新車試乗レポート
更新日:2020.04.21 / 掲載日:2017.06.06

【試乗レポート】予防安全装備充実の新型ダイハツ ミライースは時代を反映した「良品廉価」

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス

 人々が本当に求めているのはどんなクルマなのか? 新しいミライースに接してみたら、ダイハツがその答えを真摯に考え、追い求めていることがしっかりと伝わってきた。
 憧れるクルマといえば、それはスポーツカーやスーパーカーだったり、ラグジュアリーセダンだったり、人によっては大きなミニバンかもしれない。だけど現実として考えると、社会に必要とされるのはやはり、安くてシンプルなクルマだ。そういう意味では、2011年に初代が登場した軽自動車の「ミライース」は志が大きかった。

 低価格で燃費がいい。初代ミライースのキャラクターはじつに明快だ。時代背景を辿ればそのときは、リーマンショックを受けて景気が低迷。ガソリン価格高騰、そしてその年の春に起きた東日本大震災後のガソリン不足もあって「燃費」に世間の注目が集まっていた。
デビュー時の価格は79万5000円から122万円。カタログ記載の燃費は32.0km/L(FF車)。低価格で燃費のいい初代ミライースは、時代にマッチしていて、シンプルだけどこれでいいと思わせるクルマだった。

 あれから6年弱。ミライースが新型になった。そして新型もまた、時代を反映したモデルだ。燃費や低価格は相変わらずトレンドだが、かつてほど騒がれなくなっている。いっぽうで6年前にはなかったが、いまでは高い注目を浴びているのが予防安全性だ。高齢ドライバーが加害者となる事故が起きるとセンセーショナルに報道され、クルマの安全性や加害性が注目される。そんな時代だからこそ、ミライースは“つぎのスタンダード”として予防安全に力を入れているのだ。

世界最小クラスのステレオカメラを採用することで、ガラス面積の小さなミライースにもスマートアシストIIIを搭載。

 先進予防安全機能は、まず新開発で世界最小のステレオカメラを活用して、衝突警報機能では対車両の上限速度100キロ&対歩行者では50キロ、衝突回避支援の緊急ブレーキ機能としては対車両の上限速度が80キロで対歩行者が50キロを実現。障害物を検知するとアクセルを踏み込んでも急発進しない誤発進抑制制御機構を前方にも後方にも採用。車線逸脱警報機能やオートハイビームだって組み込んでいる。機能水準は軽自動車トップどころか、普通車と比較してもかなり上位となってくる内容だ。
 そんな「スマートアシストIII(スマアシ3)」を上級グレードではあるものの標準装備に、ベーシックグレードにもオプションで設定するのはダイハツの安全意識の高さにほかならない。この部分だけを見ても、新型ミライースがいかに現実を反映し、未来を見据えたクルマであるかが理解できる。
高齢者をはじめドライバーの誤った操作や不注意で起きる事故のうち何割かは、ミライースなら防ぐことができるのだ。その社会的意義は決して小さくない。

ペダル、ステアリング位置の見直しに加えて、軽量骨格シートを新開発。ストレスなく運転できる環境を目指した。

 ところでミライースのパッケージングは、現在の軽自動車の主流となっているハイトワゴンタイプではない。当然室内空間はそれらよりも狭い。だから後席を頻繁に使うファミリー層にとっては購入対象になりにくいかもしれないが、そのおかげで車両重量はわずか650kgという信じられないほどの軽さだし、49馬力と力強いとはいえないエンジンでも意外なほどにキビキビ走るのだ。またカタログ記載のJC08モード燃費で34.2~35.2km/L(FF車)という燃費も軽さの賜物だ。
 いっぽうで室内が狭いかといえば、ハイトワゴンに比べると頭上のゆとりはないが、後席の足元スペースは十分。足が組めるほどである。新型になり前後席間距離は2cmほど短くなっているがもはやそれは誤差の範囲で、足を組んで座れるほどの水準だからファミリーユーザーでも問題ない。運転席の着座位置は先代よりも1.5cmほど低くなっているが、これは背の高い人が座ったときに頭上のゆとりを確保するため。小柄な人は見晴らしが悪くなったと感じるかもしれないので、心配ならシートリフターが備わる「G“SAIII”」を選びたい。
 また、アクセルペダルやステアリングの位置、そしてシートの座り心地など運転環境を細部にわたって綿密にチューニングしているので、運転している際の姿勢に違和感がなかったのも好印象だった。
ターボの設定がなく自然吸気に統一したエンジンは車体の軽さのおかげで、上に書いたように街中の発進や加速は意外なほど不満がない。だから一般的な軽自動車の使われ方、すなわち狭い範囲での通勤や通学、子供の送り迎え、スーパーへの買い物などで遅いと感じることはないだろう。ただし試乗中、バイパスや高速道路に入るときなど、速度の速い道路へ合流する際は、アクセルを全開にしても少しもの足りないと感じるシーンもあった。そのあたりは、ユーザーがミライースを買ってどんな使い方をするかで判断が分かれることになるだろう。

