亡くなった人の車とあわせて自賠責保険契約を相続する場合や、相続せずに解約する場合も一度名義変更を行う必要があります。

この手続きには期限はありませんが、相続手続きの中で済ませなければなりません。

では、事故による死亡の場合、保険金や賠償金の受け取り・相続や課税関係はどうなるのでしょう?

また、事故の状況によっては死亡者が事故の加害者であることもありえます。ここでは、さまざまなパターンを確認していきます。

契約者が死亡したら名義変更などの手続きを

亡くなった人の車と自賠責保険は、必ず一度名義変更を行う必要があります。また亡くなり方によって、その後の手続きにもさまざまなパターンがあります。

以下では、相続する場合、相続しない場合、事故の被害者や加害者として死亡した場合などについてパターン別に説明していきます。

自賠責保険とは?

自賠責保険とは?
はじめに、自賠責保険について説明します。

自賠責保険は交通事故の被害者を救済するために、国によって定められた保険制度です。補償内容や保険料は全国一律で、事故によって「人」が死傷した場合のみ保険金によって賠償されます。

自賠責保険はバイクを含め、車を所有している限り必ず加入しなければなりません。そのため、車を所有している人が亡くなった場合は、車の相続・名義変更の他にも、必ず自賠責保険の相続・名義変更を行うことになります。

交通事故以外で契約者が死亡した場合

交通事故以外で契約者が死亡した場合
亡くなった人の自賠責保険の契約は、車と一緒に相続する場合も解約する場合も、一度は名義変更を行う必要があります。

以下では、さしあたり亡くなった理由が交通事故とは無関係で、賠償のことは考えなくともよい場合の相続手続きについて解説します。

必ず名義変更が必要

まず基本的なポイントとして、自賠責保険の契約をそのまま相続するにしろ解約するにしろ、一度は必ず相続人の名義に変えなければなりません。

そして、相続人の名義になってから、改めて解約などを行うことになります。

相続による名義変更の期限は?

それでは、相続による車の名義ならびに自賠責保険の名義の変更手続きはいつまでに行えばいいのでしょう?

インターネット上で検索すると「できるだけすみやかに」と書いてあることが多いですが、話はそう単純ではありません。

道路運送車両法では、車の所有者が変わる場合は15日以内に手続きをするよう定められてはいます。しかし、これは罰則があるわけではなく、個人の名義のまま車に乗り続けることも不可能ではありません。

ただし、相続税の申告と納付は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内に行わなければならないというルールもあります。そのため、期限内に相続手続きをしないと税金を滞納している状態です。

相続手続きには他の相続人の押印や印鑑証明も必要なので、手続きに時間がかかると後々面倒になります。

また、名義変更しないままの車も売却や廃車にする際など、いずれは必ず名義変更の手続きが必要になるので、早めに済ませるのがベストです。

名義変更手続きはどこで行うのか

自賠責保険の名義変更手続きは、亡くなった人が契約していた損害保険会社でしか行えず、代理店でも行うことはできません。

手順としては、まず車の名義変更をしてから保険会社へ連絡し、契約者死亡による自賠責保険の名義変更をしたい旨を伝えてください。

後は、その損害保険会社の窓口に出向いて、必要書類に記入するだけです。

名義変更手続きの流れ

相続に伴う自賠責保険の名義変更は、先に説明した通り各損害保険会社で行います。

まずは陸運局で自動車そのものの名義を変更してから損害保険会社に電話して、必要書類などを確認して出向くようにしましょう。

この時、自賠責保険異動承認請求書と権利譲渡通知書は、保険会社に備え付けられています。持ち帰ってしまうと二度手間になるので、その場で書いて提出してしまえば、余計な手間もかからずに済みます。

名義変更手続きで必要なもの

相続にかかる、自賠責保険の名義変更手続きで必要になる書類のうち、主だったものを紹介します。

まず「自賠責保険異動承認請求書」「権利譲渡通知書」のいずれかが必要になります。これは手続きを行う損害保険会社の窓口に備え付けられているので、手続き時に窓口で記入しましょう。

また自賠責保険に加入していたことを示す証拠書類として、「自賠責保険証明書」も必要です。

あわせて、その契約者が死亡したことを示す書類として「除籍謄本」もいるので、役場などで申請して準備しておきましょう。

先述した通り、自賠責保険の名義変更の前には、車そのものの名義も変えておかなければなりません。その変更手続きが完了していることを示す、「登録事項等証明書」も用意しておいてください。

以上になりますが、これはあくまでも「主なもの」となり、正確なところは損害保険会社によって異なることがあります。前もって保険会社に電話で確認しておくことをおすすめします。

