車の歴史
更新日:2018.11.14 / 掲載日:2018.08.26
オートメカニック流 スーパーカー入門:ラ フェラーリ
スーパーカーってどうなってるの?をクルマ趣味実践派ライター、西川淳が解説。
20世紀的、跳ね馬テクノロジーの集大成
V12エンジンを組み合わせたハイブリッドシステムを搭載した、20世紀的クルマ造りにおける跳ね馬テクノロジーの集大成がラ フェラーリ。そのパワースペックからは想像できないほど安楽なドライバビリティを有する。
●ラ フェラーリ 全長×全幅×全高(mm):4702×1992×1116、駆動方式:MR、エンジンタイプ:6.3L V12DOHC+モーター、最高出力:800PS/9000rpm(システム合計963PS)、最大トルク:71.4kg・m/6750rpm(同 91.8 kg・m以上)、トランスミッション:7DCT、車両重量:1255kg
ハイブリッドを備えたハイパースポーツカーの画期
2010年代のハイパーカー3部作といえばマクラーレンP1にポルシェ918スパイダー、そしてこのラ フェラーリだ。499+1台(チャリティオークション用)のクーペと、209+1台(同様)のオープン(アペルタ)という世界限定モデルで、英語に直せば“ザ・フェラーリ”。マラネッロがその名を通じていわんとしたのは、20世紀的クルマ造りにおける跳ね馬テクノロジーの集大成、ではなかったか。
すでに、イタリア、モデナ、マラネロ、フィオラノ、ディーノ、エンツォと、フェラーリ史にちなんだ主なネーミングはもう使い果たしてしまっていた。事実、ラ フェラーリ以降に登場したV8ダウンサイジングターボ+ミッドシップのニューモデルには、488GTBというふうに、昔のネーミング手法へと回帰している。
いわば“フェラーリそのもの”というネーミングを、新たなスペチアーレ(特別な限定車のことで、マニア的には288GTO、F40、F50、エンツォ、599GTOを指す)に与えた。つまり、このクルマの登場が、フェラーリの、否、ハイパースポーツカーの画期になる、と、マラネッロは主張したかったというわけだ。
だからこその、800馬力のV12エンジンの搭載であり、“HY-KERS”2モーターハイブリッドシステムの採用であり、空前絶後のシステムパワー約1000馬力の達成、であった。
ラ フェラーリのすさまじいところは、そのパワースペックからは想像できないほど安楽なドライバビリティを有するということ。10年前のエンツォよりも、断然運転しやすく、そして恐ろしく速い。パワートレーンやシャシー、サスペンションが、ドライバーの思いに完璧に応えることができるよう、緻密に制御されているからだ。
加えてエアロダイナミクスも、ロードカーとしては2010年代の最新かつ最先端が採用されており、高速域での安定したドライビングを効果的に手助けしている。
これらのコンセプトが、後の生産モデルへと生かされ、現在の高性能な跳ね馬たちを技術的に支えているといっていい。
もう一つ、このクルマにはマラネッロ内の画期もあった。それはインハウスデザインの採用だ。フェラーリデザインといえば長年にわたってピニンファリーナが担当するというのが常識だった。けれども、ラ フェラーリでは違う。フラビオ・マンツォーニ率いる社内のデザインチームの提案が採用されたのだ。実のところ、これまでも自動的にピニンファリーナへ発注されていたわけでは決してなかった。毎回、デザインコンペは行われていたのだという。ラ フェラーリにおいても、ピニンファリーナ案(実はとてもかっこいい)と競合し、最終的に社内チームが勝った、のだった。生産規模の拡大や、ワンオフなどの推進を考えれば、インハウスのデザインチームを積極的に登用する事態は避けられなかったといっていい。ちなみにフェラーリとピニンファリーナとの協力関係は、当初、付かず離れず続くといわれていたが、2015年のマヒンドラ財閥による買収、ドイツでの新会社設立などを経て、ピニンファリーナの方向性も随分と変わった。この先、往年のコラボレーションの復活を見ることができるかどうか、不透明である。
跳ね馬史の画期であるにふさわしく、取引相場は今、新車時のおよそ2~3倍になっているというから驚く。
Exterior
F1マシンと設計や生産方法が同様となるカーボン製シャシーを採用、航空機などにも用いられるプリプレグコンパウンドの複合素材が使用された。バタフライドアも特徴的だ。
2016年に登場した、オープンモデルのアペルタ。シャシーなどに改良を加えることで、クーペ同様のボディ剛性を確保する。脱着式のルーフはカーボン製ハードトップとソフトトップを用意。
フロントとリアのエアロパーツを用いてダウンフォースなどを調整するアクティブ・エアロダイナミクスを装着。0→100km/h加速3秒以下、最高速350km/h以上を誇る。
Engine
F1のKERS(運動エネルギー回生システム)を活用した、V12エンジンを組み合わせるHY-KERSシステムを搭載。モーターは1つをミッションと一体化、もう1つはエンジンの前に配置する。
大きな開口部を持つボンネット内には、ラジエーター冷却用の大型電動ファンが2つ配置されている。その後ろのボックスにはボディカバーを収納することが可能。
Interior
インテリアはシンプル。車体は主要コンポーネントを統合し、車体の重心高を35mm低めた。重量物はホイールベース内に配置、車体後部に重量の59%を置くことで運動性能を向上させている。
CFRPを用いた小径のステアリングには、スタートボタンやマネッティーノのスイッチなどを配置。ダッシュボードには12.3インチの液晶を用いたインパネが配置された。
シートは固定式とされ、ステアリングとペダルボックスが調節可能。低い位置にリクライニングした姿勢をとる、レーシングカーライクなドライビングポジションが採用された。
提供元:オートメカニック