フェンダーやバックドアなどを樹脂部品とすることで軽量化を達成している。

 グレードは4タイプ。ビジネス向けいとえる「B」、リヤドアのパワーウインドウやフルホイールキャップが加わる「L」、そして電動格納式ドアミラーやLEDヘッドランプが備わりインパネの質感も高まる「X“SAIII”」、そして前席シートヒーターやキーフリーシステムが追加される「G“SAIII”」が設定されている。愛車として購入するなら快適性が高くて見栄えもいい「X“SAIII”」以上がいいだろう。
 交通事故の加害者となるリスクを大幅に軽減する先進安全装備の「スマートアシストIII」は、“SAIII”と付くグレードには標準装備。だから「X“SAIII”」や「G“SAIII”」ならば標準。「B」や「L」でもオプションとして選択できるので、可能な限り多くのユーザーに選んでもらいたい。これだけの安全装備が、100万円を切る仕様(「B“SAIII”」や「L“SAIII”」)にも備わるのだから、ダイハツの底力に感動すら覚える。
 昨今報道されている高齢ドライバーによる事故は、ケアレスミスに起因するものが多い。そういった意味からも、軽自動車としてはトップ水準となる先進予防安全装備を備えていて価格的にも身近な新型ミライースを、クルマ選びの候補リストにぜひ加えてもらいたい(もちろん高齢ドライバー以外にも)。ついでにいえば、従来ながらのセダンらしい低めの運転ポジションやサイドレバー式のパーキングブレーキなど、ベテランドライバーが馴染みやすい運転環境が整っていることも付け加えておきたい。

 ミライースは高級車でもなければ大型ミニバンでもないし、だれもが憧れるようなクルマではないかもしれない。しかし、いまクルマ社会にとってどんな商品が必要かをしっかりと考えたクルマだといえる。走りも快適装備も必要最小限ではあるけれど、エコで低価格で、安全装備が充実。地に足がついたクルマというのは、こういうクルマのことを言うのだろう。和食に例えれば、高級料理店でも料亭でもなく、愛情がしっかりと注がれた家庭料理。ベーシックであることにこだわったミライースは、そんな存在だ。
 ただ残念なのは、後席の分割格納機能がないため荷室を広げる際には2人乗りになってしまうこと(これはライバルのスズキアルトも同様)。またベーシックグレードに後席ヘッドレストがないこと。全車とも側面エアバッグの設定がないのは今後の進化を期待したいところだ。予防安全性能が充実しているだけに、万が一の際に乗員を守る装備の充実度でも軽自動車をリードしていってほしい。

 最後に、もし軽自動車特有の黄色いナンバープレートが付くのが嫌だというのならば、最近は特別な白いナンバープレート(ラグビーナンバープレート)を選ぶことだってできるから安心してもらっていい。

【ダイハツ ミライース 2WD G“SAIII“(CVT)】
全長         3395mm
全幅         1475mm
全高         1500mm
ホイールベース    2455mm
重量         670kg
エンジン       直列3気筒DOHC
総排気量       658cc
最高出力       49ps/6800rpm
最大トルク      5.8kgm/5200rpm
サスペンション前/後 ストラット/トーションビーム
ブレーキ前/後    ディスク/ドラム
タイヤ前後      155/65R14
販売価格       84万2400円~133万9200円(全グレード)

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