車の自賠責保険の加入・更新の手続きは基本的に車を購入するディーラーや車検整備を依頼する工場で行いますが、最終的には損害保険会社か共済組合との契約になります。解約や変更の手続きなども同様です。
では、なぜ損害保険会社と共済組合が自賠責保険を取り扱っているのでしょう?それぞれを成立させている法的根拠、双方で扱う自賠責保険以外の保険商品の保険料や保険金の金額の変動理由、そしてなぜ生命保険会社は自賠責保険を取り扱わないのか解説します。
保険会社と自賠責保険の関係
自賠責保険に加入する場合、損害保険会社もしくは共済組合を通して手続きを行うことになります。
以下では、損害保険会社と共済組合の違いや、両者と自賠責保険はどのような関係性にあるのか詳しく解説します。
自賠責保険は損害保険会社と共済組合で取り扱う
自賠責保険は、損害保険会社と共済組合によって取り扱っています。
(※共済組合で扱う場合は、正式には「自賠責共済」となりますが、本稿では「自賠責保険」で統一します)
以下では、それぞれの定義と関係性を説明します。
「損害保険」とは、不測の事態によって人や物が損害を受けた場合に、その損害をカバーするための保険のことです。損害保険会社はこの一環として自賠責保険も取り扱っています。
保険には損害保険と生命保険があります。両者の大きな違いは、生命保険は保険金の金額が最初から決まっているのに対し、損害保険は損害の内容によって金額が変動する「実損払方式」が採用されている点です。
あくまでも損害保険は「受けた損害の埋め合わせ」のために保険商品を扱っています。
このような違いがあることから、保険会社は損害保険と生命保険を両方とも取り扱うことはできません。こうした規定は、損害保険会社の根拠法である保険業法によって定められています。
損害保険は個人でも法人でも契約可能で、万が一保険会社が破綻した場合のために、契約者保護のための制度も設置されているので安心して利用できます。
自賠責保険は共済組合でも取り扱っています。しかし共済組合は組織そのものの性質が企業とは異なるので、利用する際は総合的な観点から考えたほうがいいでしょう。
共済組合は、構成員である「組合員」の助け合いや相互扶助を目的としています。利用するためには原則的に組合への加入が必要です。一度加入すると、組合が提供するその他のサービスも受けられるようになります。
損害保険会社の活動が、保険業法と会社法に基づいていることは先述しました。一方、共済組合は農協、全労済、地域組合、職域組合などによって根拠法が異なるため、損害保険と生命保険にあたる商品をあわせて取り扱えるという特徴があります。
このことから、例えば一部の共済組合では、車・建物・生命共済にまとめて加入すると特典が受けられるなどのサービスもあります。
興味がある方は、例えば農家であればJA共済の利用を検討してみるなど、自分にとって身近な共済組合を探してみるといいでしょう。
自賠責保険は損害保険会社と共済組合のどちらでも取り扱っており、補償内容や保険料の金額にも違いはありません。いずれも同一の法律(自動車損害賠償保障法)に基づいて運用されています。
そもそも自賠責保険は、交通事故の被害者を救済するために国が設けた制度です。内容は全国一律となっており、取り扱うのが保険会社か共済組合かによって異なることはありません。
このことから、自賠責保険の加入・更新の手続きはいつ・どこで・誰がやっても同じと言えます。そのため、手続きは折に触れて業者などによってほぼ自動的に行われます。
また、車の持ち主が自分で自賠責保険の手続きをしなければならない場合でも、加入先の保険会社のことは特に意識していないのがほとんどでしょう。
自動車保険は損害保険会社でも共済組合でも取り扱っており、どれも保険商品としての内容は異なります。
自分に合うものを選べばいいのですが、共済組合の保険商品は原則的に組合員に限定される点に注意しましょう。(ただし員外利用という枠もあります。)
大まかな特徴として、共済組合は損害保険会社と比べて保険料(共済掛金)が比較的安い分、補償額も低くなりがちという点が挙げられます。また、共済組合では剰余金が発生すると利用者へ還元される仕組みもあります。
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自賠責保険の仕組み
ここまでで、損害保険会社と共済組合の定義、そして自賠責保険と自動車保険との関係について説明しました。
以下では、改めて自賠責保険がどのような法律やルール、仕組みにのっとって運用されているのかを説明します。
自賠責保険は「自動車損害賠償保障法」という法律にのっとって運用されています。