解約手続きは「名義変更」「廃車」の後で行う

ここまでで故人の自賠責保険をそのまま相続する場合について説明しました。一方で、個人の契約を解約したいというケースもあるでしょう。

その場合もまず陸運局で自動車の名義変更をし、次に損害保険会社で自賠責保険の名義変更をします。そして、自動車を廃車にしてから、自賠責保険の解約となります。

順序がやや煩雑ですが、自賠責保険は車両が廃車とならない限り解約できないので、このような手順を踏まざるを得ないのです。

返金分や車両に相続税はかかるのか

自賠責保険を解約すると、契約の残存期間に応じて保険料が返ってくることがあります。また、解約せずに自動車と自賠責保険をワンセットで相続すれば、車については相続財産と見なされるでしょう。

もしも車に高い価値がある場合は、相続税の課税対象となることがあります。

一方、自賠責保険を解約した場合の保険料の返金分はどんなに多くても数万円程度なので、金額的に相続税の課税対象とはなりません。

自動車保険(任意保険)の手続きも忘れずに

車に関する保険で、契約者の死亡に伴って相続手続きが必要になるのは自賠責保険だけではありません。車の保険には他にも任意保険である自動車保険もあるので、同時に手続きを行うようにしましょう。

自動車保険の名義変更を行わないまま放置すると、万が一事故を起こした場合にその保険が使えない恐れが出てきます。忘れずに手続きするようにしてください。

また、自動車保険の相続の際は、補償内容もきちんと確認しておくことが重要です。自動車保険には、一定の年齢の人や家族しか運転しないことを条件に、契約時に保険料が割り引かれる特約もあります。

もしこのサービスを利用していることを知らずに年齢条件などの枠から外れた人が事故を起こすと、保険金が支払われないことがあります。

このような事態にならないよう、車の名義変更と自賠責保険・自動車保険の名義変更はワンセットで行うものと覚えておきましょう。

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「相続されない」ケースもある

「相続されない」ケースもある
借金などのマイナスの財産があるという理由で、亡くなった人の財産が相続されないことがあります。

以下では、プラスの財産もマイナスの財産も相続を放棄する「相続放棄」と、プラスの財産の一部を相続できる「限定承認」について説明します。

相続放棄などで相続人がいない場合

相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産(借金や負債)も含めて全て相続を拒否する手続きです。故人が亡くなってから3カ月以内に裁判所で手続きを行うことできます。

裁判所で相続放棄が認められれば、法的に相続人として扱われません。そのため、故人が所有していた車や、契約していた自賠責保険・自動車保険の名義変更も不要です。

故人の車が停められている駐車場は、相続放棄をすると車がずっとそのまま停められた状態になるのでは?と思うかもしれませんが、こうした場合も手続きを代行してくれる業者が存在します。裁判所に申し立てて手続きを行えば、車の撤去が可能となります。

こうしたケースは決して珍しくはないので、専門の業者であれば現地で車を確認せずとも、車の状態などを聞き取っただけで手続きを行ってくれるでしょう。

また、場合によっては陸運局での廃車手続きが完了した時点で、重量税や自賠責保険の未経過分の還付(買い取り)なども行ってくれます。

限定承認の場合

相続手続きには、相続放棄のように何もかも全て放棄するものとは異なり、プラスの財産とマイナスの財産を差し引いてプラスの財産のうち余った分だけを相続する「限定承認」という方法もあります。

これは、原則3カ月以内に手続きを行います。マイナスの財産は放棄したいが、自動車だけは相続したいという場合などではこの方法が有効です。

ただし手続きがとても複雑なので、ほとんど利用されていません。希望する場合は弁護士など専門家に依頼したほうがいいでしょう。

事故で死亡した場合の相続と税金

事故で死亡した場合の相続と税金
ここまでは、交通事故の賠償金のことは度外視して説明してきました。

しかし、故人が亡くなった原因が交通事故だった場合、損害賠償金の受け取りやそれにかかる所得税などの税金についても考えていく必要があります。

以下で詳しく説明します。

損害賠償金は基本的に非課税

まず原則として、交通事故によって怪我を負った人が保険金を受け取った場合、それが「賠償金」の性格を持つものであれば税金はかかりません。

自賠責保険から下りる保険金はもちろん、自動車保険の対人賠償として支払われた保険金も非課税です。

例えば、交通事故で怪我を負った場合、加害者が加入している自賠責保険と被害者が加入している自動車保険の人身傷害保険から、保険金が支払われることになります。いずれの保険金も所得税の課税対象とは見なされないため、確定申告などで申告する必要はありません。

これは、もともと保険金が事故による損害や被害を補填するためのものだからです。受け取った側にとっては利得は全くなく、そこから税金を差し引くのは不合理です。こうした考え方は国税庁によって明確に示されています。

また、ひと口に賠償金と言ってもさまざまな種類があります。見舞金や慰謝料なども賠償金に含まれるので保険金として下りますが、いずれも非課税となります。

保険金に課税されるケース

原則として損害賠償金にあたる保険金には課税されないと前述しましたが、例外もあります。

まず、死亡事故によって遺族が受け取った「生命保険」の保険金についてです。この場合、大まかに言うと保険料を支払っていた人が保険金を受け取った人へお金を渡した、つまり利益を与えたと見なされるのです。

