自賠責保険料は、車種や地域ごとに料金体系が最初から決まっています。しかし、その金額は4月から変更となることがあります。
なぜこのように変更する必要があるのか、その理由について詳しく解説していきます。また、金額が変わる場合、その情報をチェックする方法も紹介します。
保険料の値上げ・値下げによって、契約するタイミングやその内容によっては損得が発生するかもしれません。そうした場合の考え方なども説明しするので、参考にしてみてください。
自賠責保険料は4月から変わることがある
自賠責保険料の金額は、4月から変わることがあります。それは、自賠責保険は「商品」としての保険ではなく、収益・損失が出ないようにするという原則に応じて常に調整されているからです。全体的な保険金の支払額の多寡によって、保険料も調整されています。
つまり、事故発生件数が少なければ保険料は下がり、逆なら上がるということです。こうしたバランス調整は、公的機関によって定期的に審議されています。
その詳しい内容を以下で説明します。
自賠責保険の概要
はじめに、そもそも自賠責保険とは何かを説明します。
任意保険(自動車保険)との違い、契約内容、加入・更新手続きのルールと特徴などを見ていきましょう。
自賠責保険は、全ての交通事故被害者に最低限の補償をするための保険です。ごく一部の例外を除いて全ての車に加入義務があり、加入していない状態で公道を走ると、処罰の対象になります。
その罰則は1年以下の懲役または50万円以下の罰金、さらに交通違反として違反点数6点が付されることになります。つまり、即免許停止処分となるので、加入・更新手続きを自分で行う場合はタイミングを逃さないよう注意が必要です。
次に、自賠責保険と自動車保険の関係を説明していきます。
自賠責保険は全ての自動車に加入義務がある「強制保険」なのに対し、自動車保険は「任意保険」とも呼ばれ、加入するかしないかや契約内容はユーザーが任意で決められます。
一見関係なさそうに見える両者ですが、無関係ではありません。
例えば、他人を死傷させた際の補償である対人賠償保険は、自賠責保険の支払い可能額を超過する分を自動車保険から支払われることになっています。
また、自賠責保険はあくまでも「人」に対する補償です。事故によって「物」を壊してしまった場合は、自動車保険の対物賠償保険に加入していないとカバーできないでしょう。
さらに自賠責保険は、事故の「被害者」だけが補償されるものなので、事故の加害者自身や車に同乗していた人の怪我などは補償対象外となります。これも自動車保険の人身傷害保険や、搭乗者傷害保険に加入することで補償されることになります。
自賠責保険の保険料は、車種や地域などによってあらかじめ一律に定められています。損害保険会社ごとに金額やサービス内容が異なる自動車保険とは異なり、全国共通です。
- 自家用乗用車が25カ月で20,610円
- 軽自動車が25カ月で20,310円
自賠責保険の加入・更新手続きは自力でもできるものの、メリットはほとんどないと言えるでしょう。後述しますが自賠責保険の加入・更新の手続きは業者に代行してもらうことがほとんどです。
自賠責保険は、原則的に「月割り」で1カ月分から加入することができます。
ただし、車のユーザーが1カ月単位で加入・更新することはあまりなく、車検制度の対象となる車なら2年以上、それ以外の車は1年以上の単位となる場合がほとんどです。
1カ月分だけ加入するのは、ごく短期間だけ走行できればいいというケースに限られます。例えば、業者が車の輸送のために少しだけ運転する必要がある場合や、仮ナンバーをつけて一時的に公道を走れるようにしたい場合などです。
自賠責保険の加入・更新の手続きは、業者に代行してもらう場合と自分で行う場合の2種類があります。
車検制度の適用を受ける車の場合は、車の購入時や車検の際に、業者が代行して手続きをすることがほとんどです。
例えば、新車を購入する際は、納車前に新規検査が行われ、あわせてディーラーが自賠責保険の加入手続きを行います。中古車の場合も、基本的には自賠責保険に加入した状態で納車されます。また、車検の際は、車検の有効期間にあわせて更新手続きが行われます。
一方、原動機付自転車などの検査対象外軽自動車の場合は、加入・更新手続きともに車のユーザーが自分で行う必要があります。しかし、これも販売店などに依頼すれば代行してもらえるでしょう。
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保険料が変わる理由とは?
ここまでで自賠責保険の概要を説明しましたが、保険料の金額はどのようにして決められているのでしょう?