この法律が作られたのは昭和30年代です。この時期は交通事故の死者数が日清戦争を上回ったこともあり、交通戦争という言葉まで生まれました。このことから、交通事故の被害者救済と加害者の責任追及を目的にして制定されたのです。
自賠責保険の運用は、細かい点まで全て自動車損害賠償保障法によって規定されています。加害者の賠償責任、自賠責保険の内容と性質、保険料の金額の基準となる料率の決まり方まで、全ての内容が網羅されていると言ってもいいでしょう。
しかし、実際の運用は損害保険会社や共済組合です。そのため、例えばコンビニやWebによる手続きが可能かどうか、書類を紛失した際の手続きの段取りはどうなるのかなど、細かな違いは条文では確認できません。それらは保険会社などに直接問い合わせる必要があります。
自賠責保険に加入し、万が一の際に補償を受けるにあたり欠かせないのが、保険料の支払いです。
多くの場合、車検などの手続きの際に数年分をまとめて前払いする形になっているので意識することは少ないかもしれません。この自賠責保険料も、一定の基準料率に基づいて定まっています。
基準料率は損害保険料率算出機構という機関が算出しており、それまでの交通事故の発生状況や保険金の支払額を踏まえてバランスを取りながら決められます。こうして決められる料金体系は、車種や地域による違いも含めて全国一律です。
場合によっては、値上げや値下げなどの形で料金が変わることもありますが、その場合も事前に官報などで告知されます。
なお、料金が変更になったとしても、既に支払われている保険料の値下げ分が戻ってくることはありませんが、値上げしたからといって値上げ分を追加で徴収されることもありません。
自賠責保険は、その補償内容も全国一律で、保険金が支払われる基準も国土交通省や金融庁の告示を踏まえて設定されています。ただし、経済状況や社会環境に応じて変更されることもあります。
支払基準は平均余命年数や物価・賃金水準、そして直近の保険金の支払い状況などが反映されています。また、法定利率の変更があった場合も変動する可能性が高いと言えるでしょう。
ただし、こうした変更時も官報などを通して広く告知された上で、4月1日から全国一斉に適用されることになります。
損害保険の仕組み
ここまでで、自賠責保険制度を成り立たせている法律や保険料の決まり方、そして補償の仕組みなどについて説明しました。
以下では、損害保険会社が主に取り扱う、一般的な損害保険の仕組みとその概要を説明します。
損害保険の根拠法としては、まず保険業法が挙げられます。
保険業法は、保険業の健全な運営や契約者の保護を目的としており、保険会社と保険の募集の双方について規定しています。
保険会社に対する規定として定められているのは、その業務範囲や経理事項、保険商品の審査、保険会社の健全性を維持するための措置などです。なお、外国の保険業者が日本で保険業を営む際も、このような監督規定によって規定されます。
また、保険募集に対する監督としては、業者の登録制度、保険募集の際のルール、主務官庁による検査・命令に関する事項が設けられています。クーリング・オフ制度関係の規定は、利用者にとっても重要なものと言えるでしょう。
その他、損害保険に関係してくる法律としては、契約者と保険会社との間の権利・義務関係などを定めている保険法や会社法、民法や消費者契約法があります。さらに、金融商品の販売等に関する法律や、個人情報保護法なども無関係ではありません。
損害保険の保険料は、過去のさまざまなデータをもとに算定されます。
例えば自動車保険の場合だと、自動車事故の件数の増減や保険金の支払い状況などを分析して、将来的に必要になる保険金額を算出し、保険料を決めています。
ただし、自然災害はその年によって発生する頻度や規模が大きく異なるものです。そのため、地震保険などはシミュレーションを活用して別枠で計算されます。
最終的には、こうしたデータに基づいて保険会社ごとに金額を決めることになります。
保険料は「純保険料」と「付加保険料」で構成されており、前者は保険金支払いの原資になるもの、後者は保険会社の経営に必要な社費(例:従業員の給与や事務手続きにかかるコスト)などに回される分です。各保険会社で、これらのバランスを見ながら金額を決めていきます。
ただし、自賠責保険料はこれらとは完全に別枠で、前述の通り保険料の料率や金額は全て全国一律で決まっています。そのため、保険会社による違いが生じることはありません。
損害保険は、物の損害を穴埋めするものなので、そのものの価値・金額を適正に評価しなければなりません。この時の評価の方法は、対象を「時価額」で見る方法と「再調達価額」で見る方法の2種類です。