保険料を支払っていた人や保険金の受取人が誰なのか、また亡くなったのが誰なのかによって所得税・贈与税・相続税のいずれかが課せられます。

次に、一見すると損害賠償金のように見えるものの、そうとは見なされない場合についてです。

慰謝料や見舞金も損害賠償金にあたると前述しましたが、もしもその金額が社会通念に照らし合わせて過剰であると見なされると、その過剰な分については課税されるので注意しましょう。

例えば、怪我で仕事を休んだ際、会社から支払われた見舞金に実質的に休職していた期間の給与分の金額が含まれていた場合は、給与分の金額部分に課税される可能性があります。

係争中に亡くなった場合

ここでは、交通事故で損害賠償の金額が確定しないまま、係争中に事故の被害者が亡くなったというケースについて説明していきます。

係争そのものは続くことになりますが、相続関係はどのようになるのでしょう?

この場合、確定した損害賠償金が亡くなった被害者の「遺産」と見なされます。つまり、相続人はその損害賠償金を受け取れますが、それは相続税の対象となるということです。

不動産や株式など、さまざまな相続財産の評価基準を示す財産評価基本通達でも、「訴訟中の権利」として記載されています。それによると、このようなケースでは賠償金の請求権が一種の財産として見なされることになっています。

もしも相続税の申告期限までに賠償額(請求額)が確定すれば、その金額が請求権の評価額となるでしょう。ただし、訴訟が長引いて金額が確定しなければ、より現実的な賠償金額を検討した上で評価額を決めることになります。

係争後に賠償金を受け取らずに亡くなった場合

次に、前述した内容と少し似ていますが、交通事故の損害賠償金額が確定したが、被害者がそれを受け取る直前に死亡してしまった場合についてです。

国税庁の説明によると、損害賠償金を受け取る権利(債権)が相続財産になると述べられています。つまり、死亡した交通事故被害者の遺族はその権利を相続しつつ、相続税も課せられるということです。

このような扱いは損害賠償金に限ったことではなく、貸付金や未収金の債権と同じものと言えるでしょう。

事故の被害者が亡くなるタイミングによって、損害賠償金に相続税が課せられるか否かが大きく変わることになります。

なお、交通事故の死亡者の遺族が、自分たちの精神的苦痛に対する賠償金を事故の加害者に請求することもできます。これは被害者自身が受け取る賠償金とは別物なので、相続税は課せられません。

事故の加害者として死亡した場合

事故の加害者として死亡した場合
最後に、交通事故を起こした加害者が亡くなってしまった場合について説明します。

前項までで説明した車と自賠責保険の相続はもちろん関係してきますが、生命保険・自動車保険の保険金の受け取りや、加害者遺族による被害者・被害者遺族への賠償のことも考えなければなりません。

以下で詳しく説明します。

遺族の損害賠償義務

まず、交通事故を起こした人、つまり加害者がその事故で亡くなった場合は、被害者は加害者遺族に対して損害賠償金を請求できます。

また、被害者が亡くなっていたとしても、被害者から加害者遺族への賠償請求が可能です。

被害者が亡くなっている場合、賠償請求が可能になるのは民法で定められた法定相続人になります。加害者遺族はその請求に何らかの形で応じることになりますが、同時に加害者が契約していた自賠責保険と自動車保険についても、被害者遺族は保険金を請求することが可能です。

契約者が死亡したとしても、加害者が契約していた損害保険会社には、保険金を被害者遺族に支払う義務を負っています。示談交渉などを行って支払金額を決めていくことになるでしょう。

一方で加害者遺族も、加害者の死亡にかかる保険金を損害保険会社から受け取れます。この場合は人身傷害保険や自損事故傷害の特約に基づいて保険金が下りるでしょう。

無保険だった場合

交通事故の加害者が自賠責保険にも自動車保険にも加入しておらず、保険による補償が期待できないケースもあります。

さらに、加害者が死亡していれば、あとは前述したように加害者遺族へ賠償請求をすることになります。前項と異なるのは、保険金が下りないので加害者遺族が全て自腹で賠償金を払うことになる点です。

自動車保険の中には、こうした無保険のドライバーから受けた被害をカバーしてくれる商品もあるので、被害者側はそれを使うこともできます。

まとめ

①自賠責保険の契約者が死亡したら、損害保険会社で相続や名義変更などの手続きが必要になる
②自賠責保険の解約手続きは名義変更と廃車の後で行う
③交通事故による死亡の場合、下りる保険金の種類によっては税金がかかる
④被害者が損害賠償の係争中に亡くなったり、賠償金を受け取る前に亡くなった場合は、その賠償金は相続財産と見なされる
⑤事故の加害者として亡くなった場合、被害者あるいは被害者遺族から請求が来ることもある

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