保険料に変動が生じる理由や経緯などと合わせて、以下で詳しく説明していきます。
自賠責保険の保険料の金額が変動する最も大きな理由として挙げられるのは、事故発生率の増減です。
もともと自賠責保険は、保険料による収入と保険金の支出によるバランスを取りながら運用されています。つまり、事故発生率が高まって保険金の支払いが増えれば、その分だけ保険料を値上げする必要が生じるということです。もちろんその逆で値下げとなる可能性もあります。
自賠責保険の保険料は常にこの収入・支出のバランスに基づいて決められているのです。このバランスを取る際、「利益」は度外視するのが原則となっており、「ノーロス・ノープロフィット(損も得もしない)の原則」と呼ばれています。
ここ数年、自賠責保険料の値下げが続いているのも、事故発生率が減少しているためです。
事故が減った理由としては、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で外出の機会が減ったことが挙げられます。また、事故を未然に防ぐための安全技術が向上した車が増えたことも理由の一つです。
では、自賠責保険の保険料は、誰がどのように決めるのでしょう?
自賠責保険の保険料は「自動車損害賠償責任保険基準料率」に基づいて算出されています。そして、基準料率は毎年度、社会状況と照らし合わせて適正なものかどうか検証されています。この検証を行うのが、損害保険料率算出機構です。
主に事故発生率の増減を踏まえて検証し、その結果改定の必要があるという結論に至れば、検証結果を金融庁長官へ報告することになります。
報告された内容はさらに自賠責保険審議会で審議され、示された基準料率が、先述した「ノーロス・ノープロフィットの原則」などにきちんと適合しているか判定を受けます。その後、国土交通大臣の同意を得なければいけません。
このように、何段階もの手続きを経て、自賠責保険料の金額は確定します。
それでは、保険料が新年度から変更となることが確定した場合、私たちはそれをどのようにして知らされるのでしょうか?
自賠責保険料の変動は、損害保険料算出機構の審議によって決定します。この審議は1月に行われ、金融庁長官に基準料率を届け出た段階で官報や日刊新聞の全国版で公告することになっています。
さらに、その情報は報道機関にも提供され、同機構のWebサイトにも掲載されるのが決まりです。そのため、普段から保険料の変動をチェックしている方なら、かなり早い段階で容易に情報を得ることができるでしょう。
また、審査期間経過後も届け出られた基準料率は官報で告示されます。同機構本部では基準料率表やその算出のための基礎資料も備え付けているので、関係者は誰でも閲覧することが可能です。
自賠責保険料が変動するか否かの情報については、高い透明性が確保されていると言えます。
こうした情報公開の流れは同機構のWebサイトでも確認できます。金融庁のWebサイトでは審議時の議事録も読めるので、興味のある方は閲覧してみるといいでしょう。
ここまでで、自賠責保険の保険料が変動する理由とその流れを説明してきました。こうした仕組みを踏まえて、今まで保険料はどのように変動してきたのか、その推移を見てみましょう。
まず2000年代、この20年を振り返ってみても自賠責保険料は変動しています。
まず2002年には値上げ、2005年と2008年に連続で値下げ、2011年と2013年は再び値上げ、そして2017年と2020年には値下げとなっています。
この変動の経緯を金融庁の議事録で確認してみると、やはり保険料の変更はノーロス・ノープロフィットの原則にのっとり、自動車ユーザーの負担とのバランスを見ながら検討されていることが分かりました。
また、事故発生率の変動も大きく影響しています。事故発生率が下がれば自賠責保険料も値下がります。
私たちが普段安全運転を心がければ心がけるほど、保険料の負担軽減にも貢献する結果となるのです。
保険料が変わることによる影響は?
自賠責保険料の金額は、上述の通り変動することがあります。
では、その変動によって、事故時に支払われる保険金や現在自賠責保険に加入している人が支払っている保険料の額には、何らかの影響があるのでしょうか?以下で詳しく説明します。
私たちが支払う保険料が変動することで、事故を起こした際に支払われる補償金額が変動することはあるでしょうか。
しかし、保険料が変動する理由の大部分が事故発生率の増減にあるのに対し、補償金額の変動要因はもう少し複雑です。
事故時の補償金額は定期的に見直しが行われていますが、その際に基準になるのは平均余命年数、物価水準、賃金水準、近年に支払われた保険金の実情などです。また、民法改正によって法定利率が代わると、一部の補償内容の計算に影響が出ることもあります。
このように、自賠責保険の補償金額は経済状況に応じて変動する部分が大きいと言えるでしょう。保険料の金額の変動そのものが直接に影響するわけではありません。
こうした経済的な要因を踏まえて、直近では2020年4月に支払基準の改定が行われています。この支払基準は、国土交通大臣および内閣総理大臣の定めに基づく、自動車損害賠償責任法大16条の3によって定められています。
次に、自賠責保険料の金額が変わった場合、既に加入している人が支払っている保険料の扱いはどうなるのかを解説します。
その金額が変更になったり、今まで払っていた分が返金されてきたりするようなことはあるのでしょうか?