対象となるものを時価額で見ると、損害額の算出は事故発生時の価額を基準として行われることになります。その価額を契約時の時価が上回っていた場合、保険金だけでは修理や立て直し、買い替えができない可能性があります。
そのため、現在はそうした修理や立て直し、買い替えにかかる金額である再調達価額を基準にして、保険金額を設定するのが一般的です。そしてこの保険金額をもとに、契約者が支払う保険料も決まることになります。
なお、損害保険の保険料が純保険料と付加保険料で構成されていることは先述した通りです。純保険料は保険金の原資となるので、その総額と保険料の総額が必ず等しくなるという「収支相等の原則」というルールも存在します。
共済組合の仕組み
ここまでで、損害保険会社の根拠法や保険商品としての損害保険の運用の仕組み・特徴などを説明しました。
以下では、それと比較しながら、共済組合の根拠法や取り扱われている共済の仕組みと特徴を解説していきます。
共済組合の根拠法は損害保険会社とは異なっており、内容によっては一部共通するルールもあります。
共済組合を含む組合系の組織は、設立の趣旨や組織の理念・原則を反映し、企業組織などとは異なるルールによって制約されているのです。
例えば協同組合の場合、共済事業を行う際の根拠や条件は、組合の種類ごとに異なります。JAなら農業協同組合法が、生協なら消費生活協同組合法がそれぞれ共済事業の根拠法になります。
保険会社の場合、根拠法として同じ位置づけになるのが保険業法と会社法です。反対にこの2つの法律は、協同組合や共済事業には適用されません。
一方で、契約内容については保険会社と同様に保険法という法律によって制約される部分もあります。このように、共済組合は根拠法が保険会社と異なるため、無認可の共済というものも存在します。
こうした共済は法律による監督や制限を受けないかわりに、運営の健全性などに問題がある場合もあるので注意が必要です。
共済組合で損害保険の保険料にあたるのが、「共済掛金」と呼ばれるものです。
共済掛金の金額は、損害保険料と同様に保険金の支払い状況などの分析を踏まえて算出されます。
損害保険と異なるのは、共済はあくまでも非営利であり、目的とするのは組合員の最低限の補償であるという点です。そのため、損害保険料よりも共済掛金は少し安めになる傾向があり、その分火災共済などの補償金額も低めになることがあります。
共済組合の損害保険の場合、支払われる保険金(共済金)が損害保険会社のものよりも金額が低めになりがちという点が特徴的です。前述したような損害保険会社と共済組合の組織としての性格の違いに由来します。
共済事業の運営母体は非営利団体であり、組合員などの限られた構成員を対象としてサービスを提供しています。そのため、構成員の負担減のために保険料が安く抑えられる傾向があり、そのかわり保険金も低めになるのです。
例えば、保険会社で扱う火災保険の場合、自然災害による被害については、火災に遭った場合の補償と同じ程度の保険金が下りることが多いです。しかし、共済の場合は火災に遭った場合の2割程度など低めになることも少なくありません。
ただし、最近はこうした点も見直しや調整が進んでいるので、契約内容によっては自然災害でも手厚く補償してくれる共済も存在します。詳しくは、共済組合ごとの補償内容を確認してみるといいでしょう。
自賠責保険の名義変更は必要あるの?手続きの仕方も教えます!
生命保険会社が自賠責保険を扱わない理由
ここまでで損害保険会社と共済組合の違い、両者と自賠責保険の関係について説明しました。
最後に、損害保険会社と生命保険会社の違いや、なぜ生命保険会社では自賠責保険を取り扱わないのか、その理由を確かめていきます。
生命保険は自分自身の病気や怪我、死亡などの備えをすることで、自分や家族にかかる負担を軽減させることを目的としています。
生命保険を取り扱う生命保険会社は、生命保険の制度運営や保険金の支払体制の整備を目的とする民間企業です。経営努力などでお金が毎年余るようにし、余った分(剰余金)を契約者へ配当金として還元する仕組みもあります。
その他、相互扶助という助け合いの精神が根底にあるという点は、共済組合とも似ていると言えるでしょう。
生命保険会社が自賠責保険を取り扱わないのは、保険業法上の分類が理由です。
この法律によると、保険は第一分野の保険と呼ばれる生命保険分野と第二分野の保険と呼ばれる損害保険分野、そしていずれにも属さないものを第三分野の保険と呼びます。
そして、第一分野と第二分野をひとつの保険会社が同時に扱うことは認められていません。ただし、共済組合は保険業法の適用外なのでいずれも扱えます。
こうした理由から生命保険会社は、第二分野の保険に該当する自賠責保険を扱えないのです。