりの暑さに笑顔も吹き飛ぶはずだ。ベストシーズンは春秋。足元にヒーターを利かせて走る冬も意外と魅力的なシーズンだ。

 維持の面では信頼耐久性の課題もつきまとう。幌は青空駐車では傷みが早いし、治安の悪い出先では刃物で傷つけられるなど、セキュリティ上の不安もある。メタルルーフでも、電動や油圧の複雑な開閉機構はトラブルの元になりがちだ。

 開閉部のシール部の雨漏りも要注意だ。手動脱着式メタルルーフのカプチーノはクローズド状態ならまったく漏らなかったが、電動スライド幌のスマートロードスターは、時にポトリと来た。宿泊先の青空駐車場で台風に直撃された翌朝には、フロアに水たまりができたほどだ。

 それでも、晴れた日の気持ちよさと引き換えなら許容範囲と筆者は思う。晴天の朝、ロンドンやロサンゼルスで見かけた、オープンカーで出勤するスーツ姿のオヤジたちも同じ気持ちに違いない。

 高い? 重い? ボディ剛性が弱い? そんな能書きの前に、まずは乗ってみるべし。大丈夫、楽しさは保証するから。

始まりはみんなオープンカーだった

 人力車や馬車の時代から屋根のないクルマは珍しくない。一般的に屋根なし、幌、メタルトップという順で自動車は発展していったのだ。ガソリン車第一号と言われるベンツのパテント・モトールヴァーゲンも屋根はなし。完全閉囲型自動車の登場はそれから30年以上も先である。ちなみに当時はオープンのツーリングカーよりメタルトップのセダンの方が価格はかなり高かった。

icon BENZ パテント・モトールヴァーゲン(1886年)

カール・ベンツが開発した、ガソリンエンジンを初めて搭載した自動車(三輪車)。単気筒4ストロークエンジンで後輪を駆動、棒状のハンドルで前輪を操舵した。984ccのエンジンは9馬力を誇った。

icon FORD モデルT(1909年)

フォードシステムと呼ばれる大量生産で世界中で愛されたT型フォードも、主力は折り畳み幌を持つツーリング。1923年の最後のマイナーチェンジで、4ドアと2ドアのメタルトップを持つセダンが追加されている。

icon ESSEX コーチ(1923年)

1918年に設立された米国の自動車会社「エセックス」から発売された小型セダン。当初はキャンバストップでスタートしたが1922年に屋根付きのクローズドコーチを発売。安価な価格設定で自動車にセダン革命を起こした。

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