自賠責保険の保険料は、ほとんどの場合1年から数年分を前払いします。しかし、前払いした分の期間に保険料の金額が変わるタイミング(4月)が重なったとしても、前払いした分の金額には影響されません。
自賠責保険の契約内容は、「保険始期」といって契約を交わした時点のものが基準になります。契約後に保険料が改定されたとしても、既に契約した内容には影響せず、途中から保険料が変わることはありません。
仮に自賠責保険料が4月から値下がりしても、支払済みの保険料の差額が返金されることはありません。
返金されないと、余計なお金を支払ったと損した気分になる方もいるでしょう。しかし、値上がりしたとしても差額を請求されるということもありません。
保険料の変動に合わせた解約・加入は可能か
ここまでで、自賠責保険の保険料が4月から変動する場合があることや、それによる影響を説明しました。
保険料が値下がりする場合、その恩恵を受けられるようなやり方はあるのかと気になる方もいるかもしれません。
4月から保険料が値下がりするなら、できれば既に契約している内容を変更したいと考えるでしょう。反対に値上がりしそうなら、まだ保険料が安いうちに加入を済ませてしまおうと思う方も多いかもしれません。
以下では、そのような動機で契約内容を変更したり早めに加入したりすることは可能なのかを説明します。
「4月から安くなるので加入し直す」のは可能?
最初に「4月から保険料が安くなるので、今入っている自賠責保険を解約して加入し直したい」というケースについて説明します。
これが可能なら多くの方がやってみたいと思うかもしれませんが、どのような条件が揃えばできるのでしょう?
まず、自賠責保険に新しい保険料で「入り直す」には、一度解約しなければなりません。そのためには、現在加入している損害保険会社の本店・支店・営業所や代理店に、必要書類を持参して手続きを行うことになります。
もしも取次店で手続きをした場合は、書類をいったん保険会社へと送ることになるので、正式に解約されるまでタイムラグが発生することに注意が必要です。
損害保険会社と電話でやり取りをして書類を送付した場合も同様になります。
自賠責保険は強制保険であると同時に、解約のために必要な条件も法律で細かく定められています(自賠法第20条の2、自賠法施行規則第5条の2)。
そのため、ただ「加入し直したい」という理由だけで解約はできません。
法律によると、自賠責保険を解約できるのはその車を廃車にした場合や重複契約してしまった場合、また輸出することが決まった場合などに限られます。検査対象外軽自動車も例外ではありません。
「4月から高くなるのでその前に加入したい」は可能?
次に「4月から保険料が高くなるので、その前に車を購入して自賠責保険への加入を済ませたい」というケースです。
そのようにタイミングを見計らって保険料が安いうちに加入するのは可能なのかどうか、以下で説明します。
自賠責保険料が4月から高くなることが分かった場合、もともと車を購入予定だった方は値上がりする前に車を買いたいと考えるでしょう。
ただし、早めに動いたからといって必ずしも購入と保険への加入が4月前にできるとは限りません。なぜなら、自賠責保険に加入するには、購入する車の車台番号などの情報が必要だからです。
そして、それらの情報は注文した車が完成しないと確定しません。新車・中古車に限らず、何らかの理由で納期(や登録作業の)遅れが発生することは珍しくなく、販売店側もそれを見越して最初から正確な納期を示さないことがほとんどです。そのため、狙い通りのタイミングで自賠責保険に加入できるとは限りません。
一方、原付などの検査対象外軽自動車の場合は、車のユーザーが自分で自賠責保険への加入手続きを行うので、タイミングを見計らいやすいと言えます。それでもやはり、納期遅れが絶対にないとは言い切れないので注意しましょう。
自賠責保険の名義変更は必要あるの?手続きの仕方も教えます!